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DREAM EATER 8
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ゲーム内の時間で一ヶ月が過ぎようとしている。最近はまたクエストの参加者が増えてきたため一日に一度くらいしか回れなくなってしまった。所持金も200bcからあまり増えなくなった。宿を試したり、食事を取るなどの行為を行ってみたのだ。
宿は一晩で3bcかかる。ここには食事はついていない。ここでの食事は1bcから5bcかかる。数日食事を断っても軽い空腹感を感じる程度なので特に何も食べなくても問題は無いようだったが、何よりも味を知りたかった。ということで値段ごとにどうなるかを試してみたのである。胃に優しい感じの野菜スープもそれなりの味だったし、丸パンもベーコンもふわふわのスクランブルエッグもそれぞれの食感がしっかりあった。ファミレスのような印象が拭えなかった。アルコールも飲むことが出来たが、この味だけはなんかよくわからなかった。ワインはグレープジュースそのものだった。未成年仕様なのかもしれない。
ベッドの上で寝るのは久しぶりだった。寝心地は相当に気持ちがいいものだった。だが、夢は見ることなく目が覚めると体の疲れがとれたような感じとスッキリした気分がした。
情報を武器にするはずだったビアストリーノ組もこの町ではもう得られる情報がなくなったために六人パーティーを五組ほど作り更に連合をして三十人ほどの集団で次の町を目指して行った。ズカルもその中に入っていたことを後で知った。
それ以外の者は町で細々とクエストをこなすことを選んだ。繰り返しクエストと日々の生活をすることでレベルが上がることもあるのが、慎重派にとっては光明だったかもしれない。
そんなある日、三人ほどのSPがやってきた。
「町にいるプレイヤーの皆さん、広場にお集まりください」
そうやってみんなを集めたのはSPエミナと言う名前のついた赤いショートボブの小さな女の子だった。白いローブをヒラヒラさせながら冒険者を誘導する。
SPエイモストの姿も見えた。面倒くさそうに金髪をいじる彼は既にプレイヤーから罵声を浴びていた。彼が魔法使い風に見えたのはSPがほとんど同じようなローブを着ているせいだった。もう一人は緑色の刈り上げた頭の芽体の良い男SPモルグだった。彼も同じような白のローブを身にまとっている。
SPエミナがSPモルグの左肩に乗る。そうしなければプレイヤーたちが囲まれた人垣で彼女の姿を見ることが出来ないからだろう。
「テストプレイヤーの皆さん。残念なお知らせがいくつかあります。管理サーバーの一つがハッキングされ、データの書き換え被害を受けました。これにより皆さんの口座に不当な請求が発生する可能性があります。冒険者様本人が賢者の塔からアクセスをして口座の切り離しをお願いします。これがまず一つ目です」
「どういうことだ?!」
SPモルグが右手を挙げる。でかいのでみんなが一瞬、「うっ」と身を引く。それを確認するとSPモルグは手を下ろす。
「質問は後にしてほしい。先に問題を認識しておくべきだ」
「二つ目ですが、ログアウトにもシステム障害が発生しました。プレイヤーの皆さんはロストを選択しないようにお願いします。また戦闘敗北による相手方からの強制的なロストが選択可能になったため、出来る限り戦闘を避けてください」
「ロストしたらどうなるんだ?」
SPエミナは今にも泣き出しそうな顔をした。
「おそらく自発的に意識を取り戻すことが困難になり、……最悪の場合、死亡します。それから」
「まだあるのかよ!」
「静かにしろ!」
SPモルグが怒鳴る。SPエミナは肩から落ちそうになる。
「皆さんとは別のテスターが募集されていました。その方々はちょっと特殊で、その、あの……」
言うか言うまいかを悩んでいるようだった。そこにSPエイモストが割り込んでくる。
「お前たちの中に凶悪な犯罪者が紛れ込んでいる。それも人を殺すことを楽しみにしているような連中だ」
「警察は何をしてるんだ!」
「ふざけるな!」
SPモルグが再び右手を上げる。
「現在、外部との連絡が取れる唯一の場所が犯罪者たちに奪われている状況だ。ここを取り返さな限り我々も何も出来ない」
「モニタリングしてるスタッフはいないのか?」
「おそらくそれも不可能だろう。異常事態なのは既に認識しているだろうが、ハッカーによる攻撃でそういったものは全て向こうに抑えられてしまったと判断している」
恐る恐る手を上げるのはボスという貧相な戦士だった。
「不当な請求てなんのことだい?」
SPエイモストが出てくる。
「賠償金を現金に変えて引き落とすことだ」
この発言には皆、穏やかではいられなかった。SPたちに向かって容赦のない怒りの声がぶつけられる。
「現在のレートは1bc=200円だ。これが今後どうなるのかはわからない」
嵐のような罵声をSPエイモストが一身で受ける。SPエミナが悲鳴のような声を出す。
「皆さんの中に、スキルを一つも取っていない方はいらっしゃいませんか? 賢者の塔と本社のサーバーを再接続するために特殊スキルを取得してもらいたいんです。その習得のためには一切のスキルを持っていないことが条件なんです」
