DREAM EATER

大秦頼太

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DREAM EATER 22

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 塔の内部はダンジョン構造になっている。長く続く通路や丁字路があってもそこまで行かなければ先は見えない。そのため、敵の待ち伏せも多い。
 5、6人が並べる通路から30人からの傭兵を横に並ばせてもまだ余裕のある広さがあったりと現実世界の建て方をまったく無視した構造も見える。
 当然のように罠もある。落とし穴。毒ガス。睡眠ガス。回転床。一切の視界を奪ってしまうダークゾーン。音が聞こえなくなるゾーン。それらの組み合わせ。被害を最小限にするためには慎重にならざる負えない。
 敵が攻撃を仕掛けてくるのが一番嫌かというとそんなことはない。罠のほうがよっぽどいやらしかった。中でもダークゾーンに入った瞬間に睡眠ガスが襲い、さらに回転床で咆哮がわからなくなるというのが一番嫌だった。こうなるとPTも連合も分断される。合流しようとするとまた同じ罠にかかるのだ。
 罠を解除する専門職がある。だが、それはまだ実装されていない。無理矢理にでも進むしか無いため、ある意味罠は僕らにとって最大の敵だった。
「魔法でも罠を発動させることが出来るってさ」
 ソトミネが言った。
「解除じゃなくて、あくまで発動ね。それで抵抗力を上げてから進むと被害がほとんど出ないってさ」
 どうやらソトミネはシーアンたちから特定会話でなにか聞いているようだ。
「それはいいや。こっちも真似するぞ」
 ズカルが言った。
 やり方を模索しながら進むことになった。

 プレイヤーによる襲撃はなく、モンスターの襲撃しかなかった。進みは遅いが僕らは着実に塔を登っていった。ビアストリーノやシーアンたちよりも早く。
 最上階の案内が出ると、そこには建設途中を思わせる空間が広がっていた。積み上げられた石材や木材。広がる空には塔を中心にして雲が円を描いていた。
 僕らを待っていたのは、SPエミナたちだった。彼らSP6人と彼らの傭兵以外姿がなかった。
「ついてないわね」
 SPエミナが言った。
「お前たちの話だよ!」
 SPルールがSPモルグの後ろから顔を出して言った。モルグが慌てて後ろに押し返す。
「ここはハズレよ。引き返しなさい」
 SPエミナが背中を向ける。
「って言ってあげたいんだけどね。そうも行かないのよ」
 SPの傭兵たちが陣形を取り始める。
「冗談だろ」
 ズカル連合は今の時点で3PT15人だ。傭兵の数もSPたちの倍はいる。だが、ある噂のせいでこっちには勝ちがない。
「SPは死なないんだろ? 逃げるしかない!」
「戻れ! 戻れ!」
 僕らが退却を始めようとしたその時、残酷にも下層に降りる階段が進入不可エリアになってしまった。
「嘘だろ!?」
 こちらの戦闘態勢が整う前にSP6人とその傭兵120人との戦いが始まった。
 同じ連合とはいえPTが違えば配置の位置も違う。壁役の傭兵も後衛にいたり、移動に手間取り身動きも取れずにいた。
「傭兵だけでも削ればいい!」
 ズカルの命令もほとんど届かない有様だった。
「くそ! とりあえず自分自身を守れ! 落ち着くまで耐えろ!」
 戦場を見回し体力の減っている味方に回復魔法をかける。そこに飛んで来るSPエイモストのスリープ。行動不能に陥る。
「何か、手はないのか!」
 ズカルが叫ぶ声が聞こえた。不意に衝撃を受けて目を開けると、こちらの連合はほぼ半数が倒されていた。
 こんな時に、何かスキルが有れば。攻撃に役立つスキルが有れば。
 武器を握る手にどれだけ力を込めても何の能力も発言しない自分の無力さに打ちのめされた。
「SPがなんで俺たちを攻撃するんだ!」
 ズカルが言った。
 勝ちを確信したのかSPたちの攻撃が緩んだ。SPモルグが口を開いた。
「すまん。本体を人質に取られたんだ。ここに来た者をロストさせないと俺たちが殺されるんだ」
 ゆっくりと確実に死が近づいてくる。いや、死ぬとは限らない。ゲームのテスト期間が終わるまで暗闇の中で待つだけ。
 だが、このテストはいつ終わるのか。
 元々は一ヶ月の予定だったが、すでにゲームの中では1年に近い時間が過ぎようとしている。事件にだってなっているはずだ。警察が放っておくわけがない。
 それならもう解決されていなければおかしいじゃないか。
 ダメだ。僕らはみんな見捨てられたんだ。

 傭兵たちが倒れていく。美春さん似の傭兵も。僕はこのまま何もしないのか。
 どうせ死ぬなら、せめて最期にSPの誰かに攻撃を当ててから死んでやる。
 でも、それが何になるのか。僕に出来ることはないのか。僕だけに出来ることは。

 ネット接続スキルの発動。

 でも、ここは指定場所ではない。使い方も知らない。それでも、何もしないよりは無駄でも使ってから死にたい。エフェクトだけでも見てから死ねば、悔いが一つくらいは減るさ。
「:::::::::::::::::::::!!!!!」
 両手を空にあげて力の限り命令をする。
 当然のように何も起こらなかった。全員の目がこちらに向けられる。

「よくやった! アンヴィドルフ!」
 空から声がした。
 青い空の一点から黒い穴が出現する。その穴の中から初老の男が青い翼竜の背に乗って飛び出してきた。
「ゲートキーパーのおじさん!」
「少しいじって、ここにも接続ポイントを隠しておいたんじゃ。連中はここに何もないと思って決闘場にしておったがな」
 SPたちがゲートキーパーに攻撃を仕掛ける。
「ブルードラゴンにはそんな攻撃効かんわ!」
 ゲートキーパーが笑う。
「アンヴィドルフ。まもなくログアウトが始まるぞ。そこで頼みがある。ゲームの終了がこの件の終わりではない。詳細はメールにして送る。頼むぞ!」
 そう言うとゲートキーパーはブルードラゴンを巧みに操りSPたちに攻撃を仕掛ける。
「俺たちの戦闘が終わるぞ!? どういうことだ!」
 ズカルが言った。
「わからない」 
「ソトミネ! ズカル! 僕らログアウトできるようになるって!」
 ゲートキーパーの声は僕だけに聞こえていたのだろう。
「何! よし、戦闘終了後、すぐにログアウトだ! グズグズするな! 次の戦闘に巻き込まれたらまた戻れなくなるぞ!」
 ズカルの最後の指示を聞きながら、戦闘状態が解けた瞬間、僕らはログアウトを宣言した。

 入ってきた時と同じように、目の前が真っ白になっていき、その後暗闇に包まれた。
 暗闇の中では不安があった。戻れないんじゃないかっていう。
 徐々に体の感覚が戻ってくると、背中に体温と肌と肌が触れる感触が蘇ってくる。同時に心拍数が急上昇する。早く頭の装置を取り去ってしまいたかった。

 僕は現実世界に戻ってこられたんだ。
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