落とし物を届けただけなのに

祝木田 吉可

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第1話:ハンカチを拾う

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僕の名前は、樫木雄太。大須商店街近くのアパートに住む、福祉施設で働く介護職員の30歳。彼女どころか、トラウマの女性不信で、女性に近づくことさえ出来ずにいたら、30歳を迎えてしまった。仕事と家の往復、そして夜勤明け日のゲーセンでの音ゲー、ヒトカラで終わる、恐らくネットのスラングでいう「喪男(もおとこ)」って所かな。

ある夏の朝10時、上前津駅で降りて8番出口で地上に上がり、家に荷物と着替えをしに一旦帰ろうとしている所にハンカチが落ちているのを見つけた。僕は、一先ず、近くにある交番を探し届けに行った。

交番に到着すると年増女の警官が立っていた。女性にトラウマを感じる僕は、その年増女の警官を見て案の定、引き返した。そのことを見逃さなかった年増女の警官が僕に声をかけてきた。

「ちょっと、君。良いかな。」

「は、はいっ!」

「ちょっと挙動不審だな。少し、話良いかな。」

「は、、、。はい。」

「君。今、私を見て逃げたろ。」

「に、に、逃げてないです、、、。」

「とりあえず、持ち物のチェックをしますよ。」

「ど、どうぞ。」

年増女は、僕の鞄をチェックしながら、話を進めていく。

「じゃあ、何か用でもあったのか?」

「は、はい。」

「鞄の中に、不審なものはなかったな。」

年増女は、僕の持っているハンカチと紙切れに気づく。

「そのハンカチと、紙切れは、、、宝くじだね。それは、どうした?」

「えっと、、、」

年増女は、僕の喋る遅さに我慢できず、話を進めた。

「詳しくは、交番で話を聞くから。」

「え、え~!?」

僕は年増女に連れられて交番に連れて行かれた。

交番内にある個室の椅子に座るよう言われた。

「で、その持っているのは、何?」

「えっと~、、、。」

「黙ってるってことは、何かマズイことでも?」

「いや、そうじゃなくて、、、。」

「じゃあ、何を隠してるの?」

年増女が詰め寄って、僕が怖気づいてる所を所長という中年男性が目撃して近づいてきた。

「黒石くん、どうした?」

「白井所長、彼が何かを隠してるんですが、中々吐いてくれなくて。」

年増女は黒石、所長は白井というらしい。

白井は、僕の顔を見て手の震えがあるのを確認して言った。

「黒石くん、ちょっと代わってもらえるかな?扉の所で待機しててほしい。」

「、、、、分かりました、、、、。」

黒石は、腑に落ちない感じで僕から離れて、その席に白井が座った。

「改めまして、私がこの交番の所長している白井だ。よろしく。」

白井の柔和な感じの喋り方が、僕は心地よかった。

「樫木です。よ、よろしくお願いします。」

そこに黒石が割って入る。

「あんた!私には一言も発さなかったのに!」

「黒石くん、そこから割って入っちゃダメですよ。」

「すみません、、、。」

割って入ろうとし黒石だが、白井の喝で再びシュンとした。黒石が引いたのを確認した白井は、僕に再び話しかけた。

「樫木さん、だね。今日は何か、この交番に用事があったんじゃないのかな。」

「お、落とし物です。と、と、届けようとしただけなのに。」

「落とし物を届けてくれたんだね、ありがとう。今から落とし物の手続き、やるね。ちょっと待ってて。」

白井が席を立った瞬間に黒石が詰める。

「落とし物なら、最初から私に、そう言えば良いでしょ!人の顔見て逃げたり、喋らないでいるから、こうして時間の無駄になったじゃない!」

「そ、そ、それは、、、。」

「ほら、またそうやってだんまりになる!男だったら、何とか言ったら、どうなの!?」

白井が書類を取りに戻ると黒石に再び喝を入れた。

「黒石くん!彼、樫木さんが萎縮しちゃってるから彼を詰めるのは、やめてください。」

「はい、、、。あ、あの、所長?」

「何かな?」

「私も同席してもよろしいでしょうか。」

「それは、樫木さん本人に聞いてください。」

「か、樫木さん。私も同席して良いですか。出しゃばったりしないので、お願いします。」

「あ、あなたが喋らなければ、ぼ、ぼ、僕は、だ、だ、大丈夫ですよ。」

「良いって。そこに椅子があるから、座りなさい。」

「はい。」

黒石は、白井に言われたように予備のパイプ椅子を出して座った。

「さ、樫木さん。落とし物のデータを今から聞き取りますね。」

「わ、分かりました。」

