1 / 1
Moth
しおりを挟む
登場人物
・藤川 結(ふじかわ むすび)
・大平 潤(大平 ひろし)
・大平 咲良(おおひら さら)
・作者
1
ヴァーチャル・リアリティによる故人との再会。在りし日の姿を持ったままそこに存在するかのように再びこの世界で会えるというのは無常の喜びがあると思われる。しかし、それは本当に幸せなことなのだろうか。それは人為的に作られたもので本物と似た形をしているが本物ではない。
私が住んでいる県の中に「再生の光、幸せの窓」という協会がある。そこでは生前のデータから故人をVR世界で蘇らせるという技術を喧伝し世間で話題になっている。バックには新興宗教の未来綜合聖堂がいるという話である。この新興宗教団体の行動は宗教団体と言うよりも信者を使った強引なマルチ商法で世間一般に知られている。近年では名称変更手続きをして宗教色を薄めて慈善事業を装っての信者の獲得や悪質な経済活動をしている。川を越えると都心なのだが、こちら側にいるというのは川向うでは地価が跳ね上がるため節約をしているのだろう。
元々未来綜合聖堂でも似たようなことをしてきており、信者の様々な年代の個人データを収集し、そこから先祖の姿を創造して見せることで視覚的に誘導をしてきた。信者の現世での苦しみは先祖の過去の行いによるカルマであるとし、高額なお布施でもって先祖の業を浄化する。誰でも眼の前に自分に似た先祖と称されるキャラクターが黒いヘビや黒い靄のようなものに巻き付かれて苦悶の表情やうめき声を上げているのを見たら不安な気持ちになるだろう。中には鬼のような姿に変貌している先祖の姿もあるという。それがお布施の額によって黒蛇が白蛇に変わったり、黒い雲が後光に変わる演出がつく。頭と心が単純な人間はこれですっかり騙されて先祖も自分も救われた気になる。
亡くなった親や子どもに再会できるという一般向けのサービスもこの延長線上から生まれたものだ。開始されると信者の熱心な売り込みや口コミ効果もあり、不幸な親たちの心を掴むことに成功する。
交通事故で娘を亡くしたAさんはその事故が原因で夫婦仲が悪化し、夫とは三年も前に離婚した。今もまだ娘を忘れることが出来ずに鬱々とした日々を過ごしていたが、それを知った未来綜合聖堂の信者がAさんを誘惑して再生の光、幸せの窓へ誘導した。Aさんはビデオや写真、スマートフォンに残る娘の記憶をすべて協会に渡した。そうして、一年が経ちようやく娘との再会を果たしたのである。これまでの間、協会は金銭の要求をせずAさんは大した期待もせずにその日を待っていた。騙されたのかと思う日もあったようだが、金銭が発生していないためにどこにも相談もせず訴えることもなかった。未来綜合聖堂の信者が毎月経過の報告をしてきて「もうじきですよ」とAさんの期待を高めていった。
「Sちゃん!」
VRゴーグルと専用の感応服で身を包んだAさんの前に娘のSが立っていた。二人は花畑の中にたち世界は明るく幸せなものだった。眼の前にいる娘は本当に生きていたときのままの姿でAさんは感激して涙を流した。
「お母さん」
娘Sの声だった。Aさんは立っていることが出来ずにその馬に座り込んだ。すると娘のSがAさんの胸に飛び込んできた。その感触は間違いない人間の重みと暖かさがあった。息遣いすら聞こえてくる。
「会いたかったよ」
娘Sが肩に顔を押し付けてくる。
「Sちゃん。お母さん、守ってあげられなかった。ごめんね。ごめんね」
「ううん。お母さんは悪くないよ。自分を責めないで」
Aさんは娘を抱きしめた。このままずっと一緒にいたいと思ったことだろう。
「あ」
娘Sがするっと後ろへ引きずられた。Aさんの目は娘を追った。花畑の中に黒い渦が現れて娘が吸い込まれていくのが見えた。Aさんは前に伸ばされた娘の手を掴む。ものすごい力で娘Sが渦に吸い込まれていく。
「ダメです!」
声が聞こえた。体に衝撃を受けてAさんと娘の手が離れてしまう。スタッフがAさんを止めたのだ。Aさんが振り返っても誰もおらず、花畑にはAさんだけがいるだけだった。AさんはVRゴーグルを急いで外した。
「どうして止めたんですか! 娘はどこに行ったんですか!」
必死に抗議するとスタッフは首を横に振った。
「娘さんは地獄に連れて行かれてしまったんです。あのまま一緒に行ったら、Aさんも一緒に連れて行かれてしまいました」
「地獄? それでも良かった。娘と一緒にいられるなら!」
Aさんの手からVRゴーグルが滑り落ち、床の上に転がった。Aさんはその場で泣き崩れてしまった。
暫くの間部屋の中はAさんの悲しみで包まれたが、その悲しみに間が生まれた瞬間をスタッフは見逃さなかった。
「まだテスト段階なのですが、地獄に行ってみますか?」
2
音が消えた。世界はゆっくりと崩れていく。助手席にシートベルトで固定された体が車ごと宙に浮かんだ気がした。前の車に乗り上げるように進んで三台目の車にかすって左側に転がった。夫の潤は渋滞でも車間距離を広めに取る。そのせいでよく間に入られて結はイライラした。今日も車間距離を十分に取って停車していた。そこに後ろから強いなんてものではない衝撃を受けた。車は助手席側を地面にして歩道に乗り上げて滑り街路樹に引っかかって止まった。助手席のガラスが砕けて割れた。眼鏡をしていなかったら目に入ったかもしれない。フロントガラスはひび割れて真っ白になっていたがさすが日本製だなと思った。
そのまま世界が真っ白になった。その瞬間の出来事は消しゴムでノートに書いた落書きを消すようにかすかな痕跡を残して消えていった。
目を開いたのに少し明るくなっただけで何も見えなかった。顔を触ると布が巻いてある気がした。すぐにそれが包帯だと気がついた。それで乗っていた車が事故を起こしたんだと分かった。事故なんて今まで経験がなかった。潤がアクセルとブレーキでも間違えたのか。前の車はスポーツカータイプで「あんな車欲しかったんだよな」って潤が言って、咲良が「さらも乗りたい」って言って私が「じゃあ、お母さんが乗れないじゃない」って言うと「結はトランクかな」なんて言うから「トランクはあなたでしょ」って潤の肩を叩いて……。それから?
