短き者達

雨彩 色時

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バカな彼氏を許して下さい

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 俺はある人間に大切な人を殺された。いや、果たして彼は人間なのだろうか?彼は通り魔と呼ばれていた。無作為に突然に大切な人を奪う化け物だ。ナイフ一つで奪ってしまう。
 彼は捕まったが、俺は捕まって欲しくなかった。俺がこの手で彼を殺してやりたい。彼女を奪ったナイフ一つで彼を殺してやりたい。

 彼が捕まってから俺はこのどうしようもない気持ちのやり場に困った。それからだ。暇さえあれば彼を俺の中で殺していた。何度も何度も殺した。

「どうして彼女なんだっ!! 誰でもいいのなら、彼女じゃなくても!! …彼女じゃなくて良かったじゃないか」


 俺はまた彼を殺す。でも、また彼は俺の心を蝕むように現れるのだ。また俺は殺さなければならない。
 彼が出所する日になった。この日をどれだけ俺は待っていただろう。同じ命を奪っておきながら、彼はたったの数十年で許されるらしい。この世は終わっている。だから、正さなければならない。何度殺してもこの気持ちは収まらなかった。

「あの…すいません」
「え…な、何ですか?」
「挨拶が遅れました。あなたが殺した人の彼氏です」


 彼は怯えるように俺を見る。こいつにとってある意味、出所からが刑と言っていいだろう。

「すいません。すいません。本当に…すいませんでした」
「謝らないでくださいよ。どうせ許さないんですから」


 土下座をする彼に俺は肩に手を置いて言う。どんな顔でかは正直自分でも分からない。でも、顔を上げた彼は酷く顔色が悪かった。

「やっと…やっとあなたを殺せる。何度も練習したんですよ。本当に何度も」


 ナイフを取り出して彼に見せ付けるように近付ける。彼が使っていた同じモノを買った。彼には人間を辞めたあの時の事を鮮明に思い出してもらわないといけない。

「あなたは誰でも良かったかも知れない。でも、俺は違う。お前じゃないとダメなんだっ!!!」


 言い終わる前にナイフを彼の腹部に刺していた。俺は深く深く力を入れて、奥へ奥へとナイフを刺す。彼の顔をじっくりと見る。目を見開いて口を開けている。

「どうだ? うまく刺せただろ? やっとお前を殺せて…やっとお前を殺さなくてすみそうだ」


 ナイフを捻るように回す。その度に彼の身体と声は反応した。やがて力が抜けるように倒れ込んできた。
 俺は少しだけ、こんなモノかと思った。彼女はこんな事をきっと願っていないだろう。なんたって、彼女は凄く優しい。俺の我儘で殺したんだ。

 あの世で彼女から怒られるかも知れない。泣かれるかも知れない。こんなバカな俺のことを優しい彼女は許してくれるかな。ナイフを抜いて俺は迷わず首を掻っ切った。
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