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おいも ぐるぐる
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メールが届いた。
差出人は、エスカルゴちゃん!
懐かしい名前だ・・・。胸が高鳴るぜ。
エスカルゴちゃんは、お芋さんの幼なじみで、気を失うほど可愛い女の子だ。町でも二番、三番を争うだろう。
昔は、いつも一緒に甘い時間を過ごしたものだ・・・。
エスカルゴちゃんの頼みとあれば何でも聞いてあげた。メロンパンを買いに走ったり、路地裏でお金持ちの子どもから小銭をいただいたり・・・。
そんな彼女が、ある日突然行方不明になり、かれこれ2年も音沙汰がなかったのだ。
そろそろ見切りをつけて新しい彼女を探そうかと考え始めた矢先のメール。
ワクワクして開いてみると・・・
「回転寿司に来たら、皿を取りすぎた。さっさとお金持って来んかい、ぼけ!」
と書いてあった。
お芋さんは待ってました!とばかり、できうる限りのお洒落をして、回転寿司屋に向かった。車も自転車も馬も持っていなかったので、とにかく全力で走った。
「やっぱり僕はエスカルゴちゃんに頼られてるなー! 隅に置けないね。」
3時間で到着。
目の前の横断歩道を渡れば、回転寿司「シャトーブリアン」だ。
だがその時・・・いやな奴に出くわした。
「お芋じゃないか。へへっ、焼き芋にしたろか。」
「レロ・・・」
町一番の意地悪少年、レロレロだった。こいつは、とにかく心がゆがんでいて、いつも舌をレロレロさせていた。
「芋の分際で、回る寿司に舌鼓か。」
お芋さんはカッとなったが、同時にハッとした。こいつ、エスカルゴちゃんの居場所を聞きつけて、レロレロしに来たに違いない…。やばい!
思うやいなや、お芋さんは横断歩道を駆け出した。
お芋さんが走ったので、レロレロも釣られて走った。
たまたまその横断歩道には、おじいさん15人とおばあさん16人が歩いており、かなり混み合っていた。お芋さんは一人一人避けながら走った。
一方のレロレロは、おじいさんもおばあさんも突き飛ばして走ったので、あっという間にお芋さんを追い抜いてしまった。
勝ち誇ったレロレロは余裕の表情だった。最後にはおばあさん1人、手を引いてあげて横断歩道を渡りきったほどだ。
「レロレロめ…。ツンデレな奴だ。」
そんなこんなで、レロレロに続いてお芋さんもシャトーブリアンに駆け込むと・・・
ゴォーーーーーーー
凄まじい音がしている。
よほど人気がある店なのか、店内には10人ほどの順番待ちの行列ができていた。
レロレロとお芋さんはその最後尾についた。
ゴォーーーーーーーー
「大将、今日もよく回ってるねぃ!」
お芋さんは知った風なことを言ってみたが、実は回転寿司は初めてだった。
そもそも大将の姿は見えない。「いらっしゃいませ」の声もない。
ゴォーーーーーーーーー
この轟音のせいで聞こえないのか。
チラッと見ると、レロレロもあまりの回りっぷりに驚いたのか、顔をレロレロさせていた。
さて、この町の回転寿司は、
皿ではなく、客の方が回っている。
カウンター席1周のみの小規模な回転寿司屋なのだが、椅子にどんな動力が仕掛けてあるのか、とにかく目に見えないほどの速さで周っているようだ。
客が何人か座っている気配はあるのだが、はっきりわからない。なにかベールに包まれているというか、見えない壁があるようで、客はもちろんのこと、カウンターの内側にいるはずの寿司職人の姿も見えなかった。
お芋さんは、エスカルゴちゃんが座っているか確かめようと、回転速度に合わせるように何回か首を振り回してみた。
ゴキッ!
「痛っ!」
よろけてレロレロの腕の中に倒れ込んでしまった。
「わりぃ。」
微笑みかけて離れた。
「速すぎて合わせらんないよ。 困ったな…。エスカルゴちゃん、ほんとにこの寿司屋にいるのかなぁ。」
エスカルゴちゃんは、おそらくこの回転している見えない輪のどこかに座っているはず。声が聞こえやしないかと今度は耳を澄ませた。
「なんとなく聞こえるような気がするけど…」
お芋さんはひらめいた!
電卓を取り出して椅子の回転速度を計算すると、両手で耳をふさぎ、一周に一回のタイミングで耳を開けてみた。
すると、雑踏の中から女の子の声が分離できた。
「い」
「も」
「ま」
「だ」
「か」
エスカルゴちゃんは確かにいるようだ!
早く逢いたい気持ちを抑えているうちに、順番待ちの列は少しずつ短くなり・・・、
レロレロとお芋さんの前には2、3人しかいなくなった。
とうやって席に着くのか?
あれだ。
助走台が目の前に見えてきた。
その時!
バザーーーーーっ
突如回転の中から男が一人飛び出して床に倒れ込んだ。
どうやら気を失っているらしい。
助走台を飛び出した途端に撥ね飛ばされたのか、あるいは、食べ終わって帰ろうとしただけなのか、不明だ。
店内を見回すと、他にも5、6人、床に転がっていた。
そうなる理由について思考を巡らせているうちに、とうとうレロレロの番がきた。
ゴオーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前に猛烈な速さで回転する見えない壁が迫る。
レロレロだって怖いのだ。
動けなかった・・・。
横断歩道から手を引いてきたおばあさんを先に行かせることにした。
おばあさんは、
「フガーーッ!」
と雄叫びをあげるやいなや、信じられない勢いで助走台から飛び出し、回転の中に消えていった。
向こうの方で、また男が一人、バザーっと床に倒れ込んだ。
レロレロが、心細そうに寄ってくる。
「おい、芋。俺といっしょに大人の世界へ飛び込んでみないか。」
「いいよ。」
2人は手をつないで回転の中に飛び込んだ。
「それーっ!!」
その瞬間・・・
見えないベールを通り抜けた!
ゴツンと、何かにぶつかったようだが…気のせいか。
数秒後、お芋さんは何事もなかったかのように、カウンター席に座っていた。
外から見るとあんなに凄まじいスピードで回転していたはずなのに、ここでは全くそれを感じない。実に静かで落ち着いた雰囲気だ。
不思議だ…。
目の前を寿司の皿が次々と流れていく。
実際には寿司の皿の前を、座っている椅子の方が動いている。非常にゆっくりで、十分手に取れる速さだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、カウンターの内側、皿の列を挟んでお芋さんの真正面に、スナックのママが立っていた。年は40代半ばだろうか、いや50代後半かもしれない。きれいな人だが、化粧が地層だ。寿司屋にいるのは寿司職人だと思い込んでいたお芋さんは、自分が浅はかだと悟った。
スナックのママは、お皿といっしょにゆっくりと左へ流れていく。いや、流れているのはお芋さんの方なのだが、錯覚で分からなくなってきた。
「私、カニ子よ。」
「は、はい・・・。カニはどんな字を?」
「ハサミのある方よ。」
「そうでしたか。
「水割りになさる?」
言い方に艶があった。
「粗茶でいいです。」
「あら、そう。」
ママはちょっと不機嫌そうに、すでに作っていたドブロクの水割りを皿に乗せて、流れる寿司の皿に割り込ませた。そうしている間にも、皿もママもだいぶ左の方へ行った。
あ、そんなの見てる場合じゃない。
エスカルゴちゃんはどこにいるのだろう!?
