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DREAM EATER 12
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傭兵はとにかく金がかかる。一度雇ってしまえば無償で死ぬまで付き添ってくれるが、彼らも食事をしたり宿に止まることを要求したりする。不満値というものが溜まっていくと命令を無視したり、戦闘などで能力を発揮しないようになる。更にプレイヤーと同じレベルまで成長し、武器や防具なども装備することが出来るのだ。しかし、装備を強い物に更新していけばパーティーの実力も上がる。そのため、強盗プレイヤーや先行組は先を目指すのである。そして、そこに新参者が来れば容赦なく叩き潰し、自勢力の収入源にするのだ。
魔術師たちの最初の町ルフルスに辿り着く前にポーの連合と一戦交えたが、彼らは実戦に慣れているようで自分たちが不利と見えると倒れた味方を見捨ててすぐに逃げ去っていった。
無事にルフルスにたどり着くと、そこには多くの座り込む魔術師たちの姿があった。力なくうなだれる彼らの丸い背中には疲労が見えた。だが、それが全てではなくごく僅かではあったが町の中を歩きまわる者や体をひたすら動かす者もいた。
「新しい魔法書が高すぎて買えないんだ」
戦士とは違い魔術師はレベルが上っても新しい魔法を簡単に覚えることが出来ない。まず新しい魔法の本を手に入れなければいけない。それは敵を倒すか、クエストをするか、商店で販売されるのを待つかなのだが、ここルフルスは魔術師が一番最初にたどり着く町であるのに魔法書をくれるクエストがない。商店で売りだされる魔法書は、とてもじゃないが買える金額ではない。魔法書を落とすという噂のある敵モンスターの側には強盗プレイヤーがいる。
魔術師プレイヤーがつまづく点がここだ。強盗プレイヤーの存在がとても大きかった。
というのも彼らを悩ませる原因の一つに魔法の使用回数ルールがある。初期の魔術師は魔法を二つしか覚えていない上、レベル1だと精神力が低く使用できる回数は一回と極端に少ない。少し待てば回復するのだがやはりレベルが低い内はその回復量も微々たるもので、彼らは連続で戦闘をすることが出来ずに精神力が切れた瞬間を強盗プレイヤーに狙われてしまうのだ。
戦士とは違いパーティーを組んでも生命力の高い防壁がない分、単体には強いが、集団には圧倒的に弱くあっという間に殲滅されてしまうため、結果、傭兵を雇うような稼ぎを得ることもなく絶望にくれているのであった。
「ここまで来るのは簡単だったんだ。殴り合いくらいは出来るし、僕らは非力な分ノーダメージでここまで来られたからね」
ソトミネという魔術師は明るく笑っていった。彼はそれほど絶望していないようだった。
「うん。この中でも出来ることはあるからね。色々実験をして時間を潰していたんだよ」
そう言うとソトミネはそばにいる猫のNPCに魔法スリープをかけるのだった。
「NPCに魔法をかけることが出来るのがわかった。そして、魔法には出力とスキル熟練度、魔法のレベルの三つが深く関わっていることもわかったんだ。魔法は使えば使うほどに強力になるみたいなんだ」
ルフルスにいたSPタフト、SPルール、SPミフネスの三人が新たに連合に加わり、説明を受けた魔術師プレイヤーたち二十人が加わった。ソトミネもその中に入った。
「アンチー」
一瞬、自分が呼ばれたのかと思って振り返ると、SPルールがSPモルグに駆け寄って行くのが見えた。SPルールは先の細い華奢な女の子で色の薄い金髪をしている。
「なんだよノリノリ」
「ぶー。ルールは規則じゃないの。舞曲って言う意味なの!」
「なら、俺を死体安置所と呼ぶな。俺の名前はホラー映画から取っているんだ」
「どっちも不気味じゃん」
「いいだろ。俺の勝手だ」
「ねえ、アンチー」
「モルグと呼べ」
「やだよ、呼びにくいもん」
「なんでだ」
「モグラーならいいよ」
「ダメだ」
二人のSPがそんなやり取りをしている間に他のSPも見ておこう。
SPミフネスは黒く長い髪をしていて、ずっと目をつむっている。イチローのような面立ちをしている。細身の長身だった。長い剣を方に担いでいる。彼は戦士だろう。
SPタフトはずんぐりむっくりしたオジサンで、もじゃもじゃ頭を揺らしながら歩く。大きな斧を背負っているので戦士で間違いないだろう。
SPエミナは総勢四十三名となった連合メンバーの前に立つ。側にはビアストリーノ連合もいた。賢者の塔を目指さない魔術師のほとんどが彼らと一緒に戦士の町ビヤンツを目指す。
「ぶー。エミナが総指揮者なのー。あー、葬式者かー。って、アンチー。なんか言ってよー。ねーねー」
そう言ってSPモルグにまとわりつくSPルールを睨みつけながら、SPエミナは宣言する。
「皆さん。これから私たちはいよいよ初心者エリアを出て賢者の塔を目指す旅に出ることになります。これからの旅は今までよりも険しいものになることでしょう。でも、行かねばなりません。やり遂げなければならないのです。ここにいる六人のサポートプレイヤーにどうぞお力をお貸しください!」
SPエミナはビアストリーノに向かい深々と頭を下げる。
「ビアストリーノさん。それとその連合の皆さん。ここまで本当に有難うございました。無事に賢者の塔まで辿りつけましたら、システムメッセージでお知らせを致します」
