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KAОRU-エピソード・ゼロ ~悲劇の誕生~
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カオル出生の秘密。
明治三十四年(西暦一九〇一年)。
薫の母加代(かよ)は誠実な青年清(きよし)と結ばれ、彼女を産んだ。
農家の長男として生まれ育った清だが、農作業の傍ら、見聞を広めるため古典の書物を数多く読み耽った。そんな清が付けた薫の名前の由来は『源氏物語』に登場する『薫の君』。生まれつき身体にえもいわれぬ芳香を帯びていたことに因む通称から、周囲に幸せ(芳香)を振りまく人間になってほしいと我が娘に願いを込めた。
作中の登場人物は男性だが、どちらが生まれても、清はその名を付ける考えでいたので問題はなかった(後に成長した彼女は外見の美しさを放つ存在になる)。
そこまでして我が子の誕生を喜び、愛情を注ごうとした清だが、想像を絶する薫の出生の秘密を知り、まるで脳天から雷を落とされたほどの衝撃を受け、愕然とする。
加代は身重の身体で悩み続けた。懐妊を心から喜んだ清に、ずっと真実を打ち明けられずにいた秘密。だが何事にも誠実でひたむきな清を騙し続けることはできないと考え、出産後加代は意を決した。
薫は加代が清の父誠三に犯され孕まされた子だった。
加代は控えめで奥ゆかしい、夫を立て、気配りのできる女だった。
だが雪のように透き通る肌は得も言われぬ艶を醸し出し、加代の佇まいに如何なる男も魅了されてしまった。
そんな嫁を見続けていたまだ「男」を失っていない清の父は、理性を失い加代に精を注いでしまったのだ。
清は激怒した。
悪いのは父誠三なのに、身体を許したお前が悪いと罵った。
加代は出産直後の床の中で何日も泣き続けた。そんな彼女に清は何一つ言葉を掛けるどころか、汚らわしい女など見たくもないと屋敷の奥の暗い納戸部屋に押し込め、近付こうともしなかった。もちろん生まれたばかりの薫さえ抱くことはなかった。
加代は産後の肥立ちが悪い身体と失意を抱えたまま家を飛び出し、姿を消した。
清は狼狽した。
加代を捜しに家を飛び出した。清は後悔した。生まれた子どもに罪はない。十月十日苦しみ続けたであろう加代の心を慮ることすらしなかった。
雪深い森の中で清は倒れている加代を見つけた。だが連れて出たはずの薫はいない。清は加代を抱き起こし、薫の居場所を問い質した。だが衰弱しきった加代は既に虫の息。ごめんなさいと弱々しく呟いた後、加代は清の腕の中で息を引き取った。
清は号泣した。
自分の愚かさを嘆き悔いた。短絡的な感情が全てを失わせた。
清は姿のない薫を捜した。深く積もる雪を掻き分け、必死に捜し続けた。だが一向に見つかる気配はなかった。それでも清は探し続けた。当てもなく歩き続けた。家業など到底手に付くはずもない。
何時しか辺りは雪解けの季節を迎えたが、赤子の亡きがらが見つかったという噂は一切清の耳には届かなかった。だから清は微かな希望を頼りに捜し続けた。するとしばらくして産着のようなものを抱えて歩くマタギを見たという噂を聞いた。
それは旅マタギだろうと説く者もいた。清はその言葉を頼りに、薫探しの旅に出ることを決意した。代々受け継いだ田畑を投げ売って清は旅の資金に充てた。
東北の山々を歩き回った。小さな子を抱えたマタギはいないかと訊ねて回った。
何の手がかりも掴めないまま旅に出た一年後、路銀の尽きた清はある山の中、降りしきる雪の中で倒れ、眠るように命を落とした……。
明治三十四年(西暦一九〇一年)。
薫の母加代(かよ)は誠実な青年清(きよし)と結ばれ、彼女を産んだ。
農家の長男として生まれ育った清だが、農作業の傍ら、見聞を広めるため古典の書物を数多く読み耽った。そんな清が付けた薫の名前の由来は『源氏物語』に登場する『薫の君』。生まれつき身体にえもいわれぬ芳香を帯びていたことに因む通称から、周囲に幸せ(芳香)を振りまく人間になってほしいと我が娘に願いを込めた。
作中の登場人物は男性だが、どちらが生まれても、清はその名を付ける考えでいたので問題はなかった(後に成長した彼女は外見の美しさを放つ存在になる)。
そこまでして我が子の誕生を喜び、愛情を注ごうとした清だが、想像を絶する薫の出生の秘密を知り、まるで脳天から雷を落とされたほどの衝撃を受け、愕然とする。
加代は身重の身体で悩み続けた。懐妊を心から喜んだ清に、ずっと真実を打ち明けられずにいた秘密。だが何事にも誠実でひたむきな清を騙し続けることはできないと考え、出産後加代は意を決した。
薫は加代が清の父誠三に犯され孕まされた子だった。
加代は控えめで奥ゆかしい、夫を立て、気配りのできる女だった。
だが雪のように透き通る肌は得も言われぬ艶を醸し出し、加代の佇まいに如何なる男も魅了されてしまった。
そんな嫁を見続けていたまだ「男」を失っていない清の父は、理性を失い加代に精を注いでしまったのだ。
清は激怒した。
悪いのは父誠三なのに、身体を許したお前が悪いと罵った。
加代は出産直後の床の中で何日も泣き続けた。そんな彼女に清は何一つ言葉を掛けるどころか、汚らわしい女など見たくもないと屋敷の奥の暗い納戸部屋に押し込め、近付こうともしなかった。もちろん生まれたばかりの薫さえ抱くことはなかった。
加代は産後の肥立ちが悪い身体と失意を抱えたまま家を飛び出し、姿を消した。
清は狼狽した。
加代を捜しに家を飛び出した。清は後悔した。生まれた子どもに罪はない。十月十日苦しみ続けたであろう加代の心を慮ることすらしなかった。
雪深い森の中で清は倒れている加代を見つけた。だが連れて出たはずの薫はいない。清は加代を抱き起こし、薫の居場所を問い質した。だが衰弱しきった加代は既に虫の息。ごめんなさいと弱々しく呟いた後、加代は清の腕の中で息を引き取った。
清は号泣した。
自分の愚かさを嘆き悔いた。短絡的な感情が全てを失わせた。
清は姿のない薫を捜した。深く積もる雪を掻き分け、必死に捜し続けた。だが一向に見つかる気配はなかった。それでも清は探し続けた。当てもなく歩き続けた。家業など到底手に付くはずもない。
何時しか辺りは雪解けの季節を迎えたが、赤子の亡きがらが見つかったという噂は一切清の耳には届かなかった。だから清は微かな希望を頼りに捜し続けた。するとしばらくして産着のようなものを抱えて歩くマタギを見たという噂を聞いた。
それは旅マタギだろうと説く者もいた。清はその言葉を頼りに、薫探しの旅に出ることを決意した。代々受け継いだ田畑を投げ売って清は旅の資金に充てた。
東北の山々を歩き回った。小さな子を抱えたマタギはいないかと訊ねて回った。
何の手がかりも掴めないまま旅に出た一年後、路銀の尽きた清はある山の中、降りしきる雪の中で倒れ、眠るように命を落とした……。
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