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3章『無情無比の忘我者』
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3章『無情無比の忘我者』
9『アルターエゴ』
「起きてください、零看守。もう朝ですよ」
「んん……篝看守、すみません」
「頑張りすぎなんじゃない?夜遅くまで起きてたでしょ」
「いえ、新人なので気張らないと」
「体を壊したら元の子もないよ」
「そうですよね……篝主任看守は、どうやってその地位まで上り詰めたのでしょうか」
「やめてくれよそんな……妹のために頑張ってるだけさ」
「良い兄ですね」
「あはは、ありがとう」
……灯火 零。
トリネコ主任看守の犬。元生徒囚。その実態は、看守長が言うにはカース人とギウス人のハーフ。そしてトリネコの魔法をここまでの強さで発動したのは初めてらしい。記憶すらも染めてしまう掌中服従の魔法……。【ハートチェーン】
「今度聞かせてくださいよ」
「なにをだい?」
「篝主任看守と、ヒサメ主任看守の過去」
「ああ……いいけど」
「ありがとうございます。楽しみにしときます」
「……」
僕は一度、彼と殺し合いをした。その時感じた彼の覚悟。それは、本当に自らや仲間の命を賭してでもこの監獄を破壊しようとする圧倒的な言葉の威力、重み。それが彼には宿っていた。もう今は、そんな面影すら消えている。
「零看守はさ、なんのために頑張ってるの?」
「……脱獄をする愚か者に鉄槌を下すためです」
「へぇー……それは頼もしいね」
仕方ないとはいえ、ブーメランが過ぎる。きっと記憶とは別に信念まで捻じ曲げられているのだろう。いいや、というかもしかしたら心すらも……。そんなことを考えている間も、彼はパソコンで作業を進めている。
彼はめちゃめちゃ仕事ができる同級生みたいに思える。後輩なのにもう主任看守並の作業をこなしている。僕は零を足止めしたという功績と、幻影のカースの持ち主を破った件で成り上がった。零の足止めは殆ど他の主任看守のお陰だが。
「でも零看守はカースも魔法も持ってないでしょ?」
「脱獄犯の行動パターンなんて知れたことですよ」
そりゃそうだ。彼が数百年ぶりの脱獄の首謀者だったんだから。
「前回の脱獄の指揮官は故人になったと聞いております。となるともう脱獄は当分起きないと思うんですけどね」
「そうだといいね」
彼はせっせとパソコンを叩いている。さっき一週間分のタスク終わらせたの見たんだが、まだやることがあるのだろうか。
「ああ、篝看守。今の忘れてください」
「え?」
「C組……小鳥遊特別看守のクラスで脱獄計画が企てられている、と連絡がありました」
なんで新人が連絡とってるんだろう。看守長の提案だろうか。
「小鳥遊特別看守?連絡取ってたんだ」
「あ、篝看守。一応特別看守についての説明聞いてもいいですか?」
「ああ、知らなかったの?」
零はふふっと笑う。
「テストみたいなもんですかね。自分の知識の確認を、と」
天才ってどこかズレてるよなぁ……。
「特別看守ってのは、脱獄などが起こらない用に生徒に紛れて、不審な行動を伝達する看守。諜報に向いてるカースや魔法の保持者かつ、容姿の幼い看守が選ばれるね」
「要するにスパイってことか。カース人も選ばれるんですね」
「そうだよ。残酷だけどね」
「どんな顔して働いてるんでしょうね……彼らは」
僕は何も言えなかった。
「さてと、行きますか」
零は神妙な面持ちで席を立った。
「どこに行くんだい?」
「看守長に用事があるだけです」
新人が看守長に用事……か。
「いってらっしゃい」
零は会釈をして部屋を出て行ってしまった。
10『立場逆転』
「ほう……それがカースも魔法も人並みの運動能力すら持たぬ貴様の、選択肢か」
目の前に立つ少年は、自我を保っていた。こいつが普通の生い立ちならば普通のことなのだがな。
「策はあるのか?」
トリネコの魔法に当てられて尚自我を保つとは恐ろしい胆力だな。今じゃ奴隷になってる予定なのだがな。
「私にお任せください看守長様。必ず、脱獄をする愚か者に鉄槌を」
零は片膝をつき、左手を胸に当てて、右手を腰に当てる。
目的は達成してるからまぁ良いだろう。英明な反逆の徒よ、その反旗を翻し俺達を……。
「わかった。駒として扱ってくれて構わん」
「安心してください。殺させはしません」
……さて、どこまでが真実なのかな。その仮面は。
「看守達へはこちらから伝えておこう。よろしく頼むぞ。劣弱の天才」
「了解しました」
***
「本当にやるのかい?」
「ああ。放送室から音を飛ばそう」
「勝てるのか?今から策を練るんだろう?」
「ああ、行き当たりばったりにはなるが、君の魔法があればどうってことはない」
「……え?僕?」
「ああ。君の爆発力は便利だ」
そういえばこいつ、爆発が好きだったよな。この前も爆発による脅迫で何とかしようとしていたし。
「それで、僕はどうすれば?」
「看守方に事前準備は要らないですよ」
まじか、なんていう自信だ。
「というか、もう時間が足りません。行き当たりばったりで何とかするしかないですね」
自信じゃなくて虚勢だったのか。全く気が付かなかったな……。
「行けるのか?」
「行きます」
一度相対した結果なのか。何故か、こいつならばやってのけるだろうという確信から、笑みが零れてしまう。
「というか、そろそろ始まりますね」
「え?」
「俺は放送室に向かいます」
「あ、ああ。頑張れよ」
***
【各看守に告げる】
来た……零の指揮だ。
【総員、待機。主任看守、バトロ、リンドウは出口へ。篝とヒサメは寮にて合流】
ヒサメと合流か。僕達が兄妹というのを知ってのことなのかな。
「お兄ちゃあああああああああああん!!」
「おお!早いな、ヒサm」
「そりゃあそうでしょあのゴミに指示されるのはすっごいムカつくけどお兄ちゃんと合流できるなら?まぁ?許すかなみたいな?それに……」
めちゃめちゃ早口だな……。
【篝主任看守方、一階へ向かってくれ。バトロ主任看守がやられた】
「噓っ!?ゴミ看守が?」
我が妹よ、その呼び方じゃ区別つかないよ……。バトロ主任看守のカースは戦闘向きじゃないから仕方ないか。
指示通りに一階へ降りると、白髪で髪の毛の長い女子囚人がいた。そして、二本の短剣を所持している。
その白金色の刃は鋭く光り、〝青白い稲妻〟を放ちこちらに突っ込んできた。
それを認識した刹那、僕の胸元には短剣が突き刺さっていた。
「ぐ……だぁっ!?」
「……へ?お兄……」
僕の意識はもう、そこにはない。
「少し寝ててください。女看守さん」
「舐めるな!」
しかし抵抗も虚しく、ヒサメは短剣の柄の部分を使って気絶させられた。
第一次脱獄戦争、経過
首謀者:C組
断罪者:灯火 零
概要:篝【重症】
ヒサメ【気絶】
10『奪還作戦』
「準備は出来てるか?星」
「勿論です、カルネ先生」
「看守長様の策とトリネコの魔法が上か、それとも……」
「零ちゃんの策の方が上です。異論はありません」
「未来の言う通りだ。行こう」
星は未来の手を取った。
ここに二人の、いや、三人の〝革命者〟が再び結成される。
「ふっ……やっぱり零はすごい。さてと、私は私で〝報復〟を開始しようか」
カルネは不敵な笑みを浮かべた。
***
「え?これ……」
「僕達が闘った看守だ……なんで倒れてるんだ?」
すると、インカムから声が聞こえた。
【私だ、カルネだ。監視室に来たが、バトロっていう監視官がやられている】
「それってつまり、」
