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ゴーストライター
9裏
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火曜日の授業が終わって、放課後になると、すぐに私はクラスを出ようとする。
クラスメイト数名から声をかけられたけれど、アイドルの活動があるからと言ってその場を後にする。以前は私のことなど誰も相手にしなかったくせに、アイドルとしての活動が少し軌道に乗るようになった途端、掌を返すのだから、やはり人は信用できない。
校舎を出て正門を抜けると、そこにブレザー姿の男子高校生が立っていた。制服に気を取られていたが、その人物の顔を見て私は思わず目を見開く。
間久辺比佐志。彼がそこに立っていた。
この学校には彼の妹、間久辺絵里加も通っているので、彼がこの学校の前で立っていてもおかしくはないのかもしれないが、どうやら目的は妹さんではなく、私にあるようだ。
こちらの姿を捉えると、お兄さんは一目散に歩み寄ってきた。
「話がある。わかっているよな?」
心当たりなら、当然ある。
先日のコスプレイベントでの一件だろう。
「場所を移動しましょう。お互い、あまり目立たない方がいいでしょう?」
そう言って、私はお兄さんを連れて近くの公園へと向かった。
近頃は物騒だから、外で遊ぶ子供の姿もあまり見られなくなった。放課後だというのに、その公園にも近隣住民の子供の姿はない。
公園に入ると、私は居住まいを正し、彼に向き直った。
「それで、私にお話っていったいなんですか?」
「いまさらとぼけるなよ。君がぼくから盗んだ、線引屋の衣装のことだ」
「まあ、そうですよね」
私は、半ばこうなることを予想していた。
とぼけたような顔をしていても、相手は様々な騒動を巻き起こしてきたあの線引屋。一筋縄ではいかないだろう。
これから、私はどうなるんだろう。
線引屋の衣装を奪い返すためなら、きっとこの男はなんでもするに違いない。それが線引屋という曲者だと、私は理解していた。
だから、面食らった―――
「話を聞かせてくれ。君が、なぜあんなことをしたのか?」
―――こんなことを、彼が口にしたから。
「え? お兄さん、怒ってないんですか?」
「怒ってるに決まってる。だけど、それ以上に君がなぜ線引屋の衣装を盗んだのか、それが聞きたい。それを聞いた後じゃないと、心置きなく怒ることもできないじゃないか」
なんて難儀な性格をしている人なんだ、と私は思った。
私がやったことはどんな理由があっても許されることじゃないというのに、間久辺比佐志という男は、事情を聞いてからじゃないと怒るかどうか判断できないと言う。本当に、この人があの線引屋なのだろうか?
わからない。私が話を聞き、イメージしてきた線引屋という存在と、目の前にいる彼が同一人物だとはとても思えなかった。だって、線引屋は不良たちを焚きつけて争いを巻き起こす、疫病神じゃないの? そう聞いていたのに、彼は私の話を真剣に聞いてくれようとしている。
だったら、話してみようと思った。彼の目は、そう思えるくらいに真っ直ぐだった。
「少し、長くなります。それでもいいですか?」
彼が頷くのを確認してから、私は、自分語りを始めた。
ーーー私は、こう見えてもアイドルとして活動している。週末だけ、『ティーンズ・ティアラ』として活動をしている私は、それ以外の日もアイドルとして認知されるように頑張っている。他のメンバー二人が、個性を磨くために習い事をしているように、私も自分にできることを頑張ろうと思って、日々動画の配信をするようになった。もともと、ネットサーフィンが趣味だったし、投稿動画を見るのも好きだった。
そもそも、アイドルになったのも偶然と成り行き。自分が陽の光を浴びることはないと思っていた矢先、街でスカウトされてアイドルにならないかと誘われた。それまで私は、とにかく目立たないようにしてこれまで生きてきた。そうしなければならなかったら。
一歩家を出たら、近所のおばさんたちのひそひそと話す声が聞こえる。
『あれ、宗田さんの所の娘さんよ。大人しそうな顔して、あの子も裏でなにをしてるかわからないわ』
そんな風に後ろ指さされながら過ごす日々に、もううんざりしていた。
学校でも、あまり人とは関わらないようにして過ごしてきた。本当は友達と出かけたりしてみたかったけど、なにが切っ掛けでトラブルに発展し、無関係の人を傷つけてしまうかわからない。だから、ずっと我慢してきた。
でも、どれだけ私が我慢しても、周囲は私を腫物として扱う。それなら、もういっそ我慢などせずに、やりたいことをやってしまえばいいのではないかと思うようになった。いまさら関係ができあがっているクラスの中で友達を作るとかは難しいけれど、せめて、自分を変えるチャンスが舞い込んだアイドルとしての活動だけは頑張ってみたいと思った。ずっと日陰で過ごしてきた中で、ようやく陽の光を浴びる機会を得たんだ。
