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第18話:リスナーオフ会
しおりを挟む土曜日、土曜日出勤だった女はいつものように、業務に取り掛かる。女の働くエス・ジー・シーは月に一度不定期に短時間だが、土曜営業日がある。今日が、その土曜営業日で、女、馬渕社長含め、土曜出勤が可能な社員が6人出勤している。
9時30分、職場の朝礼で馬渕社長が話を始める。
「今日は、夕方から月曜日のリスナーオフ会の決起集会がありますので、みんなで楽しみましょう。そして、先日退職した青山部長に変わり、平野さんを統括リーダーに指名します。」
女は、急なことに開いた口がふさがらない。
「私が、と、統括リーダー。」
周りから拍手で承認され、女は小っ恥ずかしくなり頬を紅潮させる。
馬渕社長が話を続ける。
「部長という肩書きは、今後使用せず、統括リーダーという形に名称を変更します。みなさん、今日も一日よろしくお願いします。」
それぞれがデスクに戻って業務を再開する。
同じ日、男はゆめタウンにいた。
「オフ会の日、ミカちゃんの誕生日だったか。」
男は、雑貨店に訪れる。
「プレゼント、何が良いかな。」
男が選んでいると女性店員が声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「誕生日プレゼントを探してます。」
「どなたのですか?」
「じ、女性です。お、幼なじみ、です。今は、、、。」
(気になってる人、なんて、言えない、、、。)
女性店員は、男の顔が紅潮したのを見逃さなかった。
(この人のプレゼントの相手、もしかして、脈あり?)
「でしたら、ペアのアクセサリーはどうですか?」
「ペアのアクセサリーって、ピアスとかイヤリングですか?出来ないな。」
「ネックレスとかは、どうですか?ネックレスだと抵抗少ないと思います。」
「でも、彼女は金属苦手で。」
「金属苦手でも、ネックレスは大丈夫ですよ。紐のやつもあるので。」
「じゃあ、それください。」
「かしこまりました。」
女性店員は商品を受け取り、レジに通した。
男の会計が済むと「出口までお持ちします。」と言って、商品を持って出口まで一緒に歩いた。
出口で男に商品を渡す際に
「好きな人への告白、上手くいくこと祈っています。次は是非、お二人でいらしてくださいね。」
って言って渡した。
その時、男は「ありがとうございます。」と一礼したが、心の中では「何でバレた!?」が迷走していた。
男は店を出て一旦、落ち着くために自販機でコーヒー買って喫煙室に入った。
ふとメールチェックをしていると、TAMAKIからメッセージが届いていた。
「告白したいことありますか?」というアンケートだった。そのアンケートに男は「好きになった人がいます。その人は当日誕生日なので、誕生日のお祝いと一緒に告白したいです。ワイズマン。」と送った。
男は「しまったー!送ってしまったー!心の準備がー!でも、送ってしまったんだ。きちんと伝えなきゃ!」と悶々としながらも覚悟を決めた。
7月15日。いよいよ、リスナーオフ会の当日になった。この日の男は、オフ会に合わせて10時出社になっている。
朝8時、いつもより遅い時間に起床する。起きてすぐ、浴室に入ってシャワーを浴びる。大事な日には自分でムダ毛処理をしている男、この日も「今日は大事な日だからな!」と意気込み全身のムダ毛処理をした。ムダ毛処理が終わると「よしっ!これで無駄なことは何もないから、大丈夫だ、自分!」と言い聞かせる男。入浴後、服を選ぶ。滅多に履かないジーパンを履いて、お気に入りの胸ポケットにフクロウが描いてあるTシャツを着る。その上から、勝負着にしているベストを着て、鏡に映る自分を見て「大丈夫!出来る!大丈夫!出来る!大丈夫!僕なら出来る!」と自分に言い聞かせる。
8時45分、準備が出来た男は家を出る。近所の喫茶店でコーヒーチケットを使ってモーニングを食べる。濃いめの珈琲を飲むと、男はスイッチが入った。
9時30分、朝食終えた男は出社した。
「おはようございます。」
「矢野くん、おはよう。今日10時出社じゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、ちょっと早めに来れたんで。」
「そうなんだ。よろしくね。ミキサー操作、頑張ってね。」
「はい。頑張ります。大田さんもよろしくお願いします。」
13時、会場のキララコテージには、続々とスタッフがやって来る。