【さっきの轟音といい、私達以外にも脱獄しようとしてるクラスがあるってことだ】
「それに乗じるしかないな、未来。俺達は本来の作戦にあたろう」
「うん……!」
「まぁ、あの白髪の少女はアスター看守長に任せていい、かな。あとはC組の水色髪の方か……」
「はい、そこまで」
気が付けば、その男は後ろにいた。
「誰だ!?看守室に潜入するなんて」
足音一つしなかったぞ……確かこの顔、透明化のカースか。
「さて、と。僕はC組の空野 透司。君は確かB組の〝劣弱の天才〟だったね。ということはやはりカースは未覚醒だな。最弱をこんなとこに置くなんてな」
【私の生徒が最弱だって?】
「ん?どういうことだ?というかこの声は放送室から?」
星は透司を突き飛ばした。
「作戦成功……だな。星」
「おかえり。零」
「……ありがとう」
「もっと素直になれよ」
「ふ……」
零もそんな風に笑うんだな、誰もがそう思った。
時は第一次脱獄戦争勃発前……。
「どういうことだ、零。わざと失敗するって」
「脱獄するにはまだ情報が足りない。だから、俺が看守になるんだよ」
「お前が、看守に?」
「ああ、そうすれば合法的に情報を得られるだろう」
「まぁ、そうだけど、リスクが高すぎない?零ちゃん」
「捕まるだけなら簡単だ。向こうにトリネコ・キルハートという看守がいる。あいつは【服従させる魔法】を持っているんだ。発動条件は、半径五十メートルに五秒以上入ること。範囲内に入ったとしても、五秒に一人ずつしか服従させることができない。ってカルネ先生が」
「後は、範囲内に入らぬようにして騙すだけ……」
結果零は、トリネコと五十一メートルの距離を保ち、彼は篝を、ほかの看守たち共々騙しきった。はずだった……。
【ハートチェーン】再発
「がぁっ!?頭が割れる……」
「零!?」
トリネコと保っていた距離は、五十一メートル。だが、零が星達を突き飛ばした時、能力の効果範囲に入った。その時間は三秒。彼はトリネコ魔法の六割を受けた。
「うっ……ぐ……にげ……」
「零?」
「零ちゃん?」
零は、袖口に隠していた銃を取り出し、インカムのボタンを押した。
「こちら灯火 零。トリネコ主任看守の命の元、逃亡者を確保します」
トリネコの魔法にあてられた者は、その命に報いるべく、己のパフォーマンスの二百パーセントを発揮する。
「零!」
星の反射神経と運動能力を持ってしても、カースは未覚醒だが、潜在能力二百パーセントの零には届かない。零は星のみぞおちを殴打した。
「がぁ!?」
「目を覚ませ!零!」
カルネが負傷した星の前に立ち塞がる。
「時を刻め!針は私の掌に!」
時を操る魔法【IN MY HAND】
「……逃げられた、か。すみませんトリネコ看守様」
彼の目に、鋭い輝きはもうない。宿っているのは妖艶なピンク色だった。
「惜しかったな、お前たち、よくやったよ」
カルネ先生は未来と星の頭を撫でた。
「……まだですよ」
「あん?まだ?」
「星君の言う通りです。零ちゃんの策にはサブプランがあります」
「……ほう?もし成功したらもはや人間の読み筋を超えてるな」
「ちなみに、C組が脱獄しようとしてくれたから、予定が早まりそうです」
「というと?」
「条件は篝主任看守を止めることだったんです。あとは……」
そう言いかけたとき、教室の扉が開いた。
「私が協力します」
「誰?」
星と未来が不思議そうな顔をする。
「私はC組の白咲 玲奈です。そしてこっちが、」
「同じくC組の黒影 凪紗でーす」
「二人とも可愛い!玲奈ちゃんと凪紗ちゃんね!私はB組の氷室 未来。よろしく!」
「僕は黒宮 星です」
「私はカルネ主任看守。だが、脱獄肯定派だ」
「灯火君から話は聞いてますよ」
カルネは高笑いをした。
「ははは! あいつ、どこまで見据えて根回ししてんのか!」
「あの人の作戦は奇抜で狡猾……今回の仮脱獄作戦、彼ならもしかしたら成功させていたかもと考えると恐ろしいです」
「仮脱獄作戦?」
「彼は立場を利用して私達に連絡を取ったんです。【監獄に反旗を翻したくば力をみせよ。篝主任看守の討て】と」
「……繋がったな、星」
気が付いたカルネは高揚している。
「まさか!?」
未来も気が付いたようだ。
「零ちゃんのサブプランに必要な条件、篝主任看守の機能停止……」
星は覚悟を決めた顔をした。
「結局みんな、零の掌だったわけか……」
「あ、そうだみんな。なんで篝の機能停止がサブプランの攻略条件なんだ?」
星が物憂げそうな表情をして呟く。
「兄妹愛を利用するんですよ」
この場にいる生徒たち、B組の黒宮 星、氷室 未来、この教室にはいないが灯火 零。C組の黒影 凪紗、白咲 玲奈、空野 透司の六人を総じて【叛逆生】と呼ぶ。
11『復讐の災い』
叛逆が起こったその晩、篝は寝床に伏せている。隣にある椅子に、少女は座っている。
昔から破天荒な私は、いつも皆に迷惑をかけてきた。その度に、お兄ちゃんは謝ってくれた。私に一切の怒りも見せず。めんどくさい私の面倒だって笑顔で見てくれた。そんなお兄ちゃんを、私から……。
「奪わないで……奪わないでぇっ!!」
幼い頃から私達はいつも一緒だった。荒廃したスラムの街で、私達は育った。
「返して欲しければ取り返してみろよー!」
ここにある食料は貴重だ。ただでさえ治安が悪い上に、私達は孤児だったから。
「うう……」
「僕の妹に、何か用ですか?」
そんな孤独を、お兄ちゃんはいつも埋めてくれる。
「赤髪……篝か!?」
「そうですけど?何か」
「す、すみません、これは返すので……」
「違う」
とても冷淡で、全てを拒絶する声だ。
「パンを返すのは当然だ。お前が謝るのは俺じゃない」
篝は虚空に手を伸ばす。そして、唱える。
「爆ぜろ。爆発魔法・【インフェルノブラスト】」
そこに残ったのは死臭と、一つのパンだけだった。
お兄ちゃんはその街でずっと、最強であり居続けた。それでも、生活は本当に苦しかった。
お兄ちゃんに迷惑掛けないように、魔法の鍛錬をしている時だった。私達に新しい風が吹いたのは。
その日は雲一つない快晴だった。やけに大柄の男と、露出の多い服を着た女の人が、私達の住み処にやってきた。
警戒して、お兄ちゃんが扉を開ける。するとの男がお兄ちゃんを見るや否やこう言った。
「君が篝君だね」
「え……はい」
「どうやら孤児のようで……こんな治安の悪い所で大変だっただろう」
「ええ……まぁ」
その人は、夢にも思わなかったことを口に出す。
「よかったら、うちで働かないか?妹さんもご一緒に」
その日から、私達の人生は大きく変わった。毎日三食で綺麗な寝床もお風呂も服もある。刑務作業は思ったより苦じゃない。本当に苦しかったのは、人間関係だ。
私にコミュ力なんてものはない。誰かに凄い剣幕で脅されてばかりの人生だったから。お兄ちゃん以外の、人間が怖い。
当時の私は十二歳。環境の変化に思春期や反抗期が直撃した私はいつしか、恐怖心が怒りに成り代わっていた。
「はぁー?ふざけんなよ!」
私の人格は、ここに来る前と後ではまるで転生でもしたみたいに変わっていた。職場の人間の殆どが年上だというのにでかい態度をとっていた。みんないい人で、私達の境遇を知っていたからか子供のわがままとして受け入れられていた。
お兄ちゃんだけは注意してくれた。当時はこの上なくうざかったが、今ではありがたいって思う。
私の人生は、お兄ちゃんがいなかったら崩壊していた。そんな恩人で最愛の人を奪われるなんて我慢できない。
何があっても私が復讐する。立場なんて関係ない。絶対に、絶対に許さない。
目の前に、監獄への反逆者がいる。お兄ちゃんを刺したカスではないが、ゴミなことには変わりない。
