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元カノの襲来
元カノの襲来⑩
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ここを離れて、少し遠くに引っ越すから、退会の手続きにきたって言ってた。
たぶん命の危険があったんじゃないかな。さっきも支援団体のひとに付き添われてたしね」
「そう……なんだ」
「やられてる時はなかなか正気になれないものでさ。
私が悪いんだ、私が行動を改めればきっと相手も変わってくれるって思いこんじゃうんだよ。
たぶん知世さんもそうだったと思う。傷、見せてくれたけどあれはかなりひどい。きっかけがなければ最悪のこともあったかもしれない」
「そう……なんだ。玲奈は? いまは大丈夫なの?」
「うん、それは学生の頃の話だから。そのあと旦那と知り合って、大切にされるってこういうことなんだなってはじめて知ったの。旦那には感謝してる」にこにこ淡々と語る玲奈。
ここまでくるのにどれだけ悲しい思いをしたのだろう。
大好きな人に痛めつけられて、どれだけ辛かったのだろう。
それを乗り越えていくことが、簡単だったとはとても思えない。
明るく、元気でお調子者。
そんな玲奈にも悲しい過去があったんだ。そんなそぶり、一度も見せたことはない。
その強さに改めて尊敬の念を抱く。
未央は悲しみを抱えているのは、自分だけのような気がしていたのが、すごく恥ずかしくなった。
みんな何か抱えながら、必死に生きる喜びを見出そうともがいている。
自分はなんて傲慢で浅はかだったんだろう。玲奈の笑顔は美しい。眩しく光って見えないくらいだった。
「さ、湿っぽい話はこれくらいにして。未央さん、最近肌ツヤが良くなってませんか? さては毎晩年下くんに……」
玲奈はにやにやしながら、じりじりと近づいてくる。
「なっ……なっ、なによそれっ! 玲奈には関係ないでしょ?」
「あるわよ。どうなの? 夜の方は? 若いエキスを吸い取ってるの?」
「やめてーっ!!」
休憩室にゲラゲラと笑い声が響いた。亮介と帰りの時間が同じだったので、未央はスタジオのある駅ビルの入り口で待ち合わせた。
「亮介、おまたせ!」
後ろからぎゅっと抱きつく。
「おつかれさま! お腹すいた。ごはんきょう何にする?」
未央は亮介の背中に顔をぐりぐりっとさせた。きょうのことが思い出されて、このしあわせをいますぐ噛み締めたかった。
「ちょっと、なに? どうしたの? 甘えてる?」
「亮介、だいすき」
未央はにかっと笑って亮介の顔を見る。ありがとう、だいすき、愛してる! と顔が言っているように亮介には見えただろう。
「僕も」
亮介はくるっと向きを変え、正面から未央をぎゅっと抱きしめた。世界中のしあわせを集めたみたいに、穏やかでやさしい気持ちだった。
商店街で晩御飯の買い出しをしながら亮介の誕生日の話になった。
「本当に家で、私のご飯でいいの?」
「未央のご飯がたべたい。その日は仕事だから、家でのんびりの方がうれしいし」
「わかった。何たべたい?」
「未央」
いや、そうじゃなくてね、おぼっちゃま。来週の誕生日、はりきって用意しなくちゃ。
たぶん命の危険があったんじゃないかな。さっきも支援団体のひとに付き添われてたしね」
「そう……なんだ」
「やられてる時はなかなか正気になれないものでさ。
私が悪いんだ、私が行動を改めればきっと相手も変わってくれるって思いこんじゃうんだよ。
たぶん知世さんもそうだったと思う。傷、見せてくれたけどあれはかなりひどい。きっかけがなければ最悪のこともあったかもしれない」
「そう……なんだ。玲奈は? いまは大丈夫なの?」
「うん、それは学生の頃の話だから。そのあと旦那と知り合って、大切にされるってこういうことなんだなってはじめて知ったの。旦那には感謝してる」にこにこ淡々と語る玲奈。
ここまでくるのにどれだけ悲しい思いをしたのだろう。
大好きな人に痛めつけられて、どれだけ辛かったのだろう。
それを乗り越えていくことが、簡単だったとはとても思えない。
明るく、元気でお調子者。
そんな玲奈にも悲しい過去があったんだ。そんなそぶり、一度も見せたことはない。
その強さに改めて尊敬の念を抱く。
未央は悲しみを抱えているのは、自分だけのような気がしていたのが、すごく恥ずかしくなった。
みんな何か抱えながら、必死に生きる喜びを見出そうともがいている。
自分はなんて傲慢で浅はかだったんだろう。玲奈の笑顔は美しい。眩しく光って見えないくらいだった。
「さ、湿っぽい話はこれくらいにして。未央さん、最近肌ツヤが良くなってませんか? さては毎晩年下くんに……」
玲奈はにやにやしながら、じりじりと近づいてくる。
「なっ……なっ、なによそれっ! 玲奈には関係ないでしょ?」
「あるわよ。どうなの? 夜の方は? 若いエキスを吸い取ってるの?」
「やめてーっ!!」
休憩室にゲラゲラと笑い声が響いた。亮介と帰りの時間が同じだったので、未央はスタジオのある駅ビルの入り口で待ち合わせた。
「亮介、おまたせ!」
後ろからぎゅっと抱きつく。
「おつかれさま! お腹すいた。ごはんきょう何にする?」
未央は亮介の背中に顔をぐりぐりっとさせた。きょうのことが思い出されて、このしあわせをいますぐ噛み締めたかった。
「ちょっと、なに? どうしたの? 甘えてる?」
「亮介、だいすき」
未央はにかっと笑って亮介の顔を見る。ありがとう、だいすき、愛してる! と顔が言っているように亮介には見えただろう。
「僕も」
亮介はくるっと向きを変え、正面から未央をぎゅっと抱きしめた。世界中のしあわせを集めたみたいに、穏やかでやさしい気持ちだった。
商店街で晩御飯の買い出しをしながら亮介の誕生日の話になった。
「本当に家で、私のご飯でいいの?」
「未央のご飯がたべたい。その日は仕事だから、家でのんびりの方がうれしいし」
「わかった。何たべたい?」
「未央」
いや、そうじゃなくてね、おぼっちゃま。来週の誕生日、はりきって用意しなくちゃ。
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