向こう正面の席にも見当たらない。
お芋さんは周囲を見回した。
お芋さんの左隣りには、小学生ぐらいの男の子を挟んでその両親が座っていた。
「年に一度しか来ないんだから、もっと食べなさい。」
「うん。」
家族で楽しいはずなのに、どことなく淋しそうだった。
そして親子のさらに左隣りにはレロレロがいた。
レロレロの左隣りにはレロレロの元彼女らしき顔グロな女の子が偶然いて、なにやら小競り合いを始めていた。それを、流れてきたスナックのママがたしなめている。
「私、カニ子よ。さあ、ドブロク浴びるほど飲んで、昔のことは便器に流しちゃいなさいよ。私だってさあ、若い頃は男を渡り歩いたものよ。」
ワタリガニだ。
今度は右側に目をやると、お芋さんの隣りには横断歩道のおばあさんが座っていて、小皿になみなみと注いだ醤油を、三々九度のように美味しそうに飲んでいた。
「う~ん、効くね~。」
おばあさんの右隣りには、黒い服を着た男が座っていた。
あれは・・・有名な
「どっちから見ても同じ人」
ではないか。
よその町から来たらしい風来坊で、本当の名前を知る者はいないが、そう呼ばれていた。人の良さそうな男だ。
お芋さんはこの「どっちから見ても同じ人」が、本当にどっちから見ても同じなのか興味があった。
だが、今はエスカルゴちゃんが先だ。
カウンターに沿って一周ぐるりと見回してみたが、どこにもエスカルゴちゃんらしき女の子はいない・・・。
「ひょっとして、僕が席に着いた時に弾き飛ばしちゃったのかも。」
恐る恐る後ろを振り返って見た。
「あれっ?」
何も見えなかった。
淡い光のベールに覆われているようで、店内も、外の風景も、何も見えない。
やはりこの回転席は、何か見えない壁に仕切られているのか。
まあ、いいや。
焦る気持ちはさておいて、お腹も減ったので、寿司でも取って食べよう。
気づけば、正面には金魚すくい名人が周ってきていて、目にも留まらぬ速さで金魚をすくっては皿に乗せ、自慢げに次から次へとお芋さんの前に置いた。だがお芋さんがそれを取らなかったので、そのまま名人といっしょに左隣の親子の前へ移動していった。
親子も手を出さなかった。名人は出目金のように不服そうな顔をして金魚をすくいまくった。
そしてさらに無関心なレロレロの前を通過して、レロレロの元カノの前へ流れていった。
元カノは、それに手を伸ばした。
名人の目が輝いた。
元カノは立て続けに2、3皿取って食べたところで飽きてしまい、そっぽを向いた。
どうやら一度はゲテモノ食いをする性格らしい。レロレロもこんな調子で誘われ、飽きられたのだろう。
向こう側で、ブギウギを踊るスナックのママの後ろ姿が見えた。
ママの前には、老夫婦が15組ほど座っており、みんなイケイケな感じだった。
さて、お芋さんの右隣りのおばあさんをチラッと見てみると、その正面に回ってきた寿司職人と真剣勝負の真っ最中だ。
なんだ、この店にはちゃんと寿司職人もいたのか。
小柄だが、人間国宝のような貫禄を持つ老人だ。
おばあさんは、目を閉じてしばらく考え込んだ後・・・おもむろに目を開けた。
その視線は、寿司職人の鋭い眼光とぶつかり、火花を散らした。
「いわし!サビ抜き、つゆだくで!」
「あいよ!」
さすがはこの道50年の職人だ。手際よくシャリを掴むとイワシをのせて軽く握り、皿に載せて汁をかけるまで30秒とかからなかった。
しかし、その時すでにお芋さんの前まで流れてきていたので、手の短いおばあさんはその皿を取り損ねた。
「ちくしょう、わしももうろくしたものじゃのう。」
お芋さんは、流れていく寿司職人を追うおばあさんの遠い目に、光るものがあるのを見逃さなかった。そしてお芋さんは申し訳なさそうにイワシの汁だくを手に取って食べた。
一言では語り尽くせない、年季を感じさせる味だった。
寿司職人もしばらくおばあさんの方を見ていたような気がした。
レロレロが寿司を注文する声が飛んだ。
「中トロ! シャリ抜きで、トロ抜き!」
意地悪な奴だ。
「あいよ!こちとら江戸っ子でい!」
老職人は、レロレロにワサビを握って差し出した。
お芋さんは、「どっちから見ても同じ人」が気になっていた。
どうしてもこちらからは見えない右側から見てみたかったのだ。
でも、席を立った途端、外の世界にはじき飛ばされるのではないかという恐怖心が、好奇心に勝てなかった。
その「どっちから見ても同じ人」の前に流れてきた次の職人は、
「マジじゃん!なマジシャン」
だ。
黒いハットの中からハッと驚く技でハトを出したり、袖口から鰻(うなぎ)と見せかけてウサギを出したりして皿に乗せて流していたのだが・・・
「どっちから見ても同じ人」は、全く表情を変えなかった。
マジじゃんなマジシャンは青ざめた。プロとして恥ずかしい。このまま箱に入って外から何本も刀を刺されるマジックで刺された方がマシだ、と思ったに違いない。だが、隣のおばあさんが引き付けを起こしたのを見て、少し自信を取り戻したようだった。
そのあと左の方でレロレロが、流れてきたうさぎの耳を掴んでいた。
お芋さんも、何か美味しいものが来ないかなと思っていると・・・、
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
上流から大きな大きな桃が流れてきた。
・・・お芋さんは手を出さなかった。
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
隣の親子も、手を出さなかった。
ぶらぶら
どんぶら
レロレロは大きな包丁を構えたが、
一回溜息をつき、結局、手を出さなかった。
元カノも今度は見向きもしなかった。
大きな桃は下流へと流れていった・・・。
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
桃に続いて、大きなでんでん虫が流れてきた。
でんでん
どんちゃか
でんでん
どんちゃか
でんでん虫??
いや~ん、待ってよ。
違う違う!
これは・・・
エスカルゴちゃんだ!
エスカルゴちゃんが流れてきたぞ!!
「エスカルゴちゃん! 芋、参上しました!」
「どれだけ待たせるのよ!ボケ! 売り飛ばされて、皿に乗せられちゃったじゃない!」
「すみません!でも僕、エスカルゴちゃん一筋縄っす!あいかわらず美人さんですねぇ。」
とり繕う間にもエスカルゴちゃんは目の前を右から左へ流れていく。下流でレロレロがナイフとフォークを持って目を輝かせていた。
「いかん! 待って!レロレロに食われる!!」
エスカルゴちゃんに続いてお芋さんの前に流れてきた皿には金魚が乗っていたが、そんなこと構わず、とっさにその皿の上に飛び乗った。
金魚が
「ふぎゃーっ」
と暴れた。
お芋さんは“伏せ”をする犬のような格好になっていた。
皿は狭いと思ったが、乗ってみると意外にそうでもなかった。
お芋さんの目の前にはやはり“伏せ”をするエスカルゴちゃんのお尻姿がある。二人は連なってレーンを進む格好になった。いや、ここでまた冷静に考えてみれば、動いているのは客の方なので、二人は“伏せ”の格好で皿に乗って止まっているだけだ。
「レロレロー!エスカルゴちゃんに手を出すなー! 代わりに俺を食えー!」
「芋なんか食えるか。」
レロレロがエスカルゴちゃんの皿を取ろうと手を伸ばしかけた!
