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呪われた子 24
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24
窓の大きな部屋。ベッドが左右に二つ。廊下に向かうドアと、それとは別のドアが一つ。
セヴルは窓際に建って外を見下ろす。
「何で俺の部屋には窓がないの?」
バリュフは、鼻で笑った後、腕組みをしながら考える。
「足長蟲か……」
「知ってる?」
「知らない」
ガリウスの問いにさっさと答えるバリュフ。サアラがため息をつく。
「もう、この人とまともに会話するのやめたら?」
バリュフは指を鳴らす。全員がそれを聞いて彼を注目する。
「さて、少し整理しようか」
「ああ」
「そうですね」
全員が円になって座り込む。セヴルがまず口を開く。
「数年前から草原の蟲は、人を襲うようになった」
「丸蟲は、草原から出られないんでしょ?」
サアラが口を挟む。それにガリウスが応える。
「だから、足長蟲が出てきたんじゃないかな?」
「足長蟲が、多くの村を襲った」
セヴルがそれぞれの顔を見る。サアラが首をかしげる。
「お皿みたいな奴は?」
「あれは輪っかがあっても襲ってきた」
セヴルがバリュフを見る。
「蟲使いがいるって言う噂も信憑性が高くなってきたな」
バリュフの言葉に全員が反応する。
「蟲使い……」
「皿型の蟲は、おそらく索敵型だろうな。足が長いのは戦闘用ってところだろう」
「ちょっ、ちょっと何よ蟲使いって?」
サアラは今にもバリュフに飛び掛りそうな勢いだった。バリュフは軽やかにその場を離れる。
「蟲使いって言うのは、蟲を操ったり交配させて変化させる術に長けた魔術師のことさ」
「魔術師? あんたの仲間?」
サアラの言葉がバリュフの表表情を暗くさせる。
「聖導師だって同じ系統なのに……」
落ち込むバリュフの肩をグロウの小さな手がさする。バリュフはグロウを抱きしめる。
「嫌だ。先生、嫌だ。離して」
グロウはバリュフの腕の中でもがき続ける。
「足長蟲はまだ動けるのに誰も襲わずに草原を目指して死んだんだ」
セヴルがそう言うと、バリュフはグロウを離して会話に戻ってくる。
「普通、蟲は死ぬまで攻撃をやめない」
セヴルはうなずきながらそれに続く。
「足長蟲は、死ぬ間際にどこかに逃げようとしたんじゃないかな?」
バリュフは窓を振り返る。
「逃げた先に、何かある。か……」
「そこに蟲使いがいる!」
セヴルとガリウスが、腕をぶつけ合って盛り上がる。そこにグロウも混ざりこむ。
「だから、楽観的過ぎるって」
その騒ぎをサアラが収めようとする。
「だが、どうやって足長蟲をおびき寄せるんだ?」
バリュフは少し微笑みながら言った。ガリウスが口を開く。
「誰もいない村で、この間のアレを使ってみれば?」
「アレ?」
グロウが首をひねる。サアラがグロウの肩を突く。
「蟲を呼び寄せる魔術」
「誰もいない村か。そんな村にわざわざ来るかな」
鼻で笑うバリュフにサアラが疑いの視線を向ける。
「何?」
「面白みがないなって」
軽く笑うバリュフにサアラはあきれ返る。
「あのねぇ、どうしてこの人はゆがんでるのよ」
それを無視して、バリュフは一同に提案をする。
「どうだろう。私の知ってる村で、やってみないか?」
「いい場所があるの?」
怪しんだままのサアラの問いにバリュフは軽快に答えた。
「ああ、とってもお似合いの村がある」
「どこですか?」
ガリウスのまっすぐな視線を軽く受け流し、バリュフはいたずらをする子供のように笑って見せた。
「マムルの村」
「え?」
セヴルが固まる。それを見てガリウスが心配する。
「どうかした?」
「なんで?」
セヴルはゆっくりと声を押し出した。
「草原付近で、襲われていない村を探すのが面倒くさいから」
バリュフは笑った。そこに噛み付いてくるのはサアラだった。
「あのねぇ」
「何で、人がいる村なんですか?」
