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まいほーむ 16~18 最終
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16
うまく行かないことがある。それは、ほとんどの場合、立て続けに起こりやる気を失わせるほど強烈に心を折って行く。けれど、ある日突然、そう曇り空が晴れるように日が差すことがある。もちろんそれが長続きすれば、人生は順風満帆で何も言うことはないだろう。けれど、多くの場合、どんな人でも曇り空や雨の日のほうが多い。
いや、そういう日の方が心に深い傷になるから、多いと感じるのだと思う。実際には晴れた日の方が多いのかもしれない。
「休憩所を掃除すれば普通に部屋として使えるだろう。置いてあるもんは大分古いから、仕事を見つけたら新しいもんを買うんだな。あぁ、それから換気扇が時々止まるから、止まったらそこに立てかけてある棒で脇を殴ればまた動く。あと、風呂はないからな、風邪を引かないような準備をしてうちに来い。冬までには用意してやる」
定十郎は掃除道具を成田に渡すと、奥に向かい換気扇のスイッチを入れる。が、反応はなかった。定十郎は側にあった長い棒を取ると、換気扇の脇を華麗に叩いた。すると、換気扇は不満があるのか一度その体を震わせてホコリを外に押し出すように動き始めた。それを満足そうに背中にして定十郎は成田の肩を叩いて戻っていった。
木造の小さな工場は、倉庫そのものだった。奥の換気扇の側に壁に囲われた部屋がある。あそこが休憩所なのだろう。どこもかしこもホコリにまみれていた。マスクと軍手をしたシオリが工場の中を駆けるたびにほこりが宙に舞う。
成田も軍手とマスクを装備して、休憩所を目指す。
休憩所には物が沢山積み上げられていて、とてもではないがすぐにどうこう出来る状態ではなかった。
シオリは楽しそうに工場の中を探検し始めていた。成田はシオリに呼びかける。
「危ないから、何でも触るんじゃないぞ」
「うん」
気のない返事をして、シオリは探検を続けた。成田は軽くため息をついて当面の敵を見つめた。
どこから手をつけたものか。
途方に暮れていると丸顔の女性がマスクと軍手、頭に布まで巻いた完全防備でやって来た。成田は思わぬ援軍に内心喜んでしまった。
「すみません」
「いいのよ。片付けなくちゃって思ってたんだから、夫はあんな感じけど、本当は手伝いたいのよ。あぁ、名前をまだ伺ってなかったわね。私はマスグチサワコ。定十郎の妻です。よろしくね」
サワコの柔らかな眼差しが成田には嬉しかった。
「ナリタマコトです。こっちはシオリ」
成田はシオリを手招きする。
「自己紹介して、ナリタシオリですって」
シオリは成田の言葉を受けて笑顔でサワコにお辞儀をした。サワコは小さくうなづく。
「じゃあ、まず中の物をこっちに出しましょうか」
換気扇がぶううんとうなり、片付けの始まりを告げる鐘の音になった。
休憩所の中からダンボール箱やストーブ、陶器などを工場内部に広げていく。
「何を作ってたんですか?」
成田がたずねると、サワコは腰を伸ばしながら答えてくれた。
「製材工場よ。大きな機械は知り合いに引き取ってもらったけどね」
「辞めちゃったんですか?」
「もう大分前にね。今は母屋の方で内職みたいなことをしてるわ」
休憩所の奥に野球のグラブやバット、アルバムや文集などが入ったダンボールがあった。成田はそれも工場の内部に運んでいく。
「もったいない」
サワコはほこりにまみれたアルバムを手に取ると、優しくなでるようにホコリを払い落としていく。
「そうでもないのよ。日本の木なんて高くてほとんど使われないし、みんな安い物大好きでしょう? それが後々どんなことになるのかなんて考えないわよ」
「……そうですね」
「息子がいれば道楽で続けてたかもしれないけどね」
「息子さんは、東京ですか?」
「ええ。五年前に東京で死んだのよ」
成田はサワコの突然の告白に言葉を詰まらせた。
「会社をクビにされて、それでも都会にしがみつこうとして振り落とされて、気持ちが沈んだまま首を吊って自殺。死ぬ前に帰って来れば良かったのにねぇ。死んじゃえば本人は楽だろうけど、親は胸をえぐられるほど辛いのよ。成田さんは、偉いわ」
「そんなこと」
サワコはアルバムを開いて写真を懐かしげに見る。
「あの人ね。本当は側に置いておきたいのに意地を張っちゃって、こんな奥の方にしまってるのよ。子どもが死んで辛くない親なんかいないわ」