「特急に乗り換えるわよ!タイミング計って!」
「えっ!?」
その時、一つ内側の上段にあるレーンに前方からこっちに向かってものすごい速さで2枚のお皿が走ってきた。二人は横っ飛びしてそれに乗り換えた。
「わぁーーっ」
急に進行方向が逆になり、落ちそうになったが、皿のふちを掴んでなんとか耐えた。
「逆回りに乗っちゃったわね・・・。」
2人は“伏せ”をする犬のような格好で特急皿にしがみついていたが、さっきのままの向きだったため、お芋さんはエスカルゴちゃんのお尻姿を見ながら後ろ向きに進む形となっていた。
ちょっとカッコ悪いので、2人はその場でゆっくりと回れ右をした。
今度はエスカルゴちゃんの目の前にお芋さんのおケツがある。
お芋さんは機関車の運転手になったかのように誇らしげだった。
周りがなんとなく霞んで見える・・・。
また不思議な空間に入ったような気がした。
猛スピードの皿に乗っているはずなのに、景色の流れはスローに見える。
何だか変な感じだ・・・。
「エスカルゴちゃん、これ、どうなってるの?」
「時間をさかのぼってるわ。」
「え?」
この回転寿司屋は、時計回りすると時間が進み、反対回りすると過去に戻っていくのだと、ここに長時間入り浸っているエスカルゴちゃんが研究結果を教えてくれた。
特急お芋号はあの親子の前を通過。
両親は泣いているようだった。どうしたのかなぁ・・・。男の子がさっきより2、3歳小さくなったように見える。
会話が少しだけ聞こえてきた。
「お兄ちゃんの大好きだったプリンを食べようか。」
「うん・・・。」
「あの子にはお兄ちゃんがいたんだけど、交通事故で死んじゃったのよ。それから毎年、お兄ちゃんの誕生日に家族で来てるの。回転寿司が好きだったんだって。」
エスカルゴちゃんが言った。
「そうなんだ・・・。」
その時前方に、寿司の皿を霞が関ビルのように高く積み上げている客がいた。
「あ、あれは・・・」
だんだん近づいてきた。
「あれはエスカルゴちゃんだ! えっ!?」
後ろを振り返ると、やっぱりここにもエスカルゴちゃんがいる。
前方に見える“客”のエスカルゴちゃんは数時間前の姿。
財布を裏返していたが中身は空っぽらしい。バタバタしながら携帯電話を出し、誰かにメールを打っているようだった。
すると右隣にいた黒い服を着た人の良さそうな男が、エスカルゴちゃんに何か話しかけている。
二人の前を通過するとき、デレデレした会話が聞こえてきた。
「いい食べっぷりだねー。感心しちゃうよ。」
「そ、そうかしら、おほほ・・・」
「よかったら、僕におごらせてよ。」
「え?いいんですの?」
「もちろん。ほら、もっと好きなだけ食べて。」
お芋さんは、その男に見覚えがあった。
「どっちから見ても同じ人」だ!
エスカルゴちゃんのピンチを救うという手柄を彼に取られたことが悔しかった。通り過ぎてからもう一度振り返った。
「ん!? あいつは!」
あんなに人の良さそうな男だったのに、右の横顔を見ると、それはそれは残忍そうな目つきをしていて、カギ鼻で、口は耳元まで裂けていた。
「あいつは!どっちからみても同じ人、じゃない。」
「わたし、あの男に騙されちゃった・・・。」
後ろでエスカルゴちゃんがポツリと言った。お芋さんは、あの後どうなったんだろうと、いろいろと思考を巡らせたが、直接エスカルゴちゃんに聞く勇気がなかった。
二人の特急はスピードアップして何周かした後に、またあの親子の前を通った。
落ち着きのない小さな兄弟が、パクパク寿司を食べて皿を積んでいた。
「こら、ちゃんと座って食べなさい!」
「俺、プリン食べたーい!」
「僕も~!」
「わかった、わかった、今度回って来る板前さんに頼もう。」
家族の前にマジじゃんなマジシャンが来た。
お兄ちゃんが元気よく言った。
「プリン出してよ!。」
マジシャンは、不意を突かれて少し困った顔をしたが、すぐにニコッとプロの笑みを見せ、おまじないをして、黒い大きなハットを頭からサッと取ると、
黄色く輝くハゲ頭が、プリンっ!と現れた。
ギャッハッハッハ・・・
子どもたちは笑いながら、カラメルシロップをマジシャンの頭の上から大量にかけた。
たら~~~っ
と、いく筋も額に流れ落ちる。
「気持ちわる~~。」
「こんなの食えるかよぉ。」
わっはっはっは・・・
わっはっはっは・・・
家族の笑い声がだんだん遠ざかっていった。
二人の特急は、どんどん時間をさかのぼっていく。
左前方にブギウギを踊るスナックのママが見えてきた。ママの前には若い男の客が5~6人群がっている。
「あれっ、若い・・・。」
ママの化粧は地層になっていなかった。しゃべり方だけでなく肌にも艶があり、男たちはイチコロだった。
「渡り歩いていた頃のカニ子だ。」
それからさらに何周しただろうか、若い婦人が寿司職人と話しているのが見えた。
「帰ってこないのね?」
「俺は、一人前の寿司屋になるまでここで修行するって決めたんだ。何年先になるかわからねえ。だがいつかお前の舌を唸らせてやるよ。それまで待ってな。」
若い婦人はあのおばあさんに違いない。
ひどい亭主だ。自分の信念のために女房に寂しい思いをさせるなんて・・・。
お芋さんが一生エスカルゴちゃんと一緒にいようと心に誓った、
その直後!
「エスカルゴー!」
どこか遠くで呼ぶ声がした。
と思ったら!
キーーーー ガシャ。
特急お芋号は急停車した。
そして、わずかな沈黙の後、
グォ~~~ン
反対方向に進み始めた。
「わ~~~~~っ」
どんどん加速していく。
「誰かが私を注文したわ。」
また二人は後ろ向きに進む格好になっていたので、ゆっくりと回れ右をした。
下り特急「エスカルGO!」になった。
時の流れのどこかで、エスカルゴちゃんを注文した客がいる・・・。
お芋さんは焦った。
今度は猛スピードで時間を進んでいる・・・。
何周まわった頃だろうか、前方でレールのポイントが切り替わる音がした!
ガタガタッ
「わおっ!」
皿が大きく揺れて、特急は別の路線に入った。
しかしスピードは落ちない。
どこまで行くんだろう?