それなのに―――
『―――ねえ、もうやめてよ、お兄ちゃん』
『う、うるせえ! いまさら引き下がれるかよっ。もしここで逃げ出したりしたら、俺ぁ、本当に殺されちまう』
『だったら警察に相談しようよ。そうしたらきっと解決してくれるから』
『お前になにがわかるんだよっ! 警察になんて相談したら、それこそ間違いなく俺の命はない。そういう連中なんだよ! 黒煙団ってグループは』
『じゃあどうすればいいの? どうすればお兄ちゃんはその不良グループを抜けられるの?』
『そんなの知らねえ。俺が聞きてえよ。最初は軽い気持ちで入った。でも、いざ入ってみたら締め付けは厳しいし、無理難題押し付けてきやがるし、最悪だ。前もそうだった。本当は俺はやりたくなかったのに、命令されて、仕方なく隣町のクラブで敵対するチームの女さらってよ。挙句、失敗して戻ったらチームに居場所なんてなくて、いまじゃチームの仕事の中で一番リスクの高いヤクの売人の手助けやらされる始末だ。ちくしょう、俺は悪くねえ。悪いのはぜんぶ、あのガキだ。あの廃工場での一件からケチが付きっぱなしだ。いきなり現れた、あのオタクみてえなガキが邪魔したせいで、女の誘拐は失敗しちまった。そっからすべてが狂っちまったんだ! あのオタク―――マクベとかいうガキのせいで!』
「ちょっ、ちょっと待て。どうしてぼくの名前が?」
それまで黙って話を聞いていた彼が、口を挟む。その声は引きつっていた。考えるような仕草を見せながら、彼はポツリポツリと言う。
「黒煙団……廃工場……クラブで女を誘拐……って、それ、まさかっ!」
心当たりがあったのか、彼は驚愕に目をむいた。
まあ、それだけの事件ともなれば忘れるはずもないだろう。
「そうです。あなたのクラスメイト、あ、いまは恋人なんでしたっけ? 石神冴子さん。彼女を誘拐した男たちの一人が、私の兄なんです」
彼は困惑をしているようだった。なにから触れていいのかわからない、という様子を見せていた。
「ねえ、お兄さん。私、あなたのこといっぱい調べたんですよ。バカなうちの兄が不良グループの命令で誘拐事件を起こしたなんて言うから、怖くなって。だって、もしもそんなことが世間に知られたら、私はアイドル活動なんて続けられなくなる。いいえ、それどころか、兄は警察に捕まるでしょうし、そうなったらこの街に住み続けることも難しいでしょう。だから、調べた結果、石神冴子さんのことや、あなたの……線引屋のことを知りました」
そう。私は怖かった。そもそも、兄が黒煙団という、街で有名な不良グループに入ったことで、私の生活は滅茶苦茶になっていた。一歩家の外に出たら、私も兄と同じように非行に走っていると思われる。友達を作っても、兄が不良をやっていると知られると、いつの間にか距離を置かれるようになった。
「同じ兄妹でも、あなたたち兄妹とはこんなに違うんですよ。私は兄を心の底から憎んでいるけど、あなたと絵里加さんは、お互いに尊重し合ってる」
私が、絵里加さんに「お兄さんを紹介して」と頼んだとき、彼女が一番に心配したのは、お兄さんを傷つけないかどうかだった。私が、なにか悪意を持って近づこうしているのではないかと、彼女はそれを真っ先に気にしていた。
ごめんなさい、絵里加さん。騙して、ごめんなさい。
私は結局、あなたと、あなたのお兄さんを欺いてしまいました。
あなたたち兄妹を見てると、心の底から思いますーーー
「ーーー羨ましい」
私は、兄のことをそこまで想うことができないから。
私の言葉に、お兄さんは首を捻ると、釈然としない風に口を開いた。
「そこまで兄を憎んでいるんだったら、なぜ君は線引屋の衣装をぼくから盗んだりしたんだ? 線引屋は君の兄にとってのーーー黒煙団にとっての敵じゃないか。君が取った行動は、まるで兄の手助けをしているようにしか見えないぞ」
「それは違います。私の目的はたった一つ。兄が不良をやめてくれること。それだけなんです。ただ、兄はどうしてもチームを抜けることができないって言いました。自分の意思ではどうすることもできない、と。だったら方法は一つしかない」
そう、たった一つの確かな方法。
「黒煙団というチーム自体を壊滅させる。それ以外に方法はありません」
そのために、線引屋を利用しようと考えた。
「黒煙団が、どうやら線引屋という人物に恨みを持っていると知った私は、そこに争いの火種を生み出すことができないかと考えるようになりました。だから、ネットで情報を集めながら、日々更新しているブログでも、線引屋に興味がある、みたいな書き込みをするようになったんです。そんなとき、ブログのコメント欄から絡むようになった人から、色々アドバイスを貰うようになったんです」
椎名清香。彼女の名前を出すと、お兄さんの表情が一瞬驚いたものに変わる。