成田はサワコを見つめた。
子どもが死んで辛くない親なんかいない。子どもがいなくなって辛くない親なんかいない。
いるさ。シオリがいなくなって何日が経ってるんだ。人目につく場所で、ずっとシオリといてスマートホンをターミナルに捨ててきても、警察なんかきやしないじゃないか。
「いますよ」
成田の声は、深い井戸の底から漏れ聞こえてくる亡者のような響きがあった。サワコがその不気味さに顔を上げる。成田は遊んでいるシオリを見つめながらうめくように言葉を吐き出した。
「僕らみたいな金が一番だって世代は、子どもなんか死んだって辛くない奴ばっかりですよ。涙を流してたって、自分のために泣いてる奴がほとんどだ。俺ら安物世代は、心も安物なんですよ」
成田は、サワコに頭を下げた。
「すみません。本当にすみません」
生きていてすみません。
俺たちは、生きているだけで誰かを殺している。一日を快適に過ごすために、日本の裏側では、この国に食糧を供給するために農地が切り開かれ、そこに住んでいた住人が殺されている。僕らは、その屍の上に立って自分が幸せではないとヘラヘラ笑っている。
日本は、世界の中でも豊かな国だ。だが、その心は一番貧しいのではないのだろうか。満足を知らない。満腹中枢を切り取られ、いつまでも餌を食べ続けるネズミのように、どこまで行っても幸せを感じない。
恥ずかしい。
幸せを待っていた自分が恥ずかしい。
恥ずかしい。
幸せを探していた自分が恥ずかしい。
やっと気がついた。
幸せは、いつもここにあったんだ。
17
晩御飯を定十郎夫婦の家で共に取り、お風呂にも浸かり、二人は掃除をしたまだホコリ臭い休憩所に戻ってくる。
床の上に借りてきた布団を並べて二人は木の天井を見る。
「お父ちゃん」
シオリがクマを成田に投げてくる。成田はクマを受け止める。
「なに?」
「クマちゃんご飯まだだってさ」
シオリが楽しそうに笑った。成田もそれに釣られて笑った。
ががん。
変な音がした。成田は休憩所から顔を覗かせる。
「なんだ?」
が、が。
音の方向を見ると、換気扇のようだった。成田は棒を手に持って換気扇の脇を叩いた。換気扇はすぐに動き始める。
「やらせて」
シオリが棒に手を伸ばしてくる。成田は頭を押さえてそれを阻止する。
「きちんと動いてるときに叩いたらかわいそうだろ?」
シオリは、少し考えてうなずいた。
「じゃあ、止まったら叩く」
成田はシオリを抱え上げて休憩所に戻る。シオリが布団に滑り込んでクマと戯れてる。成田はそれを鼻で笑い、休憩所の戸を閉めようと顔を上げる。すると、工場内に置かれたアルバムが目に入った。成田は、アルバムを取りに行く。
「お父ちゃん?」
後ろからシオリの声がした。成田はアルバムを掴んで休憩所にすぐに戻った。そのまま戸も閉める。
「どうした?」
「どうしたの?」
二人の言葉が重なって、笑顔を生んだ。
「アルバムだってさ」
「アルガムってなに?」
成田は、うんっと唸った。
「アルバム。写真を沢山集めておく物だな」
「見たい」
飛び掛ってくるシオリを押さえながら、成田は布団の上でアルバムを開いた。定十郎夫婦の息子らしき人物の写真が時系列を追ってきれいに並べられている。
「赤ちゃんがいるよ」
「全部、同じ人なんだよ」
「お父ちゃんも持ってる?」
「実家に帰ればあるかもな」
「そっかぁ……。シオリもあるかなぁ」
成田は、シオリの頭を軽くなでる。
「明日は、デジカメを買いに行くか」
「でじかめ?」
「シオリの写真を一杯取るのさ。アルバムも沢山作ろう」
シオリの顔がパッと明るくなった。
「うん」
「じゃあ、早く寝るぞ! 明日は大忙しだ」
「おおいそがしだー」
成田はシオリを布団の中にきちんと寝かせると、休憩所の明かりを落とした。
「お父ちゃん」
部屋の中が暗くなってシオリが不安そうな声を上げた。
「どうした?」
「いなくなっちゃ嫌だよ」
「大丈夫。大丈夫」
「約束だよ」
「お父ちゃんは、約束を守るさ」
それからしばらくして小さな寝息が聞こえてきた。成田もゆっくりと眠りに落ちていった。
が、っがが……。
また換気扇だ。消しておけば良かったな。ホコリっぽいから出来ればつけておきたいしなぁ。止まるんだったら朝まで放っておいても問題ないか。
晴れの日は、長くは続かない。
誰かが耳元でそうささやいたような気がした。ホコリの臭いの中に何か焦げているような臭いがした。
小さな咳が聞こえる。シオリが咳をしている。こんな焦げ臭い空気を吸うもんじゃないよ。口に何かを当てた方がいい。
煙が喉に入っていがらっぽい。
煙?
