落とし物を届けただけなのに

祝木田 吉可

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第2話:お嬢様とのお食事会

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僕は、交番での手続きが終わると、シャワーを浴びに家に帰った。僕のアパートは、歩道橋を挟んで道路の向かい側に、1階がコンビニで2階がファミレスの入った複合ビルがある。近すぎず遠すぎない。歩道橋を挟んでっていうのが、また僕には丁度いい距離感で心地がいい。街なかの一角のアパートの敷地内には、緑を感じ、目の前の大通りには、秋になるとイチョウの葉が艶やかな黄金色の景色を演出してくれるこの景色が内見で気に入ったのだ。

「ただいまー。」

玄関開けて目に入るのが、大通りのイチョウの木。

「やっぱり、この景色は良いな。早くイチョウの季節、来ないかな。」

僕はそんなことを思い更けていった。

「ヨシッ!シャワー浴びて、洗濯物回そ。」

僕は、ササッとシャワーを浴びて、夜勤で出た洗濯物を洗濯機に入れて回した。

「待っている間に、何か食べるか。」

僕は、洗濯が終わるまでの間、何か食べようとキッチンに向かった。4個入りロールパンとインスタントのコーンスープが目に入った。

「パンとコーンスープか。冷蔵庫に確か、、、あった。あと、引き出しに確か、、、あった。」

冷蔵庫と引き出しから取り出したのは、バナナとキウイと牛乳、そして黄桃の缶詰ときな粉。それぞれをカットしてミキサーに入れてスムージーを作った。

「これで、よし。食べるか。」

ダイニングテーブルに食べ物を置き、椅子に腰掛ける。手元にあるテレビのリモコンに手を伸ばす。

「そういえば、録画溜まってたな。」

録画一覧押すと、僕は余りの多さに落胆した。

「未視聴が100って、どんだけ見てなかったんだ。しかも一昨年のものとかもあるとか、はぁ~。」

録画したのに消化しきれない自分に嫌気がさした。テレビはいつもつけていたが、朝と夕方のニュースを見て満足してしまっていたから、録画したものに目が行き届かなくなっていた。

「さすがに、消すか。ドラマとアニメは今期分、仕事関係は直近一ヶ月分が残ってれば良いよな。」

僕は取捨選択をして、残りの未視聴が10となった。

「だいぶ、スッキリしたな。これなら、大丈夫。」

そこから一つ番組を再生して、安心した僕は、ようやく、軽食を始めた。再生した番組は、障害者総合支援法の改正についての特集だった。

「そっか。障害者総合支援法出来てから6年経ったのか、早いな。なんか、今回の改正で出来ることがこんなに増えて、うちの会社、大丈夫なのかな?」

食べながら、法改正で出来ることが増えた嬉しさと会社が今回の法改正に付いて行けるのかが、不安になった。

「でも、まぁ自分のできることを、するしかないってことだな。ごちそうさまでした。」

番組全部見なかったが、要点を押さえることが出来た僕は、満足して、番組を止めて、テレビを消して、食べ終わったものを洗い、終わった洗濯物を干した。

「ヨシッ。とりあえずこれで良いかな。」

身支度を整えた僕は、火元と鍵の確認をして部屋を出た。

「とりあえず音ゲーやりに行かねばな。」

僕は、大須商店街の中にある、いつものゲーセンに向かった。ゲーセンの音ゲーエリアに到着すると、何やら人集りが出来ていた。

「何があるんだろう。」

ふと看板見ると、格闘ゲームの大会と書いてある。

「でも、格ゲーは隣のエリアで参加者が溢れたのかな。」

そう思ったが、大会やっている格ゲーの隣はダンスゲームだった。こっちにもギャラリーが出来ていて、ダンスゲームの奥にある音ゲーをしたい僕は、どこかで時間を潰すことにした。

