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前兆
101.
しおりを挟む路地裏の隙間から二人が見たものは、ソンリェンが少女を壁に押し付け顎を引っ掴み、見たことがないほど熱烈な口付けを与えている現場だった。
とんでもない光景にエミーのみならずレオも固まった。ちらりと見える少女の横顔で、白だと思っていた肌が褐色であったことを知る。
「ん……、ふぁ」
そしてもう一つ間違いに気が付く。少女──と思っていたが、上がる声はキーの高い少年のそれだった。
「ま、まって……そんりぇ、」
「煩え」
「でも、く、くるしっ、んっ……ん、ァ──んぅ」
顔を振って逃れようとする少女──いや少年に舌を激しく絡め、執拗に貪る姿はこれまでのソンリェンとあまりにも重ならない。
ソンリェンは場の雰囲気に乗った時以外は、キスという行為をそもそもしない男だ。他人の口に口を重ねるなんて汚えから御免だなと普段から吐き捨てている通り、どんな愛人相手でも滅多にしない。
誰がソンリェンにキスをして貰ったかが彼の愛人たちの間でのステータスにもなっているほどだ。
そんなソンリェンが、自分よりも一回りも小さな少年の唇を貪ることに没頭している、おまけに、口の端から零れる唾液すらにも舌を這わせて再び深く重ねている始末だ。驚く以上に愕然とした。
「腕、まわせ」
しかも震える少年の腕を捕らえ、そっと自身の首に回してやると来たものだ。
「こっちだ。掴まれ」
「ん、んっ──……」
ソンリェンの手によって首に腕を回した少年が、戸惑いがちにきゅっと力を籠め、ソンリェンの背のシャツを握る。するとソンリェンもそんないじらしい少年の行動に興奮したのか、より一層華奢な身体を抱きしめてキスを再開させた。
唾液を啜る音だけが狭い路地裏に響き渡る。
少しも動かないエミーの顔は前髪に隠れて見えない。
やっと余すところなく貪り終えたのか、ソンリェンが唇を離した。少年がくたりとソンリェンに身体を預け、それをソンリェンも当然の如く受け止めた。
「謝れよ」
「は、ふぁ……」
「今のはどう考えても、てめえが悪いだろうが」
「ご、めん……」
どんな会話をしていたのかはわからない。ただ、怒気を露わにした先ほどのソンリェンを見ている限りこんな柔らかな声で窘められるほどのことではなかったように思える、のだが。
「二度と、言うな。次言ったら殺すぞ……わかったな」
相変わらずの物騒な物言いは健在だったが、冷え冷えとした殺気や激しい怒りも込められていないように感じられた。レオたちと軽口を言い合っている時ともまた違う。どちらかと言うと深い甘さが滲み出ているように思えた。
こんなソンリェンの声など、聞いたことがない。
エミーがぼそりと口を戦慄かせた。
聞き取れなかったが、どんな言葉を呟いたのかはなんとなくわかった。
「言え、てめえは誰のもンだ」
「そ……そんり、の」
「そうだ、お前は、俺のもンだろうが」
数秒躊躇してから沈んだ顔でこくりと頷いた少年に何を思ったのか、ソンリェンがやけに優しい仕草で少年の前髪を梳き、額や瞼、鼻の頭、そして頬に口づけの雨を降らせ始めた。
きらりと二人の手首に巻かれた紐が光る。色は異なるが形状は同じに見えた。まさかお揃いというやつなのだろうか。
その時点で堪えきれなくなったのはエミーの方だった。
レオも驚きのあまり落としてしまった煙草を拾う気にはなれず、ばさりと踵を返した友人の後を追った。
「エミー」
かつかつと、レオを振り返りもせずに歩くエミーをゆったりと追いかける。
「おい、エミー、落ち着けって」
「ねえレオ」
いつのも間延びしたような声色じゃない。これはかなり怒っている証拠だ。
「今のトイだったよね」
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