成田は目を開けた。戸の向こう側にオレンジの光が見える。咳き込みながら戸を開く。換気扇が燃え上がり融けている。その火はすでに木造の工場にも燃え移っていた。
成田は急いでシオリを抱きかかえる。そして、工場の外に飛び出した。
定十郎夫婦を呼び起こし、何が起こったかを伝える。定十郎はサワコに電話をさせると、成田とシオリを見た。シオリは成田の腕の中で目をこすっていた。
「無事か?」
成田がうなづくと定十郎はその肩を優しく叩いた。
「すみません」
「気にするな。俺が換気扇を殴りすぎたせいだ」
と、定十郎は笑った。そこにサワコが戻ってくる。
「呼んだわ。ご近所さんにもすぐ知らせないと」
定十郎は力強くうなづくと、母屋の一部を壊す作業に入る。成田もシオリをサワコに預けて手伝おうとする。
「お前はいい。こういう作業は知ってる顔じゃないと、みんな不安がるからな」
そう言って定十郎は成田を戻した。
「お父ちゃん、クマちゃんは?」
シオリが燃えている工場に向かおうとする。慌ててサワコがその手を引く。引き戻されてシオリが暴れて泣き叫ぶ。
「お父ちゃん! クマちゃんが死んじゃうよ」
成田は、シオリの顔を両手で挟む。
「あの中に行ったら、危ないんだ。新しいの買ってあげるから、我慢しなさい」
シオリはさらに激しく泣いた。
「ダメだよ! あのクマちゃんは、一人しかいないんだもん。仲間なんだもん」
成田は、いよいよ勢いを増す炎に包まれる工場を見る。
まだ行けるか? もう燃えてるんじゃないか?
「シオリたちは旅の仲間なのに、クマちゃんがかわいそうだよ」
泣き叫ぶシオリの言葉が胸を打った。
そうだ。クマは旅の仲間だ。新しいのを買ってやるだって? 馬鹿を言うな。新しい奴に思い出なんか詰まっているものか。旅の仲間に重要なのは、思い出の共有だ。
父親って、こんなにハードルが高いのか?
「成田さん。ダメよ」
「すぐ戻りますよ。シオリ、父ちゃんが戻ってくるまで、絶対にここにいろよ」
水を頭から浴びる。消防車のサイレンはまだ遠い。だが、シオリはやっと泣き止んだ。それを確認して、炎の中に飛び込んでクマを救いに行く。
炎はまだ休憩所の戸を焼いているくらいに見えた。あれならまだいけると思う。
成田は崩れかかった工場の柱を避けながら奥に進んでいく。袖で口をふさぎながら、休憩所の前にたどり着く。思ったよりひどい。戸はすでに火の輪くぐりのような状態になっていた。
「俺は、サーカスのクマか」
成田は思い切ってその中に飛び込んだ。炎の壁が背中に、目の前には真っ黒い煙が充満している。成田は身をかがめてクマを探す。クマは部屋の隅に転がっている。腕を伸ばしてクマを引き寄せる。
後は、もう一度火の輪くぐりをすればいい。布団が燃え出した。その勢いはすさまじかった。その奥にアルバムが見えた。
止めておけ。今のお前の人生は雨だ。放っておけ。お前はスーパーマンじゃない。ここまで出来た事自体奇跡なんだ。
成田は、かがみこんでクマを抱え、火の輪くぐりの体勢を整える。だが、次の瞬間、その体はアルバムを拾いに行っていた。
「俺は、バカだなぁ」
その返しで火の輪くぐりを目指したが、勢いをつけるために息を大きく吸い込んだのが致命的だった。奇跡は突如として終わるのだ。
反射的に咳き込む体はもう言うことを聞かなくなっていた。それでもアルバムを胸の奥に押し込み、クマの頭を強く抱きしめて、床に倒れこんだ。せめてそうやって炎からそれらを守ることだけが精一杯出来ることだった。
燃やすな! 燃やすな! 少し待ってれば消防車が来てこの火を消してくれる。俺も助かる。アルバムがあれば定十郎さんたちにかけた迷惑を少しでもお詫びできる。クマがいればシオリは泣かない。燃えるな! 燃えるな!