「格ゲーの大会は、16時までか。今が、14時だから2時間位は時間潰せるか。」

僕は、一旦ゲーセンを出て、向かい側にあるカラオケ店に向かった。

いつも同じ店舗にしか行かないので、店員さんは、僕のことを覚えている人もいるらしく、店の自動ドアが開き受付カウンターから姿を見えると向こうから声をかけてくれた。

「樫木さま、いらっしゃいませ。」

「空室状況確認せずに来てしまい、すみません。」

「いえ、大丈夫ですよ。ご希望の喫煙ルームに空きが出来ていますので、ご案内しますね。」

「ありがとうございます。」

スムーズに受付を済ませて部屋に行き、荷物を置いてドリンクバーに向かった。適当に飲み物を選んで部屋に戻る。部屋に戻って、一服しようとタバコに火をつけ、スマホを取り出すと、メッセージが来ていた。

「メッセージ?誰からだろう?」

メッセージを開くと落とし物を届けた中嶋さんからだった。

「今日は、ハンカチを拾ってくれてありがとうございます。お礼をしたいですが、この後、20時の予定はどうでしょうか。」

「20時、了解しました。大丈夫です。」

僕は、直ぐにそう、返事をした。

「お礼で会うだけ、だもんな。」

僕はとりあえず、スマホをテーブルに置いて、デンモクを手にして選曲始めた。

ひとしきり歌い終わると、会計を済ませてもう一度、ゲーセンに戻った。16時、ちょうど格ゲーの大会は終わった所で、その場がワラワラしていた。幸い、ダンスゲームには、ギャラリーいなかったので、スムーズに通ることが出来た。

「やっと、出来る。ヨシッ!」

僕は、「ポップンミュージック」をプレイし始めた。ここのゲーセンは、「一人、連続2プレイまで」という掟があった。僕も2プレイしてから、待合席で休憩していた。すると空いた筐体に次の人がプレイを始めた。

「やっぱ、みんな上手いな。」

大須のゲーセンの音ゲーコーナーには、ゲーム毎に上手い、ガチ勢が多くいる。そんな彼らのプレイを見るのが僕は勉強になっている。

ふと待合席のテーブルに「ポップンミュージック」の大会情報のチラシが置いてあった。

「ポップンの大会か。日にちは、、、今のところ調整出来そうだから、今回も出てみようかな。」

チラシをもう少し詳しく見てみる。

「今回は、ハードのLevel35~40とエキストラのLevel40~45で部門が分かれるんだ。前より参加しやすいな。」

僕は自分でも出られそうな内容でホッとしたのもつかの間、その課題曲に驚いた。

「これ、ミックステンポにランダム譜面、ベース譜面と階段譜面のコンボって、自分の苦手な曲ばかりだな。でも、まぁ、頑張ってみるか。大会まであと2カ月、未だ間に合う、はずだ。」

僕は、とりあえず、参加シートに記入して用紙をボックスに入れた。

筐体に空きが出たのを確認し、プレイを再開した。

「折角だから、課題曲をやってみなくちゃな。」

僕は、課題曲になっている曲を選んでプレイした。

2プレイ、6曲を試してみたが、自分が納得するような出来ではなく、肩を落とした。

「ハードでも、やっぱり課題曲は、難しいな。普段の練習で選ばないやつだから、余計か。いやぁ~、しかし得点が伸びないな。」

そう呟きながら、手元にある自分のプレイログに追加する。時折、他のプレイヤーがやっている様子を見つつ、やっていたら、19時30分になっていた。

「そろそろ、練習終えるか。結果、今日は15回出来て、30曲新しくクリア出来たから、充分だな。」

僕はゲーセンを出て、待ち合わせ場所になっている招き猫広場に向かった。19時40分、待ち合わせまで未だ20分ある。僕は、近くのベンチに座って待っていた。

しばらくして、上前津駅の8番出口の方面から、一人の女性が、僕の方に近づいてくる。ロリータ服に日傘を纏うその姿は、上品な個性を醸し出している。自然にロリータ服を着こなしている分、その醸し出されるオーラにすれ違う人たちが振り向いて、目で追っているのが分かる。

