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突然出現した謎の光――ヴェントをまじまじと見つめた空雅は、何を思ったのか、首をこてんと横に倒した。
「……そもそもあなたって、何なんですか?」
『わたしはねぇ……えへへ、何でしょ~かっ?!』
「わからないから聞いてるんですよ……」
『仕方ないなぁ』
ヴェント、元謎の声だけあって謎の上から目線である。
『わたしは、風の精霊だよぉっ』
「……風の精霊……?」
(えっと、「記憶」によれば、精霊というものは明確な人型をとって姿を表すと……では、これは一体……?)
『あれ?』
ヴェントは、戸惑ったように光を揺らした。
『クウガ、ハイエルフでしょ? 伝承知らないの?』
「伝承?」
『えぇ~?!』
ヴェントは、ピューン……と梢を突き抜け、空高く舞い上がっていった。
空雅は手で庇を作り、太陽の光で霞んで見えなくなった精霊を探した。
『ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃった!』
「ぅわぁっ」
突然耳元で聞こえてきた声に、空雅はその場から飛び退いた。
いつの間にやら戻ってきていたようである。
『あれ、よく見てみたら……クウガ、凶兆の子だったんだね』
「凶兆の子?」
空雅は、きょとんとする。
(さっきから伝承だとか凶兆の子だとか、意味分かんないことばっかりです……)
気にすべきはそこではないはずである。
ここは、明らかに酷い呼称であることに憤るところではないだろうか。
『ハイエルフではね、赤い目の子は凶兆の印ってされて捨てら――追い出されるんだよ』
ヴェントは、言い換えても大して言葉の酷さが変わっていないことを自覚するべきである……。
「赤い目……」
空雅は、目を輝かせる。
(僕の目、なかなかカッコいい色じゃないですか!)
彼的には、はしゃぐポイントだったらしい。
「僕、実はまだ、自分の顔見たことないんです」
『えぇ?! ダメだよ、そんなのもったいない!』
ヴェントも大概である。
『こっちにきれいな泉があるよ!』
導かれるがままに空雅が森を進むと、不意に木立が途切れた。
「わぁぁ~っ」
澄み切った泉の水面は、陽光でキラキラと輝いている。
明らかに周囲の森とは異なる神聖な美しさに、空雅は息を呑んだ。
そのまましばらく放心していたが、しばらくして戻ってくると、水辺に足を進めた。
「……映りません」
水の純度が高すぎて、反射どころではないのである。
(せっかく、今生の僕の顔を拝めると思いましたのに……)
わくわくが急速にしぼんでゆく空雅。
ある意味、通常運転である。
『水の精霊に頼むんだよっ』
「……水の精霊さん、僕の顔を映すお手伝いをしてくれませんか。僕、まだ自分の顔を知らないんです」
ヴェントの言葉には、従うべし。
逃亡劇で空雅が学んだ、最重要事項である。
『その前に自分の体を癒やしてはどうかしら?』
再び謎の声。
(あ、これが水の精霊さんの声ですね)
空雅にとってはこれしきの謎、容易かったらしい。
「僕の体ですか?」
『そうよ。ほら、泉の水をお飲みなさい。無属性の精霊王にして全精霊の大王が癒やしを付与してくれたのだから、効果は折り紙付きよ』
「ありがとうございます。いただきます」
水をすくった途端、あかぎれだらけだった手がすべすべになる。
空雅はそんな変化にも気が付かず、何度も何度も、魅入られたように水を飲んだ。
「――ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
『ふふふ……』
水の精霊が、笑いだした。
空雅の近くに浮遊していたヴェントも、愉快そうに点滅している。
「……どうかしましたか?」
『水に触れたところだけお肌がプルプルだから、おかしくて……ごめんなさいね、ふふふ……』
(たしかに……きれいに境目ができています)
空雅の美的センスには合わなかったようで、唇を尖らせた。
『もういっそ、水浴びしてしまいなさいな』
空雅は喜々として頷きそうになったが、すんでのところで押さえた。
(精霊には性別はないそうですが……女性の口調ですし、一応……)
『大丈夫よ、わたくしたちには性別など存在しないもの』
『そうそう! 自我が芽生えた頃に近くにいた子の口調が染み付いてるだけだから』
「よし、ありがとうございますっ!」
今度こそ空雅は一切の躊躇もせず、ボロ雑巾のような服を脱ぎ捨て、泉に飛び込んだ。
「あぁ~……」
温泉に沈むご老人の至福の声だろうか。
空雅の若々しい十六の喉から出されたとは思えない声だ。
「……生き返ります……」
空雅はうっとりとして――泉に沈んだ。
故意に潜ったわけではない。
完全なる事故で、溺れかけたのである。
(……油断大敵です)
浮上してきた空雅は、口から水を吹き出しながら遠い目をした。
(浮き輪、ほしいです……)
相変わらず、思考の読めないハイエルフである。
『あら、ずいぶんと不思議な魂の形をしているのね』
『ほんとだー! ハイエルフって、みんな前世の記憶持ってるけど、なんか一味違うねっ』
「え……ハイエルフ、記憶持ちなんですか?」
『うん、そういう種族だからねっ』
空雅は目を剥いて――もごっと奇声を上げて泉に沈んだ。
いくら天才といえども、クロールとおしゃべりの同時並行はできなかったらしい……。
「……そもそもあなたって、何なんですか?」
『わたしはねぇ……えへへ、何でしょ~かっ?!』
「わからないから聞いてるんですよ……」
『仕方ないなぁ』
ヴェント、元謎の声だけあって謎の上から目線である。
『わたしは、風の精霊だよぉっ』
「……風の精霊……?」
(えっと、「記憶」によれば、精霊というものは明確な人型をとって姿を表すと……では、これは一体……?)