何度も何度も、心の中で叫び続けた。
そうだ。明日はデジカメを買いに行くんだった。沢山写真を撮って、俺たちは本物の家族になっていくんだ。そうそう、シオリのパジャマを買うのも忘れないようにしないと。新しい服も買おう。ついでに仕事も探して、ついでかよ。でも、毎日が楽しいだろうな。そうだろう?
「いたぞ! まだ生きてる」
人の声と影が見えて成田は外に連れ出された。赤いランプが道路に並んでいる。その光に照らされながらシオリが泣きながら成田の側に駆け寄ってくる。
成田の右目が、シオリを見た。
大丈夫だ。クマは無事だぜ。ちょっと、焦げたかもしれないけどな。父ちゃんは、仲間を守ったんだぜ。
消防隊員がシオリを止める。
バカヤロウ。親子の感動の再会を邪魔するんじゃねえ。ほら、いつまでも泣いてるなよ。今はちょっと苦しいから後で頭をなでてやるよ。泣くな。お父ちゃんは、お前を笑顔に……。
成田は、成田慎であることを終えた。
18
成田慎の母は枡口定十郎夫妻に深々と頭を下げた。枡口夫妻も深く頭を下げた。
小さな居間の中で、まず成田の母が口を開く。
「あの子は、誰の子なんでしょうか?」
その視線の先には、手足を失ったクマのぬいぐるみを抱きしめる少女がいた。少女は、瞬き一つせずにじっと一点だけを見つめていた。
「私どもは、彼の子どもだと思っておりました」
定十郎が重苦しく口を開く。成田の母はきっぱりと否定する。
「うちの息子の子ではありません。こんな大きな問題を残して死ぬなんて、自分の息子ながら本当に恥ずかしい」
「慎さんは、立派な方でしたよ」
「何が立派なもんですか。誘拐なんてしてたとしたら、世間に顔向け出来ないわ」
サワコの言葉を断ち切るように成田の母は泣き崩れた。定十郎が言葉を投げかける。
「慎君にも何か深い理由があったんでしょう」
「東京で会社をクビになったと、同僚の方から聞きまして」
成田の母はハンカチで眼を押さえながら起き上がってくる。
「それで自暴自棄になって誘拐なんか」
再び泣き崩れる成田の母。その様子に困惑する枡口夫妻だった。
「あの子のこれからのことなんですが」
サワコの声に成田の母の顔が跳ね上がる。
「無理です。こちらの家では引き取れません。どこのうちの子かもわからない子どもなんて引き取れるもですか」
定十郎が成田の母の言葉をさえぎった。
「結構です。あの子は私たちが育てます。慎君の子としてね」
成田の母は首を大きく横に振った。
「違います。うちの子の子どもじゃありません。知りません。あんな子」
「ですから、結構です。あの子はうちの子として育てていきます」
定十郎の強い言葉に、成田の母は眼を背けた。
「……すみません。今はとても受け入れられそうにありません」
震えて崩れて泣く成田の母に、サワコは優しく言葉を投げかける。
「慎さんは、私たちの死んだ息子のアルバムを守ってくれたんですよ。子どもが死んで辛くない親なんていないって言ったら、自分たちの世代には、子どもが死んでも平気な奴がいるって本当に怒って、私に謝るんですよ。すみません、すみませんって。お母さん。慎さんは誘拐なんてしていないわ。あの子の笑顔は本当に素晴らしかったんだから」
成田の母は顔を上げる。サワコがうなづいてみせる。
「シオリちゃんの笑顔を取り返したら、ご連絡を差し上げます。そうしたら、お母さんもきっと大丈夫ですよ」
成田の母は、枡口夫妻に深く頭を下げた。
定十郎は、アルバムを見つめてつぶやいた。
「変に気を使いやがって」
後日、シオリがいなくなったことを警察にも言わなかった母親は、近隣住人の通報により児童虐待の罪で逮捕されることになった。しかし、娘を写した写真は一枚も無く、母親のスマートホンの中にも存在していなかった。コンビニの防犯ビデオもすでに上書きされ、目撃情報もなく、シオリのその後の行方を知っている者は誰一人としていなかった。
成田慎のスマートホンも拾得者によって転売され、二人を結びつけるものは無くなっていた。
数年後、ある老夫婦の家に一人の女の子が複雑な手続きを乗り越え養子縁組された。
終
うまく行かないことがある。それは、ほとんどの場合、立て続けに起こりやる気を失わせるほど強烈に心を折って行く。けれど、ある日突然、そう曇り空が晴れるように日が差すことがある。もちろんそれが長続きすれば、人生は順風満帆で何も言うことはないだろう。けれど、多くの場合、どんな人でも曇り空や雨の日のほうが多い。
