DREAM EATER

大秦頼太

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DREAM EATER 13

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 賢者の塔までの道のりは思った以上に大変そうだった。現在開放されているエリアでも一番遠い。噂では魔術師の覚えることが出来る魔法の全てがそこにあるという。
 マップ通りに行けば一つの町と山を超え霧深い森の中にある。歩いていけば一日ほどでたどり着くというのだが、モンスターのレベルも上がっていくため、あまりに急ぎ過ぎると塔にたどり着いてもその後の戦闘を継続する力がなくなってしまう恐れもある。
 SPエミナがSPたちを集めて話し合いをするという。そのため僕らは町の中で自由行動をさせられていた。同時間を潰したらいいものか考えあぐねていると、ソトミネが手招きしている。不思議に思いながらも付いて行ってみると町の中を歩きまわった挙句、何もない民家のような建物の前で立ち止まった。
「君は気にならないかい?」
「何を?」
「絶対にしゃべらないって言えるなら付いてくるといい」
 そう言うと民家の中に入っていった。気になったので付いて行く。ソトミネは誰もいない何もない部屋の隅に座り込んだ。僕が付いてきたことを知ると嬉しそうに頷きながら、口元に人差し指を当てて再度念を押してきた。ゆっくりとうなずいて答える。
 ソトミネが壁に耳を当てた。同じように真似をしてみるとかすかに声が聞こえてきた。
 これはSPたちの会話だ。驚いて声を上げそうになった僕に向かって、ソトミネはひどく不機嫌な顔になって口元に指を当てる。
 手を合わせて謝ると再びSPたちの会話を聞く体制になる。
「このまま突き進んでも最後まで戦えるとは思えない」
 この声はおそらくSPミフネス。
「俺もそう思う。ゲーム攻略に関係がない地域だから強盗の襲撃は少ないだろうが」
 これはSPモルグだ。
「だが、時間的な余裕があるのか?」
 これはたぶんSPタフト。
「私たちは死なないからいーじゃん」
 こいつは間違いなくSPルール。
「ロストがないだけで、あっちから接続を切られたらおわりだぜ」
 SPエイモストだ。
「そんなこと出来るの?」
「他のSPが向こう側についていたら厄介よ」
 SPルールとそれを諭すSPエミナ。そこからはちょっとスピードが早くなってきたので誰だかは詳しく追えなくなった。
「嘘、マジ?」
「どうだった?」
「マイストとビコル、エレガの三人と未だに連絡がつかない」
「もしSPが向こうについていたとして、無力化は出来るの?」
「エレガとビコル辺りなら何回やっても勝てる気がする」
「マイストさんはちょっと無理だな」
「あの人が向こうについていたら終わりだな」
「負けないわよ」
「傭兵を使った戦いと一般プレイヤーを使った戦いでは違うだろうから、勝機があるならそこだな」
「だから負けないって」
「まだそうと決まったわけじゃないだろ。マイストさんが向こうに付くなんてありえない。犯罪者の味方をするってことだよ?」
 その時だった。
「The Varkをお楽しみの皆さん。運営代行です。今日は皆さんに大事なお知らせを致します。現在、この混沌に満ちた我々の愛すべき世界でありますが、なんとこの世界を押し付けの正義によって秩序という地獄の縛りを無理強いしようとする連中の存在が明らかになりました。そいつらは賢者の塔を制圧し、ネットワークを支配、管理して我々の世界を破滅に導こうとしています。そうなれば今まで築き上げてきたこの世界の住人の生命財産が権力によって一方的に奪われてしまうのです。これは許すことが出来ません。そこで、特別イベントを開催いたします。賢者の塔付近でのプレイヤー同士の戦闘価値を十倍に致します。さらに、ネットワーク接続スキルを持ったプレイヤーをロストさせたプレイヤーには特別ボーナスとして、そいつの全財産を与えるぜ! っと失礼。で、誰がそれかわからないのも不親切だと思うので、そいつらの名前を上げていくぜ。スターシャ、ナズル、ロック、アンヴィドルフ、ボイスの五人だ。皆せいぜい頑張って探してくれよな。それでは引き続きThe Varkをお楽しみください」
 血の気が引いていくのを感じた。奇妙な緊張感に全身が包まれていく。運営代行のアナウンスは僕の心と体にズレを生じさせるのに十分だった。
 ソトミネが僕の手を引いて民家を出て行く。逆らうことも出来ずに引っ張られるままに歩いた。いや、引かれていることにも歩いていることにすら気が付かなかった。
「大変なことになったね」
 ソトミネの声が聞こえた。一瞬、彼が何を言ってるのか理解できなかった。
「ロストしたら、死ぬんだよね?」
 上ずった声が自分の口から出てきて怖がっていることに気がついた。
「沢山のプレイヤーが僕を殺しに来る」
「SPたちと合流しよう」
「嫌だ。僕は抜ける。連合を抜けてこの町の中で隠れていれば死なないで済む。SPたちは死なないから、絶対に塔に向かうって言うはずだ。こんなの不公平だ」
 ソトミネは僕の手を引いて歩き続けた。
「ここにいたらいずれ全員が死ぬんだよ。それを全員に理解させれば味方の方が絶対に多くなるはずだ」
「何を言ってるのかわからないよ」
「いいかい、僕らは機械接続でこの世界にやってきた。機械が動いているから生命の維持がされている。もし仮にこの件が社会で公になったら、公権力はテロリストを許さないだろう。ひょっとしたら無理やりにでも接続を切るかもしれない。電源を落とすかもしれない。そうなった場合、誰も助からないんだ」
「だからって、僕に犠牲になれっていうのか?」
「違う。君たちを失うことで、僕らは二度と元の世界に戻ることができなくなるんだ。逆を言えば、スキル保持者が一人でも生きていれば僕らは助かる可能性がある。強盗プレイヤーだって同じだ。いくらここで巨万の富を築いたところで、現実社会に戻れなければそのお金は石鹸の泡みたいに無くなっちゃうんだ。敵はミスをしたんだ。大きなミスをね」
 ソトミネの手を振り払う。彼は数歩前で悲しそうな顔をして振り返った。
 僕は、ソトミネの手をとって走りだした。言葉が出なかった。
 ただ、心のなかで何度も「ありがとう」と叫び続けた。
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