「知り合いなんですか?」
「いいや。知り合いってほどでもないけど、過去に一度、話をしたことがある。芸術で街に革命を起こす、みたいなことを言っていたから、随分と過激なことを言う女性だなって思ったのを覚えてる」
「私にも同じようなことを言っていましたよ。そして、線引屋というカードが手元にあれば、実際に街の勢力図を塗り替えることも可能だって言っていました。事実、椎名さんには千葉連合っていう不良の集まりにも知り合いがいるようでした。それなら、黒煙団に対抗できる。そう考えた私は、椎名さんの指示の下、線引屋の正体を突き止めることにすべてを注ぎました」
ネットに溢れる情報はバカにできない。
私がまず調べたのは、愚兄の口から出た『マクベ』という名前。 あらゆるSNSや掲示板で検索をかけた結果、ヒットしたのがマクベスというハンドルネームのユーザーだった。そのユーザーは、主にサブカルチャー、いわゆるオタク文化に関するコメントばかりを残していた。
愚兄の言葉の中に、『あのオタク……』というのがあったのを思い出した私は、そのマクベスと、マクベという人物が同一人物ではないかと考えるようになった。その推測を確証に変えたのが、去年の10月頃、マクベスというハンドルネームの人物が、かなりの数の掲示板にほぼ同時に、しかも同じ内容の書き込みをしたログが残っていたからだ。
それは、線引屋を探しているという内容の書き込みだった。
正確には、線引屋という名前のシールが貼り付けられた車を探している、という書き込みをマクベスはしていたのだ。
そもそも不自然なのは、それまでアニメやマンガなどのサブカルネタしか書き込みをしなかったマクベスが、なぜいきなり線引屋に触れたのか。しかも、書き込みが行われた日付は、どうやら愚兄がクラブで女性ーーー石神という人物を誘拐した日付と合致するようなのだ。
愚兄は、『マクベ』という人物に邪魔されたせいで誘拐は失敗したと言っていた。そして、その邪魔が入った日に、『マクベス』という人物が、やけに熱心に一台の車の行方を探していた。過去の書き込みの傾向からして、『マクベス』が線引屋に興味を示すとは思えないし、まして目撃情報を集めて車を探すような熱心なファンとも思えなかった。それは、それ以前とその後の『マクベス』の書き込みからも伺える。
ここで一つの仮説が立った。
『マクベス』が探していた車には、石神さんを誘拐した愚兄たちが乗っていて、線引屋のシールは『マクベス』自身が目印として張り付けた物ではないか。そして、その目印を元に、掲示板に情報提供を求めた。そして、廃工場に現れたのは、『マクベ』という名前の見た目オタクな人物。
この仮説からわかることは、『マクベス』と『マクベ』が同じ人物だということ。そして、線引屋のシールを持ち歩いているということは、少なくとも線引屋と深い関わりがあるーーーあるいは本人である、ということ。
そこからは簡単だった。これは偶然だったけれど、同じ学校に『間久辺』という名字の人がいて、話を聞いたら、お兄さんがいると言っていた。
まあ、下の名前で『マクベ』という可能性は低いから、そうなると名字だろうと考えていたし、名字にしてもかなり珍しいから探すのはそれほど難しくはないと踏んでいた。
「ーーーなるほどな。それで、ぼくの家に来た日に繋がるわけか」
彼は、私の話から流れを読み取り、納得した様子でそう言った。
だけど、根本的な部分では納得などしていないだろう。
それは、私が彼にしてしまったこと。
彼から、線引屋の衣装を盗んでしまったこと。
それに関しては、私は責められる理由があるし、彼には責める権利がある。
しかし、彼は激昂するでもなく、ただ首を横に振った。
「無理だよ」
「なにがです?」
「残念だけど、千葉連合は黒煙団を潰すために動いたりしない」
「そんなの嘘ですっ。だって、椎名さんが」
私は、お兄さんの言葉に思わず声を荒げた。
それでもお兄さんは、ただ淡々と言葉を並べる。
「椎名清香がなんて言ったのかぼくは知らない。だけど、少なくとも千葉連合の幹部の一人、鍛島という男は黒煙団と争うつもりはないようだ。直接本人に確認したから間違いない。もしも千葉連合が黒煙団とぶつかることになったら、隣街を仕切るチーム『マサムネ』と正面からぶつかり合うことになるだろう。そんなリスクの高い戦いを鍛島がするとはとうてい思えない。そもそも、鍛島率いるチーム『マサムネ』と黒煙団の間では、過去に色々あって、不文律ではあるけど争いをしない取り決めが交わされているんだ。メンツを大切にする鍛島が、それを軽はずみに反故にすることはない」
「そんな……じゃあ、私はなんのために」
なんのために、ここまでのことをしたのだろう。
ただ、黒煙団という不良グループが無くなってれればいいと、そう思って線引屋の衣装を彼から盗んだのに、すべてが無意味だったというの?