『あれ?』
ヴェントは、戸惑ったように光を揺らした。
『クウガ、ハイエルフでしょ? 伝承知らないの?』
「伝承?」
『えぇ~?!』
ヴェントは、ピューン……と梢を突き抜け、空高く舞い上がっていった。
空雅は手で庇を作り、太陽の光で霞んで見えなくなった精霊を探した。
『ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃった!』
「ぅわぁっ」
突然耳元で聞こえてきた声に、空雅はその場から飛び退いた。
いつの間にやら戻ってきていたようである。
『あれ、よく見てみたら……クウガ、凶兆の子だったんだね』
「凶兆の子?」
空雅は、きょとんとする。
(さっきから伝承だとか凶兆の子だとか、意味分かんないことばっかりです……)
気にすべきはそこではないはずである。
ここは、明らかに酷い呼称であることに憤るところではないだろうか。
『ハイエルフではね、赤い目の子は凶兆の印ってされて捨てら――追い出されるんだよ』
ヴェントは、言い換えても大して言葉の酷さが変わっていないことを自覚するべきである……。
「赤い目……」
空雅は、目を輝かせる。
(僕の目、なかなかカッコいい色じゃないですか!)
彼的には、はしゃぐポイントだったらしい。
「僕、実はまだ、自分の顔見たことないんです」
『えぇ?! ダメだよ、そんなのもったいない!』
ヴェントも大概である。
『こっちにきれいな泉があるよ!』
導かれるがままに空雅が森を進むと、不意に木立が途切れた。
「わぁぁ~っ」
澄み切った泉の水面は、陽光でキラキラと輝いている。
明らかに周囲の森とは異なる神聖な美しさに、空雅は息を呑んだ。
そのまましばらく放心していたが、しばらくして戻ってくると、水辺に足を進めた。
「……映りません」
水の純度が高すぎて、反射どころではないのである。
(せっかく、今生の僕の顔を拝めると思いましたのに……)
わくわくが急速にしぼんでゆく空雅。
ある意味、通常運転である。
『水の精霊に頼むんだよっ』
「……水の精霊さん、僕の顔を映すお手伝いをしてくれませんか。僕、まだ自分の顔を知らないんです」
ヴェントの言葉には、従うべし。
逃亡劇で空雅が学んだ、最重要事項である。
『その前に自分の体を癒やしてはどうかしら?』
再び謎の声。
(あ、これが水の精霊さんの声ですね)
空雅にとってはこれしきの謎、容易かったらしい。
「僕の体ですか?」
『そうよ。ほら、泉の水をお飲みなさい。無属性の精霊王にして全精霊の大王が癒やしを付与してくれたのだから、効果は折り紙付きよ』
「ありがとうございます。いただきます」
水をすくった途端、あかぎれだらけだった手がすべすべになる。
空雅はそんな変化にも気が付かず、何度も何度も、魅入られたように水を飲んだ。
「――ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
『ふふふ……』
水の精霊が、笑いだした。
空雅の近くに浮遊していたヴェントも、愉快そうに点滅している。
「……どうかしましたか?」
『水に触れたところだけお肌がプルプルだから、おかしくて……ごめんなさいね、ふふふ……』
(たしかに……きれいに境目ができています)
空雅の美的センスには合わなかったようで、唇を尖らせた。
『もういっそ、水浴びしてしまいなさいな』
空雅は喜々として頷きそうになったが、すんでのところで押さえた。
(精霊には性別はないそうですが……女性の口調ですし、一応……)
『大丈夫よ、わたくしたちには性別など存在しないもの』
『そうそう! 自我が芽生えた頃に近くにいた子の口調が染み付いてるだけだから』
「よし、ありがとうございますっ!」
今度こそ空雅は一切の躊躇もせず、ボロ雑巾のような服を脱ぎ捨て、泉に飛び込んだ。
「あぁ~……」
温泉に沈むご老人の至福の声だろうか。
空雅の若々しい十六の喉から出されたとは思えない声だ。
「……生き返ります……」
空雅はうっとりとして――泉に沈んだ。
故意に潜ったわけではない。
完全なる事故で、溺れかけたのである。
(……油断大敵です)
浮上してきた空雅は、口から水を吹き出しながら遠い目をした。
(浮き輪、ほしいです……)
相変わらず、思考の読めないハイエルフである。
『あら、ずいぶんと不思議な魂の形をしているのね』
『ほんとだー! ハイエルフって、みんな前世の記憶持ってるけど、なんか一味違うねっ』
「え……ハイエルフ、記憶持ちなんですか?」
『うん、そういう種族だからねっ』
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