いや、そういう日の方が心に深い傷になるから、多いと感じるのだと思う。実際には晴れた日の方が多いのかもしれない。
「休憩所を掃除すれば普通に部屋として使えるだろう。置いてあるもんは大分古いから、仕事を見つけたら新しいもんを買うんだな。あぁ、それから換気扇が時々止まるから、止まったらそこに立てかけてある棒で脇を殴ればまた動く。あと、風呂はないからな、風邪を引かないような準備をしてうちに来い。冬までには用意してやる」
定十郎は掃除道具を成田に渡すと、奥に向かい換気扇のスイッチを入れる。が、反応はなかった。定十郎は側にあった長い棒を取ると、換気扇の脇を華麗に叩いた。すると、換気扇は不満があるのか一度その体を震わせてホコリを外に押し出すように動き始めた。それを満足そうに背中にして定十郎は成田の肩を叩いて戻っていった。
木造の小さな工場は、倉庫そのものだった。奥の換気扇の側に壁に囲われた部屋がある。あそこが休憩所なのだろう。どこもかしこもホコリにまみれていた。マスクと軍手をしたシオリが工場の中を駆けるたびにほこりが宙に舞う。
成田も軍手とマスクを装備して、休憩所を目指す。
休憩所には物が沢山積み上げられていて、とてもではないがすぐにどうこう出来る状態ではなかった。
シオリは楽しそうに工場の中を探検し始めていた。成田はシオリに呼びかける。
「危ないから、何でも触るんじゃないぞ」
「うん」
気のない返事をして、シオリは探検を続けた。成田は軽くため息をついて当面の敵を見つめた。
どこから手をつけたものか。
途方に暮れていると丸顔の女性がマスクと軍手、頭に布まで巻いた完全防備でやって来た。成田は思わぬ援軍に内心喜んでしまった。
「すみません」
「いいのよ。片付けなくちゃって思ってたんだから、夫はあんな感じけど、本当は手伝いたいのよ。あぁ、名前をまだ伺ってなかったわね。私はマスグチサワコ。定十郎の妻です。よろしくね」
サワコの柔らかな眼差しが成田には嬉しかった。
「ナリタマコトです。こっちはシオリ」
成田はシオリを手招きする。
「自己紹介して、ナリタシオリですって」
シオリは成田の言葉を受けて笑顔でサワコにお辞儀をした。サワコは小さくうなづく。
「じゃあ、まず中の物をこっちに出しましょうか」
換気扇がぶううんとうなり、片付けの始まりを告げる鐘の音になった。
休憩所の中からダンボール箱やストーブ、陶器などを工場内部に広げていく。
「何を作ってたんですか?」
成田がたずねると、サワコは腰を伸ばしながら答えてくれた。
「製材工場よ。大きな機械は知り合いに引き取ってもらったけどね」
「辞めちゃったんですか?」
「もう大分前にね。今は母屋の方で内職みたいなことをしてるわ」
休憩所の奥に野球のグラブやバット、アルバムや文集などが入ったダンボールがあった。成田はそれも工場の内部に運んでいく。
「もったいない」
サワコはほこりにまみれたアルバムを手に取ると、優しくなでるようにホコリを払い落としていく。
「そうでもないのよ。日本の木なんて高くてほとんど使われないし、みんな安い物大好きでしょう? それが後々どんなことになるのかなんて考えないわよ」
「……そうですね」
「息子がいれば道楽で続けてたかもしれないけどね」
「息子さんは、東京ですか?」
「ええ。五年前に東京で死んだのよ」
成田はサワコの突然の告白に言葉を詰まらせた。
「会社をクビにされて、それでも都会にしがみつこうとして振り落とされて、気持ちが沈んだまま首を吊って自殺。死ぬ前に帰って来れば良かったのにねぇ。死んじゃえば本人は楽だろうけど、親は胸をえぐられるほど辛いのよ。成田さんは、偉いわ」
「そんなこと」
サワコはアルバムを開いて写真を懐かしげに見る。
「あの人ね。本当は側に置いておきたいのに意地を張っちゃって、こんな奥の方にしまってるのよ。子どもが死んで辛くない親なんかいないわ」
成田はサワコを見つめた。
子どもが死んで辛くない親なんかいない。子どもがいなくなって辛くない親なんかいない。
いるさ。シオリがいなくなって何日が経ってるんだ。人目につく場所で、ずっとシオリといてスマートホンをターミナルに捨ててきても、警察なんかきやしないじゃないか。
