21 / 58
二 最上霞は沈んでいる
8
しおりを挟む
「それも、なくはないけど。それだけじゃないよ。ちょっと前に親とか死んだからさ、大学どころじゃなくなったんだよ」
「家族が?」
「うん、そう。経歴全部、履歴書みたいなのに書いて提出した覚えがあるんだけど。読んでない?」
「いや、読んだ。覚えている……」
「人間に対して興味なくても、表向きだけは興味あるフリしといた方が上手くいくと思うよ。上から命令するだけにしてもさ」
「違う、興味がないわけではない。その、家族の件と、今のお前の状況が結びついていなかった。だから、そう無理な行動を取るのか? おい、どこに行く」
「おれは階段使うって言ったじゃん」
そいつの横を素通りして、エレベーターの裏にある重たい鉄のドアを開く。午前に来たときと同じ薄暗く狭い階段。二人で並んで歩けるほどの幅もない。
「四階の休憩室使おう」
「その話はいい。お前の経歴はきちんと覚えている。お前は半年ほど前に裏側の異世界人らの襲撃を受け、家族を奪われた――」
「家族だけじゃない。結構規模が大きかったからね。エレベーター使ったら?」
問いかけには無言で返された。この狭い階段ですぐ後ろに追っかけてくる。狭いせいで追い抜かれることはない。だからといって手を出して引き止めるような場面でもない。背中にもどかしそうな足音。エレベーター裏と繋がる鉄の扉が自動的に閉まった。上から下まで全ての扉が閉じられ、窓もなく行きの詰まるような閉鎖感だ。こんなところでしたい話じゃない。
「奴らに復讐を望んでいるのか?」
「別に。そのときの奴はその場で殺されてたから、相手いないし」
「では、その怒りは我々に向いているのか」
「なんでそう思う?」
「我々の助けが遅すぎたことも、お前の家族の死の要因の一つだ」
「なんかしおらしいね。意外だ」
「やはり、そうなのか」
四階まで、そう遠くない。話をしながら、には短すぎるぐらい。扉はすぐそこだ。さっきエレベーターが上に行っていたのを思い出す。誰かが休憩室に居たら気まずいな、と。今日エレベーターに乗っていたんだがから、部隊の他の四人じゃない。事務の人とかだろうか。そうなると余計に、こんな話を聞かせたくはなかった。
愉快な話じゃない。二人で話す分には、まだいいけど。できればもう少し陰鬱じゃない場所で――でも、仕方ない。
「おれがあんたらを恨んでいるって言ったら、立場上まずいんじゃないの」
「……そんなことはない。我々はあなた方の精神の自由を保証している」
四階のドアの前で振り向いて返事をした。どうしても癖で、はぐらかすような事を言ってしまう。今となっては口にできないほど思いつめているわけではないと、自分自身考えているんだけど……どうだろう?
階段の踊り場の天井では古びてまだらに陰影の入った照明が、こいつの頭上から足元までを照らしていた。
相変わらずこの距離で見ても、皮膚や髪が発光しているように見える。金属質の髪はともかくとして、皮膚にも銀色が混じっているような。実際にそうなのかもしれない。だからこそ石みたいな顔なんて言われているわけで。殴っても嬲っても壊れそうにない、触れたところでなんの意味も持てなそうな――あまりに遠い位置にある。
それが思いがけず本当に痛ましく顔を歪めている。振り向いてはぐらかすように答えて、その返事を聞いて、それからやっと気がついた。
それこそ、初めて見る顔だ。これは、おれのせいか?
共感性が高い、というのは人類だけが持つ特性ではなさそうだ。だからこそついさっきそれに言及して、苛立ちを見せたってことか。
「今の、気にしないでいいよ。恨んでるってのとも違うし」
薄ら笑いながら否定した。頭ん中で色々考えてる。割と焦ってる。そういう顔されるのは気分がよくない。こうしておれに見せている共感というものが、要するに同情であったとして、それが欲しいとは微塵も思えない。
悲しい顔しないで欲しいというか、正直言って実際その顔嫌いじゃないけど、できればもうちょっと楽しそうにして欲しいというか、言い争ってるときの方が断然楽しそうでいいとか。
なにこれ。おれ本当に恋愛してんのかな。マジで?