「君がヒサメ看守だね」
「うるさい!」
ヒサメは篝のように、虚空に手を突き出す。
「災害魔法・【善悪浸災】」
怒りは、災害という形をとって相手を襲う。しかし、星は軽々と小さな竜巻を避けた。
「話を聞いてくれ!」
「黙れ!黙れ黙れ!」
すると、合流した未来が呪いを放つ。
「凍り付け!カース:【絶対零度】」
ヒサメの足が凍り付いて、地面と一体化してしまう。
「ぐっ……ああああ!!」
ヒサメは銃を引き抜て暴れだす。すかさず星が銃を取り上げた。
「大丈夫!?未来」
「私は何ともないよ」
「落ち着いて聞いてくれ。ヒサメ看守」
ヒサメは観念したのか、抵抗をやめた。
「君のお兄さん、僕達のクラスメイトなら治せるかも」
「……え?」
「魔法よりもカースの方が効力は高いんだよ。その代わり体力を使っちゃうけどね」
カルネ先生が、いつぞやに教えてくれたことだ。
「兄妹ともども、僕達に協力してくれないか?」
……もう、そうするしかないのかな。
そう諦めかけたとき、やけに威圧感のある声が響く。
「うちの看守を懐柔しようだなんて、許せないね。なぁ零看守」
「まったくもってその通りですね」
「ア、アスター看守長とゴミ!?」
私がお兄ちゃん以外の人類で、唯一ゴミだと思えない存在だ。そもそもお兄ちゃんは人類ではなく神なのだが。
「君達はこれを知らないかな?」
そういうとアスター看守長は、首から下げた綺麗なアイオライトの宝石で作られたネックレスを見せつける。特有の輝きを放つこの宝石の見え方は、その場にいる全員から異なって見えている。
それは、いつの日にか忘れてしまった空の色にも似ていた。
「綺麗……」
女子の面々が恍惚とした表情を浮かべる。だが、そのネックレスが何を意味しているかは、看守であるヒサメですらわからなかった。
「カースなどという呪われた力とは異なり魔法は作りだせる」
アスター看守長は怒りを堪えているかのような声で語り出す。
「これは愚かなるお前たちへの手向けだ。魔法の耐性がない者に、魔法の力を授けると、身体が壊死していく」
本当なのか噓なのかわからないが、今は黙って聞くしかない。
「しかし、これは耐性がある者でも人体に影響を及ぼす特注品。すなわち毒だ」
そういうと、アスター看守長は首からアイオライトのネックレスを千切り、未来に投げつけた。
「ひゃぁっ!?」
未来の足元に、割れた宝石の破片が散らばる。
「未来!」
星が未来の元へ駆け寄る。
「来ないで!」
星が負傷してしまうリスクを考え、拒絶した。そして文字通り、時計の針が止まった。
星と未来はカルネの魔法よって教室に戻された。
「大丈夫か、未来」
「体が……重い」
未来の体は、先ほどの宝石のような青い輝きを放っている。
「生きろ、未来……!」
星は涙を流して訴えかけている。そして、教室の扉が開いた。
そこには、ヒサメがいた。
「殺す……ゴミが!」
「……凍れ」
未来が最後の力を振り絞る。
「無理すんな、未来!【IN MY HAND】」
しかし、時は止まらなかった。
「え、な!?」
「死ねえゴミ共!!」
ヒサメが指に業火を灯す。しかしその炎は、瞬く間に消えてしまう。
「え、なんで?」
「今だ!」
星はヒサメを思いっ切り殴り飛ばす。その衝撃で吹き飛ばされ、廊下に頭を打ち付ける。
「よし!これで……」
星がヒサメを抱えようと顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
「うちの部下がすみません、B組の皆さん。いや、愚か者共」
「零……」
相変わらず時は止まらないし、炎や嵐も起こせない。この状況で一番力を発揮できるのは、服従の魔法にかかり身体能力が強化された零だ。
「黒宮 星、君はやりすぎた。独房までご同行願おう」
「……わかった」
零の手によって未来に被害が加わるのが、星は許せなかった。
星は半ば諦め、独房までの歩みを進めていった。未来の体からは、未だに青白い煌びやかな光が発せられている。
12『叛逆者達』
目の前にいる元親友は、誰かと連絡を取っている。僕はこれからどうなってしまうのだろうか。
「脱獄犯を一人、確保しました。……はい、了解です。黒宮 星、主任看守が来るまで、少し待っていろ」
「……わかりました」
その時が来るまで、項垂れることしか出来ない。
「よく働くわね、零」
忌々しい声が聞こえる。
「それじゃ早速」
まさか……!!
そう思った頃にはもう遅かった。彼女の瞳は妖しく光り、僕を捕らえて離さない。
「服従魔法・【ハートチェーン】♡」
その瞬間、星は消えた。
「え!? 消えた」
「星のカース:幻影 ですかね」
「あら、取り逃しちゃったわね」
「すみません、トリネコ主任看守。再突撃しますか?」
「いいわ、また作戦を練り直しましょう」
「承知」
***
空き教室にC組の脱獄肯定メンバーが集った。
「あ、分身が消えた」
「うわびっくりした!」
「幻影が作られると本人は消えるんだね」
「最近、あんな感じで消えることもできるようになったんだ。本体がたまたま能力の使えないあの場に居合わせなくてよかった」
星のカースは、度重なる酷使から進化を遂げていた。放出された幻影が動いている間、星本人の体は透明化することができる(する・しないの選択可能)ようになった。
「……ねぇ、この子の周りにいると、カースも魔法も使えなくなるんだよね?」
「ああ」
「なら零君をこの子に会わせればいいんじゃ」
「その手があったか!」
生徒達やカルネの顔が明るいものとなっていった。
***
トリネコの部屋に、一人の優等生がいる。トリネコの魔法に充てられて洗脳状態に陥ってしまっているようだ。
「絶望した?零君。友達を殺そうとしたのよ、あなた」
「主任看守が一人の生徒に肩入れしていいんですか?トリネコ主任看守」
「そうねー……まぁ夜のお供としてはちょうどいいかしら。あなたかなりイケメンだし」
「癪に障る、黙れショタコン看守」
「あらぁ意外とSなのかしら?」
零が反抗しようとしたとき、トリネコの部屋の扉がノックされる。
「誰かしら」
トリネコは零にカースを再発動し、扉を開けた。
「誰もいない……零君、今のが誰かわかる?」
「わかりません」
「そう……解除っと」
その瞬間、零はニヤリと口角を上げた。
「今から二十四時間以内に、俺はあなたを殺します」
トリネコは吹き出した。
「あっはは! 天才って聞いてたのに拍子抜けだわ。二十四時間以内に私の魔法を解くっていうの?」
「ええ。こんな風に」
すると零は、トリネコの顔面を目掛け右ストレートを放った。しかしトリネコはひらりと身をかわし、零を抑えつけた。
「ぐっ……」
「あんたの焦ってる顔見るのは初めてだわ。いい気分。で、頭脳派がなに喧嘩売ってんの?脱獄は諦めたわけ?」
「トリネコ・キルハート。本名、シャンティー・コントルド」
トリネコの余裕そうな表情が一瞬にして曇った。
「カース人と結婚し、夫と子供は現在……死別か」
「あんた、なんでそれを……」
「少し違う、か」
「……っ!?」
「子供はいじめによる自殺。原因はハーフということによる差別。そして夫は……ああ、なるほど。捨てられたんだな。子供を残して」
「違う!!」
それは監獄のどこにいても聞こえるような怒号だった。
「あの男は……あいつには愛なんて一切なかった。やることだけやって私を……」
零は悲哀とも怒りともいえる顔を浮かべていた。同情しているのだろう。
「……お前のせいだ」
「ん?」
「お前を今すぐ独房にぶち込んでやる!」
「おいちょ……」