男は女を見つけて声をかける。
「ミカちゃん、おはよう。今日はよろしくね。」
「健吾くん、おはよう。こちらこそ、よろしくね。」
13時30分、会場にTAMAKIがやって来た。
「皆さん、お忙しい中ありがとうございます。これから準備に入りますが、怪我などに注意してお願いします。」
TAMAKIの掛け声で準備がスタートした。会場の装飾をやる人、機材を準備する人、設営をする人、皆、役割をきちんと取り組むことが出来て、少し余裕持って終えることが出来た。
15時30分、会場準備が予定より早く終わった。TAMAKIから「開場は予定通り16時ですので、それまで休憩してください。」の一言で、スタッフは休憩を取った。男も喫煙スペースに行って、一服をしようとした。が、喫煙スペースに行くと既に定員に達していて、その中に女の姿もあった。
(ミカちゃんも、喫煙者だったのか。)
女の喫煙の話は本人から聞いたことあったけど、その姿を見たことなかった男は、少しばかり驚いた表情をするも、特に気にすることはなく、トイレを済ませ、自販機で買った缶コーヒーを手にして喫煙スペースに入った。
すると、さっきまで4人の定員達していたのが、トイレ終わってみると、中に残っていたのは、女だけだった。女は何やらスマホを凝視していて男に気づいていない。
「ミカちゃん、ミカちゃん!」
男は、女の持っているタバコの灰が女の手に落ちそうな所を、女に気づいてもらおうと少し強めに名前を読んだ。すると、女はようやく気づいたのか、男の方を見た。
「健吾くん、お疲れさま。」
「ミカちゃん、お疲れさま。何を見てたの?」
「SNSだよ、SNS。」
(言えない。この間の掲示板のスレッドの皆からのリプでのアドバイスを見返してるだなんて、言えない。)
「これ、飲む?」
そう言って男は女に、2つ持っていた缶コーヒーを1つ渡した。
「ありがとう。」
女は貰った缶コーヒーを開けて一口飲んだ。そして、もう一本のタバコに火をつけた。
(本当は、出ようと思ったけど、健吾くんと2人になれるチャンスだから、もう一本吸ってから行こう。)
男は男で、ある決意をしていた。
(ちゃんと、ミカちゃんのプレゼントも持ってきたから、自分の気持ちを伝えなきゃ!)
お互いを意識しあってる2人の空間は、お互い同じ空間にいるのに、喋ることない。でも何故か心地よい不思議な空間になっていた。
休憩時間も終わり、2人は会場に戻った。
16時、開場されると参加するリスナーさんたちが続々と会場に入ってきた。
(僕と同じくらい世代もちらほらいるけど、全体的に僕の親くらいな世代が多いな。)
男はそんなことを思っていた。
16時30分、開始時間になり、女の音声ミキサー、男の照明ミキサーの操作を合図にTAMAKIがステージに上がってきた。
「リスナーの皆さん、ばんじまして。TAMAKIです。今日はリスナーオフ会にお集まり頂き、ありがとうございます。短い時間ですが、リスナー同士の交流を楽しみましょう。乾杯!」
乾杯の合図で歓談の時間が始まる。
しばらくの歓談が進むと、女の音声ミキサーでBGMがフェードインすると、男の照明ミキサーの操作を合図に再びTAMAKIがステージに上がってきた。それと同時に、女はリスナーにビンゴカードを配った。
TAMAKIの進行でビンゴは滞りなく進んでいく。次々とビンゴになった人が景品を貰っていく。
景品が残り一つになると、TAMAKIが喋り始めた。
「あと景品は一つなんですが、ごめんなさい。ビンゴはこれで終了します。」
「えー。」という声が会場から漏れる。
「大変、申し訳ありません。ですが、ここからは、あるサプライズを行いたいと思います。」
会場は落胆した雰囲気から「何、何!?」と一気に再加熱した雰囲気になった。もちろん、女も同じ。
男は用意していた女のプレゼントを鞄から取り出す。
「今日、集まりのリスナーの中に、告白したいという人がいまして、この時間は、その告白タイムとします。で、告白する人は、、、ワイズマンくんです。」
ワイズマンという名前を聞いた会場はザワザワしていた。そりゃそうだろう。一般参加じゃなくスタッフだったのだから。TAMAKIは、自分が当たっている照明機材を男の方に向けた。
すると男にスポットライトが当たり、会場から「スタッフかよ」の声も男には聞こえてきた。TAMAKIは、進行を続ける。
「ワイズマンくん、ステージへ。」
男はTAMAKIに促されるようステージに上がった。