「咲良は? 咲良! 咲良!」
呼びかけに応える声はなかった。体を起こそうとすると電気が走り回るような痛みを受けた。叫び声が勝手に出る。なにか動物が棒で叩かれたみたいな変な声だなって自分で思った。すると何かが擦れる音が聞こえた。カーテン? 人の気配。
「大平さん。大平結さん、聞こえますかー? ここは病院ですよー」
「娘は? 咲良は?」
「大平さん、まずは深呼吸してくださいねー。聞こえますかー?」
どうしてすぐに答えてくれないんだろう。後部座席に乗っていた咲良は無事だったのだろうか。
「聞こえます。夫が前の車に突っ込んで、事故を起こしたんですか?」
「はい、深呼吸しましょうねー」
やたら語尾を伸ばすのが腹立たしかった。看護師だろうか。
「娘は無事なんですか?」
再度尋ねるも看護師は答えなかった。それで、なんとなく覚悟ができてしまった。
3
咲良は小学4年生になったばかりで、どこにでもいるちょっとムカつく生意気盛りだった。夫の潤の言う事は聞くのに私の言うことは半分以上無視した。この年からピアノ教室に通わせていたが、あまり上達はせずリズムのことでも良く口答えをした。
「タン・タタ・タン」
「ちがう。タン・タタン・タン」
「それじゃあ、ズレるわ」
「ズレてない」
最後はいつも「もういい」で逃げてしまう。
あの頃、娘との関係はあんまり良くなかった。咲良は夫の潤ばかりと楽しそうに話すし、私にはいつも口答えばかりしていた。可愛くない。そう思うことも正直なことを言えば何度もあった。
「藤川さん」
施設内をエレベーターで地下に降りてさっきより広い部屋に案内された。壁が黒い。ゴツゴツとした表面。床がなんだか柔らかく平衡感覚がなくなる。
「なんだか息苦しい」
協会のスタッフは結に説明を始める。
「ここはまだ開発中なので特別なんです。気分が悪くなったら教えて下さいね」
そして、ゴーグルを装着するように促される。ゴーグル越しに見える部屋の中は赤黒い洞窟の中のようだった。足元がぬかるんでいる。カビ臭い臭もする。空気が流れ重苦しい低い音が奥の方から聞こえてくる。
「このまま進めば良いんですか?」
返事はなかった。仕方がないので洞窟を奥へ進んでみることにした。徐々に温度が上がってきて泥の匂いがきつくなってきたような気がした。
眼の前に黒い靄のようなものが見えた。子どもくらいの大きさだった。
「咲良ちゃん?」
手を伸ばしかけた瞬間、後ろから娘の声がした。振り返ると咲良が笑って立っていた。
「咲良ちゃん、大丈夫?」
咲良がゆっくりしっかりうなずいた。
結は咲良の手を取ると来た道を戻り始める。
「帰ろう。お家に帰ろう」
「ダメ、お母さん」
咲良が抵抗した。結は更に強く咲良の手を引いた。
「あいつが来るの!」
咲良が指差した方、洞窟の奥を見ると何かが立っていた。ぼやけていて良く見えない。それはゆっくりと近づいてくる。それは毛むくじゃらで、人間のような形をしているが、人間ではなくて、羽がない、人の顔ではなくて、我のような顔をしていて、とてもでかい。
そいつは恐ろしい速度で結から咲良を奪い取ると咲良を抱え込んだまま洞窟の奥へと走り去っていった。
追いかけようとした結は「うっ」と見えない壁に突っ込んだ。手を伸ばすと壁があるのが分かるのだが、見える世界はまだ向こうに続いていた。
「どうして! どうしてよ!」
「藤川さん。時間です。これ以上は」
「娘が拐われたのよ!」
声の方を向いても誰もいない。
「すみません。これ以上動かすと経費が」
「お金なら払います! いくらでも払うから!」
結の肩を何かが触れた。驚いて振り返るも誰も見えない。
「今日は本当にこれくらいにしておいたほうが良いですよ」
「お金なら本当に払います」
結はVRゴーグルを外した。スタッフが側に立っていた。
4
持ち家は元夫に持って行かれた。娘の持ち物もほとんど潤に奪われた。アパートを借りるためにまとまったお金は出してくれたが、それ以上は頼らなかった。月6万円のワンルーム。家具のほとんど無い部屋に小さなこたつ机とセットで1万円くらいで買った布団。壁には咲良の水色のランドセルが下げてあった。テレビはない。必要なかったから。
はじめは誰だったっけ? 友達から紹介された霊能者だったか。咲良の霊と話をするために結構な金額を積んだ。お坊さんや神父さんにも会って咲良に会うためにお金を払った。潤はそんな私を遠ざけた。家を売ろうとする私に潤は病院を勧めた。私は潤を詰った。咲良が可愛くないのかと。あなたが殺したんだと何度も打った。入院もした。裁判もした。私たちの車に突っ込んできたトラック運転手も見た。飲酒運転をしていた。でも、罪は軽かった。後部座席から逃げることも出来ずに真っ黒に燃やされる娘は一体どんな罪を犯したというのか。この世界には救いなんて言うものはない。悪いことをする人は悪いことをして得をし続ける。良いことをして損をする人はどんなに善い行いをしてもずっと損をし続ける。
朝、起きて仕事の準備を始める。近くの大手スーパーの品出しをして、昼には清掃の開所に出勤する。それが終わると21時から明け6時まで倉庫で検品や仕分けなどの作業をする。帰宅したら3時間ほど仮眠して昼から清掃の仕事に入る。倉庫の仕事がない時はスーパーの仕事を入れ、なるべく間隔が開かないように働き、なにもない日は週で1日か2日あるだけだった。休みの日はほぼ丸一日寝て過ごす。化粧品も服もほとんど買わなくなった。仕事に使わないものは必要がなかった。生活用品にお金がかかるのが嫌だった。食費を削ることでなんとか月1回の再会の日に間に合うことが出来た。
5
咲良の手を引いて洞窟の中を駆けた。後ろから追いかけてくる蛾人間は執拗だった。物陰に隠れ二人で抱き合いながら蛾人間をやり過ごした。地獄は回数を重ねるたびに複雑な迷路になっていた。しかも、毎回形が違った。蛾人間が追いかけてきて咲良を殺す様になった。そして、咲良を殺した後に次の標的を私に向ける。私は洞窟から逃げるしかなかった。蛾人間は咲良を殺すよりも私の苦しんでいる姿を見るのが好きなのかもしれない。わざと私を逃がして次回もまた娘を殺して喜ぶのだ。
今日も蛾人間は咲良を狙っている。しつこかった。でも、この洞窟を一緒に出ることが出来れば咲良は成仏できるのだと思えば、やるしかなかった。今の私はこのために生きているのだから。
「お母さん」
この子をこんなに愛おしく思ったことがこれまであっただろうか。失くしたから分かることがある。どうして失う前に気が付かなかったのだろうか。
「あっちに出口があるよ!」
咲良が洞窟の先を指さして駆け出した。追いかけようとした瞬間、蛾人間が突進してきて咲良を大きな拳で押しつぶした。小さな体が小枝のように折れて動かなくなった。蛾人間はゆっくりとこっちに向くと手を叩いた。拍手なのか。怖さと怒りが同時に湧いてきて動けなかった。蛾人間はゆっくりと向かってくる。大きく手を広げて私を捕獲しようとする。
「お母さん逃げて……」
咲良が口を開くと蛾人間は反応して、咲良に飛びかかって拳を叩きつけ何度も何度も咲良の体を跳ねさせた。
私は逃げるしかなかった。洞窟から逃げ帰ると時間が来た。
「あの化け物、どうにかなりませんか? 娘が何度も殺されるのは辛くて」
スタッフに泣きついてもどうにもならなかった。分かっている。私の心が弱いから娘を救い出せないのだ。
「あれは、プログラムではどうにもならないんですよ。カルマなんです。なんとかご自身で乗り切るしか無いんです。洞窟の外まで逃げてくればあれは追ってこられませんから」