ガリウスがバリュフに聞いた。バリュフは両手を挙げておどけてみせる。
「人がいない村を襲う理由がないだろ?」
「人がいるところでやる理由がないわ」
「あるよ」
サアラの抗議を止めたのはグロウだった。バリュフはグロウの頭をなでる。
「グロウは賢いなぁ。さすが、私の弟子だ」
「だって、誰かの命令で村を襲ってるなら、村人がいるところを襲うのが普通でしょ」
グロウは胸を張って答える。セヴルが口を開く。
「だからって、何もあの村を選ばなくても……」
「復讐したいんだろう? しようよ、復讐」
バリュフの目が、妖しく輝いた。セヴルはバリュフを見つめる。
「え」
「蟲が殺せば、君の罪にならないんだし」
バリュフは笑顔だったが、口から出る言葉は闇に包まれていた。サアラはそれに気がつかないのか、ごく普通に間を割ってくる。
「何の話?」
「なんでもない」
セヴルは首を横に振ってバリュフの言葉を追い出そうとした。バリュフがセヴルを見ながら言葉を吐く。
「彼はね、濡れ衣を着せられたのさ」
「え?」
言葉の意味を理解できなかったのか、サアラは眉を寄せる。手を叩いて喜んだのはガリウスだった。
「じゃあ、やっぱり人殺しじゃないんだね?」
「そう言っただろ」
セヴルは小さく答える。サアラはガリウスの肩を引き寄せる。
「やっぱりって何よ。何か知ってたの?」
「人を見てれば、大体わかるよ」
ガリウスの言葉にサアラが舌打ちを返す。
「あんたも、あたしのことを馬鹿にしてるよね?」
ガリウスは逃げるように話を戻す。
「それで、復讐って?」
「村に、真犯人がいるんだよ」
バリュフは楽しそうに話す。ガリウスがうなずく。
「それで蟲に殺させようと?」
「うわ、汚い」
サアラが舌を出す。セヴルは立ち上がる。
「蟲なんかに殺させない。俺が殺す」
「ダメだよ。そんなの認められない」
ガリウスも立ち上がり、セヴルの腕を取ろうとする。セヴルはそれを払う。
「あいつは、レハを殺して、それを俺に擦り付けて、自分はそれで金儲けをして」
「レハって言うのは、友達?」
下唇をかみながらセヴルは言葉を吐き出した。
「大嫌いな奴だった」
サアラの口が半開きになる。
「はぁ? あんた何だか矛盾してない?」
セヴルは首を振った。
「大嫌いな奴でも、あんな殺され方なんてひどすぎる」
「時々、いるのよね。あんたみたいなムダに正義感の強い奴。その無駄な正義感が、トラブルを抱え込む原因になってるのに」
あきれ返るサアラにセヴルが食って掛かる。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
バリュフが静かに毒を吐き出す。
「蟲を使った殺害なら、教団は何も言わないだろ?」
「殺害はダメですけど、事故なら仕方ないですね」
呟くガリウスの足をサアラが軽く蹴飛ばす。
「あんた、今、恐ろしいことをさらっと言ったわよ」
ガリウスは小さくうなずき、セヴルに向かった。
「だけど、それじゃあ、裁きにならないよ。セヴルは、マムルに罪を認めさせたいんだよね?」
うなずくセヴル。ガリウスは嬉しそうに笑った。
「なら、やっぱり君が殺すのもダメだよ」
「じゃあ、手がないわね。二頭追うもの一頭も得ずよ」
一瞬、部屋の中に言い知れぬ空気が流れる。バリュフは恐る恐る立ち上がると、窓際まで下がって言った。
「ウサギだね」
「は?」
サアラはまだ気がついていなかった。バリュフは小さく訂正した。
「二兎追うもの一兎も得ず。頭じゃないよ」
サアラの目が泳ぐ。
「……。し、知ってるわよ。でも、この場合は、頭のほうがいいでしょ。響きが」
「じゃ、行ってみようか」
バリュフがドアに向かう。サアラが首をかしげる。
「どこに?」
「マムルに会いにさ」
バリュフに詰め寄ろうとするサアラ。
「話、聞いてなかったの?」
「聞いてたさ」
セヴルが二人の間に入る。サアラとバリュフを交互に見つめ強い口調で言った。
「行こう」
「殺さないなら、行ってもいい」