「樫木さん、お待たせしました。」

声をかけられた僕は、一瞬ビックリしたものの、不思議と直ぐに受け入れることが出来た。

「な、な、中嶋さん、ですか?そ、その、す、素敵な格好ですね。」

「ありがとうございます。」

中嶋さんは、ニッコリと優しく笑い答えた。

すると、周りの男たちから、冷やかなコメントが突き刺さる。

「なんで、あんな綺麗なお嬢に、あんな、モブオタな喪男なんだよ。」

その言葉が、僕を晒しているように聞こえてしまう。僕は少し萎縮してしまった。

「樫木さん?どうしました?」

「い、いえ、、、。」

「もしかして、周りの視線ですか?」

「は、はい、、、。」

「この格好、樫木さんは嫌、ですか?」

「そんなことないです。私は、中嶋さん、とても似合ってるな、素敵だなと思ってます。好きなもので身に纏うと嬉しくなりますよね。」

「良かった。嫌だったらどうしようかなって思ってました。」

「素敵で、ずっと見入ってしまったら、すみません、、、。」

「私をずっと見てくれる分には、いくら見てもらっても大丈夫ですよ。」

中嶋さんは、僕に笑顔で話してくれた。

「それでは、お店に行きましょうか。お店、予約してますので。」

「はい。よろしくお願いします。」

中嶋さんの案内で、予約してあるお店に向かった。

「ここ、です。」

『大須ロリィタ倶楽部』というそこは、洋風の建物で中に入るとアンティーク調の洋食器が所狭しと並べられてある。

「とても素敵なお店、ですね。」

「ここは、ロリータグッズを扱うロリータショップなんですけど、夜は、お店にある洋食器で食事も出来るお店なんですよ。」

「お店の雰囲気を存分に楽しめるんですね。」

「ね?良い所でしよ。さっ、入りましょう。」

中嶋さんに手を引かれ僕はお店に入った。

「ごきげんよう、お嬢様。ご主人様。」

「ごきげんよう。朱莉です。」

「朱莉お嬢様、お待ちしていました。お部屋にご案内します。こちらへどうぞ。」

「よろしくお願いします。」

店員さんの案内で予約した席に移動した。

大きな丸テーブルと椅子の置いてあるその部屋は、ロリータ調というか、お屋敷の部屋の一室を模した感じで、僕は余計に緊張してくる。

それを感じた中嶋さんが、僕に声を掛ける。

「樫木さん、緊張してます?」

「は、はい。こんな空間、初めてなので。」

「心配しなくても大丈夫よ。次第に慣れるよ。」

そう言って、中嶋さんは僕の椅子を引いてくれた。

「あ、ありがとうございます。」

僕は、恐る恐るその椅子に座った。

中嶋さんも対面に座る。

座るその姿勢の美しさに僕は思わず聞いた。

「中嶋さん、着物とかもやられたりします?」

僕の質問に中嶋さんは、少し驚いた様子だった。

「はい!何で分かったんですか?」

「えっと、、、、座る姿勢が綺麗で、所作の一つ一つがお洋服を魅せる感じの所作なので、そうなのかなって、思って。」

僕の返しに中嶋さんは関心したようで

「私、ロリータと着物の両方が好きで、どうせ着るなら、その服や着物を大切に着たいなと思っているんです。なので、そうやって言われると嬉しいです。」

「そうなんですね、それは良かったです。とても素敵でお似合いですよ。」

中嶋さんは、少し照れながら話題を変えた。

「樫木さん、このテーブルは、どうでしょう。対面だけど、テーブルが大きいから、それなりに距離は保たれてると思うんですが。」

僕は、中嶋さんの配慮に驚いた。

「あの時のこと、覚えててくれたんですか!?ありがとうございます。」

「気に入ってくださって、良かったわ。」

中嶋さんは、そう言ってテーブルにある呼び鈴で店員を呼んだ。

-続く-

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