追放された私の行方

無味無臭(不定期更新)

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安心

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目を覚ますと、私はベッドの上に寝ていた。
動こうとすると、身体中が痛くて起き上がることができなかった。
腕を見るとハンクに蹴られた痣が生々しく残っている。
これはきっと服の下も痣だらけになっているだろう。

そう思ったらハンクから受けた数々の暴行が頭をよぎる。

誰か…
私は誰かを呼ぼうと辺りを見回す。
すると、ベッド脇の椅子でミゲル王子が座ったまま眠っていた。


「ミゲル王子…起きてください。」


「アナ…!」


私が起こすと、彼はそう言って嬉しそうに目を瞬かせた。
そして次の瞬間、私に抱きついてきた。
突然の抱擁に私は硬直する。


「アナ、目が覚めて良かった。」


あれ、おかしい…
私の体が震えている。
ミゲル王子だから、怖くないはずなのに…
自分の意思とは裏腹に出る拒絶反応に、私は困惑するしかなかった。


「アナ…?」


そんな私の異変に気付いた王子が距離を取って私の顔を覗き込む。


「ご、ごめんなさい。
体が勝手に…」


私は謝った。
これでは彼を拒絶してると思われてしまう。
助けてもらったのに失礼だわ。


「アナ、大丈夫だよ。
僕の方こそ急に…ごめんね。」


ミゲル王子が焦る私を優しく諭す。


「少し、一人にしたほうがいいよね。
僕、外で待ってるから何かあったら呼んで?」


そしてそう言って椅子から立ち上がった。


「待って…」


私は咄嗟に彼の腕をつかんだ。
解放されたら彼に伝えたかったことがある。
救出されたときにちゃんと伝えられたか分からないから。
もう一度…

このまま、彼との距離が遠ざかってしまうのは嫌。


「私、貴方のことが…」


「僕も好きだよ。」


私の言葉に被すようにしてそう言った王子に私は驚く。
もしかして…


「もう私、言ってた?」

 
私がそう言うと彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「うん、君を救出した時に聞いた。」


そう聞いた私は途端に恥ずかしくなる。


「えっと…」


私が言いたかったのは…


「分かってる、君が落ち着くまで待つつもりだよ。
ゆっくり治していこう。」


私が伝えたかった意味を、彼は理解してくれていた。


「ありがとう…ございます。」


私は嬉しくなる。
そして同時に一人になることへの恐怖もよみがえる。


「怖いから…傍にいて。」


私は振り絞るようにそう言った。


「分かった。
手…握っても大丈夫?」


ミゲル王子にそう聞かれて私は頷く。
彼の手が遠慮がちに私の手を捉える。


「もし嫌だと感じたらすぐ離していいから、ね?」


私のことを考えてくれる彼に私はまた嬉しくなる。
彼の温もりが伝わって、私は心の底から安心する。

そしてまた眠りに落ちていた。
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