愕然とする私に、お兄さんは一歩近づくと、肩に触れてきた。
「君がやったことは決して誉められたことじゃない。どんな理由があっても、人の物を勝手に持っていくのはいけないことだーーー」
そんなことは、いまさら言われるまでもなくわかりきっていることだった。それとも、お兄さんにとっては、私はそれほど稚拙に見えたのだろうか。
計画が上手くいかなかったことも相まって、私は苛立ちをお兄さんにぶつけようと思った。線引屋の衣装が無くなって、ざまあみろと、そう言おうと口を開きかけたところで、私より一瞬早く言葉を発したのはお兄さんの方だった。
「―――それでも君が、優しい娘だってことはわかった」
「は?」
開きかけた口から思わず呆けた声がこぼれる。
私が優しい? 彼はいったいなにを言っているんだろう。
なにか、煙にまかれているような気がして、私は不愉快な気分になった。
「お兄さん、頭大丈夫ですか? 私は、あなたから線引屋を奪ったんですよ? それなのに、どうして私が優しいなんて言えるんですか?」
お兄さんは、堪えきれなくなったように吹き出した。
「ああ、ごめん。でも、なんか宗田さんを見ていたら、妹を思い出してさ。素直じゃなくて、口も悪いけど、心根が優しいのが我が家の妹の美点なんだよ」
「絵里加さんは真っ直ぐで優しい人なんでしょうね。でも、私は違います。自分勝手で、他人のことなんてどうだっていいと思ってます。私はそういう人間なんです」
「君は、お兄さんを助けるために黒煙団を壊滅させようと思ったんだろう? そんな娘が、悪人であるはずがない」
「そんなの、兄が不良グループなんかに入っていたら、私のアイドル活動にマイナスに働くと思ったからです。私は自分のために動いただけなんですよ」
私は、ずっと耐えてきた。
あの兄のせいで、宗田の家には関わらない方がいいと近所から噂されるようになった。
学校でも、気軽に友達なんて作ることもできなかった。
そんな兄のことを、どうして私が助けようとしなければならないのだろう。そんなことあるはずがない。
「本当にそうか? 本当に君は、お兄さんを憎んでいるのか? だったら、どうして黒煙団を潰そうなんて、面倒なことを考えたりしたんだ? 君が本当にお兄さんのことを憎んでいたのだとしたら、もっと簡単にお兄さんを黙らせる方法がいくらでもある。それこそ、喧嘩屋でも雇ってお兄さんを再起不能になるほど大怪我でも負わせれば、不良を続けることなんてできなくなる。その方が、黒煙団を潰そうと考えるよりもずっと簡単なはずだ」
そんなの、考えなかったはずないじゃない。
私は、兄が嫌いだ。あの人のせいで、私の人生にはずっと影がさしていたと思う。
それでも、思い出してしまう。大嫌いな兄だけど、昔から悪いことばかりしていたわけではない。思い返すと、優しい瞬間だって確かにあった。あんな人だけど、私にとってはたった一人の兄なんだ。大嫌いだし、存在自体迷惑だけれど、それでも家族だ。
だから、兄を傷つけるという選択肢はそもそも存在しなかった。
「なあ、宗田さん。家族を思いやる気持ち。それは、まぎれもなく優しさだよ」
彼は、そう言って私の考えに明確な言葉を与えた。
私が兄を助けるために取った手段は許せることではないが、兄を助けるために行動した努力まで、彼は否定しない。本来なら、私を恨んでいてもいいはずなのに、彼は私のすべてを否定しようとはしなかった。
だから私は、すべての感情を包み隠さずさらけ出すことができた。自分自身すらも欺いていた、本当の想い。それをすべて吐き出した。
「お願い、助けて。あんな人でも、私の家族なの……私のお兄ちゃんを、助けて」
思わず込み上げてきた涙に、私は顔を伏せる。
このままでは、兄は取り返しのつかないことになる。もう二度と、家族で笑い合うこともできなくなってしまうだろう。
しかし、こんな身勝手な願い、本当なら口にするのもおこがましいとわかっている。
私は、彼にとって大切な物を盗んだばかりか、それを自分勝手に利用しようとした。
それどころか、助けて欲しいと頼んだ私の兄は、彼にとって憎むべき相手なのだ。だから、私の願いなど一蹴されると思った。
そのはずなのに、
「わかった」
と、彼は一瞬の迷いもなく答えた。
私は、自分から助けを求めておきながら、その返答が信じられなかった。
「なんで……? どうして、私を助けてくれるんですか?」
「そんなの決まってる。君は絵里加の友人だ。助ける理由なんて、それだけで十分だよ」
「でも、私の兄は、あなたと石神さんに酷いことをしました」
「確かにそうだね。ぼくはともかく、石神さんにしたことは許せない。彼女は、誘拐されたとき、本当に怖い思いをしたんだ。だからぼくは、一生君のお兄さんを許さないと思うよ。だから、君のお兄さんはしっかりと償いをするべきだ―――不良から足を洗った後に」