ガリウスのまっすぐな瞳が、セヴルを見つめる。セヴルはその視線を避けるように立ち上がった。
「嫌なら来なくていい」
窓の大きな部屋。ベッドが左右に二つ。廊下に向かうドアと、それとは別のドアが一つ。
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バリュフは、鼻で笑った後、腕組みをしながら考える。
「足長蟲か……」
「知ってる?」
「知らない」
ガリウスの問いにさっさと答えるバリュフ。サアラがため息をつく。
「もう、この人とまともに会話するのやめたら?」
バリュフは指を鳴らす。全員がそれを聞いて彼を注目する。
「さて、少し整理しようか」
「ああ」
「そうですね」
全員が円になって座り込む。セヴルがまず口を開く。
「数年前から草原の蟲は、人を襲うようになった」
「丸蟲は、草原から出られないんでしょ?」
サアラが口を挟む。それにガリウスが応える。
「だから、足長蟲が出てきたんじゃないかな?」
「足長蟲が、多くの村を襲った」
セヴルがそれぞれの顔を見る。サアラが首をかしげる。
「お皿みたいな奴は?」
「あれは輪っかがあっても襲ってきた」
セヴルがバリュフを見る。
「蟲使いがいるって言う噂も信憑性が高くなってきたな」
バリュフの言葉に全員が反応する。
「蟲使い……」
「皿型の蟲は、おそらく索敵型だろうな。足が長いのは戦闘用ってところだろう」
「ちょっ、ちょっと何よ蟲使いって?」
サアラは今にもバリュフに飛び掛りそうな勢いだった。バリュフは軽やかにその場を離れる。
「蟲使いって言うのは、蟲を操ったり交配させて変化させる術に長けた魔術師のことさ」
「魔術師? あんたの仲間?」
サアラの言葉がバリュフの表表情を暗くさせる。
「聖導師だって同じ系統なのに……」
落ち込むバリュフの肩をグロウの小さな手がさする。バリュフはグロウを抱きしめる。
「嫌だ。先生、嫌だ。離して」
グロウはバリュフの腕の中でもがき続ける。
「足長蟲はまだ動けるのに誰も襲わずに草原を目指して死んだんだ」
セヴルがそう言うと、バリュフはグロウを離して会話に戻ってくる。
「普通、蟲は死ぬまで攻撃をやめない」
セヴルはうなずきながらそれに続く。
「足長蟲は、死ぬ間際にどこかに逃げようとしたんじゃないかな?」
バリュフは窓を振り返る。
「逃げた先に、何かある。か……」
「そこに蟲使いがいる!」
セヴルとガリウスが、腕をぶつけ合って盛り上がる。そこにグロウも混ざりこむ。
「だから、楽観的過ぎるって」
その騒ぎをサアラが収めようとする。
「だが、どうやって足長蟲をおびき寄せるんだ?」
バリュフは少し微笑みながら言った。ガリウスが口を開く。
「誰もいない村で、この間のアレを使ってみれば?」
「アレ?」
グロウが首をひねる。サアラがグロウの肩を突く。
「蟲を呼び寄せる魔術」
「誰もいない村か。そんな村にわざわざ来るかな」
鼻で笑うバリュフにサアラが疑いの視線を向ける。
「何?」
「面白みがないなって」
軽く笑うバリュフにサアラはあきれ返る。
「あのねぇ、どうしてこの人はゆがんでるのよ」
それを無視して、バリュフは一同に提案をする。
「どうだろう。私の知ってる村で、やってみないか?」
「いい場所があるの?」
怪しんだままのサアラの問いにバリュフは軽快に答えた。
「ああ、とってもお似合いの村がある」
「どこですか?」
ガリウスのまっすぐな視線を軽く受け流し、バリュフはいたずらをする子供のように笑って見せた。
「マムルの村」
「え?」
セヴルが固まる。それを見てガリウスが心配する。
「どうかした?」
「なんで?」
セヴルはゆっくりと声を押し出した。
「草原付近で、襲われていない村を探すのが面倒くさいから」
バリュフは笑った。そこに噛み付いてくるのはサアラだった。
「あのねぇ」
「何で、人がいる村なんですか?」
ガリウスがバリュフに聞いた。バリュフは両手を挙げておどけてみせる。
「人がいない村を襲う理由がないだろ?」