もう元の時間を通り越してしまっていないか。
でも止まってほしくなかった。エスカルゴちゃんを注文した客の前で止まったら、もうおしまいだ。不安感が高まる・・・。
「お客さん、なんにしましょう。」
「アナゴください。」
「あいよ!こちとら江戸っ子でい!。」
威勢のいい声が耳に入ってきた。
あの年老いた寿司職人だ。
「アナゴは俺に任せろ。シャリ頼む。」
「あいよ、あんた。」
職人の隣には、同じように年老いた奥さんがいて、寿司を握っていた。
だが老職人はにゅるにゅるのアナゴをなかなか捕まえられず、二人で悪戦苦闘していた。
「ありゃ、一生修行だな・・・。」
お芋さんは、さっきと別の未来に進んでいることを悟った。
左の車窓にあの親子が見えてきた。
もう両親よりも背が高くなった男の子が二人、寿司をガツガツ食べて皿を高く積み上げていた。
「おい、ちょっとは遠慮してくれよ。」
「まああなた、一年に一度ぐらいいいじゃない。」
「最後は、プリンで締めていい?」
「俺も!」
お芋さんは、こっちの未来でよかったと思った。
右の車窓を見ると、カニ子がブギウギを踊っていた・・・。
とその時! 列車は急停車した!
そして前に向き直ったお芋さんは
ぶったまげた!
エスカルゴちゃんがいない!!
「どこで降りたんだ!?」
ほんの一瞬の隙を突かれた。何が何だか訳が分からない。
仕方なく、お芋さんは皿から飛び降りた。
気付くと元のカウンター席に座っていた。
正面に回ってきたのは、ひょっとこ顔の、どじょうすくい名人だ。調子のいい音頭に乗って踊りを披露してくれた。実際にどじょうをすくっているわけではないので、皿には何も乗らない。
お芋さんは、そんなものには目もくれず、キョロキョロとエスカルゴちゃんを探した。
名人は、ひょっとこ顔の口を一層尖がらせて踊りながら左へ流れていく。
するとカウンターの向こう正面がお芋さんの視界に入った。
「あっ、エスカルゴちゃん!」
エスカルゴちゃんが座って寿司を食べている!
お芋さんは一瞬喜んだ。
だが、その隣になんと・・・、
レロレロが座っているではないか!
二人はどう見ても恋人どうしだ。
エスカルゴちゃんがお寿司をレロレロに
「あーん」
とかやっている。
レロレロの顔が、ポッと赤くなった。
「あいつ・・・。」
レロレロは、舌さえ出さなければ、
キリッと目に力が入っていれば、
そして言葉を発しなければ、
そこそこのイケメンである。
負けた、
と思った・・・。
エスカルゴちゃんが、お芋さんの方に一瞬だけ笑いかけた気がした。
正面に、カニ子がブギウキを踊りながら流れてきた。化粧はミルフィーユだ。
「粗茶でいいかしら?」
「ドブロクの氷割をください。」
カニ子は思わずニコッとして、ミルフィーユが一枚、剥がれ落ちた。
お芋さんは飲みたい気分だった。
ドブロクをグイッといきながら、
数分後にはすっかり酔っぱらって、隣に居合わせた客に管を巻いていた。
右隣に座っていた黒い服の男は、お芋さんの愚痴話を親身に聞き、アドバイスをしてくれた。
エスカルゴちゃんを取り戻したいなら、もう一度特急皿に乗って過去からやり直す手がある。だが、お芋くんがエスカルゴちゃんに相応しい男にならない限り、使いっ走りの域を出ない。重要なのは忍耐と鍛錬だよ、と。
お芋さんは、その通りだ、と思った。
「どこのどなたか存じませんが、おじさん、ありがとう。」
焦点の合わない目で黒服の男を見つめながら、男に巻きつけた長いホースを少しずつ解いていくと、
「れれ!?」
見覚えがある。
「あなたは・・・どっちから見ても同じ人!」
いや、待てよ・・・。右から見たら極悪人かもしれない・・・。
「心配ご無用。」
そう言って、男は、ゆっくりとお芋さんの方に顔を向けた。
「あ・・・あ・・・右も、左も・・・、同じ・・・・・」
ドーーーーーン!!
その瞬間、体じゅうに大きな衝撃が走り、お芋さんは椅子から弾き飛ばされた。
ドサーーーッ
どこかに叩きつけられた。
意識を取り戻すと、回転寿司屋の助走台脇の床にうつ伏せになって倒れていた。
右手には、食べた寿司の皿の伝票を握っていた。
「356枚か・・・」
そんなに食べた記憶はないので、エスカルゴちゃんの分も入っているのだろうと思った。
実際にはレロレロと元カノの分も入っていたのだが、お芋さんは気づかなかった。
顔を起こしてみると、相変わらず順番待ちの行列ができている。
お芋さんはニコッとして立ち上がり、酔っているのと叩きつけられたのとで多少ふらつきながらも、すがすがしい気分で店を出た。
しゃばの日差しがまぶしいぜ。
「よっしゃー! エスカルゴちゃんに相応しい、揺るがぬ男になって帰ってくるぞ!
僕はどんな努力も惜しまない。覚悟して待ってろよ、レロレロ!」
信号が青になった。
明日に向かって勇ましく、横断歩道を渡り始めた。
その横断歩道の向こうから、たまたまこの町にツアーで来ていた美少年アイドルグループ15人ぐらいと、それに続いて美少女アイドルグループが16人ほど歩いてきた。
横断歩道の真ん中で、次々にお芋さんとすれ違っていく。
15人の方は何とも思わなかった。
だが、そのあとの16人の方は試練だ。
1人、また1人・・・。
こんなに間近に見るの、初めてだ。
超、可愛い。
だがお芋さんは、意志を貫き通そうと前進し続けた。
自然と頭の中に彼女たちのヒット曲「整形戦争」が流れる。いつの間にかお芋さんは、口ずさみながら歩いていた。振付もばっちりだ。腰をふりふりさせて調子に乗ってきた。
ふりふり ぺったん ♪
ふりふり ぼっとん ♪♪
ふりふり ぺったん ♪
ふりふり ぼっとん ♪♪
彼女たちは、得意げなお芋さんを横目でチラッと見たが、それ以上のリアクションはなかったので、すれ違っていくだけだった。
そして集団の最後尾に差し掛かったころ、彼女たちの会話が耳に入ってきた。
「この町名物の回転寿司、楽しみ~~!」
「シャトーブリアンだって。本場っぽくてお洒落ね!」
「でも私、ちょっとこわ~い。ちゃんと座れるかしら。」
「私もこわ~い。誰か“通”な人と一緒に入った方がいいんじゃない?」
「今さら、“通”な人なんていないよ・・・。私たちだけで来たんだから。」
お芋さんは、ピクッとして歩みを止めた。
おもむろに回れ右。
大股で早歩きして横断歩道を引き返す。
何食わぬ顔で、美少女アイドル集団を1人、また1人と追い抜いていった。
そして先頭に立ったお芋さんは、ちょいと後ろを振り返って、きりっとした顔で
「教えてやるよ。」
と言うと、回転寿司シャトーブリアンに勢いよく飛び込んだ。
「大将、今日もよく回ってるねぃ!」
ゴオーーーーーーーーーーーーーーーー
バザーーーーーっ
おしまい
2012年 4月
差出人は、エスカルゴちゃん!