私の身勝手な願いに、彼は応えようとしてくれている。
いったいなにをするつもりなのかわからないけれど、この冴えない男性を見ていると、不思議と頼りになると感じた。
クラスメイト数名から声をかけられたけれど、アイドルの活動があるからと言ってその場を後にする。以前は私のことなど誰も相手にしなかったくせに、アイドルとしての活動が少し軌道に乗るようになった途端、掌を返すのだから、やはり人は信用できない。
校舎を出て正門を抜けると、そこにブレザー姿の男子高校生が立っていた。制服に気を取られていたが、その人物の顔を見て私は思わず目を見開く。
間久辺比佐志。彼がそこに立っていた。
この学校には彼の妹、間久辺絵里加も通っているので、彼がこの学校の前で立っていてもおかしくはないのかもしれないが、どうやら目的は妹さんではなく、私にあるようだ。
こちらの姿を捉えると、お兄さんは一目散に歩み寄ってきた。
「話がある。わかっているよな?」
心当たりなら、当然ある。
先日のコスプレイベントでの一件だろう。
「場所を移動しましょう。お互い、あまり目立たない方がいいでしょう?」
そう言って、私はお兄さんを連れて近くの公園へと向かった。
近頃は物騒だから、外で遊ぶ子供の姿もあまり見られなくなった。放課後だというのに、その公園にも近隣住民の子供の姿はない。
公園に入ると、私は居住まいを正し、彼に向き直った。
「それで、私にお話っていったいなんですか?」
「いまさらとぼけるなよ。君がぼくから盗んだ、線引屋の衣装のことだ」
「まあ、そうですよね」
私は、半ばこうなることを予想していた。
とぼけたような顔をしていても、相手は様々な騒動を巻き起こしてきたあの線引屋。一筋縄ではいかないだろう。
これから、私はどうなるんだろう。
線引屋の衣装を奪い返すためなら、きっとこの男はなんでもするに違いない。それが線引屋という曲者だと、私は理解していた。
だから、面食らった―――
「話を聞かせてくれ。君が、なぜあんなことをしたのか?」
―――こんなことを、彼が口にしたから。
「え? お兄さん、怒ってないんですか?」
「怒ってるに決まってる。だけど、それ以上に君がなぜ線引屋の衣装を盗んだのか、それが聞きたい。それを聞いた後じゃないと、心置きなく怒ることもできないじゃないか」
なんて難儀な性格をしている人なんだ、と私は思った。
私がやったことはどんな理由があっても許されることじゃないというのに、間久辺比佐志という男は、事情を聞いてからじゃないと怒るかどうか判断できないと言う。本当に、この人があの線引屋なのだろうか?
わからない。私が話を聞き、イメージしてきた線引屋という存在と、目の前にいる彼が同一人物だとはとても思えなかった。だって、線引屋は不良たちを焚きつけて争いを巻き起こす、疫病神じゃないの? そう聞いていたのに、彼は私の話を真剣に聞いてくれようとしている。
だったら、話してみようと思った。彼の目は、そう思えるくらいに真っ直ぐだった。
「少し、長くなります。それでもいいですか?」
彼が頷くのを確認してから、私は、自分語りを始めた。
ーーー私は、こう見えてもアイドルとして活動している。週末だけ、『ティーンズ・ティアラ』として活動をしている私は、それ以外の日もアイドルとして認知されるように頑張っている。他のメンバー二人が、個性を磨くために習い事をしているように、私も自分にできることを頑張ろうと思って、日々動画の配信をするようになった。もともと、ネットサーフィンが趣味だったし、投稿動画を見るのも好きだった。
そもそも、アイドルになったのも偶然と成り行き。自分が陽の光を浴びることはないと思っていた矢先、街でスカウトされてアイドルにならないかと誘われた。それまで私は、とにかく目立たないようにしてこれまで生きてきた。そうしなければならなかったら。
一歩家を出たら、近所のおばさんたちのひそひそと話す声が聞こえる。
『あれ、宗田さんの所の娘さんよ。大人しそうな顔して、あの子も裏でなにをしてるかわからないわ』
そんな風に後ろ指さされながら過ごす日々に、もううんざりしていた。
学校でも、あまり人とは関わらないようにして過ごしてきた。本当は友達と出かけたりしてみたかったけど、なにが切っ掛けでトラブルに発展し、無関係の人を傷つけてしまうかわからない。だから、ずっと我慢してきた。
でも、どれだけ私が我慢しても、周囲は私を腫物として扱う。それなら、もういっそ我慢などせずに、やりたいことをやってしまえばいいのではないかと思うようになった。いまさら関係ができあがっているクラスの中で友達を作るとかは難しいけれど、せめて、自分を変えるチャンスが舞い込んだアイドルとしての活動だけは頑張ってみたいと思った。ずっと日陰で過ごしてきた中で、ようやく陽の光を浴びる機会を得たんだ。