「いますよ」
成田の声は、深い井戸の底から漏れ聞こえてくる亡者のような響きがあった。サワコがその不気味さに顔を上げる。成田は遊んでいるシオリを見つめながらうめくように言葉を吐き出した。
「僕らみたいな金が一番だって世代は、子どもなんか死んだって辛くない奴ばっかりですよ。涙を流してたって、自分のために泣いてる奴がほとんどだ。俺ら安物世代は、心も安物なんですよ」
成田は、サワコに頭を下げた。
「すみません。本当にすみません」
生きていてすみません。
俺たちは、生きているだけで誰かを殺している。一日を快適に過ごすために、日本の裏側では、この国に食糧を供給するために農地が切り開かれ、そこに住んでいた住人が殺されている。僕らは、その屍の上に立って自分が幸せではないとヘラヘラ笑っている。
日本は、世界の中でも豊かな国だ。だが、その心は一番貧しいのではないのだろうか。満足を知らない。満腹中枢を切り取られ、いつまでも餌を食べ続けるネズミのように、どこまで行っても幸せを感じない。
恥ずかしい。
幸せを待っていた自分が恥ずかしい。
恥ずかしい。
幸せを探していた自分が恥ずかしい。
やっと気がついた。
幸せは、いつもここにあったんだ。
17
晩御飯を定十郎夫婦の家で共に取り、お風呂にも浸かり、二人は掃除をしたまだホコリ臭い休憩所に戻ってくる。
床の上に借りてきた布団を並べて二人は木の天井を見る。
「お父ちゃん」
シオリがクマを成田に投げてくる。成田はクマを受け止める。
「なに?」
「クマちゃんご飯まだだってさ」
シオリが楽しそうに笑った。成田もそれに釣られて笑った。
ががん。
変な音がした。成田は休憩所から顔を覗かせる。
「なんだ?」
が、が。
音の方向を見ると、換気扇のようだった。成田は棒を手に持って換気扇の脇を叩いた。換気扇はすぐに動き始める。
「やらせて」
シオリが棒に手を伸ばしてくる。成田は頭を押さえてそれを阻止する。
「きちんと動いてるときに叩いたらかわいそうだろ?」
シオリは、少し考えてうなずいた。
「じゃあ、止まったら叩く」
成田はシオリを抱え上げて休憩所に戻る。シオリが布団に滑り込んでクマと戯れてる。成田はそれを鼻で笑い、休憩所の戸を閉めようと顔を上げる。すると、工場内に置かれたアルバムが目に入った。成田は、アルバムを取りに行く。
「お父ちゃん?」
後ろからシオリの声がした。成田はアルバムを掴んで休憩所にすぐに戻った。そのまま戸も閉める。
「どうした?」
「どうしたの?」
二人の言葉が重なって、笑顔を生んだ。
「アルバムだってさ」
「アルガムってなに?」
成田は、うんっと唸った。
「アルバム。写真を沢山集めておく物だな」
「見たい」
飛び掛ってくるシオリを押さえながら、成田は布団の上でアルバムを開いた。定十郎夫婦の息子らしき人物の写真が時系列を追ってきれいに並べられている。
「赤ちゃんがいるよ」
「全部、同じ人なんだよ」
「お父ちゃんも持ってる?」
「実家に帰ればあるかもな」
「そっかぁ……。シオリもあるかなぁ」
成田は、シオリの頭を軽くなでる。
「明日は、デジカメを買いに行くか」
「でじかめ?」
「シオリの写真を一杯取るのさ。アルバムも沢山作ろう」
シオリの顔がパッと明るくなった。
「うん」
「じゃあ、早く寝るぞ! 明日は大忙しだ」
「おおいそがしだー」
成田はシオリを布団の中にきちんと寝かせると、休憩所の明かりを落とした。
「お父ちゃん」
部屋の中が暗くなってシオリが不安そうな声を上げた。
「どうした?」
「いなくなっちゃ嫌だよ」
「大丈夫。大丈夫」
「約束だよ」
「お父ちゃんは、約束を守るさ」
それからしばらくして小さな寝息が聞こえてきた。成田もゆっくりと眠りに落ちていった。
が、っがが……。
また換気扇だ。消しておけば良かったな。ホコリっぽいから出来ればつけておきたいしなぁ。止まるんだったら朝まで放っておいても問題ないか。
晴れの日は、長くは続かない。
誰かが耳元でそうささやいたような気がした。ホコリの臭いの中に何か焦げているような臭いがした。
小さな咳が聞こえる。シオリが咳をしている。こんな焦げ臭い空気を吸うもんじゃないよ。口に何かを当てた方がいい。
煙が喉に入っていがらっぽい。
煙?
