二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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四十一話 今の先をこれから……

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「そんなことは私にはできない。私は天狗だ。お前たち妖狐のように心という聖域を汚す術は持っていない」

「私の生きてきた全てを開示する準備を私はしてきました。妖狐は心を読み取れるのと同時に伝えることもできるのです。今こそ、伝える時が来ました。ご覧ください……これが私の生きてきた道です」

 私は白峰の無数の矢が浮いている心象風景に記憶の巻物を地面においた。私の生きた半生を記した二十年分の記憶を記した巻物はどこまでも続く川のようだった。



     ◇◇◇



 そして、白峰は呆然として冷静さを取り戻していた。私を見る目からは疑いが消えていたのである。

 私は白峰を見つめて言葉を待った。私の生きた二十年分の記憶を追体験したのだ。何かしらの反応があるはずである。

「今、見たものは捏造されたものではないのか? 答えよ、葛」

 白峰が私の名を呼んだことに、確かな手がかりを感じた。今までは、名前で呼ぶことにすら価値のない、ただの殺す者という認識から明らかに変わったはずだ。

「捏造した部分は一切ありません。というより、捏造する方法をまだ習得していないのです。私は四尾の妖狐であり、成長の途中であります。いつか、捏造した記憶すらも相手に伝えることができるようになるでしょう。ですが、現時点では捏造した点はないとお約束いたします」

「そうか……」

 先ほどまでの取り乱し、猜疑心に満ちていた白峰は欠片も感じさせなかった。

「私と忍のことが違って見えるのではないですか? 復讐を企む敵対者ではなく、私たちは白峰さまと君護さまが理想とする人間と妖怪が手を取り合う世界の体現なのです」

 白峰は私を見て「洪水から町を守り人間から信頼を得た妖怪……」と呟き、忍を見て「私に本気を出させるほど進化した人間……」と呟き、悔しそうに拳を握った。

「私は今まで、何をしていたのだ! 手段を見失っていたッ。それを認めようとしていなかった。主の求める世界を用意できずに、延命させることしかできなかった。私は臣として不甲斐ない……」

 私としては、いくつもの死の運命を覆してきたことでも十分に尊敬に値する。

(私と忍にとっては今日が、その一度目なのに……)

「白峰……悔いるのなら、俺の家族と葛の父の犠牲を最後にしろ。お前には、良き世界を作る責任がある。お前が殺してきた奴の中には本当の敵対者がいただろう。だが、後顧の憂いとして殺しておいた奴もいるのではないか? そいつら全てに報いて理想の世界を作れ」

 忍の強い言葉を受けて、白峰の心象風景に漂う矢は全て赤い炎に焼き払われ中央の焚火は完全に燃え尽きた。

 白峰の心象世界は完全な暗闇に包まれると空には三日月が現れた。地面は石畳に舗装されていて、左右には道を照らす松明の明かりがあった。視界の先まで続く松明の列は途中までしか火が灯っていなかった。

 道半ば。

 視界の先まで続く松明に火が灯った時こそ、理想の世界が完成した時である。

「改めて、聞きます。天臣坊白峰千尋さま。私たち妖狐と和解して、妖狐を天狗の傘下に加えてください。君護さまこそ、この乱世を正すに相応しい方です。可能なら私は、その助けがしたいのです。どうか、一慮のほどをお願いします」

 私が白峰に頭を下げると、隣にいた忍も、後ろにいた母も同じく頭を下げた。

「わかった……。葛よ、主に謁見をして直接交渉する機会を与える。主が決めた判断に私は従おう。さぁ、手を」

 私は忍と母の方を見ると、二人とも頷いて私を送り出した。

 そして、私は白峰の握手に応じた。
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