トリネコは独房に入れられた零を、まるでゴミでもみているかのような目つきで睨んでいる。
「そこで大人しくしていることね」
怒りを孕んだ声色だ。
「……もう一人の子、災難だったな」
「このっ……クソガキ」
「交通事故だったんだろう、弟をいじめから救おうとしていたのに」
トリネコはもはや怒りを忘れた。自らの過去を、消し去ろうとした過去を思い出した。封印した記憶の根を掘り返されたのだ。
「つくづく不幸な家族だな」
「なんでそのこと知ってるのよ」
「ふっ」
「なに笑ってんのよ」
「俺が知ってるのは”シングルマザーで子供は死去済”ということだけですよ」
「は……?」
トリネコは理解できず、その場に立ちすくんでしまった。
「プロファイリングってしってます?」
「それ警察とかが使ってたって言われる……」
「表情や仕草とかで人物の心理を読み取るってやつです。行動心理学や統計データを基にしていますが、あんなのもはのは基本、あてにはなりませんね」
「監獄にいながら一体いつそんなの学んだのよ」
「観察と思考と……直感です」
「ふふ……はははは!!劣弱の天才って神様にでも愛されているのかしら」
「神は俺が……」
ボソッと呟いたが、声に意思が籠っている。
「ん?」
「いえ、なんでも。ところでさっきの補足なんですけど」
「私を殺すとかいうやつ?」
「ええ。少し補足をすると、”俺は独房からあなたを殺します”」
「やってみなさいよ」
「ええ、勿論」
零の目が、妖しく光り輝いたような気がした。トリネコはごくりと唾を飲み込んで、牢屋を後にした。
「にしても、職場にあんなヒビ入った子供の写真置いとくかよ……。」
「零ちゃん大丈夫かな……」
未来はとっくに起き上がっていたが、零のことが気がかりなようだ。
「あの人ならきっとうまく切り抜けるわよ。私達でサポートしよ!」
心配する未来を凪紗が慰めている。
独房にいる零を除いて五人の叛逆生達が、空き教室に集まっていた。その時、星が所持しているトランシーバーからノイズが走る。直後、零の声が響いた。
『あー、あーあ、あー。マイクテス、マイクテス……』
「零、大丈夫なのか?」
『ああ、問題ない。叛逆生全員をここに集めてくれ』
「もう既に集まってる」
『やるな。C組の叛逆生に伝えたいことがある』
C組の三名がトランシーバー顔を近づけた。
『こちらのクラスにはスパイがいたんだ。特別看守と言うらしい。素性がバレたからか、もうクラスを出て行ったが……同じように、C組にもそういうやつがいる。たしか、小鳥遊とか言ったか』
クラスメイトがスパイだと知ったからか、顔をしかめている。そんな中、玲奈が冷静に答えた。
「そのスパイはどう私たちの邪魔をするの?」
『計画の情報を流されたな。だが、具体的な作戦を少数名に絞ったからそこまで致命傷は負っていない。だが、間違いなく厄介な存在だ。そいつのカース次第ではこの会話を聞かれている可能性だってあるからな』
「カース人なの?」
「うん、魔力じゃなくて呪力を感じたよ」
未来が自信満々に答えた。
『俺は疎いからそこらへんの区別つかないが、未来が言うなら間違いないだろう』
未来は嬉しそうに小さく微笑んだ。
『さて、君たちに別の命を下す』
全員の視線が星のトランシーバーに集まった。
『ヒサメ看守を捕らえるか、始末してくれ。詳しくは俺の机の中にあるノートに』
「確保か始末、どっちの方がいいのかしら?」
玲奈が冷静に問う。
『確保だ……』
零がそう言いかけた途端にブツリと通信が途絶えた。
「なんでこんなものが……」
篝は零のインカムを踏みつぶし、𠮟責するように言う。しかし零はそんなこと意にも介さない。
「たった今、お前の妹を殺す指示を出した」
「お前はそう言って、トリネコ主任看守も殺せない」
「果たしてどうかな……大事な妹を見捨てるのかい?」
「そんな挑発に乗るわけないだろ」
「ああ、そういえばスラムの出だったな」
「だからどうした」
「妹もそうだが学がないと思ってな」
「お前みたいなカース人に言われたくないな」
「そうか……せいぜい自分を恨むんだな。こんなことすら気づかないとは」
「どういう意味だ」
「今にわかるさ。何故俺が、わざわざ檻の外にいるお前の手がインカムに届く場所にいたのか」
その時、監獄内にサイレンが鳴り響いた。篝は嫌な予感を感じ走り去っていった。
「トリネコへの殺害宣言によって俺には安易に近づけない。バトロは監視だけで、星の幻影は判別できない。その状況で俺を監視するなら篝を使うと思ったさ。さて、ここから反撃だ」
星達は零の机の中にあるノートを取り出した。そこには、『ヒサメ看守の捕縛法』が記されていた。
……それは至って簡単、というか一見ふざけているようにも見えた。星は看守室へと駆けた。
「篝のバーカ!!」
「は?殺す。災害魔法【善悪浸災】」
「まじで釣れたよ、こいつ……申し訳なくなってきた」
そのまま星は、魔法で作られた小さな竜巻を避けながら教室まで誘導することに成功した。
「あ、ほんとに来た。凍てつけ、【絶対零度】」
刹那、教室が凍り付いた。反逆生の集まる教室で、ヒサメは逃げ場を失った。
「取引だ、ヒサメ看守。この人数差、受け入れるしかないと思うが」
「なによ、一応聞いてあげるわ」
ヒサメはキッとした威嚇のような表情を見せた。
「選ぶんだ、ヒサメ・アルテミス。兄の命か、看守の責務か」
「お兄ちゃんの、命……?」
その言葉が上手く咀嚼できないように眉をひそめた。
「そうだ。今から君の兄を殺しに行く」
「そんなことさせない!」
「お前らが僕らを閉じ込めるように!」
星の剣幕に、その場にいる誰もが驚愕した。
「俺たちがお前らを檻の中にぶち込んでやる!!」
「言ってくれるじゃないクズ共の分際で」
「それはどっちかな。今に零が証明するさ」
「やってみなさいよ」
「そこで黙って待ってな」
そういうと星は氷の剣の鞘で気絶させられた。
「爆破魔法・【インフェルノブラスト】」
「はっ!?まずい!」
その瞬間、未来が隔てた廊下と教室の氷壁が消失した。
「カース:電撃【迅雷閃華】」
玲奈がそう唱えると、辺りに光の花が咲いた。
「がはっ!?」
篝の鳩尾に強烈な痛みが走る。そのまま地面に倒れ込んだ。
「……ヒサメを……返せ」
痛みに悶えながらもなお、この世の全てを恨むように睨みつけてくる。
「残念だけど、あなたも拘束させてもらうわ。カース:温度【惨寒死温】
篝の身体が段々と冷え、次第に意識が薄れていった。
……ヒサ……メ。未来には、そう呟いたように聞こえた。無意識に目を細めていた。
「よし、こいつを運べば零からの要望は達成だな」
「あとは零君が上手くやってくれるはずね」
「……そうだね」
本当にこれでよかったのだろうか。未来の心に、一本の翳りが生まれた。
その頃、零は、バトロ看守に頼み、看守長と謁見していた。
「天才よ。自分が言っていることが理解っているのか」
「ええ。私はあなた方の期待通りの、天才ですよ」
「そうか。許可しよう」
「ところで看守長殿」
「なんだ」
「この監獄、魔法の発動には条件があるのでは?」
「前提として、生徒を殺傷しかねない規模の魔法は禁止だ」
「では、先程の篝看守の爆発魔法は、どうなのでしょう。私がバトロ看守と共にここに来た時、天井にヒビが入ってましたが」
「……処罰の対象だ」
「では、篝看守を、私の正面の独房にいれてください」
「おい天才。貴様が要求できる立場とでも?」
「その方が都合がいいのでは?直接監視できますし、私一人の命など、吹き飛ばせばいいのですから」
「ははははは。今更だが、随分と肝の据わった奴だ。その豪胆さがいつまで持つかな」