それなのに―――
『―――ねえ、もうやめてよ、お兄ちゃん』
『う、うるせえ! いまさら引き下がれるかよっ。もしここで逃げ出したりしたら、俺ぁ、本当に殺されちまう』
『だったら警察に相談しようよ。そうしたらきっと解決してくれるから』
『お前になにがわかるんだよっ! 警察になんて相談したら、それこそ間違いなく俺の命はない。そういう連中なんだよ! 黒煙団ってグループは』
『じゃあどうすればいいの? どうすればお兄ちゃんはその不良グループを抜けられるの?』
『そんなの知らねえ。俺が聞きてえよ。最初は軽い気持ちで入った。でも、いざ入ってみたら締め付けは厳しいし、無理難題押し付けてきやがるし、最悪だ。前もそうだった。本当は俺はやりたくなかったのに、命令されて、仕方なく隣町のクラブで敵対するチームの女さらってよ。挙句、失敗して戻ったらチームに居場所なんてなくて、いまじゃチームの仕事の中で一番リスクの高いヤクの売人の手助けやらされる始末だ。ちくしょう、俺は悪くねえ。悪いのはぜんぶ、あのガキだ。あの廃工場での一件からケチが付きっぱなしだ。いきなり現れた、あのオタクみてえなガキが邪魔したせいで、女の誘拐は失敗しちまった。そっからすべてが狂っちまったんだ! あのオタク―――マクベとかいうガキのせいで!』
「ちょっ、ちょっと待て。どうしてぼくの名前が?」
それまで黙って話を聞いていた彼が、口を挟む。その声は引きつっていた。考えるような仕草を見せながら、彼はポツリポツリと言う。
「黒煙団……廃工場……クラブで女を誘拐……って、それ、まさかっ!」
心当たりがあったのか、彼は驚愕に目をむいた。
まあ、それだけの事件ともなれば忘れるはずもないだろう。
「そうです。あなたのクラスメイト、あ、いまは恋人なんでしたっけ? 石神冴子さん。彼女を誘拐した男たちの一人が、私の兄なんです」
彼は困惑をしているようだった。なにから触れていいのかわからない、という様子を見せていた。
「ねえ、お兄さん。私、あなたのこといっぱい調べたんですよ。バカなうちの兄が不良グループの命令で誘拐事件を起こしたなんて言うから、怖くなって。だって、もしもそんなことが世間に知られたら、私はアイドル活動なんて続けられなくなる。いいえ、それどころか、兄は警察に捕まるでしょうし、そうなったらこの街に住み続けることも難しいでしょう。だから、調べた結果、石神冴子さんのことや、あなたの……線引屋のことを知りました」
そう。私は怖かった。そもそも、兄が黒煙団という、街で有名な不良グループに入ったことで、私の生活は滅茶苦茶になっていた。一歩家の外に出たら、私も兄と同じように非行に走っていると思われる。友達を作っても、兄が不良をやっていると知られると、いつの間にか距離を置かれるようになった。
「同じ兄妹でも、あなたたち兄妹とはこんなに違うんですよ。私は兄を心の底から憎んでいるけど、あなたと絵里加さんは、お互いに尊重し合ってる」
私が、絵里加さんに「お兄さんを紹介して」と頼んだとき、彼女が一番に心配したのは、お兄さんを傷つけないかどうかだった。私が、なにか悪意を持って近づこうしているのではないかと、彼女はそれを真っ先に気にしていた。
ごめんなさい、絵里加さん。騙して、ごめんなさい。
私は結局、あなたと、あなたのお兄さんを欺いてしまいました。
あなたたち兄妹を見てると、心の底から思いますーーー
「ーーー羨ましい」
私は、兄のことをそこまで想うことができないから。
私の言葉に、お兄さんは首を捻ると、釈然としない風に口を開いた。
「そこまで兄を憎んでいるんだったら、なぜ君は線引屋の衣装をぼくから盗んだりしたんだ? 線引屋は君の兄にとってのーーー黒煙団にとっての敵じゃないか。君が取った行動は、まるで兄の手助けをしているようにしか見えないぞ」
「それは違います。私の目的はたった一つ。兄が不良をやめてくれること。それだけなんです。ただ、兄はどうしてもチームを抜けることができないって言いました。自分の意思ではどうすることもできない、と。だったら方法は一つしかない」
そう、たった一つの確かな方法。
「黒煙団というチーム自体を壊滅させる。それ以外に方法はありません」
そのために、線引屋を利用しようと考えた。
「黒煙団が、どうやら線引屋という人物に恨みを持っていると知った私は、そこに争いの火種を生み出すことができないかと考えるようになりました。だから、ネットで情報を集めながら、日々更新しているブログでも、線引屋に興味がある、みたいな書き込みをするようになったんです。そんなとき、ブログのコメント欄から絡むようになった人から、色々アドバイスを貰うようになったんです」
椎名清香。彼女の名前を出すと、お兄さんの表情が一瞬驚いたものに変わる。
「知り合いなんですか?」