また一ヶ月仕事を続けなければならない。このまま続けて本当に娘を助け出すことが出来るのだろうか。それを考えるととても暗い気分になった。
6
「なにか武器はないんですか? 鉄砲とか」
「藤川さん、ありませんよ。ゲームじゃないんですから」
「あぁ、そうですよね」
そろそろ娘を助け出したかった。今月は風邪を引いて仕事を何日か休んでしまった。カードローンでなんとかしのいだが、来月はカードの支払分も増える。このまま行けばいつか破裂する。お金、お金、お金。お金がなければ咲良に会うことができなくなる。咲良を地獄から助け出して幸せにしてあげなくちゃいけない。それが母親として出来るあの子への償いなのだ。
そうだ。今日は覚悟が違う。自分が殺されても良い。蛾人間に立ち向かおう。
洞窟の中を奥へと向かう。左右の分かれ道。先を進めば三方向の分岐が現れる。右に行くと曲がりくねる道。狭くなったり広くなったり、また分かれ道。咲良、どこにいるの。長い道。見覚えのある道。でも、それは当てに出来ない。前回とは違う迷路なんだから。更に何度も道を曲がって進んでいく。
「お母さん」
咲良がいた。抱きしめる。遅くなってごめんね。
来た道を戻る。
いた。
長い通路の先で私たちが来るのを待っている。あんなに大きいのに洞窟の壁に引っかからないというのはどういうことなんだろうか。実はフクロウのように細い体をしているのだろうか。
蛾人間はこちらを向いて手を叩いた。今日は咲良を殺していないのに拍手をする。挑発だろうか。拍手をするならずっとしていればいいのに3回か4回叩くと一回動きを止める。
気持ち悪い。咲良を抱えて洞窟の奥に向かった。
わざわざ待ち構えている方へ行かなくたって回り道が出来るはずだ。壁が体に当たる。咲良を守りながら洞窟の中を駆けていく。
「お母さん、怖い」
「大丈夫。大丈夫だから」
そうは言ってみたが、怖がっているのは自分も同じだった。それでもこれ以上、咲良にがっかりされるのが嫌だった。覚悟して立ち向かわなければ、
三つに別れた道。見覚えがある。前回ではなく今回だ。三つの分岐を背にするように道を進んでいくと左右に分かれる道。右に進めば長い通路。その先に出口が見えた。
「やった」
後ろから音がする。蛾人間が来るのだ。
「咲良、行きなさい! ここはお母さんが守るから!」
出口にかけていく咲良。奥からは蛾人間が迫ってくる。大きく息を吸って両手足を思い切り広げてこれ以上先には行かせないと壁を掴む。
蛾人間は前にやってくると、またリズム良く手を叩いた。4度。タン・タタン・タン。その意味を一瞬考えてしまった。それが隙になって蛾人間は脇をするりと抜けて咲良の背中に飛びかかった。そして、拳を大きく振り上げて娘の頭を叩き潰した。
力が抜けた。
どうやっても娘を助け出せない絶望感に包まれた。座り込んで立つこともできなくなった。蛾人間は咲良を潰したことに満足してこちらにやってくる。今度は私の番だろう。もう無理だ。心が折れてしまった。これ以上仕事の量を増やすのは無理だった。体は悲鳴を上げていた。朝起きると手が拳を握ったまま固くなって開かない日もあった。両の拳を胸に当てて擦るようにマッサージをしてようやく開く。首から肩にかけて筋がこわばって痛かった。
「ごめんね」
蛾人間が両手を大きく広げて近づいてくる。
「お母さんを許して」
眼の前までやってきた蛾人間に頭を下げるような形になってしまった。蛾人間はその場に膝をついて両の手で私を抱え込んだ。絞め殺すのだろう。
タン・タタン・タン。
蛾人間の右手が私の右肩を優しく叩いた。リズム良く。そして、大きな顔を私の顔に押し付けてこすりつけた。怖かったが、この奇妙な出来事に頭が追いつかなかった。
7
熱いと思ったのは一瞬だった。あぁ、でもその前に車がすごい強く押されて、頭がクラっと来て空を飛んで横の窓ガラスが割れて星みたいだなって思った。そしたら、後ろのドアが小さくなってて体が動かないなって思って、お父さんもお母さんも返事がなくて、そしたら、急に眠くなって、寝ちゃって、起きたら熱いって。
車の外に出たら、人がいっぱいいて、お父さんもお母さんも先に帰っちゃってて、歩いて帰るの嫌だなって思った。家に帰ったらお父さんもお母さんもいなくて、あれ、鍵開けたっけ? って思ったんだけどなんか入れたから良いかって。ちょっと待った。大分かな。そしたら、お父さんとお母さんがタクシーで帰ってきて、お母さんがずっと泣いてるの。どうしたの? って聞いても二人とも無視するからまたケンカしてるんだと思った。
そしたら、二人で黒い服を着てどっかに行くからついて行ったの。あのね、それでね、あたし死んじゃったんだって初めて分かったんだ。
急に音が聞こえなくなったり、お腹が減らなくなったり朝なのか夜なのかわかんなくなったり、変だと思ったんだ。変だなって。そうだよね。お父さんもお母さんもずっとあたしを無視したことなんかないもんね。
お母さんはずっと泣いてる。泣いていない時はお父さんに何かを投げつけている時。お父さんが悪くないことなんて分かってるのに。お父さんは仕事に行って帰りが遅くなったり、うちにあんまり帰ってこなくなったりもしてた。
うちには色んな人が来るようになったよ。変な動きしたり、私の写真を見たり、それでその人達にお母さんはお金を渡すんだ。
もしかして、あたしと話をしたいの? 聞こえないって不便だよね。なにか書けば分かるかな。ここにいるって書けば安心するかな。でも、鉛筆一本も持てなかった。スマホでメッセージを送ろうかなって思ってもダメだった。反応してくれないんだ。鉛筆は机にくっついたみたいに全然動かないしね。
お金を上げてることをお父さんが知ってそれでまたケンカになって、お母さんはうちを出ていくことになった。どこに行くのか気になったからついて行ったんだ。おっきなマンションの小さな部屋にお母さんは引っ越したの。一人で。あたしのランドセルを壁にかけてる。はっきり言って前の家のほうが広かったし、私の部屋のほうが広いんだからそっちを使えばいいのに。
お母さんはスーパーで商品をお店の中に出す仕事とお掃除の仕事を始めた。すごく頑張っているから応援してるって伝えたかったけど、ダメだった。
8
お母さんはなんかゲームの会社みたいなところに入っていって、大きな厚い眼鏡をつけて変な服を着て遊んでる。
やっと元気になったんだなって思って安心した。そしたら、テレビにあたしが映ってたの。お母さんはあたしを見てたんだ。黒い煙があたしを捕まえたからそれを取ろうと手を伸ばしたら、あたしも一緒に吸い込まれちゃったの。
赤くて暗いトンネル? なんか自然に出来た穴、横穴か。横穴にいて少ししたら、お母さんが向こうから歩いてくるの。でも、違うあたしがお母さんの後ろに出てお母さんはそっちに行っちゃったの。
どうして分かってくれないの! って怒って、地面を蹴飛ばしたの。そしたら、大きな体の中にいて、これならしゃべれるのかなって思ったんだけど、やっぱり無理で、お母さんは偽物のあたしと行っちゃうから追いかけたの。
酷いでしょ。それはあたしの体なんだから返してもらわなきゃって思うでしょ。あたしはなんか毛だらけでお母さんよりも大きいの。変でしょ。
追いついてあたしをお母さんから引き剥がしたの。で、奥で体を返してもらってお母さんに会えば、お母さんも元気になってくるでしょ?