懐かしい名前だ・・・。胸が高鳴るぜ。
エスカルゴちゃんは、お芋さんの幼なじみで、気を失うほど可愛い女の子だ。町でも二番、三番を争うだろう。
昔は、いつも一緒に甘い時間を過ごしたものだ・・・。
エスカルゴちゃんの頼みとあれば何でも聞いてあげた。メロンパンを買いに走ったり、路地裏でお金持ちの子どもから小銭をいただいたり・・・。
そんな彼女が、ある日突然行方不明になり、かれこれ2年も音沙汰がなかったのだ。
そろそろ見切りをつけて新しい彼女を探そうかと考え始めた矢先のメール。
ワクワクして開いてみると・・・
「回転寿司に来たら、皿を取りすぎた。さっさとお金持って来んかい、ぼけ!」
と書いてあった。
お芋さんは待ってました!とばかり、できうる限りのお洒落をして、回転寿司屋に向かった。車も自転車も馬も持っていなかったので、とにかく全力で走った。
「やっぱり僕はエスカルゴちゃんに頼られてるなー! 隅に置けないね。」
3時間で到着。
目の前の横断歩道を渡れば、回転寿司「シャトーブリアン」だ。
だがその時・・・いやな奴に出くわした。
「お芋じゃないか。へへっ、焼き芋にしたろか。」
「レロ・・・」
町一番の意地悪少年、レロレロだった。こいつは、とにかく心がゆがんでいて、いつも舌をレロレロさせていた。
「芋の分際で、回る寿司に舌鼓か。」
お芋さんはカッとなったが、同時にハッとした。こいつ、エスカルゴちゃんの居場所を聞きつけて、レロレロしに来たに違いない…。やばい!
思うやいなや、お芋さんは横断歩道を駆け出した。
お芋さんが走ったので、レロレロも釣られて走った。
たまたまその横断歩道には、おじいさん15人とおばあさん16人が歩いており、かなり混み合っていた。お芋さんは一人一人避けながら走った。
一方のレロレロは、おじいさんもおばあさんも突き飛ばして走ったので、あっという間にお芋さんを追い抜いてしまった。
勝ち誇ったレロレロは余裕の表情だった。最後にはおばあさん1人、手を引いてあげて横断歩道を渡りきったほどだ。
「レロレロめ…。ツンデレな奴だ。」
そんなこんなで、レロレロに続いてお芋さんもシャトーブリアンに駆け込むと・・・
ゴォーーーーーーー
凄まじい音がしている。
よほど人気がある店なのか、店内には10人ほどの順番待ちの行列ができていた。
レロレロとお芋さんはその最後尾についた。
ゴォーーーーーーーー
「大将、今日もよく回ってるねぃ!」
お芋さんは知った風なことを言ってみたが、実は回転寿司は初めてだった。
そもそも大将の姿は見えない。「いらっしゃいませ」の声もない。
ゴォーーーーーーーーー
この轟音のせいで聞こえないのか。
チラッと見ると、レロレロもあまりの回りっぷりに驚いたのか、顔をレロレロさせていた。
さて、この町の回転寿司は、
皿ではなく、客の方が回っている。
カウンター席1周のみの小規模な回転寿司屋なのだが、椅子にどんな動力が仕掛けてあるのか、とにかく目に見えないほどの速さで周っているようだ。
客が何人か座っている気配はあるのだが、はっきりわからない。なにかベールに包まれているというか、見えない壁があるようで、客はもちろんのこと、カウンターの内側にいるはずの寿司職人の姿も見えなかった。
お芋さんは、エスカルゴちゃんが座っているか確かめようと、回転速度に合わせるように何回か首を振り回してみた。
ゴキッ!
「痛っ!」
よろけてレロレロの腕の中に倒れ込んでしまった。
「わりぃ。」
微笑みかけて離れた。
「速すぎて合わせらんないよ。 困ったな…。エスカルゴちゃん、ほんとにこの寿司屋にいるのかなぁ。」
エスカルゴちゃんは、おそらくこの回転している見えない輪のどこかに座っているはず。声が聞こえやしないかと今度は耳を澄ませた。
「なんとなく聞こえるような気がするけど…」
お芋さんはひらめいた!
電卓を取り出して椅子の回転速度を計算すると、両手で耳をふさぎ、一周に一回のタイミングで耳を開けてみた。
すると、雑踏の中から女の子の声が分離できた。
「い」
「も」
「ま」
「だ」
「か」
エスカルゴちゃんは確かにいるようだ!
早く逢いたい気持ちを抑えているうちに、順番待ちの列は少しずつ短くなり・・・、
レロレロとお芋さんの前には2、3人しかいなくなった。
とうやって席に着くのか?
あれだ。
助走台が目の前に見えてきた。
その時!
バザーーーーーっ
突如回転の中から男が一人飛び出して床に倒れ込んだ。
どうやら気を失っているらしい。
助走台を飛び出した途端に撥ね飛ばされたのか、あるいは、食べ終わって帰ろうとしただけなのか、不明だ。
店内を見回すと、他にも5、6人、床に転がっていた。
そうなる理由について思考を巡らせているうちに、とうとうレロレロの番がきた。
ゴオーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前に猛烈な速さで回転する見えない壁が迫る。
レロレロだって怖いのだ。
動けなかった・・・。
横断歩道から手を引いてきたおばあさんを先に行かせることにした。
おばあさんは、
「フガーーッ!」
と雄叫びをあげるやいなや、信じられない勢いで助走台から飛び出し、回転の中に消えていった。
向こうの方で、また男が一人、バザーっと床に倒れ込んだ。
レロレロが、心細そうに寄ってくる。
「おい、芋。俺といっしょに大人の世界へ飛び込んでみないか。」
「いいよ。」
2人は手をつないで回転の中に飛び込んだ。
「それーっ!!」
その瞬間・・・
見えないベールを通り抜けた!
ゴツンと、何かにぶつかったようだが…気のせいか。
数秒後、お芋さんは何事もなかったかのように、カウンター席に座っていた。
外から見るとあんなに凄まじいスピードで回転していたはずなのに、ここでは全くそれを感じない。実に静かで落ち着いた雰囲気だ。
不思議だ…。
目の前を寿司の皿が次々と流れていく。
実際には寿司の皿の前を、座っている椅子の方が動いている。非常にゆっくりで、十分手に取れる速さだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、カウンターの内側、皿の列を挟んでお芋さんの真正面に、スナックのママが立っていた。年は40代半ばだろうか、いや50代後半かもしれない。きれいな人だが、化粧が地層だ。寿司屋にいるのは寿司職人だと思い込んでいたお芋さんは、自分が浅はかだと悟った。
スナックのママは、お皿といっしょにゆっくりと左へ流れていく。いや、流れているのはお芋さんの方なのだが、錯覚で分からなくなってきた。
「私、カニ子よ。」
「は、はい・・・。カニはどんな字を?」
「ハサミのある方よ。」
「そうでしたか。
「水割りになさる?」
言い方に艶があった。
「粗茶でいいです。」
「あら、そう。」
ママはちょっと不機嫌そうに、すでに作っていたドブロクの水割りを皿に乗せて、流れる寿司の皿に割り込ませた。そうしている間にも、皿もママもだいぶ左の方へ行った。
あ、そんなの見てる場合じゃない。
エスカルゴちゃんはどこにいるのだろう!?