「死ぬまで、ですよ」
零が宣言すると、アスター看守長はお手本のような高笑いをしてみせた。
9『アルターエゴ』
「起きてください、零看守。もう朝ですよ」
「んん……篝看守、すみません」
「頑張りすぎなんじゃない?夜遅くまで起きてたでしょ」
「いえ、新人なので気張らないと」
「体を壊したら元の子もないよ」
「そうですよね……篝主任看守は、どうやってその地位まで上り詰めたのでしょうか」
「やめてくれよそんな……妹のために頑張ってるだけさ」
「良い兄ですね」
「あはは、ありがとう」
……灯火 零。
トリネコ主任看守の犬。元生徒囚。その実態は、看守長が言うにはカース人とギウス人のハーフ。そしてトリネコの魔法をここまでの強さで発動したのは初めてらしい。記憶すらも染めてしまう掌中服従の魔法……。【ハートチェーン】
「今度聞かせてくださいよ」
「なにをだい?」
「篝主任看守と、ヒサメ主任看守の過去」
「ああ……いいけど」
「ありがとうございます。楽しみにしときます」
「……」
僕は一度、彼と殺し合いをした。その時感じた彼の覚悟。それは、本当に自らや仲間の命を賭してでもこの監獄を破壊しようとする圧倒的な言葉の威力、重み。それが彼には宿っていた。もう今は、そんな面影すら消えている。
「零看守はさ、なんのために頑張ってるの?」
「……脱獄をする愚か者に鉄槌を下すためです」
「へぇー……それは頼もしいね」
仕方ないとはいえ、ブーメランが過ぎる。きっと記憶とは別に信念まで捻じ曲げられているのだろう。いいや、というかもしかしたら心すらも……。そんなことを考えている間も、彼はパソコンで作業を進めている。
彼はめちゃめちゃ仕事ができる同級生みたいに思える。後輩なのにもう主任看守並の作業をこなしている。僕は零を足止めしたという功績と、幻影のカースの持ち主を破った件で成り上がった。零の足止めは殆ど他の主任看守のお陰だが。
「でも零看守はカースも魔法も持ってないでしょ?」
「脱獄犯の行動パターンなんて知れたことですよ」
そりゃそうだ。彼が数百年ぶりの脱獄の首謀者だったんだから。
「前回の脱獄の指揮官は故人になったと聞いております。となるともう脱獄は当分起きないと思うんですけどね」
「そうだといいね」
彼はせっせとパソコンを叩いている。さっき一週間分のタスク終わらせたの見たんだが、まだやることがあるのだろうか。
「ああ、篝看守。今の忘れてください」
「え?」
「C組……小鳥遊特別看守のクラスで脱獄計画が企てられている、と連絡がありました」
なんで新人が連絡とってるんだろう。看守長の提案だろうか。
「小鳥遊特別看守?連絡取ってたんだ」
「あ、篝看守。一応特別看守についての説明聞いてもいいですか?」
「ああ、知らなかったの?」
零はふふっと笑う。
「テストみたいなもんですかね。自分の知識の確認を、と」
天才ってどこかズレてるよなぁ……。
「特別看守ってのは、脱獄などが起こらない用に生徒に紛れて、不審な行動を伝達する看守。諜報に向いてるカースや魔法の保持者かつ、容姿の幼い看守が選ばれるね」
「要するにスパイってことか。カース人も選ばれるんですね」
「そうだよ。残酷だけどね」
「どんな顔して働いてるんでしょうね……彼らは」
僕は何も言えなかった。
「さてと、行きますか」
零は神妙な面持ちで席を立った。
「どこに行くんだい?」
「看守長に用事があるだけです」
新人が看守長に用事……か。
「いってらっしゃい」
零は会釈をして部屋を出て行ってしまった。
10『立場逆転』
「ほう……それがカースも魔法も人並みの運動能力すら持たぬ貴様の、選択肢か」
目の前に立つ少年は、自我を保っていた。こいつが普通の生い立ちならば普通のことなのだがな。
「策はあるのか?」
トリネコの魔法に当てられて尚自我を保つとは恐ろしい胆力だな。今じゃ奴隷になってる予定なのだがな。
「私にお任せください看守長様。必ず、脱獄をする愚か者に鉄槌を」
零は片膝をつき、左手を胸に当てて、右手を腰に当てる。
目的は達成してるからまぁ良いだろう。英明な反逆の徒よ、その反旗を翻し俺達を……。
「わかった。駒として扱ってくれて構わん」
「安心してください。殺させはしません」
……さて、どこまでが真実なのかな。その仮面は。
「看守達へはこちらから伝えておこう。よろしく頼むぞ。劣弱の天才」
「了解しました」
***
「本当にやるのかい?」
「ああ。放送室から音を飛ばそう」
「勝てるのか?今から策を練るんだろう?」
「ああ、行き当たりばったりにはなるが、君の魔法があればどうってことはない」
「……え?僕?」
「ああ。君の爆発力は便利だ」
そういえばこいつ、爆発が好きだったよな。この前も爆発による脅迫で何とかしようとしていたし。
「それで、僕はどうすれば?」
「看守方に事前準備は要らないですよ」
まじか、なんていう自信だ。
「というか、もう時間が足りません。行き当たりばったりで何とかするしかないですね」
自信じゃなくて虚勢だったのか。全く気が付かなかったな……。
「行けるのか?」
「行きます」
一度相対した結果なのか。何故か、こいつならばやってのけるだろうという確信から、笑みが零れてしまう。
「というか、そろそろ始まりますね」
「え?」
「俺は放送室に向かいます」
「あ、ああ。頑張れよ」
***
【各看守に告げる】
来た……零の指揮だ。
【総員、待機。主任看守、バトロ、リンドウは出口へ。篝とヒサメは寮にて合流】
ヒサメと合流か。僕達が兄妹というのを知ってのことなのかな。
「お兄ちゃあああああああああああん!!」
「おお!早いな、ヒサm」
「そりゃあそうでしょあのゴミに指示されるのはすっごいムカつくけどお兄ちゃんと合流できるなら?まぁ?許すかなみたいな?それに……」
めちゃめちゃ早口だな……。
【篝主任看守方、一階へ向かってくれ。バトロ主任看守がやられた】
「噓っ!?ゴミ看守が?」
我が妹よ、その呼び方じゃ区別つかないよ……。バトロ主任看守のカースは戦闘向きじゃないから仕方ないか。
指示通りに一階へ降りると、白髪で髪の毛の長い女子囚人がいた。そして、二本の短剣を所持している。
その白金色の刃は鋭く光り、〝青白い稲妻〟を放ちこちらに突っ込んできた。
それを認識した刹那、僕の胸元には短剣が突き刺さっていた。
「ぐ……だぁっ!?」
「……へ?お兄……」
僕の意識はもう、そこにはない。
「少し寝ててください。女看守さん」
「舐めるな!」
しかし抵抗も虚しく、ヒサメは短剣の柄の部分を使って気絶させられた。
第一次脱獄戦争、経過
首謀者:C組
断罪者:灯火 零
概要:篝【重症】
ヒサメ【気絶】
10『奪還作戦』
「準備は出来てるか?星」
「勿論です、カルネ先生」
「看守長様の策とトリネコの魔法が上か、それとも……」
「零ちゃんの策の方が上です。異論はありません」
「未来の言う通りだ。行こう」
星は未来の手を取った。
ここに二人の、いや、三人の〝革命者〟が再び結成される。
「ふっ……やっぱり零はすごい。さてと、私は私で〝報復〟を開始しようか」
カルネは不敵な笑みを浮かべた。
***
「え?これ……」
「僕達が闘った看守だ……なんで倒れてるんだ?」
すると、インカムから声が聞こえた。
【私だ、カルネだ。監視室に来たが、バトロっていう監視官がやられている】
「それってつまり、」
【さっきの轟音といい、私達以外にも脱獄しようとしてるクラスがあるってことだ】
「それに乗じるしかないな、未来。俺達は本来の作戦にあたろう」
「うん……!」
「まぁ、あの白髪の少女はアスター看守長に任せていい、かな。あとはC組の水色髪の方か……」
