立方世界 呪われた子

大秦頼太

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呪われた子 23

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 部屋中に散らかったガラクタを指差して腹を抱えて床の上で笑い転げるサアラとガリウスだった。
「花が、鉢を斬った」
 セヴルの右手には、一輪の花が握られている。花びらが落ちる。セヴルは床に落ちた花びらを見つめる。
「何、真面目な顔してるのよ」
「花びらが落ちた」
「そりゃあ、落ちるわよ。当然でしょ」
「これ、すごい力だよ」
 部屋中を見回しながらガリウスは力強くうなずいた。セヴルは大して興味がなさそうに答える。
「そうだね」
「何を怒ってるのよ」
 サアラが床に落ちた花びらをつまむ。それで床をこすってみるが、花びらはつぶれて丸まるだけだった。
「別に」
「これは神の与えた奇跡だね」
 ガリウスがセヴルの右腕を引いて天井に向かって引き上げる。セヴルはすぐに腕をひねって逃れる。
「奇跡? 呪いの間違いじゃないのか?」
「こんなにすばらしい力が呪いのわけないじゃないか!」
 高揚したガリウスの目が、セヴルに訴えかける。セヴルは目をそらした。
「こんな危ない力無い方がいいけどね」
「確かに危険ね。まさか、それで人を殺したの?」
「違うよ。決め付けるなよ」
「何よ! あんたは人殺しでしょ」
「俺は、誰も殺してない!」
「何よ、まだ言い逃れするつもり?」
「逃げてなんかない! 俺は蟲しか……」
 言いかけて何かに気がつき、セヴルはゆっくりと部屋の隅に向かって歩き出す。
「な、何?」
「……蟲は逃げない」
 呟くセヴル。それを見てサアラは不審がる。
「は?」
「大丈夫かい?」
 覗き込むガリウス。セヴルはなおも呟き続ける。
「逃げないはずの蟲が逃げた……」
「やだ。頭おかしくなっちゃった?」
「逃げないはずの蟲が逃げる?」
 ガリウスがセヴルの言葉を繰り返す。セヴルが急に振り返った。
「そうだよ。逃げるんだよ」
「どこによ」
 サアラがセヴルを見る。その後ろでガリウスが大きな声を出す。
「わかった! 巣だね!」
「そう! 巣だ!」
 盛り上がる二人を避けるようにサアラはベッドのふちに座り込んだ。
「やだ、あんな丸いのがうじゃうじゃいるなんて、気持ちが悪いわ」
「丸蟲じゃなくて、もっと足の長い奴だった」
「気持ち悪そう」
 サアラが口を押さえる。セヴルはそれを無視して話を続ける。
「村で戦ったのは、胴が細長くて足も長かった。あいつが巣に戻ろうとしたなら……」
「そこに巣がある」
 セヴルとガリウスが、腕をあわせる。サアラはため息をついてベッドの上に横になる。
「かも知れないでしょ? 楽観的過ぎるわよ、あんたたち」
 そこへグロウがドアを開けて入ってくる。
「生き返ったって本当? うわっ、何これ汚い」
 口を大きく開けて立ち止まる。セヴルが手を上げて答える。
「死んでないよ」
「泥棒でも入ったの?」
 グロウは部屋の中を覗き込んだ。
「違うわよ」
「実験してたんだ。セヴルの右手の」
 ガリウスが言い終えないうちに、グロウが叫んだ。
「あー、ずるい! 僕のときは、パンでしかやってくれなかったのに!」
「それよりすごいことに気がついたんだ」
「いい。聞かない」
 そう言うと、グロウは部屋を出て行こうとする。
「わかった。見せてやるからさ」
「いい。僕、そんな子どもじゃないもん」
 言い放つと、グロウはそのまま勢いよくドアを閉めて出て行ってしまう。
「十分、子どもじゃないの」
「じゃあ、片付けようか」
 セヴルは足を押さえる。
「いたたたた……」
「そうだわ、昼食の確認をしないと」
 サアラは、ガリウスが声をかける隙もなくするりと部屋を出て行ってしまった。
「僕は、何度もセヴルを運んだのに……」
 ガリウスの寂しそうなまなざしが、セヴルをいつまでも見つめる。
「わかったよ! やるよ、やるから!」
 セヴルがガラクタを拾い始めるのを見て、ようやくガリウスが笑った。
「よし、頑張ろう!」
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