向こう正面の席にも見当たらない。
お芋さんは周囲を見回した。
お芋さんの左隣りには、小学生ぐらいの男の子を挟んでその両親が座っていた。
「年に一度しか来ないんだから、もっと食べなさい。」
「うん。」
家族で楽しいはずなのに、どことなく淋しそうだった。
そして親子のさらに左隣りにはレロレロがいた。
レロレロの左隣りにはレロレロの元彼女らしき顔グロな女の子が偶然いて、なにやら小競り合いを始めていた。それを、流れてきたスナックのママがたしなめている。
「私、カニ子よ。さあ、ドブロク浴びるほど飲んで、昔のことは便器に流しちゃいなさいよ。私だってさあ、若い頃は男を渡り歩いたものよ。」
ワタリガニだ。
今度は右側に目をやると、お芋さんの隣りには横断歩道のおばあさんが座っていて、小皿になみなみと注いだ醤油を、三々九度のように美味しそうに飲んでいた。
「う~ん、効くね~。」
おばあさんの右隣りには、黒い服を着た男が座っていた。
あれは・・・有名な
「どっちから見ても同じ人」
ではないか。
よその町から来たらしい風来坊で、本当の名前を知る者はいないが、そう呼ばれていた。人の良さそうな男だ。
お芋さんはこの「どっちから見ても同じ人」が、本当にどっちから見ても同じなのか興味があった。
だが、今はエスカルゴちゃんが先だ。
カウンターに沿って一周ぐるりと見回してみたが、どこにもエスカルゴちゃんらしき女の子はいない・・・。
「ひょっとして、僕が席に着いた時に弾き飛ばしちゃったのかも。」
恐る恐る後ろを振り返って見た。
「あれっ?」
何も見えなかった。
淡い光のベールに覆われているようで、店内も、外の風景も、何も見えない。
やはりこの回転席は、何か見えない壁に仕切られているのか。
まあ、いいや。
焦る気持ちはさておいて、お腹も減ったので、寿司でも取って食べよう。
気づけば、正面には金魚すくい名人が周ってきていて、目にも留まらぬ速さで金魚をすくっては皿に乗せ、自慢げに次から次へとお芋さんの前に置いた。だがお芋さんがそれを取らなかったので、そのまま名人といっしょに左隣の親子の前へ移動していった。
親子も手を出さなかった。名人は出目金のように不服そうな顔をして金魚をすくいまくった。
そしてさらに無関心なレロレロの前を通過して、レロレロの元カノの前へ流れていった。
元カノは、それに手を伸ばした。
名人の目が輝いた。
元カノは立て続けに2、3皿取って食べたところで飽きてしまい、そっぽを向いた。
どうやら一度はゲテモノ食いをする性格らしい。レロレロもこんな調子で誘われ、飽きられたのだろう。
向こう側で、ブギウギを踊るスナックのママの後ろ姿が見えた。
ママの前には、老夫婦が15組ほど座っており、みんなイケイケな感じだった。
さて、お芋さんの右隣りのおばあさんをチラッと見てみると、その正面に回ってきた寿司職人と真剣勝負の真っ最中だ。
なんだ、この店にはちゃんと寿司職人もいたのか。
小柄だが、人間国宝のような貫禄を持つ老人だ。
おばあさんは、目を閉じてしばらく考え込んだ後・・・おもむろに目を開けた。
その視線は、寿司職人の鋭い眼光とぶつかり、火花を散らした。
「いわし!サビ抜き、つゆだくで!」
「あいよ!」
さすがはこの道50年の職人だ。手際よくシャリを掴むとイワシをのせて軽く握り、皿に載せて汁をかけるまで30秒とかからなかった。
しかし、その時すでにお芋さんの前まで流れてきていたので、手の短いおばあさんはその皿を取り損ねた。
「ちくしょう、わしももうろくしたものじゃのう。」
お芋さんは、流れていく寿司職人を追うおばあさんの遠い目に、光るものがあるのを見逃さなかった。そしてお芋さんは申し訳なさそうにイワシの汁だくを手に取って食べた。
一言では語り尽くせない、年季を感じさせる味だった。
寿司職人もしばらくおばあさんの方を見ていたような気がした。
レロレロが寿司を注文する声が飛んだ。
「中トロ! シャリ抜きで、トロ抜き!」
意地悪な奴だ。
「あいよ!こちとら江戸っ子でい!」
老職人は、レロレロにワサビを握って差し出した。
お芋さんは、「どっちから見ても同じ人」が気になっていた。
どうしてもこちらからは見えない右側から見てみたかったのだ。
でも、席を立った途端、外の世界にはじき飛ばされるのではないかという恐怖心が、好奇心に勝てなかった。
その「どっちから見ても同じ人」の前に流れてきた次の職人は、
「マジじゃん!なマジシャン」
だ。
黒いハットの中からハッと驚く技でハトを出したり、袖口から鰻(うなぎ)と見せかけてウサギを出したりして皿に乗せて流していたのだが・・・
「どっちから見ても同じ人」は、全く表情を変えなかった。
マジじゃんなマジシャンは青ざめた。プロとして恥ずかしい。このまま箱に入って外から何本も刀を刺されるマジックで刺された方がマシだ、と思ったに違いない。だが、隣のおばあさんが引き付けを起こしたのを見て、少し自信を取り戻したようだった。
そのあと左の方でレロレロが、流れてきたうさぎの耳を掴んでいた。
お芋さんも、何か美味しいものが来ないかなと思っていると・・・、
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
上流から大きな大きな桃が流れてきた。
・・・お芋さんは手を出さなかった。
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
隣の親子も、手を出さなかった。
ぶらぶら
どんぶら
レロレロは大きな包丁を構えたが、
一回溜息をつき、結局、手を出さなかった。
元カノも今度は見向きもしなかった。
大きな桃は下流へと流れていった・・・。
ぶらぶら
どんぶら
ぶらぶら
どんぶら
桃に続いて、大きなでんでん虫が流れてきた。
でんでん
どんちゃか
でんでん
どんちゃか
でんでん虫??
いや~ん、待ってよ。
違う違う!
これは・・・
エスカルゴちゃんだ!
エスカルゴちゃんが流れてきたぞ!!
「エスカルゴちゃん! 芋、参上しました!」
「どれだけ待たせるのよ!ボケ! 売り飛ばされて、皿に乗せられちゃったじゃない!」
「すみません!でも僕、エスカルゴちゃん一筋縄っす!あいかわらず美人さんですねぇ。」
とり繕う間にもエスカルゴちゃんは目の前を右から左へ流れていく。下流でレロレロがナイフとフォークを持って目を輝かせていた。
「いかん! 待って!レロレロに食われる!!」
エスカルゴちゃんに続いてお芋さんの前に流れてきた皿には金魚が乗っていたが、そんなこと構わず、とっさにその皿の上に飛び乗った。
金魚が
「ふぎゃーっ」
と暴れた。
お芋さんは“伏せ”をする犬のような格好になっていた。
皿は狭いと思ったが、乗ってみると意外にそうでもなかった。
お芋さんの目の前にはやはり“伏せ”をするエスカルゴちゃんのお尻姿がある。二人は連なってレーンを進む格好になった。いや、ここでまた冷静に考えてみれば、動いているのは客の方なので、二人は“伏せ”の格好で皿に乗って止まっているだけだ。
「レロレロー!エスカルゴちゃんに手を出すなー! 代わりに俺を食えー!」
「芋なんか食えるか。」
レロレロがエスカルゴちゃんの皿を取ろうと手を伸ばしかけた!