「人がいるところでやる理由がないわ」
「あるよ」
サアラの抗議を止めたのはグロウだった。バリュフはグロウの頭をなでる。
「グロウは賢いなぁ。さすが、私の弟子だ」
「だって、誰かの命令で村を襲ってるなら、村人がいるところを襲うのが普通でしょ」
グロウは胸を張って答える。セヴルが口を開く。
「だからって、何もあの村を選ばなくても……」
「復讐したいんだろう? しようよ、復讐」
バリュフの目が、妖しく輝いた。セヴルはバリュフを見つめる。
「え」
「蟲が殺せば、君の罪にならないんだし」
バリュフは笑顔だったが、口から出る言葉は闇に包まれていた。サアラはそれに気がつかないのか、ごく普通に間を割ってくる。
「何の話?」
「なんでもない」
セヴルは首を横に振ってバリュフの言葉を追い出そうとした。バリュフがセヴルを見ながら言葉を吐く。
「彼はね、濡れ衣を着せられたのさ」
「え?」
言葉の意味を理解できなかったのか、サアラは眉を寄せる。手を叩いて喜んだのはガリウスだった。
「じゃあ、やっぱり人殺しじゃないんだね?」
「そう言っただろ」
セヴルは小さく答える。サアラはガリウスの肩を引き寄せる。
「やっぱりって何よ。何か知ってたの?」
「人を見てれば、大体わかるよ」
ガリウスの言葉にサアラが舌打ちを返す。
「あんたも、あたしのことを馬鹿にしてるよね?」
ガリウスは逃げるように話を戻す。
「それで、復讐って?」
「村に、真犯人がいるんだよ」
バリュフは楽しそうに話す。ガリウスがうなずく。
「それで蟲に殺させようと?」
「うわ、汚い」
サアラが舌を出す。セヴルは立ち上がる。
「蟲なんかに殺させない。俺が殺す」
「ダメだよ。そんなの認められない」
ガリウスも立ち上がり、セヴルの腕を取ろうとする。セヴルはそれを払う。
「あいつは、レハを殺して、それを俺に擦り付けて、自分はそれで金儲けをして」
「レハって言うのは、友達?」
下唇をかみながらセヴルは言葉を吐き出した。
「大嫌いな奴だった」
サアラの口が半開きになる。
「はぁ? あんた何だか矛盾してない?」
セヴルは首を振った。
「大嫌いな奴でも、あんな殺され方なんてひどすぎる」
「時々、いるのよね。あんたみたいなムダに正義感の強い奴。その無駄な正義感が、トラブルを抱え込む原因になってるのに」
あきれ返るサアラにセヴルが食って掛かる。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
バリュフが静かに毒を吐き出す。
「蟲を使った殺害なら、教団は何も言わないだろ?」
「殺害はダメですけど、事故なら仕方ないですね」
呟くガリウスの足をサアラが軽く蹴飛ばす。
「あんた、今、恐ろしいことをさらっと言ったわよ」
ガリウスは小さくうなずき、セヴルに向かった。
「だけど、それじゃあ、裁きにならないよ。セヴルは、マムルに罪を認めさせたいんだよね?」
うなずくセヴル。ガリウスは嬉しそうに笑った。
「なら、やっぱり君が殺すのもダメだよ」
「じゃあ、手がないわね。二頭追うもの一頭も得ずよ」
一瞬、部屋の中に言い知れぬ空気が流れる。バリュフは恐る恐る立ち上がると、窓際まで下がって言った。
「ウサギだね」
「は?」
サアラはまだ気がついていなかった。バリュフは小さく訂正した。
「二兎追うもの一兎も得ず。頭じゃないよ」
サアラの目が泳ぐ。
「……。し、知ってるわよ。でも、この場合は、頭のほうがいいでしょ。響きが」
「じゃ、行ってみようか」
バリュフがドアに向かう。サアラが首をかしげる。
「どこに?」
「マムルに会いにさ」
バリュフに詰め寄ろうとするサアラ。
「話、聞いてなかったの?」
「聞いてたさ」
セヴルが二人の間に入る。サアラとバリュフを交互に見つめ強い口調で言った。
「行こう」
「殺さないなら、行ってもいい」
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