「皆さん、スタッフから人が上がってきて、びっくりされたと思います。ですが、このワイズマンくんも、最初は一般参加として参加予定だったんです。その予定が今ではこうしてスタッフとして参加することに変更になったことで、皆さんと同じ一般参加では無くなったということなんです。」
「わ、ワイズマン、、です。り、リスナーの皆さん、今日は、お忙しい中、お、お集まり頂き、あ、ありがとうございます。そして、こ、この時間、お借りしてす、すみません。」
「ワイズマンくんって言ったら、初恋だった幼なじみに再会したってメッセージくれたよね。」
男は恥ずかしそうに頷く。
「今日、ワイズマンくんが伝えたい相手、この中にいるって聞いたけど、相手は誰かな。」
女はドキドキしながら男とTAMAKIの会話を聞いていた。
「き、今日、つ、伝えたい相手は、み、み、ミカヒラさんです。」
その瞬間、女の方にTAMAKIは照明機材を向けた。
女はビックリして立ち上がった。
モジモジしている女の肩を近くにいた馬渕社長が叩いた。
「平野さん、行っておいで。ここは私がいるから。」
「はい。」
女は、肩幅狭めながら一般参加のリスナーの中を通ってステージに上がる。女がステージに上がると、TAMAKIが喋り始める。
「こちらのミカヒラさんも、ワイズマンくん同様に、最初は皆さんと同じ一般参加での参加の予定でしたが、スタッフとして参加するって変更になったリスナーさんです。」
「ミカヒラです。突然すみません。」
TAMAKIがリスナーに問いかけた。
「ワイズマンくんとミカヒラちゃんの2人の名前を覚えている方手を挙げてください。」
そうすると会場にいたリスナー全員が手を挙げた。すると誰か一人が声を上げる。
「ワイズマン、頑張れ!」
そうすると、その声に同調したリスナーが拍手をするとそれが全員に波及した。
TAMAKIの合図で拍手が止むと、TAMAKIは男に声をかけた。
「さぁ、ワイズマンくん。言えるかな。」
男は力強く頷いて喋り始める。
「ミカちゃん、先ずは、誕生日おめでとう。」
「あ、ありがとう。」
「これ、誕生日プレゼント選んできたから、受け取ってくれる?」
「うん。」
男はプレゼントを差し出すと女は優しく受け取った。
「開けてもいい?」
「良いよ。」
女がプレゼントの袋を開けると、ネックレスが入っていた。
「可愛い。しかも、私が金属苦手って覚えてくれていたんだね。もう一つあるけど?」
「よ、良かったら、ペアで付けてくれないかな。」
「もちろん!」
「ミカちゃん、それとね、、、、。」
男は一つ深呼吸して続ける。
「ず、ず、ずっと、す、す、好き、、でした、、。つ、付き合ってください!」
男の告白に会場は沸いた。しかし、
「いや!」
女の答えに会場は再びざわついた。
改めて静まると女は続けて喋りだした。
「ただ付き合うのは、絶対に嫌!」
「え?」
男は訳わからずポカンとしていた。が、女は続ける。
「私は、健吾くんとずっと一緒が良いの!健吾くんのお嫁さんになって、子どもも、私の一番は、ずっと、健吾くんだったの。中学で不登校になった時に私の味方になってくれた時からずっと。。。」
女は喋りながら涙が溢れた。
会場も同じように涙した。
男は、もう一度、仕切り直して女と向き合って言う。
「もう一度、伝えさせて。ミカちゃん、僕とこれからもずっと、ずっと一緒にいてください。そして、家族になってください。」
女は、男の話に嬉しくて涙が止まらない。
「最初から、そうやって言ってよ。私からも、これからもよろしくね。」
女は返事をすると、男の頬に口づけをした。
その瞬間、会場が拍手と喝采で最高潮で沸いた。
TAMAKIがステージに上がると、2人と握手をしていて、「おめでとう」と祝福した。そして会場に向かって改めて話し始める。
「そろそろ、終わり時間が迫りましたので、最後に晴れてカップルとなったワイズマンくんとミカヒラちゃんから挨拶で締めてもらいましょう。」
男が喋る。
「リスナーの皆さん、今日はありがとうございました。オフ会最後に私たちに時間を使って下さり、重ね重ね感謝します。今日は本当にありがとうございました。」
男が話し終えると2人揃ってリスナーに向かってお辞儀をした。すると、リスナーから「幸せになれよ!」「絶対に離すんじゃないぞ!」「結婚式呼んでくれよ!」などと祝福の声をもらった2人は嬉しくて涙が溢れた。
この後、2人は無事に結婚、子どもを授かり、仕事でも2人で独立していくのだが、それはまた別の話。
-完-
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