ビアストリーノが軽く頷く。
「古今、悪が栄えた例はありません。必ずや成し遂げると信じています」
ズカルが直ぐ側でつぶやく。
「善が栄えた例もないがな」
僕らSPエミナの連合はそのまま中央都市を目指し、ビアストリーノ連合は戦士の町に戻る。この町を出たらそこでお別れとなる。
戦士たちの護衛が減ることが不安を感じさせるのだった。
魔術師たちの最初の町ルフルスに辿り着く前にポーの連合と一戦交えたが、彼らは実戦に慣れているようで自分たちが不利と見えると倒れた味方を見捨ててすぐに逃げ去っていった。
無事にルフルスにたどり着くと、そこには多くの座り込む魔術師たちの姿があった。力なくうなだれる彼らの丸い背中には疲労が見えた。だが、それが全てではなくごく僅かではあったが町の中を歩きまわる者や体をひたすら動かす者もいた。
「新しい魔法書が高すぎて買えないんだ」
戦士とは違い魔術師はレベルが上っても新しい魔法を簡単に覚えることが出来ない。まず新しい魔法の本を手に入れなければいけない。それは敵を倒すか、クエストをするか、商店で販売されるのを待つかなのだが、ここルフルスは魔術師が一番最初にたどり着く町であるのに魔法書をくれるクエストがない。商店で売りだされる魔法書は、とてもじゃないが買える金額ではない。魔法書を落とすという噂のある敵モンスターの側には強盗プレイヤーがいる。
魔術師プレイヤーがつまづく点がここだ。強盗プレイヤーの存在がとても大きかった。
というのも彼らを悩ませる原因の一つに魔法の使用回数ルールがある。初期の魔術師は魔法を二つしか覚えていない上、レベル1だと精神力が低く使用できる回数は一回と極端に少ない。少し待てば回復するのだがやはりレベルが低い内はその回復量も微々たるもので、彼らは連続で戦闘をすることが出来ずに精神力が切れた瞬間を強盗プレイヤーに狙われてしまうのだ。
戦士とは違いパーティーを組んでも生命力の高い防壁がない分、単体には強いが、集団には圧倒的に弱くあっという間に殲滅されてしまうため、結果、傭兵を雇うような稼ぎを得ることもなく絶望にくれているのであった。
「ここまで来るのは簡単だったんだ。殴り合いくらいは出来るし、僕らは非力な分ノーダメージでここまで来られたからね」
ソトミネという魔術師は明るく笑っていった。彼はそれほど絶望していないようだった。
「うん。この中でも出来ることはあるからね。色々実験をして時間を潰していたんだよ」
そう言うとソトミネはそばにいる猫のNPCに魔法スリープをかけるのだった。
「NPCに魔法をかけることが出来るのがわかった。そして、魔法には出力とスキル熟練度、魔法のレベルの三つが深く関わっていることもわかったんだ。魔法は使えば使うほどに強力になるみたいなんだ」
ルフルスにいたSPタフト、SPルール、SPミフネスの三人が新たに連合に加わり、説明を受けた魔術師プレイヤーたち二十人が加わった。ソトミネもその中に入った。
「アンチー」
一瞬、自分が呼ばれたのかと思って振り返ると、SPルールがSPモルグに駆け寄って行くのが見えた。SPルールは先の細い華奢な女の子で色の薄い金髪をしている。
「なんだよノリノリ」
「ぶー。ルールは規則じゃないの。舞曲って言う意味なの!」
「なら、俺を死体安置所と呼ぶな。俺の名前はホラー映画から取っているんだ」
「どっちも不気味じゃん」
「いいだろ。俺の勝手だ」
「ねえ、アンチー」
「モルグと呼べ」
「やだよ、呼びにくいもん」
「なんでだ」
「モグラーならいいよ」
「ダメだ」
二人のSPがそんなやり取りをしている間に他のSPも見ておこう。
SPミフネスは黒く長い髪をしていて、ずっと目をつむっている。イチローのような面立ちをしている。細身の長身だった。長い剣を方に担いでいる。彼は戦士だろう。
SPタフトはずんぐりむっくりしたオジサンで、もじゃもじゃ頭を揺らしながら歩く。大きな斧を背負っているので戦士で間違いないだろう。
SPエミナは総勢四十三名となった連合メンバーの前に立つ。側にはビアストリーノ連合もいた。賢者の塔を目指さない魔術師のほとんどが彼らと一緒に戦士の町ビヤンツを目指す。
「ぶー。エミナが総指揮者なのー。あー、葬式者かー。って、アンチー。なんか言ってよー。ねーねー」
そう言ってSPモルグにまとわりつくSPルールを睨みつけながら、SPエミナは宣言する。
「皆さん。これから私たちはいよいよ初心者エリアを出て賢者の塔を目指す旅に出ることになります。これからの旅は今までよりも険しいものになることでしょう。でも、行かねばなりません。やり遂げなければならないのです。ここにいる六人のサポートプレイヤーにどうぞお力をお貸しください!」
SPエミナはビアストリーノに向かい深々と頭を下げる。
「ビアストリーノさん。それとその連合の皆さん。ここまで本当に有難うございました。無事に賢者の塔まで辿りつけましたら、システムメッセージでお知らせを致します」
ビアストリーノが軽く頷く。
「古今、悪が栄えた例はありません。必ずや成し遂げると信じています」
ズカルが直ぐ側でつぶやく。
「善が栄えた例もないがな」
僕らSPエミナの連合はそのまま中央都市を目指し、ビアストリーノ連合は戦士の町に戻る。この町を出たらそこでお別れとなる。
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