「落とし物を見つけたのは、今日(2018年10月10日)で良いですね。」

「はい。」

「では、落とし物を見つけた場所と時間、分かりますか?」

「場所は、七ツ寺共同スタジオ近くだったかな。時間は、3~40分前だったかな。」

「場所が、七ツ寺共同スタジオ付近、時間が、今から3~40分前だと、10時30分頃だね。」

「はい。」

「見つけたのは、このハンカチと宝くじ券一枚、で良いんだよね。」

「はい。」

「ハンカチは、ピンクのレースが付いたハンカチ、宝くじ券は、ハロウィンジャンボだね。」

一方、同じ頃、一人の女性が交番を訪ねた。

「すみません、この近くでハンカチを落としたんですが、届いたりしてないですか?」

「ハンカチの落とし物ですね。今、拾い主が来られて落とし物の手続きをしているので、声かけてきますね。」

「ありがとうございます。」

対応している若い女性警官が白井を呼ぶ。

「白井所長。」

「どうした、麦田くん。」

「今、ハンカチを落としたという方が交番に来られました。」

「そうか、入ってもらいなさい。」

「はい。」

麦田という女性警官に連れられて落とし主が入ってきた。

「また、女性だぁ~。」

そう思った僕は、再び萎縮してしまい、座っていたパイプ椅子を持って後ずさりをした。

「そんなに、離れなくても、、、。」

落とし主の女性は、少しガッカリしたが、黒石が割って入る。

「大丈夫、私の時も引かれたから。」

「は、はぁ、、、。」

「まぁ、彼も彼で、女性に対する思いがあるのでしょうから、後で、そのことも聞きましょう。」

白井が2人を宥める。

落とし主の女性が少しずつ僕に近づいてくる。何とか、距離を保とうとするも部屋の角に来たものだから、これ以上、行けない。

僕は、咄嗟に近づく女性に言った。

「ち、近すぎるのは、は、話が、で、出来ないので。す、すみません。」

「あっ、ごめんなさい。どの距離が良いかな?」

「は、斜向かいなら、な、何とか、大丈夫かと。」

「斜向かい?斜め前ってこと?」

僕は全力で首を縦に振った。

「私、じゃあ、所長さんの隣に座るね。」

女性は、素直に応じてくれ、白井所長の隣に椅子を持ってきて座り直した。僕もそれを見て、戻る感じで座り直した。

「改めて、ハンカチ拾ってくれてありがとうございます。中嶋朱莉って言います。あの、あなたは?」

「ぼ、ぼ、僕は、か、樫木雄太って言います。」

「中嶋さん、このハンカチ、一応、本人である確認したいけど、良いですか?」

「はい。ピンクのレース付きで、ローマ字「a.k.a」って表面の生地の所に刺繍があると思います。」

「確認します。」

白井が言われた通りハンカチの特徴を確認した。

「ローマ字の刺繍、確かに確認しました。因みに、こちらのハロウィンジャンボも中嶋さんので、良いですか。」

「そうですね。財布にしまおうと思って間違えてハンカチに挟んでたみたいです。」

「このハロウィンジャンボ、抽選日が、来週とのことですが、拾った樫木さんにも、当たった場合に、その一部受け取れますが、どうしますか?」

「ぼ、僕は、大丈夫です。ぶ、無事にこうして落とし物が落とし主に戻ってきたのが分かっただけで満足なので。」

「それでも、私は、樫木さん。あなたにお礼がしたいです。このハンカチ、亡くなった母の形見なんで、見つかって安心しましたので。」

「そ、それは、良かったです。」

「連絡先、交換してもらっても良いですか?日時合わせたいので。」

「わ、分かりました。」

僕は、中嶋さんに言われるがまま、連絡先を交換した。

「では、確かに落とし物の処理がこれで完了したということで良いですね。」

白井所長が処理を終えて、終わろうとした所、黒石が割り込んできた。

「所長、終われませんよ。彼、樫木さんが何で女性を敬遠してるのか、その理由聞いてないですよ。」

白井は、「はぁ~」とため息を付くと、呆れたように返した。

「彼が女性を敬遠しているのは、女性が苦手だからでしょ。元々、苦手な女性から詰め寄って来られると誰も、しどろもどろするでしょ。それを、不審がるのは、失礼だと思わないのかね。」

「すみません、、、。」

黒石は、渋々窓口に戻っていった。

白井に連れられて、中嶋さんと僕は交番を出た。

「お互い落とし物が解決して、良かった。お二人とも、気をつけて。」

僕と中嶋さんは、白井に「ありがとうございます」と言って、それぞれの方向に歩いていった。

-続く-






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