幸せの青い本

大秦頼太

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幸せの青い本 12

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 エリカとアキオが死んで、一週間待たずに学校の中の人間の数は半分になった。
 青い本は、大島マコの手元にあった。初めは誰かの日記だと思った。後半に行くにつれていたずら書きが目立つようになったが、最初の方は外国語で書かれていた。
 日記なのよ。
 アカリがそう言っていた。そのアカリが昨日いなくなった。一冊の青い本を教室の机の上に残して。
 誰も青い本を手にしようとはしなかった。そのうち教師がやってきて、本を回収した。でも、次の日にはまたアカリの机の上に置かれていた。
 マコは、アカリが何か言いたいのかもしれないと思って青い本を手に取った。
 誰かの日記。
 日記の意味がわかれば、アカリがいなくなった理由がわかるかもしれない。マコは、そう考えた。図書館の片隅で、閉館時間まで辞典や辞書を開き続けた。
 家に帰ると母親に小言を言われた。それを聞き流し、家の中でも青い本のことを調べ続けた。
 青い本を書いたのは、ドイツの作家だったらしい。しかも、まったく売れない無名の人物であったようだ。日々の暮らしの貧しさが、呪いの言葉のようにつづられていた。
 やがてページは一言ずつ埋められるようになっていった。

 今日も何も食えず。
 パトロンに見放された。
 私には才能が無い。
 神は私に試練を与えた。
 神などいるのか。
 雨水を飲んだ娘がおなかを壊した。
 妻の病状が悪い。
 蓄えが底をついた。
 妻の髪と娘の髪を売った。
 明日が怖い。
 妻が死んだ。
 娘の鳴き声が耳から離れない。
 娘がいなくなった。
 久しぶりに食事をした。
 あの程度では足りなかったかもしれない。
 明日、死のう。
 今日も生きてしまった。
 夜が長くて気が狂いそうだ。
 私は何も望まない。
 家族を返してくれ。
 *******。

 最後の言葉は、どれだけ調べても翻訳できなかった。おそらくは書き損じだと思われる。
 作家の後に続くのは、祈りの言葉だった。男を不憫に思った聖職者が書き込んだのだろう。それ以降、筆跡も言語もバラバラになっていた。
 いつしかそれは日本語に変わり、翻訳など必要なく、すぐに読めるものになっていた。
 お金が欲しい。愛が欲しい。長生きしたい。権力が欲しい。憎い相手を呪い殺そうとする言葉さえもあった。
 そして、最後のページを見てマコは凍りついた。
「師島アカリ、不老不死になり本と共に生きる」
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