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雨音
118.
しおりを挟む教えてくれたのは名も知らぬ老人だった。たまたま共に水浴びをしていた時、偶然すっころんだトイの身体に老人が気づいた。そしてトイの身体を検分すると哀れみを含ませた目で、小僧、それ誰にも言うなよと言われた。
厳しい目つきにトイは頷いた。今ならわかる、珍しい身体だと売り飛ばされるかもしれないと心配してくれたのだ。あの時出会ったのがあの老人でよかったと思う。
物心ついた頃には周囲の孤児たちに倣って自然と男言葉を使っていたし、13歳になったが体つきも女性らしくない。
それに一般的な女性が経験する「生理」というものが来ないので、自分は男としての性の方が強いのではと思っていた。
今はまだ中性的な身体だが、声変わりをしたのだからトイはきっと男として成長していくはずだ。
もしもそうなれば、ソンリェンはトイを手放してくれるかもしれない。いや──突き放されるかもしれない。
「なーんてね……何よ、見つめてきちゃって」
男は、女と何が違うのだろう。
ディアナは女性だがトイは男なのだろうか。それとも女なのだろうか。
一般的に言えば、年頃の男は女に恋をし、女は男に恋をするらしい。
トイが男であるならば、今自分はディアナに恋をしているのだろうか。
ディアナのことはかわいいと思う。彼女の傍にいると安心する。ディアナのやわらかな手に触れると緊張する、固い自分とはまるで違うから。
ではトイが男でディアナが女であるならば、トイはディアナにキスをするのが普通なのだろうか。
そうすればわかるだろうか。ソンリェンが、トイにキスをしてくる理由が。
ディアナの青い瞳を見る度に、ソンリェンの瞳を思い出してしまう理由が。
ディアナの優し気な笑顔を、ずっと見ていたいと思う、理由が。
至近距離にディアナの驚いた顔があった。彼女との境界線がぼやける。
気が付いたらディアナの頬に口付けていた。
ディアナの見開かれた瞳を数秒間見つめてから、トイは自分が仕出かしたことの重大さに気が付き、直ぐに口を離して後ずさった。
「……わぁ!!」
キスをされたのはディアナの方だと言うのに、トイの方が先に悲鳴をあげてしまった。ディアナはぽかんとしている。
「え、ト、トイ……」
「ご、ごめ、ごめん! ディアナ、あの、そのオレ、そ、そんなつもりじゃなくて!」
あたふたと意味のない言い訳をする。本当にそんなつもりじゃなかった。青い瞳に吸い込まれるようにキスをしてしまった。
触れた瞬間の柔らかさが唇に残っている気がして慌てて口を抑えてぶんぶんと首を振る。
突然友達にこんなことをしてしまうなんて。嫌な思いをさせてしまったに違いない。
呆けた様子のディアナの頬が次第に赤くなる。トイもつられて赤くなる。朱色に染まってしまったディアナの耳たぶは一週間前に見上げたソンリェンの赤らんだ耳と同じ色だった。
こんな時であっても、思い出してしまうのはソンリェンのことばかりなんて。
「あ、あの……ディアナ、ほんとごめん、突然その……おれ、オレ無意識で……!」
「う、ううん、あたしからしてよって、言ったこと、だし」
「わりい、嫌なことしちまって……!」
「そんなことない、そんなこと、ないよ!」
ディアナが気を使って首を振ってくれたが、あれが冗談だったということはトイにもわかっている。
トイは自分が嫌になった。ディアナのことを考えていたわけではない上に、無意識とはいえ女の子相手にキスをしてしまったのだ。穴があったら入りたい。
ディアナは髪を弄りながら、トイはぎゅっと袖を握りながら互いに沈黙した。ぴちちと鳥の囀りが響き二人で空を見上げるまで黙っていた。
空を横切る鳥の姿が見えなくなった所で、ディアナが肩を震わし始めた。
「ディ、アナ?」
「も、なにやってるんだろうねあたし達」
「う、うん。ごめん」
「いいよ」
くすくすとディアナは笑ってくれたが、許して貰えたのだろうか。いたたまれなくて顔を下げる。
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