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玩具の人形
142.
しおりを挟む「なんて、ことを……トイが、何をしたと言うの」
「なにも」
意味もなく、手のひらを開いて閉じる。この手で、トイの髪を掴み上げた。
「なぜ、トイだったのですか……」
「たまたまだ」
この手でトイの脚を開かせて、腰を掴み上げ揺さぶった。
好きな時に好きなように。トイの尻を、膣を、口を、使った。
「こいつはたまたま、オレたちが獲物を物色している通りを歩いてた」
痛い、と泣くトイの声に耳も傾けずに押さえつけて犯した。何度も何度も輪姦した。
「だから俺達に目をつけられて、攫われた」
言葉にも出来ないような恥辱を与え続けて、人間としての尊厳を奪い尽くした。トイの男としてのプライドもめちゃくちゃにした。
「それだけだ。それだけの理由で、俺たちはトイを攫って、輪して、遊んで、飽きて、壊して──捨てた」
それだけだ。本当にそれだけなのだ。たったそれだけのくだらない理由で、偶然的に、トイは。
「だがこいつは生きていた。だから……」
悪魔たちの生贄にされて、地獄を味わった。
そして今もなお、トイは地獄の中にいる。
ソンリェンという悪魔が、再びトイに近づいたせいで。
『ァッ、痛いっ……いたい、よ』
ふいに、脳裏に蘇った光景。これはいつの記憶だろうか。思い出したくなくとも溢れてくる。
『トイって言葉の意味、知ってるか』
そうだ、確か苛立つ出来事があってむしゃくしゃしながらトイを乱暴に組み敷き、犯している最中だった。
『質問に答えろ』
トイは血の気の失った顔で、震える唇を開いた。
『っ……お、もちゃ……』
息も絶え絶えに答えたトイに、冷笑が漏れた。
『違えよ、別の意味を聞いてんだ』
前髪を引っ掴み、涙でぐちゃぐちゃになったトイの顔を覗く。汚え顔だなと揶揄りながら、トイに酷い言葉を囁いた。
『くだらねえもの』
見開かれたトイの瞳に涙が盛り上がる。嗜虐心に裏打ちされた肉欲が膨れ上がり、唇を舐めた。トイは性欲を発散するための道具だった。
『その通りじゃねえか、そうは思わねえか?』
『──ひ』
トイの目からころりと零れた涙がシーツに落ちる前に、顔をベッドの上に押し付けた。
あの頃のソンリェンにとって、トイの涙はくだらないものだった。
くだらないものだと、思い込んでいた。
「だから、なんですか……もう一度酷いことをするために、トイに会いに来たとでも言うのですか」
「……ああ」
言い訳はしない。どんな思いでトイに近づいたにせよ、結果的に酷いことをしているのに変わりはない。
「なんてことを……!」
臨界点を突破したのか、崩れ落ちていたシスターが勢いよく立ち上がった。
「連れて帰ります!」
「バカ言うな、この状態で動かせるわけねえだろうが。医者からも安静にしとけって言われてんだよ」
トイを抱え上げようとしたシスターは、少し触れただけで意識の無いトイの身体が震えたため、ぐっと唇を引き結び手を引っ込めた。
「数日はここで大人しくさせておけ。連れ帰るのはその後だ」
「そんなこと……!」
「──別に、こんな状態のガキ相手に何もしねえよ」
かっと弾かれたようにシスターがソンリェンを睨みつけ、詰め寄ってきた。避けるつもりはなかった。予想以上に強い力だったが、背が低く細い腕の女に胸ぐらを掴まれたとしても身体がふらつくわけでもない。
「そう言うのなら、なぜ、なぜ今更、トイにこんなことをしたのですか!」
自分でも不思議だった。揺さぶってくる女は鬱陶しいことこの上ないのに、なぜ好きにさせているのかと。普段の自分であれば他人に許可なく触れられるのも耐えられない。思い切り振り払っているはずだ。
「見ればわかります、トイは、1年前に助けた時と同じ状態になっています、何をしたのですか!」
「薬を飲ませた」
「なぜ」
だが直ぐにその理由に思い当って失笑した。こうしてこの女にわざわざトイの過去を洗いざらい話していることが何よりの答えだ。
ソンリェンは愚かにも、断罪を欲しているのだ。
トイを慈しんでいるこの女に。
「見りゃわかるだろ、壊そうと思ったからだ」
「なぜ!」
「なぜ、ね」
そんなこと考えるまでもない。
少女とトイが仲良く並び合っている光景に、苛立ちと忌々しさを覚えたからだ。トイが絶対に自分のものにはならないのだという事実を見せつけられたからだ。当たり前の現実を目の前に晒されて、理性が掻き消えたからだ。
トイが自分の元を去っていくという恐怖に、押し潰されそうになったからだ。
「お似合いだなんて、てめえが聞き捨てならねえこと言うからだろうが……」
目を見張ったシスターを冷たく見据える。関係のない人間に当たっている自覚はある。だが抑えられない。ソンリェンが感情を理性で抑えることが出来る人間であれば、そもそもトイを苦しめてなどいない。
「こいつは、トイは」
細い腕を掴みあげ、折ってもいいほどの勢いで強く引き剥がす。
「……俺のもンなんだよ」
我ながら地を這うような声だと思った。トイはソンリェンのものではない、そんなことわかりきっていたが口に出さずにはいられなかった。
特にこの女の前では。
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