幸せの青い本

大秦頼太

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幸せの青い本 13

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 仲の良かった友達に相談をした。でも、解決方法はなかった。
 貸して欲しいと言ったハルミに本を預ける。その数日後にハルミの家に強盗が入り一家を惨殺した挙句、放火するという事件が起こった。ハルミが学校に来ることは二度と無かった。
 次の日、自宅の郵便受けに入っている青い本を見つけた。
 新しいページが増えていた。
 マサユキが本を捨てると言って青い本を持って言った。
 そして、マサユキは死んだ。
 サトルも死んだ。
 ユキエが死んだ。
 アキラが死んだ。
 シュウジが死んだ。
 クニヒコが死んだ。
 ユリエが死んだ。
 マリが死んだ。
 誰かが死ぬたびに、ページは増えていった。そこには死んだクラスメイトの願いが書き込まれていた。
 青い本は、マコの家の庭に埋められた。

 ある夕方のことだった。
「マコ」
 部屋のドアを開けて疲れきった表情で母がこっちを見ていた。マコはため息をついて一瞥する。
「入ってくるときはノックしてよ」
 勉強机に向き直るマコに、母親が近づいてくる。その左手がマコの長い髪をつかんでフローリングの上に引き倒す。床から母親を見上げると、その振り上げた右腕には包丁が握られていた。その刃には、赤黒いものがこびりつき、洋服にも赤い雫がいくつも飛び散っていた。
「何がノックよ」
 振り下ろされる包丁を避ける。包丁はフローリングを傷つけながら母親の左手を逃れていた髪の毛を数本切り落とした。マコは持っていたシャーペンを母親に投げつけ、ひるんだ母親の手を逃れて部屋を飛び出した。
 そのまま裸足で廊下を駆け玄関から外に……。
 玄関で男が倒れていた。その寝ている後姿に見覚えがあった。
「お父さん?」
「あたしをバカにするからよ」
 刃の欠けた包丁を振り上げながら母親はマコに向かってゆっくりと歩いてくる。
「何してるの?」
 それを聞くのが精一杯だった。
「お前まであたしをバカにして!」
 母親はマコに向かって急に駆け出した。その足がフローリングですべり、母親は体勢を崩し振り上げていた右腕が体の下に入り込んだ。
 鈍いうめき声を上げて母親は震えだした。
「お母さん?」
「しねばいいんだぁ」
 母親は口から血の泡を吹き出しながら言葉を吐き出し、ゆっくりと動かなくなっていった。
 マコは悲鳴を上げた。裸足のまま庭に向かい素手で青い本を掘り起こした。家の中に持ち帰りペンを探した。ペンはすぐに見つかった。青い本の最後を開き、震える手で書き込んだ。
「両親を生き返して欲しい」
 と。書いた途端、体中の力が抜けるのを感じた。
 父親と母親は起き上がってくることは無かった。我に返ると、電話をかけて救急車を呼んだ。そして、廊下に出ると玄関の父親と廊下の母親の間くらいに座り込んだ。
その後、警察も呼ばれ、警察署や病院に行っても何かいろいろ聞かれたが、何をどう答えたのかも、いつ家に戻ったのかもまるで覚えていない。
 気がついたときには、父親と母親が側に立っていた。二人とも何も言わずに、それぞれの二つの瞳は覗き穴のように真っ暗で、何も映し出しはしなかった。
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