まだスキルを取っていなかったが、こんなことに巻き込まれるためではなかった。
宿は一晩で3bcかかる。ここには食事はついていない。ここでの食事は1bcから5bcかかる。数日食事を断っても軽い空腹感を感じる程度なので特に何も食べなくても問題は無いようだったが、何よりも味を知りたかった。ということで値段ごとにどうなるかを試してみたのである。胃に優しい感じの野菜スープもそれなりの味だったし、丸パンもベーコンもふわふわのスクランブルエッグもそれぞれの食感がしっかりあった。ファミレスのような印象が拭えなかった。アルコールも飲むことが出来たが、この味だけはなんかよくわからなかった。ワインはグレープジュースそのものだった。未成年仕様なのかもしれない。
ベッドの上で寝るのは久しぶりだった。寝心地は相当に気持ちがいいものだった。だが、夢は見ることなく目が覚めると体の疲れがとれたような感じとスッキリした気分がした。
情報を武器にするはずだったビアストリーノ組もこの町ではもう得られる情報がなくなったために六人パーティーを五組ほど作り更に連合をして三十人ほどの集団で次の町を目指して行った。ズカルもその中に入っていたことを後で知った。
それ以外の者は町で細々とクエストをこなすことを選んだ。繰り返しクエストと日々の生活をすることでレベルが上がることもあるのが、慎重派にとっては光明だったかもしれない。
そんなある日、三人ほどのSPがやってきた。
「町にいるプレイヤーの皆さん、広場にお集まりください」
そうやってみんなを集めたのはSPエミナと言う名前のついた赤いショートボブの小さな女の子だった。白いローブをヒラヒラさせながら冒険者を誘導する。
SPエイモストの姿も見えた。面倒くさそうに金髪をいじる彼は既にプレイヤーから罵声を浴びていた。彼が魔法使い風に見えたのはSPがほとんど同じようなローブを着ているせいだった。もう一人は緑色の刈り上げた頭の芽体の良い男SPモルグだった。彼も同じような白のローブを身にまとっている。
SPエミナがSPモルグの左肩に乗る。そうしなければプレイヤーたちが囲まれた人垣で彼女の姿を見ることが出来ないからだろう。
「テストプレイヤーの皆さん。残念なお知らせがいくつかあります。管理サーバーの一つがハッキングされ、データの書き換え被害を受けました。これにより皆さんの口座に不当な請求が発生する可能性があります。冒険者様本人が賢者の塔からアクセスをして口座の切り離しをお願いします。これがまず一つ目です」
「どういうことだ?!」
SPモルグが右手を挙げる。でかいのでみんなが一瞬、「うっ」と身を引く。それを確認するとSPモルグは手を下ろす。
「質問は後にしてほしい。先に問題を認識しておくべきだ」
「二つ目ですが、ログアウトにもシステム障害が発生しました。プレイヤーの皆さんはロストを選択しないようにお願いします。また戦闘敗北による相手方からの強制的なロストが選択可能になったため、出来る限り戦闘を避けてください」
「ロストしたらどうなるんだ?」
SPエミナは今にも泣き出しそうな顔をした。
「おそらく自発的に意識を取り戻すことが困難になり、……最悪の場合、死亡します。それから」
「まだあるのかよ!」
「静かにしろ!」
SPモルグが怒鳴る。SPエミナは肩から落ちそうになる。
「皆さんとは別のテスターが募集されていました。その方々はちょっと特殊で、その、あの……」
言うか言うまいかを悩んでいるようだった。そこにSPエイモストが割り込んでくる。
「お前たちの中に凶悪な犯罪者が紛れ込んでいる。それも人を殺すことを楽しみにしているような連中だ」
「警察は何をしてるんだ!」
「ふざけるな!」
SPモルグが再び右手を上げる。
「現在、外部との連絡が取れる唯一の場所が犯罪者たちに奪われている状況だ。ここを取り返さな限り我々も何も出来ない」
「モニタリングしてるスタッフはいないのか?」
「おそらくそれも不可能だろう。異常事態なのは既に認識しているだろうが、ハッカーによる攻撃でそういったものは全て向こうに抑えられてしまったと判断している」
恐る恐る手を上げるのはボスという貧相な戦士だった。
「不当な請求てなんのことだい?」
SPエイモストが出てくる。
「賠償金を現金に変えて引き落とすことだ」
この発言には皆、穏やかではいられなかった。SPたちに向かって容赦のない怒りの声がぶつけられる。
「現在のレートは1bc=200円だ。これが今後どうなるのかはわからない」
嵐のような罵声をSPエイモストが一身で受ける。SPエミナが悲鳴のような声を出す。
「皆さんの中に、スキルを一つも取っていない方はいらっしゃいませんか? 賢者の塔と本社のサーバーを再接続するために特殊スキルを取得してもらいたいんです。その習得のためには一切のスキルを持っていないことが条件なんです」
まだスキルを取っていなかったが、こんなことに巻き込まれるためではなかった。
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