成田は目を開けた。戸の向こう側にオレンジの光が見える。咳き込みながら戸を開く。換気扇が燃え上がり融けている。その火はすでに木造の工場にも燃え移っていた。
成田は急いでシオリを抱きかかえる。そして、工場の外に飛び出した。
定十郎夫婦を呼び起こし、何が起こったかを伝える。定十郎はサワコに電話をさせると、成田とシオリを見た。シオリは成田の腕の中で目をこすっていた。
「無事か?」
成田がうなづくと定十郎はその肩を優しく叩いた。
「すみません」
「気にするな。俺が換気扇を殴りすぎたせいだ」
と、定十郎は笑った。そこにサワコが戻ってくる。
「呼んだわ。ご近所さんにもすぐ知らせないと」
定十郎は力強くうなづくと、母屋の一部を壊す作業に入る。成田もシオリをサワコに預けて手伝おうとする。
「お前はいい。こういう作業は知ってる顔じゃないと、みんな不安がるからな」
そう言って定十郎は成田を戻した。
「お父ちゃん、クマちゃんは?」
シオリが燃えている工場に向かおうとする。慌ててサワコがその手を引く。引き戻されてシオリが暴れて泣き叫ぶ。
「お父ちゃん! クマちゃんが死んじゃうよ」
成田は、シオリの顔を両手で挟む。
「あの中に行ったら、危ないんだ。新しいの買ってあげるから、我慢しなさい」
シオリはさらに激しく泣いた。
「ダメだよ! あのクマちゃんは、一人しかいないんだもん。仲間なんだもん」
成田は、いよいよ勢いを増す炎に包まれる工場を見る。
まだ行けるか? もう燃えてるんじゃないか?
「シオリたちは旅の仲間なのに、クマちゃんがかわいそうだよ」
泣き叫ぶシオリの言葉が胸を打った。
そうだ。クマは旅の仲間だ。新しいのを買ってやるだって? 馬鹿を言うな。新しい奴に思い出なんか詰まっているものか。旅の仲間に重要なのは、思い出の共有だ。
父親って、こんなにハードルが高いのか?
「成田さん。ダメよ」
「すぐ戻りますよ。シオリ、父ちゃんが戻ってくるまで、絶対にここにいろよ」
水を頭から浴びる。消防車のサイレンはまだ遠い。だが、シオリはやっと泣き止んだ。それを確認して、炎の中に飛び込んでクマを救いに行く。
炎はまだ休憩所の戸を焼いているくらいに見えた。あれならまだいけると思う。
成田は崩れかかった工場の柱を避けながら奥に進んでいく。袖で口をふさぎながら、休憩所の前にたどり着く。思ったよりひどい。戸はすでに火の輪くぐりのような状態になっていた。
「俺は、サーカスのクマか」
成田は思い切ってその中に飛び込んだ。炎の壁が背中に、目の前には真っ黒い煙が充満している。成田は身をかがめてクマを探す。クマは部屋の隅に転がっている。腕を伸ばしてクマを引き寄せる。
後は、もう一度火の輪くぐりをすればいい。布団が燃え出した。その勢いはすさまじかった。その奥にアルバムが見えた。
止めておけ。今のお前の人生は雨だ。放っておけ。お前はスーパーマンじゃない。ここまで出来た事自体奇跡なんだ。
成田は、かがみこんでクマを抱え、火の輪くぐりの体勢を整える。だが、次の瞬間、その体はアルバムを拾いに行っていた。
「俺は、バカだなぁ」
その返しで火の輪くぐりを目指したが、勢いをつけるために息を大きく吸い込んだのが致命的だった。奇跡は突如として終わるのだ。
反射的に咳き込む体はもう言うことを聞かなくなっていた。それでもアルバムを胸の奥に押し込み、クマの頭を強く抱きしめて、床に倒れこんだ。せめてそうやって炎からそれらを守ることだけが精一杯出来ることだった。
燃やすな! 燃やすな! 少し待ってれば消防車が来てこの火を消してくれる。俺も助かる。アルバムがあれば定十郎さんたちにかけた迷惑を少しでもお詫びできる。クマがいればシオリは泣かない。燃えるな! 燃えるな!