「はい、そこまで」
気が付けば、その男は後ろにいた。
「誰だ!?看守室に潜入するなんて」
足音一つしなかったぞ……確かこの顔、透明化のカースか。
「さて、と。僕はC組の空野 透司。君は確かB組の〝劣弱の天才〟だったね。ということはやはりカースは未覚醒だな。最弱をこんなとこに置くなんてな」
【私の生徒が最弱だって?】
「ん?どういうことだ?というかこの声は放送室から?」
星は透司を突き飛ばした。
「作戦成功……だな。星」
「おかえり。零」
「……ありがとう」
「もっと素直になれよ」
「ふ……」
零もそんな風に笑うんだな、誰もがそう思った。
時は第一次脱獄戦争勃発前……。
「どういうことだ、零。わざと失敗するって」
「脱獄するにはまだ情報が足りない。だから、俺が看守になるんだよ」
「お前が、看守に?」
「ああ、そうすれば合法的に情報を得られるだろう」
「まぁ、そうだけど、リスクが高すぎない?零ちゃん」
「捕まるだけなら簡単だ。向こうにトリネコ・キルハートという看守がいる。あいつは【服従させる魔法】を持っているんだ。発動条件は、半径五十メートルに五秒以上入ること。範囲内に入ったとしても、五秒に一人ずつしか服従させることができない。ってカルネ先生が」
「後は、範囲内に入らぬようにして騙すだけ……」
結果零は、トリネコと五十一メートルの距離を保ち、彼は篝を、ほかの看守たち共々騙しきった。はずだった……。
【ハートチェーン】再発
「がぁっ!?頭が割れる……」
「零!?」
トリネコと保っていた距離は、五十一メートル。だが、零が星達を突き飛ばした時、能力の効果範囲に入った。その時間は三秒。彼はトリネコ魔法の六割を受けた。
「うっ……ぐ……にげ……」
「零?」
「零ちゃん?」
零は、袖口に隠していた銃を取り出し、インカムのボタンを押した。
「こちら灯火 零。トリネコ主任看守の命の元、逃亡者を確保します」
トリネコの魔法にあてられた者は、その命に報いるべく、己のパフォーマンスの二百パーセントを発揮する。
「零!」
星の反射神経と運動能力を持ってしても、カースは未覚醒だが、潜在能力二百パーセントの零には届かない。零は星のみぞおちを殴打した。
「がぁ!?」
「目を覚ませ!零!」
カルネが負傷した星の前に立ち塞がる。
「時を刻め!針は私の掌に!」
時を操る魔法【IN MY HAND】
「……逃げられた、か。すみませんトリネコ看守様」
彼の目に、鋭い輝きはもうない。宿っているのは妖艶なピンク色だった。
「惜しかったな、お前たち、よくやったよ」
カルネ先生は未来と星の頭を撫でた。
「……まだですよ」
「あん?まだ?」
「星君の言う通りです。零ちゃんの策にはサブプランがあります」
「……ほう?もし成功したらもはや人間の読み筋を超えてるな」
「ちなみに、C組が脱獄しようとしてくれたから、予定が早まりそうです」
「というと?」
「条件は篝主任看守を止めることだったんです。あとは……」
そう言いかけたとき、教室の扉が開いた。
「私が協力します」
「誰?」
星と未来が不思議そうな顔をする。
「私はC組の白咲 玲奈です。そしてこっちが、」
「同じくC組の黒影 凪紗でーす」
「二人とも可愛い!玲奈ちゃんと凪紗ちゃんね!私はB組の氷室 未来。よろしく!」
「僕は黒宮 星です」
「私はカルネ主任看守。だが、脱獄肯定派だ」
「灯火君から話は聞いてますよ」
カルネは高笑いをした。
「ははは! あいつ、どこまで見据えて根回ししてんのか!」
「あの人の作戦は奇抜で狡猾……今回の仮脱獄作戦、彼ならもしかしたら成功させていたかもと考えると恐ろしいです」
「仮脱獄作戦?」
「彼は立場を利用して私達に連絡を取ったんです。【監獄に反旗を翻したくば力をみせよ。篝主任看守の討て】と」
「……繋がったな、星」
気が付いたカルネは高揚している。
「まさか!?」
未来も気が付いたようだ。
「零ちゃんのサブプランに必要な条件、篝主任看守の機能停止……」
星は覚悟を決めた顔をした。
「結局みんな、零の掌だったわけか……」
「あ、そうだみんな。なんで篝の機能停止がサブプランの攻略条件なんだ?」
星が物憂げそうな表情をして呟く。
「兄妹愛を利用するんですよ」
この場にいる生徒たち、B組の黒宮 星、氷室 未来、この教室にはいないが灯火 零。C組の黒影 凪紗、白咲 玲奈、空野 透司の六人を総じて【叛逆生】と呼ぶ。
11『復讐の災い』
叛逆が起こったその晩、篝は寝床に伏せている。隣にある椅子に、少女は座っている。
昔から破天荒な私は、いつも皆に迷惑をかけてきた。その度に、お兄ちゃんは謝ってくれた。私に一切の怒りも見せず。めんどくさい私の面倒だって笑顔で見てくれた。そんなお兄ちゃんを、私から……。
「奪わないで……奪わないでぇっ!!」
幼い頃から私達はいつも一緒だった。荒廃したスラムの街で、私達は育った。
「返して欲しければ取り返してみろよー!」
ここにある食料は貴重だ。ただでさえ治安が悪い上に、私達は孤児だったから。
「うう……」
「僕の妹に、何か用ですか?」
そんな孤独を、お兄ちゃんはいつも埋めてくれる。
「赤髪……篝か!?」
「そうですけど?何か」
「す、すみません、これは返すので……」
「違う」
とても冷淡で、全てを拒絶する声だ。
「パンを返すのは当然だ。お前が謝るのは俺じゃない」
篝は虚空に手を伸ばす。そして、唱える。
「爆ぜろ。爆発魔法・【インフェルノブラスト】」
そこに残ったのは死臭と、一つのパンだけだった。
お兄ちゃんはその街でずっと、最強であり居続けた。それでも、生活は本当に苦しかった。
お兄ちゃんに迷惑掛けないように、魔法の鍛錬をしている時だった。私達に新しい風が吹いたのは。
その日は雲一つない快晴だった。やけに大柄の男と、露出の多い服を着た女の人が、私達の住み処にやってきた。
警戒して、お兄ちゃんが扉を開ける。するとの男がお兄ちゃんを見るや否やこう言った。
「君が篝君だね」
「え……はい」
「どうやら孤児のようで……こんな治安の悪い所で大変だっただろう」
「ええ……まぁ」
その人は、夢にも思わなかったことを口に出す。
「よかったら、うちで働かないか?妹さんもご一緒に」
その日から、私達の人生は大きく変わった。毎日三食で綺麗な寝床もお風呂も服もある。刑務作業は思ったより苦じゃない。本当に苦しかったのは、人間関係だ。
私にコミュ力なんてものはない。誰かに凄い剣幕で脅されてばかりの人生だったから。お兄ちゃん以外の、人間が怖い。
当時の私は十二歳。環境の変化に思春期や反抗期が直撃した私はいつしか、恐怖心が怒りに成り代わっていた。
「はぁー?ふざけんなよ!」
私の人格は、ここに来る前と後ではまるで転生でもしたみたいに変わっていた。職場の人間の殆どが年上だというのにでかい態度をとっていた。みんないい人で、私達の境遇を知っていたからか子供のわがままとして受け入れられていた。
お兄ちゃんだけは注意してくれた。当時はこの上なくうざかったが、今ではありがたいって思う。
私の人生は、お兄ちゃんがいなかったら崩壊していた。そんな恩人で最愛の人を奪われるなんて我慢できない。
何があっても私が復讐する。立場なんて関係ない。絶対に、絶対に許さない。
目の前に、監獄への反逆者がいる。お兄ちゃんを刺したカスではないが、ゴミなことには変わりない。
「君がヒサメ看守だね」
「うるさい!」
ヒサメは篝のように、虚空に手を突き出す。
「災害魔法・【善悪浸災】」
怒りは、災害という形をとって相手を襲う。しかし、星は軽々と小さな竜巻を避けた。
