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勇敢な子豚
20.
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「おはよ、シスター」
「あらトイおはよう。早いのね」
「あーうん、ちょっとな」
誤魔化すようにへへと頭をかいたが、シスターの目には心配の色が映っていた。隠し事が下手だという自覚はあるが、シスターには今の状況を把握させるわけにはいかないので何でもないように伸びをしてみせた。ずきりと痛んだ臀部からは意識を逸らした。
「眠れていないの? クマができてるわよ」
「月がキレイでさ、よるに散歩したら目が覚めたんだ」
「あら、それ絵本のことじゃない」
ふふ、と笑ったシスターに笑い返す。それは今トイが子どもたちに読んであげている本の内容だった。月明かりに誘われ皆が寝静まった頃に夜の探検に出かける子豚の話だ。
トイは孤児であったが字が読めた。
屋敷に監禁されていた時、屋敷の端にトイが割り当てられた狭い部屋があった。トイレやシャワーは完備されていたが窓はなく、トイが初めて男たちに輪姦された忌まわしい部屋だ。
ただ、なぜかその部屋には本があった。壁の端にある少し大きめの開閉式の本棚に、子ども向けの絵本や文字の読み方の教材、そして小説等がある程度揃えられていた。
部屋に運ばれてきた食事を食べ、男たちに玩具にされること以外何もすることがなかった1年と半年間、時間がある時はそれらを読みふけっていた。そこで字を覚えたのだ。
それに、トイが眠れなくて早く育児院に来るのはよくあることだ。シスターもそれを察してか嫌な顔一つせずトイを迎え入れてくれる。だからトイもここの人たちの優しさに甘えてしまっている。
「じゃあトイ、そろそろ子どもたちを起こしにいってくれる?お寝坊さんが多いの」
「うん」
廊下を歩いていく。
ここは教会に認められた正式な育児院でない。平等を謳う教会でも見捨てる地域は見捨てる。孤児の多さを見かねたシスターが一人で廃れた街の端に育児院を建てたのだ。
個人で経営している所なので部屋数も少なく居住している人数もそこまで多くない。
もちろん一人一人割り当てられた部屋はなく、廊下の奥の方に子供たちの寝室があった。大きな部屋で全員がそこで寝ている。
そっと扉をあけると、数人は起きて同じベッドの上でなにやら楽し気な話をしていた。アンナの姿もある。
「……あれ? とい?」
「トイだ」
「といだ、おはよー!」
「おはよ、みんな。すごいなアンソニー、一人で起きたのか?」
「うん」
数人の子どもが、ぴょんっとベッドから飛び降りてトイの腰に抱き着いてきた。柔らかな体を抱きとめる。
「どうして? 朝だよ」
痛む体を悟らせないようにそっと二人の子どもの肩を抱く。柔らかなお日様の匂いがした。鼻の奥に残っていた煙草の臭いなんて一瞬だけでも忘れてしまうぐらいの。トイにとっての太陽がここにはあった。
「今日は早く来たんだ、だから皆を起こしに来たんだよ」
「じゃあトイ、朝ごはん! いっしょに食べよ!」
「おう」
がっしりと服の袖を掴まれて苦笑してしまう。子どもの力は弱くて強い。
少し寝ぼけたままで離れない4歳のアンソニーを一瞬の躊躇の後抱き上げて、まだベッドの上でごろごろしている子どもたちの元へ向かう。
何人は既に目が覚めたようで、トイにバレないように笑いながら布団を深く被っている。にんまりと笑って、勢いをつけて布団をがばりと捲る。
「おーい、お寝坊さんは誰だ!」
「きゃー!」
「まだねるー」
トイの襲来にきゃっきゃと笑う子どもたちに、トイも自然と笑顔になる。腕の中のアンソニーもぐるぐると回されることが楽しいのかさらにトイにしがみついてきた。
少しだけ体を引いてしまったのは、今朝散々体を擦り洗ってきたがまだ何か情事の名残がこの子についてしまったらどうしようと思ったのだ。
だがアンソニーの様子はいつもとなんら変わりない。素直にトイに懐いてくれている。ほっとした。
「トッド、朝だぞ、起きない子は……」
アンソニーをベッドの傍に降ろして、ちらちらと此方を覗きながらトイからのいたずらを待っているトッドの上にがばりと覆いかぶさってわさわさと手を動かす。
「こしょこしょの刑だ!」
「わー! くすぐったあい!」
「ねートイ、メアリーにも、メアリーにもやって!」
いつもの朝の光景だった。
全員を起こして、年少の子たちはパジャマから私服に着替えさせてあげて、タオルを用意させて顔を洗いにいく。
それが終わったら皆で食堂に向かって、手を合わせて食膳の感謝をする。今朝のトイの右隣を選んだのはアンナで、左隣はアンソニーだった。
昨夜の狂乱が嘘みたいに、穏やかな朝の時間はこうして始まった。
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