でも、上手く行かなかった。偽物が消えちゃうと真っ暗な部屋に戻されちゃったんだ。仕方なくお母さんの部屋に帰るんだけど、何が最悪って歩いて帰ること。お母さんは先に帰っちゃうし、線路の上をずっと歩いて、駅を見上げてここであってるんだっけって。何回も。疲れなかったから良いけど。
そしたら、お母さん部屋にいなくて夜まで待ったのに帰ってこなくて、お父さんのところかなって思ったら朝に帰ってきてお風呂にも入らずに布団の上に寝転がってそのまま寝ちゃうの。だらしがないとかあたしに言ってたくせに。
お母さんはたくさんのお仕事をしてた。一緒について行ったらずっと働いてて、寝る時間も殆どなかった。そこで稼いだお金をゲームの会社の人に渡してた。それで、偽物のあたしを見て泣いたり笑ったりしてた。
違うよそれはあたしじゃないよ。
頭にきたから毛むくじゃらになって、あたしはあたしを叩いたり潰したりめちゃくちゃにしたりした。お母さんは泣いて悲しんだけど、でも、これは偽物で、毛むくじゃらだけどあたしのほうが本物なんだって。どうしたら分かってくれるかなってずっと考えてたんだ。だから、手を叩こうって思ったんだ。いつかリズムの話したよね。
お・かあ・さん。
タン・タタン・タン。
分かってくれるかな。分かってくれたら嬉しいな。
9
蛾人間は優しかった。咲良を散々な目に合わせたのに。何度も殺したのに、私にだけは優しく接してくれる。タン・タタン・タン。
「違うわ。タン・タタ・タン。ズレてるのよ」
我人間を抱きしめて背中を叩く。タン・タタ・タン。蛾人間がこちらを見た。前ほど怖くなかった。
蛾人間と向き合う。その手を取る。
「咲良ちゃん? 咲良ちゃんなの?」
蛾人間は首を傾げた。そして、胸の前で小さく手を振った。どういう意味なのか訪ねようと思った時、
「これもういいの?」
出口の方から咲良の声がした。話し方がまるで違った。そして、声が少し遠い気がした。
「終わったんでしょ? え? あ、ヤバ。マイク切って」
終わった? マイク?
蛾人間が、また私を抱きしめた。それから後ろから五回肩を叩くとより私を強く抱きしめた。そして、その感触が急に掻き消えた。
「藤川さん。今日は終了です」
スタッフが声をかけてきた。
「すみません。ちょっとゴタゴタしまして。それで、次回なんですけど……」
不思議と焦燥感はなくなっていた。もう執着も消えてしまったようだった。
「もうこれで終わりでいいです」
「ダメですよ。まだ、娘さんを救い出してないでしょ!」
必死に引き留めようとするスタッフの様子がなにか滑稽だった。
「なんだかわかりませんけど、なんか満足してしまったんです。娘に会えただけで満足だって思わないといけないんですね」
「いやいやいや、娘さんは地獄で苦しんでいるんです。助けないと」
「そうですね。私もしっかりしないと。あの子のお葬式をしたのにお墓に行ったこともないんですよ。ずっと認めたくなかったんです。あの子はもういないのに」
「諦めちゃダメです。諦めたらそこで成仏が出来なくなってしまいますよ」
「あの子に心配させないようにやっていきます。ありがとうございました。資料はうちの方に全部お繰り返してください」
その後もスタッフはなにか言っていたが取り合わなかった。夫に連絡をして墓参りに行こうと思う。潤も辛かったはずなのにずっと酷い責め方をしてしまった。そのこともしっかり謝ろうと思う。
10
Aさんはその後、元の旦那さんと復縁し、今はスーパーの品出しをする仕事をしているという。ランドセルも自宅に戻ったそうである。Aさんは少しだけ笑って言った。心に余裕を感じる時は側に娘さんがいるような気がするという。
なお、「再生の光、幸せの窓」は強引な勧誘と霊感商法がマスコミに取り上げられ現在集団訴訟を提起されている。それが終わってもまた名前を変えて悪事を働くのだろうけれど。
霊感商法がいつまでもなくならないのは人間というものが見たいものを見る性質があるし、勘違いも多い生き物だからだと思う。本当のことというのは自分にとって辛く苦しく受け入れがたいものだ。だから無意識のうちでも本当のことを否定する。そして、自らに心地の良いものを真実だと思い込む。それで心の平穏を手に入れているのかもしれないが、それでは一生解決はしない。人生は平凡でつまらない。特別な主観などほとんど起こらない。それであるならば自分の身近な人間を大事にするのが良いのである。
もしも本当に霊というものが存在するのなら、相手を思いやる心があれば互いに声が聞こえなくてもふとした瞬間につながることもあるのだろう。
すべての人が騙されることがありませんように。そして、すべての偽物が罰を受けますように。
・藤川 結(ふじかわ むすび)
・大平 潤(大平 ひろし)
・大平 咲良(おおひら さら)
・作者
1
ヴァーチャル・リアリティによる故人との再会。在りし日の姿を持ったままそこに存在するかのように再びこの世界で会えるというのは無常の喜びがあると思われる。しかし、それは本当に幸せなことなのだろうか。それは人為的に作られたもので本物と似た形をしているが本物ではない。