「特急に乗り換えるわよ!タイミング計って!」
「えっ!?」
その時、一つ内側の上段にあるレーンに前方からこっちに向かってものすごい速さで2枚のお皿が走ってきた。二人は横っ飛びしてそれに乗り換えた。
「わぁーーっ」
急に進行方向が逆になり、落ちそうになったが、皿のふちを掴んでなんとか耐えた。
「逆回りに乗っちゃったわね・・・。」
2人は“伏せ”をする犬のような格好で特急皿にしがみついていたが、さっきのままの向きだったため、お芋さんはエスカルゴちゃんのお尻姿を見ながら後ろ向きに進む形となっていた。
ちょっとカッコ悪いので、2人はその場でゆっくりと回れ右をした。
今度はエスカルゴちゃんの目の前にお芋さんのおケツがある。
お芋さんは機関車の運転手になったかのように誇らしげだった。
周りがなんとなく霞んで見える・・・。
また不思議な空間に入ったような気がした。
猛スピードの皿に乗っているはずなのに、景色の流れはスローに見える。
何だか変な感じだ・・・。
「エスカルゴちゃん、これ、どうなってるの?」
「時間をさかのぼってるわ。」
「え?」
この回転寿司屋は、時計回りすると時間が進み、反対回りすると過去に戻っていくのだと、ここに長時間入り浸っているエスカルゴちゃんが研究結果を教えてくれた。
特急お芋号はあの親子の前を通過。
両親は泣いているようだった。どうしたのかなぁ・・・。男の子がさっきより2、3歳小さくなったように見える。
会話が少しだけ聞こえてきた。
「お兄ちゃんの大好きだったプリンを食べようか。」
「うん・・・。」
「あの子にはお兄ちゃんがいたんだけど、交通事故で死んじゃったのよ。それから毎年、お兄ちゃんの誕生日に家族で来てるの。回転寿司が好きだったんだって。」
エスカルゴちゃんが言った。
「そうなんだ・・・。」
その時前方に、寿司の皿を霞が関ビルのように高く積み上げている客がいた。
「あ、あれは・・・」
だんだん近づいてきた。
「あれはエスカルゴちゃんだ! えっ!?」
後ろを振り返ると、やっぱりここにもエスカルゴちゃんがいる。
前方に見える“客”のエスカルゴちゃんは数時間前の姿。
財布を裏返していたが中身は空っぽらしい。バタバタしながら携帯電話を出し、誰かにメールを打っているようだった。
すると右隣にいた黒い服を着た人の良さそうな男が、エスカルゴちゃんに何か話しかけている。
二人の前を通過するとき、デレデレした会話が聞こえてきた。
「いい食べっぷりだねー。感心しちゃうよ。」
「そ、そうかしら、おほほ・・・」
「よかったら、僕におごらせてよ。」
「え?いいんですの?」
「もちろん。ほら、もっと好きなだけ食べて。」
お芋さんは、その男に見覚えがあった。
「どっちから見ても同じ人」だ!
エスカルゴちゃんのピンチを救うという手柄を彼に取られたことが悔しかった。通り過ぎてからもう一度振り返った。
「ん!? あいつは!」
あんなに人の良さそうな男だったのに、右の横顔を見ると、それはそれは残忍そうな目つきをしていて、カギ鼻で、口は耳元まで裂けていた。
「あいつは!どっちからみても同じ人、じゃない。」
「わたし、あの男に騙されちゃった・・・。」
後ろでエスカルゴちゃんがポツリと言った。お芋さんは、あの後どうなったんだろうと、いろいろと思考を巡らせたが、直接エスカルゴちゃんに聞く勇気がなかった。
二人の特急はスピードアップして何周かした後に、またあの親子の前を通った。
落ち着きのない小さな兄弟が、パクパク寿司を食べて皿を積んでいた。
「こら、ちゃんと座って食べなさい!」
「俺、プリン食べたーい!」
「僕も~!」
「わかった、わかった、今度回って来る板前さんに頼もう。」
家族の前にマジじゃんなマジシャンが来た。
お兄ちゃんが元気よく言った。
「プリン出してよ!。」
マジシャンは、不意を突かれて少し困った顔をしたが、すぐにニコッとプロの笑みを見せ、おまじないをして、黒い大きなハットを頭からサッと取ると、
黄色く輝くハゲ頭が、プリンっ!と現れた。
ギャッハッハッハ・・・
子どもたちは笑いながら、カラメルシロップをマジシャンの頭の上から大量にかけた。
たら~~~っ
と、いく筋も額に流れ落ちる。
「気持ちわる~~。」
「こんなの食えるかよぉ。」
わっはっはっは・・・
わっはっはっは・・・
家族の笑い声がだんだん遠ざかっていった。
二人の特急は、どんどん時間をさかのぼっていく。
左前方にブギウギを踊るスナックのママが見えてきた。ママの前には若い男の客が5~6人群がっている。
「あれっ、若い・・・。」
ママの化粧は地層になっていなかった。しゃべり方だけでなく肌にも艶があり、男たちはイチコロだった。
「渡り歩いていた頃のカニ子だ。」
それからさらに何周しただろうか、若い婦人が寿司職人と話しているのが見えた。
「帰ってこないのね?」
「俺は、一人前の寿司屋になるまでここで修行するって決めたんだ。何年先になるかわからねえ。だがいつかお前の舌を唸らせてやるよ。それまで待ってな。」
若い婦人はあのおばあさんに違いない。
ひどい亭主だ。自分の信念のために女房に寂しい思いをさせるなんて・・・。
お芋さんが一生エスカルゴちゃんと一緒にいようと心に誓った、
その直後!
「エスカルゴー!」
どこか遠くで呼ぶ声がした。
と思ったら!
キーーーー ガシャ。
特急お芋号は急停車した。
そして、わずかな沈黙の後、
グォ~~~ン
反対方向に進み始めた。
「わ~~~~~っ」
どんどん加速していく。
「誰かが私を注文したわ。」
また二人は後ろ向きに進む格好になっていたので、ゆっくりと回れ右をした。
下り特急「エスカルGO!」になった。
時の流れのどこかで、エスカルゴちゃんを注文した客がいる・・・。
お芋さんは焦った。
今度は猛スピードで時間を進んでいる・・・。
何周まわった頃だろうか、前方でレールのポイントが切り替わる音がした!
ガタガタッ
「わおっ!」
皿が大きく揺れて、特急は別の路線に入った。
しかしスピードは落ちない。
どこまで行くんだろう?