「家族が?」
「うん、そう。経歴全部、履歴書みたいなのに書いて提出した覚えがあるんだけど。読んでない?」
「いや、読んだ。覚えている……」
「人間に対して興味なくても、表向きだけは興味あるフリしといた方が上手くいくと思うよ。上から命令するだけにしてもさ」
「違う、興味がないわけではない。その、家族の件と、今のお前の状況が結びついていなかった。だから、そう無理な行動を取るのか? おい、どこに行く」
「おれは階段使うって言ったじゃん」
そいつの横を素通りして、エレベーターの裏にある重たい鉄のドアを開く。午前に来たときと同じ薄暗く狭い階段。二人で並んで歩けるほどの幅もない。
「四階の休憩室使おう」
「その話はいい。お前の経歴はきちんと覚えている。お前は半年ほど前に裏側の異世界人らの襲撃を受け、家族を奪われた――」
「家族だけじゃない。結構規模が大きかったからね。エレベーター使ったら?」
問いかけには無言で返された。この狭い階段ですぐ後ろに追っかけてくる。狭いせいで追い抜かれることはない。だからといって手を出して引き止めるような場面でもない。背中にもどかしそうな足音。エレベーター裏と繋がる鉄の扉が自動的に閉まった。上から下まで全ての扉が閉じられ、窓もなく行きの詰まるような閉鎖感だ。こんなところでしたい話じゃない。
「奴らに復讐を望んでいるのか?」
「別に。そのときの奴はその場で殺されてたから、相手いないし」
「では、その怒りは我々に向いているのか」
「なんでそう思う?」
「我々の助けが遅すぎたことも、お前の家族の死の要因の一つだ」
「なんかしおらしいね。意外だ」
「やはり、そうなのか」
四階まで、そう遠くない。話をしながら、には短すぎるぐらい。扉はすぐそこだ。さっきエレベーターが上に行っていたのを思い出す。誰かが休憩室に居たら気まずいな、と。今日エレベーターに乗っていたんだがから、部隊の他の四人じゃない。事務の人とかだろうか。そうなると余計に、こんな話を聞かせたくはなかった。
愉快な話じゃない。二人で話す分には、まだいいけど。できればもう少し陰鬱じゃない場所で――でも、仕方ない。
「おれがあんたらを恨んでいるって言ったら、立場上まずいんじゃないの」
「……そんなことはない。我々はあなた方の精神の自由を保証している」
四階のドアの前で振り向いて返事をした。どうしても癖で、はぐらかすような事を言ってしまう。今となっては口にできないほど思いつめているわけではないと、自分自身考えているんだけど……どうだろう?
階段の踊り場の天井では古びてまだらに陰影の入った照明が、こいつの頭上から足元までを照らしていた。
相変わらずこの距離で見ても、皮膚や髪が発光しているように見える。金属質の髪はともかくとして、皮膚にも銀色が混じっているような。実際にそうなのかもしれない。だからこそ石みたいな顔なんて言われているわけで。殴っても嬲っても壊れそうにない、触れたところでなんの意味も持てなそうな――あまりに遠い位置にある。
それが思いがけず本当に痛ましく顔を歪めている。振り向いてはぐらかすように答えて、その返事を聞いて、それからやっと気がついた。
それこそ、初めて見る顔だ。これは、おれのせいか?
共感性が高い、というのは人類だけが持つ特性ではなさそうだ。だからこそついさっきそれに言及して、苛立ちを見せたってことか。
「今の、気にしないでいいよ。恨んでるってのとも違うし」
薄ら笑いながら否定した。頭ん中で色々考えてる。割と焦ってる。そういう顔されるのは気分がよくない。こうしておれに見せている共感というものが、要するに同情であったとして、それが欲しいとは微塵も思えない。
悲しい顔しないで欲しいというか、正直言って実際その顔嫌いじゃないけど、できればもうちょっと楽しそうにして欲しいというか、言い争ってるときの方が断然楽しそうでいいとか。
なにこれ。おれ本当に恋愛してんのかな。マジで?
10
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる