狂世の住人

伊織

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忘却の双子/0

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真っ暗な夜、街を見下ろしていた。
この日は月が出ていなく、何故か街も寝静まったように明かり一つない・・・・・・・のだ。
空と街の境界線が分からない。
目を開けているのか、閉じているのかすら分からなくなるようだ。感覚が鈍っているのではなく、本当にあたりが暗すぎる。
下手に動くと、自分がどっちの方向から来たのかさえ分からなくなりそうだった。
ようやく決心したものの、やっぱり緊張と不安は拭えない。
ゆっくり深呼吸した。
冷たい夜の風が喉を通っていく。頭も澄んでいくようだった。
───大丈夫。いつも通りの自分だ。
やがて落ち着くと、足に力をいれ、しっかりとその場に立つ。街で一番高い塔の上。暗いせいもあり、自分がどのくらいの高さにいるのかは分からない。ただ、落ちたら一発であの世行きだろう。足元には注意せねば。
失敗したらやり直しはきかない。
右手を空にかざした。目を閉じて魔力の流れを感じとる。身体中を血と共に巡る魔力は右手に集まってきていた。
静かな街に、唸り声のような風が吹く。それほど強い魔力を、今自分が操っている証拠だ。
そのまま人差し指で空に円を描く。魔力の流れが見える自分にはそこに魔法陣が出来ていくのがしっかり見えている。
────大丈夫…、大丈夫。
自分に言い聞かせる。
額には汗が滲む。膨大すぎる魔力の消費に息が切れる。心臓が張り裂けるように脈打つ。
魔法陣を描く右手がガクガク震える。
あぁ、もう魔力が尽きてしまう。でも駄目。ここで諦めてしまってはすべて意味の無い事になってしまう。
変えると決めたのだ。救うと決めたのだ。決心は揺らがない。

「あ…」

右手で描いていた魔法陣が空に浮かんでゆく。
成功、したのだ。
完成した魔法陣は空に登ってゆき、光を纏う。稲穂の海のような黄金の光がキラキラと瞬いている。それは星のようで。
やがて魔法陣は端のほうから形を変え、流星のように街に降り注いだ。
ようやく、成し遂げた。
これが未来に繋がるように、どうか…。

魔法陣がすべて流星になって消えて無くなると、足元から風を感じた。塔が崩れてゆくのだ。
逃げようにも魔力切れのこの身体はもう動かない。風に身を任せるしかない。
それに、崩れていくのはこの塔だけじゃない。街が、セカイが壊れていっているのだ。
この日確かに、セカイが終わった。自分はそれを見届けた。
そしてどうやら、自分も死ぬらしい。意識が遠のく。
地面に叩きつけられる衝撃と、無数の鍵の形をした光・・・・・・・を見たのは、ほぼ同時だった。
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