もう元の時間を通り越してしまっていないか。
でも止まってほしくなかった。エスカルゴちゃんを注文した客の前で止まったら、もうおしまいだ。不安感が高まる・・・。
「お客さん、なんにしましょう。」
「アナゴください。」
「あいよ!こちとら江戸っ子でい!。」
威勢のいい声が耳に入ってきた。
あの年老いた寿司職人だ。
「アナゴは俺に任せろ。シャリ頼む。」
「あいよ、あんた。」
職人の隣には、同じように年老いた奥さんがいて、寿司を握っていた。
だが老職人はにゅるにゅるのアナゴをなかなか捕まえられず、二人で悪戦苦闘していた。
「ありゃ、一生修行だな・・・。」
お芋さんは、さっきと別の未来に進んでいることを悟った。
左の車窓にあの親子が見えてきた。
もう両親よりも背が高くなった男の子が二人、寿司をガツガツ食べて皿を高く積み上げていた。
「おい、ちょっとは遠慮してくれよ。」
「まああなた、一年に一度ぐらいいいじゃない。」
「最後は、プリンで締めていい?」
「俺も!」
お芋さんは、こっちの未来でよかったと思った。
右の車窓を見ると、カニ子がブギウギを踊っていた・・・。
とその時! 列車は急停車した!
そして前に向き直ったお芋さんは
ぶったまげた!
エスカルゴちゃんがいない!!
「どこで降りたんだ!?」
ほんの一瞬の隙を突かれた。何が何だか訳が分からない。
仕方なく、お芋さんは皿から飛び降りた。
気付くと元のカウンター席に座っていた。
正面に回ってきたのは、ひょっとこ顔の、どじょうすくい名人だ。調子のいい音頭に乗って踊りを披露してくれた。実際にどじょうをすくっているわけではないので、皿には何も乗らない。
お芋さんは、そんなものには目もくれず、キョロキョロとエスカルゴちゃんを探した。
名人は、ひょっとこ顔の口を一層尖がらせて踊りながら左へ流れていく。
するとカウンターの向こう正面がお芋さんの視界に入った。
「あっ、エスカルゴちゃん!」
エスカルゴちゃんが座って寿司を食べている!
お芋さんは一瞬喜んだ。
だが、その隣になんと・・・、
レロレロが座っているではないか!
二人はどう見ても恋人どうしだ。
エスカルゴちゃんがお寿司をレロレロに
「あーん」
とかやっている。
レロレロの顔が、ポッと赤くなった。
「あいつ・・・。」
レロレロは、舌さえ出さなければ、
キリッと目に力が入っていれば、
そして言葉を発しなければ、
そこそこのイケメンである。
負けた、
と思った・・・。
エスカルゴちゃんが、お芋さんの方に一瞬だけ笑いかけた気がした。
正面に、カニ子がブギウキを踊りながら流れてきた。化粧はミルフィーユだ。
「粗茶でいいかしら?」
「ドブロクの氷割をください。」
カニ子は思わずニコッとして、ミルフィーユが一枚、剥がれ落ちた。
お芋さんは飲みたい気分だった。
ドブロクをグイッといきながら、
数分後にはすっかり酔っぱらって、隣に居合わせた客に管を巻いていた。
右隣に座っていた黒い服の男は、お芋さんの愚痴話を親身に聞き、アドバイスをしてくれた。
エスカルゴちゃんを取り戻したいなら、もう一度特急皿に乗って過去からやり直す手がある。だが、お芋くんがエスカルゴちゃんに相応しい男にならない限り、使いっ走りの域を出ない。重要なのは忍耐と鍛錬だよ、と。
お芋さんは、その通りだ、と思った。
「どこのどなたか存じませんが、おじさん、ありがとう。」
焦点の合わない目で黒服の男を見つめながら、男に巻きつけた長いホースを少しずつ解いていくと、
「れれ!?」
見覚えがある。
「あなたは・・・どっちから見ても同じ人!」
いや、待てよ・・・。右から見たら極悪人かもしれない・・・。
「心配ご無用。」
そう言って、男は、ゆっくりとお芋さんの方に顔を向けた。
「あ・・・あ・・・右も、左も・・・、同じ・・・・・」
ドーーーーーン!!
その瞬間、体じゅうに大きな衝撃が走り、お芋さんは椅子から弾き飛ばされた。
ドサーーーッ
どこかに叩きつけられた。
意識を取り戻すと、回転寿司屋の助走台脇の床にうつ伏せになって倒れていた。
右手には、食べた寿司の皿の伝票を握っていた。
「356枚か・・・」
そんなに食べた記憶はないので、エスカルゴちゃんの分も入っているのだろうと思った。
実際にはレロレロと元カノの分も入っていたのだが、お芋さんは気づかなかった。
顔を起こしてみると、相変わらず順番待ちの行列ができている。
お芋さんはニコッとして立ち上がり、酔っているのと叩きつけられたのとで多少ふらつきながらも、すがすがしい気分で店を出た。
しゃばの日差しがまぶしいぜ。
「よっしゃー! エスカルゴちゃんに相応しい、揺るがぬ男になって帰ってくるぞ!
僕はどんな努力も惜しまない。覚悟して待ってろよ、レロレロ!」
信号が青になった。
明日に向かって勇ましく、横断歩道を渡り始めた。
その横断歩道の向こうから、たまたまこの町にツアーで来ていた美少年アイドルグループ15人ぐらいと、それに続いて美少女アイドルグループが16人ほど歩いてきた。
横断歩道の真ん中で、次々にお芋さんとすれ違っていく。
15人の方は何とも思わなかった。
だが、そのあとの16人の方は試練だ。
1人、また1人・・・。
こんなに間近に見るの、初めてだ。
超、可愛い。
だがお芋さんは、意志を貫き通そうと前進し続けた。
自然と頭の中に彼女たちのヒット曲「整形戦争」が流れる。いつの間にかお芋さんは、口ずさみながら歩いていた。振付もばっちりだ。腰をふりふりさせて調子に乗ってきた。
ふりふり ぺったん ♪
ふりふり ぼっとん ♪♪
ふりふり ぺったん ♪
ふりふり ぼっとん ♪♪
彼女たちは、得意げなお芋さんを横目でチラッと見たが、それ以上のリアクションはなかったので、すれ違っていくだけだった。
そして集団の最後尾に差し掛かったころ、彼女たちの会話が耳に入ってきた。
「この町名物の回転寿司、楽しみ~~!」
「シャトーブリアンだって。本場っぽくてお洒落ね!」
「でも私、ちょっとこわ~い。ちゃんと座れるかしら。」
「私もこわ~い。誰か“通”な人と一緒に入った方がいいんじゃない?」
「今さら、“通”な人なんていないよ・・・。私たちだけで来たんだから。」
お芋さんは、ピクッとして歩みを止めた。
おもむろに回れ右。
大股で早歩きして横断歩道を引き返す。
何食わぬ顔で、美少女アイドル集団を1人、また1人と追い抜いていった。
そして先頭に立ったお芋さんは、ちょいと後ろを振り返って、きりっとした顔で
「教えてやるよ。」
と言うと、回転寿司シャトーブリアンに勢いよく飛び込んだ。
「大将、今日もよく回ってるねぃ!」
ゴオーーーーーーーーーーーーーーーー
バザーーーーーっ
おしまい
2012年 4月
0
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