「いいや。知り合いってほどでもないけど、過去に一度、話をしたことがある。芸術で街に革命を起こす、みたいなことを言っていたから、随分と過激なことを言う女性だなって思ったのを覚えてる」
「私にも同じようなことを言っていましたよ。そして、線引屋というカードが手元にあれば、実際に街の勢力図を塗り替えることも可能だって言っていました。事実、椎名さんには千葉連合っていう不良の集まりにも知り合いがいるようでした。それなら、黒煙団に対抗できる。そう考えた私は、椎名さんの指示の下、線引屋の正体を突き止めることにすべてを注ぎました」
ネットに溢れる情報はバカにできない。
私がまず調べたのは、愚兄の口から出た『マクベ』という名前。 あらゆるSNSや掲示板で検索をかけた結果、ヒットしたのがマクベスというハンドルネームのユーザーだった。そのユーザーは、主にサブカルチャー、いわゆるオタク文化に関するコメントばかりを残していた。
愚兄の言葉の中に、『あのオタク……』というのがあったのを思い出した私は、そのマクベスと、マクベという人物が同一人物ではないかと考えるようになった。その推測を確証に変えたのが、去年の10月頃、マクベスというハンドルネームの人物が、かなりの数の掲示板にほぼ同時に、しかも同じ内容の書き込みをしたログが残っていたからだ。
それは、線引屋を探しているという内容の書き込みだった。
正確には、線引屋という名前のシールが貼り付けられた車を探している、という書き込みをマクベスはしていたのだ。
そもそも不自然なのは、それまでアニメやマンガなどのサブカルネタしか書き込みをしなかったマクベスが、なぜいきなり線引屋に触れたのか。しかも、書き込みが行われた日付は、どうやら愚兄がクラブで女性ーーー石神という人物を誘拐した日付と合致するようなのだ。
愚兄は、『マクベ』という人物に邪魔されたせいで誘拐は失敗したと言っていた。そして、その邪魔が入った日に、『マクベス』という人物が、やけに熱心に一台の車の行方を探していた。過去の書き込みの傾向からして、『マクベス』が線引屋に興味を示すとは思えないし、まして目撃情報を集めて車を探すような熱心なファンとも思えなかった。それは、それ以前とその後の『マクベス』の書き込みからも伺える。
ここで一つの仮説が立った。
『マクベス』が探していた車には、石神さんを誘拐した愚兄たちが乗っていて、線引屋のシールは『マクベス』自身が目印として張り付けた物ではないか。そして、その目印を元に、掲示板に情報提供を求めた。そして、廃工場に現れたのは、『マクベ』という名前の見た目オタクな人物。
この仮説からわかることは、『マクベス』と『マクベ』が同じ人物だということ。そして、線引屋のシールを持ち歩いているということは、少なくとも線引屋と深い関わりがあるーーーあるいは本人である、ということ。
そこからは簡単だった。これは偶然だったけれど、同じ学校に『間久辺』という名字の人がいて、話を聞いたら、お兄さんがいると言っていた。
まあ、下の名前で『マクベ』という可能性は低いから、そうなると名字だろうと考えていたし、名字にしてもかなり珍しいから探すのはそれほど難しくはないと踏んでいた。
「ーーーなるほどな。それで、ぼくの家に来た日に繋がるわけか」
彼は、私の話から流れを読み取り、納得した様子でそう言った。
だけど、根本的な部分では納得などしていないだろう。
それは、私が彼にしてしまったこと。
彼から、線引屋の衣装を盗んでしまったこと。
それに関しては、私は責められる理由があるし、彼には責める権利がある。
しかし、彼は激昂するでもなく、ただ首を横に振った。
「無理だよ」
「なにがです?」
「残念だけど、千葉連合は黒煙団を潰すために動いたりしない」
「そんなの嘘ですっ。だって、椎名さんが」
私は、お兄さんの言葉に思わず声を荒げた。
それでもお兄さんは、ただ淡々と言葉を並べる。
「椎名清香がなんて言ったのかぼくは知らない。だけど、少なくとも千葉連合の幹部の一人、鍛島という男は黒煙団と争うつもりはないようだ。直接本人に確認したから間違いない。もしも千葉連合が黒煙団とぶつかることになったら、隣街を仕切るチーム『マサムネ』と正面からぶつかり合うことになるだろう。そんなリスクの高い戦いを鍛島がするとはとうてい思えない。そもそも、鍛島率いるチーム『マサムネ』と黒煙団の間では、過去に色々あって、不文律ではあるけど争いをしない取り決めが交わされているんだ。メンツを大切にする鍛島が、それを軽はずみに反故にすることはない」
「そんな……じゃあ、私はなんのために」
なんのために、ここまでのことをしたのだろう。
ただ、黒煙団という不良グループが無くなってれればいいと、そう思って線引屋の衣装を彼から盗んだのに、すべてが無意味だったというの?
