DREAM EATER

DREAM EATER 0

　202X年。この年の幕開けはゲームの歴史を塗り替えることの連続だった。そのゲームのクローズドαテスト参加の募集を運よく発見し、更に幸運な事にそのチャンスを掴み、待ち遠しくてテスト勉強も手につかなかったほどだ。
　それほどに興奮したのは他人の夢を見る事ができる技術「ドリームキャッチャー」の応用で究極のバーチャルリアリティシステムが生まれようとしていたからだ。夢の世界を他人と共有できるという「ドリームキャッチャー」の技術で、擬似的に創りだした空間に複数の人間を同時に接続させるというもので、そこでは時間の流れさえも操ることが出来るのだという。某有名大学の研究チームの呼びかけに大手ゲームメーカーと資産家が名乗りを上げた。
　そして、生み出されたゲームが「The Vark」だ。このバークが他のマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム（以下MORPG）と違う所は、プレイヤーは最大20名のノンプレイヤーキャラクター（NPC）を制御しなくてはいけないところだろう。今までのゲームでも指示を出すまで待つNPCは多かった。が、バークでは指示を出さないと勝手に動き思わぬトラブルを発生させる。例えばケネスというNPCには盗み癖があり、彼を連れたまま街の中を歩くと「待機」の指示がなかった場合「窃盗」をするのである。捕まらなければプレイヤーの財布の中身が増えることもあるが、もし巡回警備や他のプレイヤーに見つかった場合、「悪質なプレイヤー」として認識される上、逮捕された場合には罰金を払うことになる。逮捕をされたNPCはその罪に応じた罰を受ける。
　罰金くらい払えばいいじゃないかと思う人もいるだろう。しかし、これも他のゲームと違うことにバークでは通貨の流通量が決まっており、プレイヤーは自由に通貨を得ることが出来ない。通貨を得るのが過酷なのだ。更にはプレイヤー同士のアイテム交換など一切が出来ないことになっている。通貨を手に入れるには、クエストを地道にこなしていくかモンスターからアイテムを獲得するしか無い。その町の外にいるモンスターを倒すことで得られたアイテムは町の商店でのみ引き取ってもらえる。それもかなりの安価で。屈辱的なことに商店はそのタダ同然で手に入れたアイテムを高値で別のプレイヤーに販売するのである。
　とまあ、ここまでが送られてきたメールに添付されていたゲームの説明で、バークを実際にやってみるまではわからないだろう。
　それとは別の注意書きも書かれている。持ち物や参加期間のこと。期間中はずっと機械に接続されたままで途中で起きることが出来ないこと。食事は点滴。機械が密閉式なので排泄にも問題がないということ。ただし事前に医師の健康診断書が必要になる。さらに銀行口座の登録。
　参加期間は夏休みの期間だから問題ない。何日かある登校日は病欠にしてもらえばいい。食事も点滴だというがバークの世界の中でなら豪華な食事を食べられるだろう。排泄の問題まで取り上げるのは珍しいと思うが、密閉式の機械の中で漏らせということなのか、少し不安になる。健康診断は問題ない。最後の銀行口座の登録というものが気になる。これは後で聞けば謎が解けるだろう。

　興奮しすぎて上手く眠れないかもしれない。それだけが不安だった。