「話を聞いてくれ!」
「黙れ!黙れ黙れ!」
すると、合流した未来が呪いを放つ。
「凍り付け!カース:【絶対零度】」
ヒサメの足が凍り付いて、地面と一体化してしまう。
「ぐっ……ああああ!!」
ヒサメは銃を引き抜て暴れだす。すかさず星が銃を取り上げた。
「大丈夫!?未来」
「私は何ともないよ」
「落ち着いて聞いてくれ。ヒサメ看守」
ヒサメは観念したのか、抵抗をやめた。
「君のお兄さん、僕達のクラスメイトなら治せるかも」
「……え?」
「魔法よりもカースの方が効力は高いんだよ。その代わり体力を使っちゃうけどね」
カルネ先生が、いつぞやに教えてくれたことだ。
「兄妹ともども、僕達に協力してくれないか?」
……もう、そうするしかないのかな。
そう諦めかけたとき、やけに威圧感のある声が響く。
「うちの看守を懐柔しようだなんて、許せないね。なぁ零看守」
「まったくもってその通りですね」
「ア、アスター看守長とゴミ!?」
私がお兄ちゃん以外の人類で、唯一ゴミだと思えない存在だ。そもそもお兄ちゃんは人類ではなく神なのだが。
「君達はこれを知らないかな?」
そういうとアスター看守長は、首から下げた綺麗なアイオライトの宝石で作られたネックレスを見せつける。特有の輝きを放つこの宝石の見え方は、その場にいる全員から異なって見えている。
それは、いつの日にか忘れてしまった空の色にも似ていた。
「綺麗……」
女子の面々が恍惚とした表情を浮かべる。だが、そのネックレスが何を意味しているかは、看守であるヒサメですらわからなかった。
「カースなどという呪われた力とは異なり魔法は作りだせる」
アスター看守長は怒りを堪えているかのような声で語り出す。
「これは愚かなるお前たちへの手向けだ。魔法の耐性がない者に、魔法の力を授けると、身体が壊死していく」
本当なのか噓なのかわからないが、今は黙って聞くしかない。
「しかし、これは耐性がある者でも人体に影響を及ぼす特注品。すなわち毒だ」
そういうと、アスター看守長は首からアイオライトのネックレスを千切り、未来に投げつけた。
「ひゃぁっ!?」
未来の足元に、割れた宝石の破片が散らばる。
「未来!」
星が未来の元へ駆け寄る。
「来ないで!」
星が負傷してしまうリスクを考え、拒絶した。そして文字通り、時計の針が止まった。
星と未来はカルネの魔法よって教室に戻された。
「大丈夫か、未来」
「体が……重い」
未来の体は、先ほどの宝石のような青い輝きを放っている。
「生きろ、未来……!」
星は涙を流して訴えかけている。そして、教室の扉が開いた。
そこには、ヒサメがいた。
「殺す……ゴミが!」
「……凍れ」
未来が最後の力を振り絞る。
「無理すんな、未来!【IN MY HAND】」
しかし、時は止まらなかった。
「え、な!?」
「死ねえゴミ共!!」
ヒサメが指に業火を灯す。しかしその炎は、瞬く間に消えてしまう。
「え、なんで?」
「今だ!」
星はヒサメを思いっ切り殴り飛ばす。その衝撃で吹き飛ばされ、廊下に頭を打ち付ける。
「よし!これで……」
星がヒサメを抱えようと顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
「うちの部下がすみません、B組の皆さん。いや、愚か者共」
「零……」
相変わらず時は止まらないし、炎や嵐も起こせない。この状況で一番力を発揮できるのは、服従の魔法にかかり身体能力が強化された零だ。
「黒宮 星、君はやりすぎた。独房までご同行願おう」
「……わかった」
零の手によって未来に被害が加わるのが、星は許せなかった。
星は半ば諦め、独房までの歩みを進めていった。未来の体からは、未だに青白い煌びやかな光が発せられている。
12『叛逆者達』
目の前にいる元親友は、誰かと連絡を取っている。僕はこれからどうなってしまうのだろうか。
「脱獄犯を一人、確保しました。……はい、了解です。黒宮 星、主任看守が来るまで、少し待っていろ」
「……わかりました」
その時が来るまで、項垂れることしか出来ない。
「よく働くわね、零」
忌々しい声が聞こえる。
「それじゃ早速」
まさか……!!
そう思った頃にはもう遅かった。彼女の瞳は妖しく光り、僕を捕らえて離さない。
「服従魔法・【ハートチェーン】♡」
その瞬間、星は消えた。
「え!? 消えた」
「星のカース:幻影 ですかね」
「あら、取り逃しちゃったわね」
「すみません、トリネコ主任看守。再突撃しますか?」
「いいわ、また作戦を練り直しましょう」
「承知」
***
空き教室にC組の脱獄肯定メンバーが集った。
「あ、分身が消えた」
「うわびっくりした!」
「幻影が作られると本人は消えるんだね」
「最近、あんな感じで消えることもできるようになったんだ。本体がたまたま能力の使えないあの場に居合わせなくてよかった」
星のカースは、度重なる酷使から進化を遂げていた。放出された幻影が動いている間、星本人の体は透明化することができる(する・しないの選択可能)ようになった。
「……ねぇ、この子の周りにいると、カースも魔法も使えなくなるんだよね?」
「ああ」
「なら零君をこの子に会わせればいいんじゃ」
「その手があったか!」
生徒達やカルネの顔が明るいものとなっていった。
***
トリネコの部屋に、一人の優等生がいる。トリネコの魔法に充てられて洗脳状態に陥ってしまっているようだ。
「絶望した?零君。友達を殺そうとしたのよ、あなた」
「主任看守が一人の生徒に肩入れしていいんですか?トリネコ主任看守」
「そうねー……まぁ夜のお供としてはちょうどいいかしら。あなたかなりイケメンだし」
「癪に障る、黙れショタコン看守」
「あらぁ意外とSなのかしら?」
零が反抗しようとしたとき、トリネコの部屋の扉がノックされる。
「誰かしら」
トリネコは零にカースを再発動し、扉を開けた。
「誰もいない……零君、今のが誰かわかる?」
「わかりません」
「そう……解除っと」
その瞬間、零はニヤリと口角を上げた。
「今から二十四時間以内に、俺はあなたを殺します」
トリネコは吹き出した。
「あっはは! 天才って聞いてたのに拍子抜けだわ。二十四時間以内に私の魔法を解くっていうの?」
「ええ。こんな風に」
すると零は、トリネコの顔面を目掛け右ストレートを放った。しかしトリネコはひらりと身をかわし、零を抑えつけた。
「ぐっ……」
「あんたの焦ってる顔見るのは初めてだわ。いい気分。で、頭脳派がなに喧嘩売ってんの?脱獄は諦めたわけ?」
「トリネコ・キルハート。本名、シャンティー・コントルド」
トリネコの余裕そうな表情が一瞬にして曇った。
「カース人と結婚し、夫と子供は現在……死別か」
「あんた、なんでそれを……」
「少し違う、か」
「……っ!?」
「子供はいじめによる自殺。原因はハーフということによる差別。そして夫は……ああ、なるほど。捨てられたんだな。子供を残して」
「違う!!」
それは監獄のどこにいても聞こえるような怒号だった。
「あの男は……あいつには愛なんて一切なかった。やることだけやって私を……」
零は悲哀とも怒りともいえる顔を浮かべていた。同情しているのだろう。
「……お前のせいだ」
「ん?」
「お前を今すぐ独房にぶち込んでやる!」
「おいちょ……」
トリネコは独房に入れられた零を、まるでゴミでもみているかのような目つきで睨んでいる。
「そこで大人しくしていることね」
怒りを孕んだ声色だ。
「……もう一人の子、災難だったな」
「このっ……クソガキ」