私が住んでいる県の中に「再生の光、幸せの窓」という協会がある。そこでは生前のデータから故人をVR世界で蘇らせるという技術を喧伝し世間で話題になっている。バックには新興宗教の未来綜合聖堂がいるという話である。この新興宗教団体の行動は宗教団体と言うよりも信者を使った強引なマルチ商法で世間一般に知られている。近年では名称変更手続きをして宗教色を薄めて慈善事業を装っての信者の獲得や悪質な経済活動をしている。川を越えると都心なのだが、こちら側にいるというのは川向うでは地価が跳ね上がるため節約をしているのだろう。
元々未来綜合聖堂でも似たようなことをしてきており、信者の様々な年代の個人データを収集し、そこから先祖の姿を創造して見せることで視覚的に誘導をしてきた。信者の現世での苦しみは先祖の過去の行いによるカルマであるとし、高額なお布施でもって先祖の業を浄化する。誰でも眼の前に自分に似た先祖と称されるキャラクターが黒いヘビや黒い靄のようなものに巻き付かれて苦悶の表情やうめき声を上げているのを見たら不安な気持ちになるだろう。中には鬼のような姿に変貌している先祖の姿もあるという。それがお布施の額によって黒蛇が白蛇に変わったり、黒い雲が後光に変わる演出がつく。頭と心が単純な人間はこれですっかり騙されて先祖も自分も救われた気になる。
亡くなった親や子どもに再会できるという一般向けのサービスもこの延長線上から生まれたものだ。開始されると信者の熱心な売り込みや口コミ効果もあり、不幸な親たちの心を掴むことに成功する。
交通事故で娘を亡くしたAさんはその事故が原因で夫婦仲が悪化し、夫とは三年も前に離婚した。今もまだ娘を忘れることが出来ずに鬱々とした日々を過ごしていたが、それを知った未来綜合聖堂の信者がAさんを誘惑して再生の光、幸せの窓へ誘導した。Aさんはビデオや写真、スマートフォンに残る娘の記憶をすべて協会に渡した。そうして、一年が経ちようやく娘との再会を果たしたのである。これまでの間、協会は金銭の要求をせずAさんは大した期待もせずにその日を待っていた。騙されたのかと思う日もあったようだが、金銭が発生していないためにどこにも相談もせず訴えることもなかった。未来綜合聖堂の信者が毎月経過の報告をしてきて「もうじきですよ」とAさんの期待を高めていった。
「Sちゃん!」
VRゴーグルと専用の感応服で身を包んだAさんの前に娘のSが立っていた。二人は花畑の中にたち世界は明るく幸せなものだった。眼の前にいる娘は本当に生きていたときのままの姿でAさんは感激して涙を流した。
「お母さん」
娘Sの声だった。Aさんは立っていることが出来ずにその馬に座り込んだ。すると娘のSがAさんの胸に飛び込んできた。その感触は間違いない人間の重みと暖かさがあった。息遣いすら聞こえてくる。
「会いたかったよ」
娘Sが肩に顔を押し付けてくる。
「Sちゃん。お母さん、守ってあげられなかった。ごめんね。ごめんね」
「ううん。お母さんは悪くないよ。自分を責めないで」
Aさんは娘を抱きしめた。このままずっと一緒にいたいと思ったことだろう。
「あ」
娘Sがするっと後ろへ引きずられた。Aさんの目は娘を追った。花畑の中に黒い渦が現れて娘が吸い込まれていくのが見えた。Aさんは前に伸ばされた娘の手を掴む。ものすごい力で娘Sが渦に吸い込まれていく。
「ダメです!」
声が聞こえた。体に衝撃を受けてAさんと娘の手が離れてしまう。スタッフがAさんを止めたのだ。Aさんが振り返っても誰もおらず、花畑にはAさんだけがいるだけだった。AさんはVRゴーグルを急いで外した。
「どうして止めたんですか! 娘はどこに行ったんですか!」
必死に抗議するとスタッフは首を横に振った。
「娘さんは地獄に連れて行かれてしまったんです。あのまま一緒に行ったら、Aさんも一緒に連れて行かれてしまいました」
「地獄? それでも良かった。娘と一緒にいられるなら!」
Aさんの手からVRゴーグルが滑り落ち、床の上に転がった。Aさんはその場で泣き崩れてしまった。
暫くの間部屋の中はAさんの悲しみで包まれたが、その悲しみに間が生まれた瞬間をスタッフは見逃さなかった。
「まだテスト段階なのですが、地獄に行ってみますか?」
2
音が消えた。世界はゆっくりと崩れていく。助手席にシートベルトで固定された体が車ごと宙に浮かんだ気がした。前の車に乗り上げるように進んで三台目の車にかすって左側に転がった。夫の潤は渋滞でも車間距離を広めに取る。そのせいでよく間に入られて結はイライラした。今日も車間距離を十分に取って停車していた。そこに後ろから強いなんてものではない衝撃を受けた。車は助手席側を地面にして歩道に乗り上げて滑り街路樹に引っかかって止まった。助手席のガラスが砕けて割れた。眼鏡をしていなかったら目に入ったかもしれない。フロントガラスはひび割れて真っ白になっていたがさすが日本製だなと思った。
そのまま世界が真っ白になった。その瞬間の出来事は消しゴムでノートに書いた落書きを消すようにかすかな痕跡を残して消えていった。
目を開いたのに少し明るくなっただけで何も見えなかった。顔を触ると布が巻いてある気がした。すぐにそれが包帯だと気がついた。それで乗っていた車が事故を起こしたんだと分かった。事故なんて今まで経験がなかった。潤がアクセルとブレーキでも間違えたのか。前の車はスポーツカータイプで「あんな車欲しかったんだよな」って潤が言って、咲良が「さらも乗りたい」って言って私が「じゃあ、お母さんが乗れないじゃない」って言うと「結はトランクかな」なんて言うから「トランクはあなたでしょ」って潤の肩を叩いて……。それから?