愕然とする私に、お兄さんは一歩近づくと、肩に触れてきた。
「君がやったことは決して誉められたことじゃない。どんな理由があっても、人の物を勝手に持っていくのはいけないことだーーー」
そんなことは、いまさら言われるまでもなくわかりきっていることだった。それとも、お兄さんにとっては、私はそれほど稚拙に見えたのだろうか。
計画が上手くいかなかったことも相まって、私は苛立ちをお兄さんにぶつけようと思った。線引屋の衣装が無くなって、ざまあみろと、そう言おうと口を開きかけたところで、私より一瞬早く言葉を発したのはお兄さんの方だった。
「―――それでも君が、優しい娘だってことはわかった」
「は?」
開きかけた口から思わず呆けた声がこぼれる。
私が優しい? 彼はいったいなにを言っているんだろう。
なにか、煙にまかれているような気がして、私は不愉快な気分になった。
「お兄さん、頭大丈夫ですか? 私は、あなたから線引屋を奪ったんですよ? それなのに、どうして私が優しいなんて言えるんですか?」
お兄さんは、堪えきれなくなったように吹き出した。
「ああ、ごめん。でも、なんか宗田さんを見ていたら、妹を思い出してさ。素直じゃなくて、口も悪いけど、心根が優しいのが我が家の妹の美点なんだよ」
「絵里加さんは真っ直ぐで優しい人なんでしょうね。でも、私は違います。自分勝手で、他人のことなんてどうだっていいと思ってます。私はそういう人間なんです」
「君は、お兄さんを助けるために黒煙団を壊滅させようと思ったんだろう? そんな娘が、悪人であるはずがない」
「そんなの、兄が不良グループなんかに入っていたら、私のアイドル活動にマイナスに働くと思ったからです。私は自分のために動いただけなんですよ」
私は、ずっと耐えてきた。
あの兄のせいで、宗田の家には関わらない方がいいと近所から噂されるようになった。
学校でも、気軽に友達なんて作ることもできなかった。
そんな兄のことを、どうして私が助けようとしなければならないのだろう。そんなことあるはずがない。
「本当にそうか? 本当に君は、お兄さんを憎んでいるのか? だったら、どうして黒煙団を潰そうなんて、面倒なことを考えたりしたんだ? 君が本当にお兄さんのことを憎んでいたのだとしたら、もっと簡単にお兄さんを黙らせる方法がいくらでもある。それこそ、喧嘩屋でも雇ってお兄さんを再起不能になるほど大怪我でも負わせれば、不良を続けることなんてできなくなる。その方が、黒煙団を潰そうと考えるよりもずっと簡単なはずだ」
そんなの、考えなかったはずないじゃない。
私は、兄が嫌いだ。あの人のせいで、私の人生にはずっと影がさしていたと思う。
それでも、思い出してしまう。大嫌いな兄だけど、昔から悪いことばかりしていたわけではない。思い返すと、優しい瞬間だって確かにあった。あんな人だけど、私にとってはたった一人の兄なんだ。大嫌いだし、存在自体迷惑だけれど、それでも家族だ。
だから、兄を傷つけるという選択肢はそもそも存在しなかった。
「なあ、宗田さん。家族を思いやる気持ち。それは、まぎれもなく優しさだよ」
彼は、そう言って私の考えに明確な言葉を与えた。
私が兄を助けるために取った手段は許せることではないが、兄を助けるために行動した努力まで、彼は否定しない。本来なら、私を恨んでいてもいいはずなのに、彼は私のすべてを否定しようとはしなかった。
だから私は、すべての感情を包み隠さずさらけ出すことができた。自分自身すらも欺いていた、本当の想い。それをすべて吐き出した。
「お願い、助けて。あんな人でも、私の家族なの……私のお兄ちゃんを、助けて」
思わず込み上げてきた涙に、私は顔を伏せる。
このままでは、兄は取り返しのつかないことになる。もう二度と、家族で笑い合うこともできなくなってしまうだろう。
しかし、こんな身勝手な願い、本当なら口にするのもおこがましいとわかっている。
私は、彼にとって大切な物を盗んだばかりか、それを自分勝手に利用しようとした。
それどころか、助けて欲しいと頼んだ私の兄は、彼にとって憎むべき相手なのだ。だから、私の願いなど一蹴されると思った。
そのはずなのに、
「わかった」
と、彼は一瞬の迷いもなく答えた。
私は、自分から助けを求めておきながら、その返答が信じられなかった。
「なんで……? どうして、私を助けてくれるんですか?」
「そんなの決まってる。君は絵里加の友人だ。助ける理由なんて、それだけで十分だよ」
「でも、私の兄は、あなたと石神さんに酷いことをしました」
「確かにそうだね。ぼくはともかく、石神さんにしたことは許せない。彼女は、誘拐されたとき、本当に怖い思いをしたんだ。だからぼくは、一生君のお兄さんを許さないと思うよ。だから、君のお兄さんはしっかりと償いをするべきだ―――不良から足を洗った後に」
私の身勝手な願いに、彼は応えようとしてくれている。
いったいなにをするつもりなのかわからないけれど、この冴えない男性を見ていると、不思議と頼りになると感じた。
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