「交通事故だったんだろう、弟をいじめから救おうとしていたのに」
トリネコはもはや怒りを忘れた。自らの過去を、消し去ろうとした過去を思い出した。封印した記憶の根を掘り返されたのだ。
「つくづく不幸な家族だな」
「なんでそのこと知ってるのよ」
「ふっ」
「なに笑ってんのよ」
「俺が知ってるのは”シングルマザーで子供は死去済”ということだけですよ」
「は……?」
トリネコは理解できず、その場に立ちすくんでしまった。
「プロファイリングってしってます?」
「それ警察とかが使ってたって言われる……」
「表情や仕草とかで人物の心理を読み取るってやつです。行動心理学や統計データを基にしていますが、あんなのもはのは基本、あてにはなりませんね」
「監獄にいながら一体いつそんなの学んだのよ」
「観察と思考と……直感です」
「ふふ……はははは!!劣弱の天才って神様にでも愛されているのかしら」
「神は俺が……」
ボソッと呟いたが、声に意思が籠っている。
「ん?」
「いえ、なんでも。ところでさっきの補足なんですけど」
「私を殺すとかいうやつ?」
「ええ。少し補足をすると、”俺は独房からあなたを殺します”」
「やってみなさいよ」
「ええ、勿論」
零の目が、妖しく光り輝いたような気がした。トリネコはごくりと唾を飲み込んで、牢屋を後にした。
「にしても、職場にあんなヒビ入った子供の写真置いとくかよ……。」
「零ちゃん大丈夫かな……」
未来はとっくに起き上がっていたが、零のことが気がかりなようだ。
「あの人ならきっとうまく切り抜けるわよ。私達でサポートしよ!」
心配する未来を凪紗が慰めている。
独房にいる零を除いて五人の叛逆生達が、空き教室に集まっていた。その時、星が所持しているトランシーバーからノイズが走る。直後、零の声が響いた。
『あー、あーあ、あー。マイクテス、マイクテス……』
「零、大丈夫なのか?」
『ああ、問題ない。叛逆生全員をここに集めてくれ』
「もう既に集まってる」
『やるな。C組の叛逆生に伝えたいことがある』
C組の三名がトランシーバー顔を近づけた。
『こちらのクラスにはスパイがいたんだ。特別看守と言うらしい。素性がバレたからか、もうクラスを出て行ったが……同じように、C組にもそういうやつがいる。たしか、小鳥遊とか言ったか』
クラスメイトがスパイだと知ったからか、顔をしかめている。そんな中、玲奈が冷静に答えた。
「そのスパイはどう私たちの邪魔をするの?」
『計画の情報を流されたな。だが、具体的な作戦を少数名に絞ったからそこまで致命傷は負っていない。だが、間違いなく厄介な存在だ。そいつのカース次第ではこの会話を聞かれている可能性だってあるからな』
「カース人なの?」
「うん、魔力じゃなくて呪力を感じたよ」
未来が自信満々に答えた。
『俺は疎いからそこらへんの区別つかないが、未来が言うなら間違いないだろう』
未来は嬉しそうに小さく微笑んだ。
『さて、君たちに別の命を下す』
全員の視線が星のトランシーバーに集まった。
『ヒサメ看守を捕らえるか、始末してくれ。詳しくは俺の机の中にあるノートに』
「確保か始末、どっちの方がいいのかしら?」
玲奈が冷静に問う。
『確保だ……』
零がそう言いかけた途端にブツリと通信が途絶えた。
「なんでこんなものが……」
篝は零のインカムを踏みつぶし、𠮟責するように言う。しかし零はそんなこと意にも介さない。
「たった今、お前の妹を殺す指示を出した」
「お前はそう言って、トリネコ主任看守も殺せない」
「果たしてどうかな……大事な妹を見捨てるのかい?」
「そんな挑発に乗るわけないだろ」
「ああ、そういえばスラムの出だったな」
「だからどうした」
「妹もそうだが学がないと思ってな」
「お前みたいなカース人に言われたくないな」
「そうか……せいぜい自分を恨むんだな。こんなことすら気づかないとは」
「どういう意味だ」
「今にわかるさ。何故俺が、わざわざ檻の外にいるお前の手がインカムに届く場所にいたのか」
その時、監獄内にサイレンが鳴り響いた。篝は嫌な予感を感じ走り去っていった。
「トリネコへの殺害宣言によって俺には安易に近づけない。バトロは監視だけで、星の幻影は判別できない。その状況で俺を監視するなら篝を使うと思ったさ。さて、ここから反撃だ」
星達は零の机の中にあるノートを取り出した。そこには、『ヒサメ看守の捕縛法』が記されていた。
……それは至って簡単、というか一見ふざけているようにも見えた。星は看守室へと駆けた。
「篝のバーカ!!」
「は?殺す。災害魔法【善悪浸災】」
「まじで釣れたよ、こいつ……申し訳なくなってきた」
そのまま星は、魔法で作られた小さな竜巻を避けながら教室まで誘導することに成功した。
「あ、ほんとに来た。凍てつけ、【絶対零度】」
刹那、教室が凍り付いた。反逆生の集まる教室で、ヒサメは逃げ場を失った。
「取引だ、ヒサメ看守。この人数差、受け入れるしかないと思うが」
「なによ、一応聞いてあげるわ」
ヒサメはキッとした威嚇のような表情を見せた。
「選ぶんだ、ヒサメ・アルテミス。兄の命か、看守の責務か」
「お兄ちゃんの、命……?」
その言葉が上手く咀嚼できないように眉をひそめた。
「そうだ。今から君の兄を殺しに行く」
「そんなことさせない!」
「お前らが僕らを閉じ込めるように!」
星の剣幕に、その場にいる誰もが驚愕した。
「俺たちがお前らを檻の中にぶち込んでやる!!」
「言ってくれるじゃないクズ共の分際で」
「それはどっちかな。今に零が証明するさ」
「やってみなさいよ」
「そこで黙って待ってな」
そういうと星は氷の剣の鞘で気絶させられた。
「爆破魔法・【インフェルノブラスト】」
「はっ!?まずい!」
その瞬間、未来が隔てた廊下と教室の氷壁が消失した。
「カース:電撃【迅雷閃華】」
玲奈がそう唱えると、辺りに光の花が咲いた。
「がはっ!?」
篝の鳩尾に強烈な痛みが走る。そのまま地面に倒れ込んだ。
「……ヒサメを……返せ」
痛みに悶えながらもなお、この世の全てを恨むように睨みつけてくる。
「残念だけど、あなたも拘束させてもらうわ。カース:温度【惨寒死温】
篝の身体が段々と冷え、次第に意識が薄れていった。
……ヒサ……メ。未来には、そう呟いたように聞こえた。無意識に目を細めていた。
「よし、こいつを運べば零からの要望は達成だな」
「あとは零君が上手くやってくれるはずね」
「……そうだね」
本当にこれでよかったのだろうか。未来の心に、一本の翳りが生まれた。
その頃、零は、バトロ看守に頼み、看守長と謁見していた。
「天才よ。自分が言っていることが理解っているのか」
「ええ。私はあなた方の期待通りの、天才ですよ」
「そうか。許可しよう」
「ところで看守長殿」
「なんだ」
「この監獄、魔法の発動には条件があるのでは?」
「前提として、生徒を殺傷しかねない規模の魔法は禁止だ」
「では、先程の篝看守の爆発魔法は、どうなのでしょう。私がバトロ看守と共にここに来た時、天井にヒビが入ってましたが」
「……処罰の対象だ」
「では、篝看守を、私の正面の独房にいれてください」
「おい天才。貴様が要求できる立場とでも?」
「その方が都合がいいのでは?直接監視できますし、私一人の命など、吹き飛ばせばいいのですから」
「ははははは。今更だが、随分と肝の据わった奴だ。その豪胆さがいつまで持つかな」
「死ぬまで、ですよ」
零が宣言すると、アスター看守長はお手本のような高笑いをしてみせた。
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