何度も何度も、心の中で叫び続けた。
そうだ。明日はデジカメを買いに行くんだった。沢山写真を撮って、俺たちは本物の家族になっていくんだ。そうそう、シオリのパジャマを買うのも忘れないようにしないと。新しい服も買おう。ついでに仕事も探して、ついでかよ。でも、毎日が楽しいだろうな。そうだろう?
「いたぞ! まだ生きてる」
人の声と影が見えて成田は外に連れ出された。赤いランプが道路に並んでいる。その光に照らされながらシオリが泣きながら成田の側に駆け寄ってくる。
成田の右目が、シオリを見た。
大丈夫だ。クマは無事だぜ。ちょっと、焦げたかもしれないけどな。父ちゃんは、仲間を守ったんだぜ。
消防隊員がシオリを止める。
バカヤロウ。親子の感動の再会を邪魔するんじゃねえ。ほら、いつまでも泣いてるなよ。今はちょっと苦しいから後で頭をなでてやるよ。泣くな。お父ちゃんは、お前を笑顔に……。
成田は、成田慎であることを終えた。
18
成田慎の母は枡口定十郎夫妻に深々と頭を下げた。枡口夫妻も深く頭を下げた。
小さな居間の中で、まず成田の母が口を開く。
「あの子は、誰の子なんでしょうか?」
その視線の先には、手足を失ったクマのぬいぐるみを抱きしめる少女がいた。少女は、瞬き一つせずにじっと一点だけを見つめていた。
「私どもは、彼の子どもだと思っておりました」
定十郎が重苦しく口を開く。成田の母はきっぱりと否定する。
「うちの息子の子ではありません。こんな大きな問題を残して死ぬなんて、自分の息子ながら本当に恥ずかしい」
「慎さんは、立派な方でしたよ」
「何が立派なもんですか。誘拐なんてしてたとしたら、世間に顔向け出来ないわ」
サワコの言葉を断ち切るように成田の母は泣き崩れた。定十郎が言葉を投げかける。
「慎君にも何か深い理由があったんでしょう」
「東京で会社をクビになったと、同僚の方から聞きまして」
成田の母はハンカチで眼を押さえながら起き上がってくる。
「それで自暴自棄になって誘拐なんか」
再び泣き崩れる成田の母。その様子に困惑する枡口夫妻だった。
「あの子のこれからのことなんですが」
サワコの声に成田の母の顔が跳ね上がる。
「無理です。こちらの家では引き取れません。どこのうちの子かもわからない子どもなんて引き取れるもですか」
定十郎が成田の母の言葉をさえぎった。
「結構です。あの子は私たちが育てます。慎君の子としてね」
成田の母は首を大きく横に振った。
「違います。うちの子の子どもじゃありません。知りません。あんな子」
「ですから、結構です。あの子はうちの子として育てていきます」
定十郎の強い言葉に、成田の母は眼を背けた。
「……すみません。今はとても受け入れられそうにありません」
震えて崩れて泣く成田の母に、サワコは優しく言葉を投げかける。
「慎さんは、私たちの死んだ息子のアルバムを守ってくれたんですよ。子どもが死んで辛くない親なんていないって言ったら、自分たちの世代には、子どもが死んでも平気な奴がいるって本当に怒って、私に謝るんですよ。すみません、すみませんって。お母さん。慎さんは誘拐なんてしていないわ。あの子の笑顔は本当に素晴らしかったんだから」
成田の母は顔を上げる。サワコがうなづいてみせる。
「シオリちゃんの笑顔を取り返したら、ご連絡を差し上げます。そうしたら、お母さんもきっと大丈夫ですよ」
成田の母は、枡口夫妻に深く頭を下げた。
定十郎は、アルバムを見つめてつぶやいた。
「変に気を使いやがって」
後日、シオリがいなくなったことを警察にも言わなかった母親は、近隣住人の通報により児童虐待の罪で逮捕されることになった。しかし、娘を写した写真は一枚も無く、母親のスマートホンの中にも存在していなかった。コンビニの防犯ビデオもすでに上書きされ、目撃情報もなく、シオリのその後の行方を知っている者は誰一人としていなかった。
成田慎のスマートホンも拾得者によって転売され、二人を結びつけるものは無くなっていた。
数年後、ある老夫婦の家に一人の女の子が複雑な手続きを乗り越え養子縁組された。
終
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