「咲良は? 咲良! 咲良!」
呼びかけに応える声はなかった。体を起こそうとすると電気が走り回るような痛みを受けた。叫び声が勝手に出る。なにか動物が棒で叩かれたみたいな変な声だなって自分で思った。すると何かが擦れる音が聞こえた。カーテン? 人の気配。
「大平さん。大平結さん、聞こえますかー? ここは病院ですよー」
「娘は? 咲良は?」
「大平さん、まずは深呼吸してくださいねー。聞こえますかー?」
どうしてすぐに答えてくれないんだろう。後部座席に乗っていた咲良は無事だったのだろうか。
「聞こえます。夫が前の車に突っ込んで、事故を起こしたんですか?」
「はい、深呼吸しましょうねー」
やたら語尾を伸ばすのが腹立たしかった。看護師だろうか。
「娘は無事なんですか?」
再度尋ねるも看護師は答えなかった。それで、なんとなく覚悟ができてしまった。
3
咲良は小学4年生になったばかりで、どこにでもいるちょっとムカつく生意気盛りだった。夫の潤の言う事は聞くのに私の言うことは半分以上無視した。この年からピアノ教室に通わせていたが、あまり上達はせずリズムのことでも良く口答えをした。
「タン・タタ・タン」
「ちがう。タン・タタン・タン」
「それじゃあ、ズレるわ」
「ズレてない」
最後はいつも「もういい」で逃げてしまう。
あの頃、娘との関係はあんまり良くなかった。咲良は夫の潤ばかりと楽しそうに話すし、私にはいつも口答えばかりしていた。可愛くない。そう思うことも正直なことを言えば何度もあった。
「藤川さん」
施設内をエレベーターで地下に降りてさっきより広い部屋に案内された。壁が黒い。ゴツゴツとした表面。床がなんだか柔らかく平衡感覚がなくなる。
「なんだか息苦しい」
協会のスタッフは結に説明を始める。
「ここはまだ開発中なので特別なんです。気分が悪くなったら教えて下さいね」
そして、ゴーグルを装着するように促される。ゴーグル越しに見える部屋の中は赤黒い洞窟の中のようだった。足元がぬかるんでいる。カビ臭い臭もする。空気が流れ重苦しい低い音が奥の方から聞こえてくる。
「このまま進めば良いんですか?」
返事はなかった。仕方がないので洞窟を奥へ進んでみることにした。徐々に温度が上がってきて泥の匂いがきつくなってきたような気がした。
眼の前に黒い靄のようなものが見えた。子どもくらいの大きさだった。
「咲良ちゃん?」
手を伸ばしかけた瞬間、後ろから娘の声がした。振り返ると咲良が笑って立っていた。
「咲良ちゃん、大丈夫?」
咲良がゆっくりしっかりうなずいた。
結は咲良の手を取ると来た道を戻り始める。
「帰ろう。お家に帰ろう」
「ダメ、お母さん」
咲良が抵抗した。結は更に強く咲良の手を引いた。
「あいつが来るの!」
咲良が指差した方、洞窟の奥を見ると何かが立っていた。ぼやけていて良く見えない。それはゆっくりと近づいてくる。それは毛むくじゃらで、人間のような形をしているが、人間ではなくて、羽がない、人の顔ではなくて、我のような顔をしていて、とてもでかい。
そいつは恐ろしい速度で結から咲良を奪い取ると咲良を抱え込んだまま洞窟の奥へと走り去っていった。
追いかけようとした結は「うっ」と見えない壁に突っ込んだ。手を伸ばすと壁があるのが分かるのだが、見える世界はまだ向こうに続いていた。
「どうして! どうしてよ!」
「藤川さん。時間です。これ以上は」
「娘が拐われたのよ!」
声の方を向いても誰もいない。
「すみません。これ以上動かすと経費が」
「お金なら払います! いくらでも払うから!」
結の肩を何かが触れた。驚いて振り返るも誰も見えない。
「今日は本当にこれくらいにしておいたほうが良いですよ」
「お金なら本当に払います」
結はVRゴーグルを外した。スタッフが側に立っていた。
4
持ち家は元夫に持って行かれた。娘の持ち物もほとんど潤に奪われた。アパートを借りるためにまとまったお金は出してくれたが、それ以上は頼らなかった。月6万円のワンルーム。家具のほとんど無い部屋に小さなこたつ机とセットで1万円くらいで買った布団。壁には咲良の水色のランドセルが下げてあった。テレビはない。必要なかったから。
はじめは誰だったっけ? 友達から紹介された霊能者だったか。咲良の霊と話をするために結構な金額を積んだ。お坊さんや神父さんにも会って咲良に会うためにお金を払った。潤はそんな私を遠ざけた。家を売ろうとする私に潤は病院を勧めた。私は潤を詰った。咲良が可愛くないのかと。あなたが殺したんだと何度も打った。入院もした。裁判もした。私たちの車に突っ込んできたトラック運転手も見た。飲酒運転をしていた。でも、罪は軽かった。後部座席から逃げることも出来ずに真っ黒に燃やされる娘は一体どんな罪を犯したというのか。この世界には救いなんて言うものはない。悪いことをする人は悪いことをして得をし続ける。良いことをして損をする人はどんなに善い行いをしてもずっと損をし続ける。
朝、起きて仕事の準備を始める。近くの大手スーパーの品出しをして、昼には清掃の開所に出勤する。それが終わると21時から明け6時まで倉庫で検品や仕分けなどの作業をする。帰宅したら3時間ほど仮眠して昼から清掃の仕事に入る。倉庫の仕事がない時はスーパーの仕事を入れ、なるべく間隔が開かないように働き、なにもない日は週で1日か2日あるだけだった。休みの日はほぼ丸一日寝て過ごす。化粧品も服もほとんど買わなくなった。仕事に使わないものは必要がなかった。生活用品にお金がかかるのが嫌だった。食費を削ることでなんとか月1回の再会の日に間に合うことが出来た。
5
咲良の手を引いて洞窟の中を駆けた。後ろから追いかけてくる蛾人間は執拗だった。物陰に隠れ二人で抱き合いながら蛾人間をやり過ごした。地獄は回数を重ねるたびに複雑な迷路になっていた。しかも、毎回形が違った。蛾人間が追いかけてきて咲良を殺す様になった。そして、咲良を殺した後に次の標的を私に向ける。私は洞窟から逃げるしかなかった。蛾人間は咲良を殺すよりも私の苦しんでいる姿を見るのが好きなのかもしれない。わざと私を逃がして次回もまた娘を殺して喜ぶのだ。
今日も蛾人間は咲良を狙っている。しつこかった。でも、この洞窟を一緒に出ることが出来れば咲良は成仏できるのだと思えば、やるしかなかった。今の私はこのために生きているのだから。
「お母さん」
この子をこんなに愛おしく思ったことがこれまであっただろうか。失くしたから分かることがある。どうして失う前に気が付かなかったのだろうか。
「あっちに出口があるよ!」
咲良が洞窟の先を指さして駆け出した。追いかけようとした瞬間、蛾人間が突進してきて咲良を大きな拳で押しつぶした。小さな体が小枝のように折れて動かなくなった。蛾人間はゆっくりとこっちに向くと手を叩いた。拍手なのか。怖さと怒りが同時に湧いてきて動けなかった。蛾人間はゆっくりと向かってくる。大きく手を広げて私を捕獲しようとする。
「お母さん逃げて……」
咲良が口を開くと蛾人間は反応して、咲良に飛びかかって拳を叩きつけ何度も何度も咲良の体を跳ねさせた。
私は逃げるしかなかった。洞窟から逃げ帰ると時間が来た。
「あの化け物、どうにかなりませんか? 娘が何度も殺されるのは辛くて」
スタッフに泣きついてもどうにもならなかった。分かっている。私の心が弱いから娘を救い出せないのだ。
「あれは、プログラムではどうにもならないんですよ。カルマなんです。なんとかご自身で乗り切るしか無いんです。洞窟の外まで逃げてくればあれは追ってこられませんから」
