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初めての友達
45.
しおりを挟む「トイ!」
「おわっアンナ、どうした?」
「あのね、あのね、ディアナが、作ってくれたの」
アンナは突進する勢いでトイに抱きつき、嬉しそうに目の前でくるりと回ってみせた。
髪には色とりどりの花で複雑に編まれた可愛い花飾りがついている、ディアナが作ってやったのだろう。
2週間前に育児院に新しくやってきたディアナという少女は、育児院の子どもたちと直ぐに打ち解けた。そして彼女は手先がとても器用だった。
「そっか、よかったなアンナ。すっげえ綺麗だよ」
せっかくの花飾りを崩さぬよう頭を撫でる。それはお世辞でもなく本心だった。アンナは頬がふっくらとしていて、草花生い茂る草原を走り回ってそうな女の子だ。誰よりも花が似合う。
それにピンク色の花びらはアンナの頬と同じ色で可愛らしかった。
トイに褒められたアンナはえへへ、とはにかむように笑うとスカートを翻してたーっと駆け出した。暫くは頭に乗せられた花の飾りを崩さぬようお淑やかに遊ぶだろうが、鬼ごっこなどを始めたらすっかり忘れてしまうのだろう。
アンナはちょっと忘れっぽい。壊れちゃったとぐずりながらトイに抱き着いてくる今後の展開を想像して、つい苦笑してしまう。
「トイって罪な男ね」
「わ、ディアナ」
ひょいっと後ろから声をかけられてびっくりした。長い髪を三つ編みにしたディアナだった。どうやらアンナとトイのやり取りをこっそり覗かれていたらしい。
そしてトイはディアナのほつれた髪に目を見張り、ぷっと吹き出してしまった。
「ディアナ、髪凄いことになってるぞ?」
「みんなにやられちゃったの。でも可愛いからいいもん」
解けて崩れた三つ編みに、色々な花が差し込まれている。
きっとディアナのことだから、子どもたち全員に花飾りを作ってやってそのお返しにと花を挿されたのだろう。のどかな光景が目に浮かぶ。
きっと笑って逃げながら、子どもたちの相手をしていたに違いない。
「でもさすがに土っぽくなっちゃって、逃げてきたの」
「ディアナはすげえよな、アンナってあんまり人に懐かないのに」
アンナは明るく元気な子だが、人見知りも激しい。打ち解けた人に対してはスキンシップも激しくなるが、そこに至るまでが少々長めの子だった。
実際トイだってアンナと仲良くなるまで2カ月はかかった。しかしディアナはそれを1週間ほどでやってのけたのだ。もうディアナは、アンナや他の子どもたちのお姉さんに見えた。
「え、そうなの? アンナって誰とも仲良くなれる子だと思ってた」
「え、オレ仲良くなるまで2カ月かかったんだけど……最初は話しかけても逃げちまうし、大変でさ」
「うーん、それはまた別の理由なんじゃない?」
「別って?」
にま、と意味ありげな笑みを浮かべたディアナに手招きされる。辺りを窺うようにこっそりとディアナに歩み寄ると、彼女の茶色い髪に差し込まれた花の香りがふわりと強くなった。
「さっきも言ったでしょ、罪な男ねトイって」
「あ、そうそう。さっきのってどういう意味だ?」
「アンナね、大きくなったらトイのお嫁さんになるんだって」
「へえ……は!?」
こそっと囁かれて素っ頓狂な声を上げてしまった。寝耳に水とはこのことだ。目に見えて驚きを露わにしたトイにディアナはからからと笑った。
「顔真っ赤よ、トイ」
「だっ、そっ、うっ」
「だってそれは嘘だろう?」
口の中でこもってしまった台詞を簡単に言い当てられたことはさて置き、トイは本当に驚いたのだ。
まさかアンナがそんなことを思っていただなんて。
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