また一ヶ月仕事を続けなければならない。このまま続けて本当に娘を助け出すことが出来るのだろうか。それを考えるととても暗い気分になった。
6
「なにか武器はないんですか? 鉄砲とか」
「藤川さん、ありませんよ。ゲームじゃないんですから」
「あぁ、そうですよね」
そろそろ娘を助け出したかった。今月は風邪を引いて仕事を何日か休んでしまった。カードローンでなんとかしのいだが、来月はカードの支払分も増える。このまま行けばいつか破裂する。お金、お金、お金。お金がなければ咲良に会うことができなくなる。咲良を地獄から助け出して幸せにしてあげなくちゃいけない。それが母親として出来るあの子への償いなのだ。
そうだ。今日は覚悟が違う。自分が殺されても良い。蛾人間に立ち向かおう。
洞窟の中を奥へと向かう。左右の分かれ道。先を進めば三方向の分岐が現れる。右に行くと曲がりくねる道。狭くなったり広くなったり、また分かれ道。咲良、どこにいるの。長い道。見覚えのある道。でも、それは当てに出来ない。前回とは違う迷路なんだから。更に何度も道を曲がって進んでいく。
「お母さん」
咲良がいた。抱きしめる。遅くなってごめんね。
来た道を戻る。
いた。
長い通路の先で私たちが来るのを待っている。あんなに大きいのに洞窟の壁に引っかからないというのはどういうことなんだろうか。実はフクロウのように細い体をしているのだろうか。
蛾人間はこちらを向いて手を叩いた。今日は咲良を殺していないのに拍手をする。挑発だろうか。拍手をするならずっとしていればいいのに3回か4回叩くと一回動きを止める。
気持ち悪い。咲良を抱えて洞窟の奥に向かった。
わざわざ待ち構えている方へ行かなくたって回り道が出来るはずだ。壁が体に当たる。咲良を守りながら洞窟の中を駆けていく。
「お母さん、怖い」
「大丈夫。大丈夫だから」
そうは言ってみたが、怖がっているのは自分も同じだった。それでもこれ以上、咲良にがっかりされるのが嫌だった。覚悟して立ち向かわなければ、
三つに別れた道。見覚えがある。前回ではなく今回だ。三つの分岐を背にするように道を進んでいくと左右に分かれる道。右に進めば長い通路。その先に出口が見えた。
「やった」
後ろから音がする。蛾人間が来るのだ。
「咲良、行きなさい! ここはお母さんが守るから!」
出口にかけていく咲良。奥からは蛾人間が迫ってくる。大きく息を吸って両手足を思い切り広げてこれ以上先には行かせないと壁を掴む。
蛾人間は前にやってくると、またリズム良く手を叩いた。4度。タン・タタン・タン。その意味を一瞬考えてしまった。それが隙になって蛾人間は脇をするりと抜けて咲良の背中に飛びかかった。そして、拳を大きく振り上げて娘の頭を叩き潰した。
力が抜けた。
どうやっても娘を助け出せない絶望感に包まれた。座り込んで立つこともできなくなった。蛾人間は咲良を潰したことに満足してこちらにやってくる。今度は私の番だろう。もう無理だ。心が折れてしまった。これ以上仕事の量を増やすのは無理だった。体は悲鳴を上げていた。朝起きると手が拳を握ったまま固くなって開かない日もあった。両の拳を胸に当てて擦るようにマッサージをしてようやく開く。首から肩にかけて筋がこわばって痛かった。
「ごめんね」
蛾人間が両手を大きく広げて近づいてくる。
「お母さんを許して」
眼の前までやってきた蛾人間に頭を下げるような形になってしまった。蛾人間はその場に膝をついて両の手で私を抱え込んだ。絞め殺すのだろう。
タン・タタン・タン。
蛾人間の右手が私の右肩を優しく叩いた。リズム良く。そして、大きな顔を私の顔に押し付けてこすりつけた。怖かったが、この奇妙な出来事に頭が追いつかなかった。
7
熱いと思ったのは一瞬だった。あぁ、でもその前に車がすごい強く押されて、頭がクラっと来て空を飛んで横の窓ガラスが割れて星みたいだなって思った。そしたら、後ろのドアが小さくなってて体が動かないなって思って、お父さんもお母さんも返事がなくて、そしたら、急に眠くなって、寝ちゃって、起きたら熱いって。
車の外に出たら、人がいっぱいいて、お父さんもお母さんも先に帰っちゃってて、歩いて帰るの嫌だなって思った。家に帰ったらお父さんもお母さんもいなくて、あれ、鍵開けたっけ? って思ったんだけどなんか入れたから良いかって。ちょっと待った。大分かな。そしたら、お父さんとお母さんがタクシーで帰ってきて、お母さんがずっと泣いてるの。どうしたの? って聞いても二人とも無視するからまたケンカしてるんだと思った。
そしたら、二人で黒い服を着てどっかに行くからついて行ったの。あのね、それでね、あたし死んじゃったんだって初めて分かったんだ。
急に音が聞こえなくなったり、お腹が減らなくなったり朝なのか夜なのかわかんなくなったり、変だと思ったんだ。変だなって。そうだよね。お父さんもお母さんもずっとあたしを無視したことなんかないもんね。
お母さんはずっと泣いてる。泣いていない時はお父さんに何かを投げつけている時。お父さんが悪くないことなんて分かってるのに。お父さんは仕事に行って帰りが遅くなったり、うちにあんまり帰ってこなくなったりもしてた。
うちには色んな人が来るようになったよ。変な動きしたり、私の写真を見たり、それでその人達にお母さんはお金を渡すんだ。
もしかして、あたしと話をしたいの? 聞こえないって不便だよね。なにか書けば分かるかな。ここにいるって書けば安心するかな。でも、鉛筆一本も持てなかった。スマホでメッセージを送ろうかなって思ってもダメだった。反応してくれないんだ。鉛筆は机にくっついたみたいに全然動かないしね。
お金を上げてることをお父さんが知ってそれでまたケンカになって、お母さんはうちを出ていくことになった。どこに行くのか気になったからついて行ったんだ。おっきなマンションの小さな部屋にお母さんは引っ越したの。一人で。あたしのランドセルを壁にかけてる。はっきり言って前の家のほうが広かったし、私の部屋のほうが広いんだからそっちを使えばいいのに。
お母さんはスーパーで商品をお店の中に出す仕事とお掃除の仕事を始めた。すごく頑張っているから応援してるって伝えたかったけど、ダメだった。
8
お母さんはなんかゲームの会社みたいなところに入っていって、大きな厚い眼鏡をつけて変な服を着て遊んでる。
やっと元気になったんだなって思って安心した。そしたら、テレビにあたしが映ってたの。お母さんはあたしを見てたんだ。黒い煙があたしを捕まえたからそれを取ろうと手を伸ばしたら、あたしも一緒に吸い込まれちゃったの。
赤くて暗いトンネル? なんか自然に出来た穴、横穴か。横穴にいて少ししたら、お母さんが向こうから歩いてくるの。でも、違うあたしがお母さんの後ろに出てお母さんはそっちに行っちゃったの。
どうして分かってくれないの! って怒って、地面を蹴飛ばしたの。そしたら、大きな体の中にいて、これならしゃべれるのかなって思ったんだけど、やっぱり無理で、お母さんは偽物のあたしと行っちゃうから追いかけたの。
酷いでしょ。それはあたしの体なんだから返してもらわなきゃって思うでしょ。あたしはなんか毛だらけでお母さんよりも大きいの。変でしょ。
追いついてあたしをお母さんから引き剥がしたの。で、奥で体を返してもらってお母さんに会えば、お母さんも元気になってくるでしょ?
でも、上手く行かなかった。偽物が消えちゃうと真っ暗な部屋に戻されちゃったんだ。仕方なくお母さんの部屋に帰るんだけど、何が最悪って歩いて帰ること。お母さんは先に帰っちゃうし、線路の上をずっと歩いて、駅を見上げてここであってるんだっけって。何回も。疲れなかったから良いけど。
そしたら、お母さん部屋にいなくて夜まで待ったのに帰ってこなくて、お父さんのところかなって思ったら朝に帰ってきてお風呂にも入らずに布団の上に寝転がってそのまま寝ちゃうの。だらしがないとかあたしに言ってたくせに。
お母さんはたくさんのお仕事をしてた。一緒について行ったらずっと働いてて、寝る時間も殆どなかった。そこで稼いだお金をゲームの会社の人に渡してた。それで、偽物のあたしを見て泣いたり笑ったりしてた。
違うよそれはあたしじゃないよ。
頭にきたから毛むくじゃらになって、あたしはあたしを叩いたり潰したりめちゃくちゃにしたりした。お母さんは泣いて悲しんだけど、でも、これは偽物で、毛むくじゃらだけどあたしのほうが本物なんだって。どうしたら分かってくれるかなってずっと考えてたんだ。だから、手を叩こうって思ったんだ。いつかリズムの話したよね。
お・かあ・さん。
タン・タタン・タン。
分かってくれるかな。分かってくれたら嬉しいな。
9
蛾人間は優しかった。咲良を散々な目に合わせたのに。何度も殺したのに、私にだけは優しく接してくれる。タン・タタン・タン。
「違うわ。タン・タタ・タン。ズレてるのよ」
我人間を抱きしめて背中を叩く。タン・タタ・タン。蛾人間がこちらを見た。前ほど怖くなかった。
蛾人間と向き合う。その手を取る。
「咲良ちゃん? 咲良ちゃんなの?」
蛾人間は首を傾げた。そして、胸の前で小さく手を振った。どういう意味なのか訪ねようと思った時、
「これもういいの?」
出口の方から咲良の声がした。話し方がまるで違った。そして、声が少し遠い気がした。
「終わったんでしょ? え? あ、ヤバ。マイク切って」
終わった? マイク?
蛾人間が、また私を抱きしめた。それから後ろから五回肩を叩くとより私を強く抱きしめた。そして、その感触が急に掻き消えた。
「藤川さん。今日は終了です」
スタッフが声をかけてきた。
「すみません。ちょっとゴタゴタしまして。それで、次回なんですけど……」
不思議と焦燥感はなくなっていた。もう執着も消えてしまったようだった。
「もうこれで終わりでいいです」
「ダメですよ。まだ、娘さんを救い出してないでしょ!」
必死に引き留めようとするスタッフの様子がなにか滑稽だった。
「なんだかわかりませんけど、なんか満足してしまったんです。娘に会えただけで満足だって思わないといけないんですね」
「いやいやいや、娘さんは地獄で苦しんでいるんです。助けないと」
「そうですね。私もしっかりしないと。あの子のお葬式をしたのにお墓に行ったこともないんですよ。ずっと認めたくなかったんです。あの子はもういないのに」
「諦めちゃダメです。諦めたらそこで成仏が出来なくなってしまいますよ」
「あの子に心配させないようにやっていきます。ありがとうございました。資料はうちの方に全部お繰り返してください」
その後もスタッフはなにか言っていたが取り合わなかった。夫に連絡をして墓参りに行こうと思う。潤も辛かったはずなのにずっと酷い責め方をしてしまった。そのこともしっかり謝ろうと思う。
10
Aさんはその後、元の旦那さんと復縁し、今はスーパーの品出しをする仕事をしているという。ランドセルも自宅に戻ったそうである。Aさんは少しだけ笑って言った。心に余裕を感じる時は側に娘さんがいるような気がするという。
なお、「再生の光、幸せの窓」は強引な勧誘と霊感商法がマスコミに取り上げられ現在集団訴訟を提起されている。それが終わってもまた名前を変えて悪事を働くのだろうけれど。
霊感商法がいつまでもなくならないのは人間というものが見たいものを見る性質があるし、勘違いも多い生き物だからだと思う。本当のことというのは自分にとって辛く苦しく受け入れがたいものだ。だから無意識のうちでも本当のことを否定する。そして、自らに心地の良いものを真実だと思い込む。それで心の平穏を手に入れているのかもしれないが、それでは一生解決はしない。人生は平凡でつまらない。特別な主観などほとんど起こらない。それであるならば自分の身近な人間を大事にするのが良いのである。
もしも本当に霊というものが存在するのなら、相手を思いやる心があれば互いに声が聞こえなくてもふとした瞬間につながることもあるのだろう。
すべての人が騙されることがありませんように。そして、すべての偽物が罰を受けますように。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる