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ゴーストライター
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―――『Master peace』を出てから一時間が経過した。
ぼくは準備を整えると、大きめのリュックを背負って隣町までやってきた。目的地である、カシワの街。黒煙団が裏で治める街に。
与儀さんの話によると、黒煙団が頻繁に使用しているアジトは、カシワの駅付近のアーケードを抜けた先にある、巨大な公園に設置された倉庫だという。表向きは自治体が管理している建物だが、実際は黒煙団が勝手にアジトとして使用しており、文句を言おうにも、自治体も恐れて近づけないのだという。
そのアジトは集会などで使用する目的ではなく、立地の良さから、駅から入り込んできた他の縄張りの不良たちへの見張りとしての役割があるようなのだ。他所の不良たちが、その公園よりも先に入り込まないようにするための防衛ラインとして、その場所は重宝しているらしい。
つまり、その建物には常に誰かが見張りとして構えていて、なにか不審な人物を見かけた場合、仲間を呼ぶなりして防衛にあたるということのようだ。
それくらい警戒心が強いからこそ、千葉連合にも属さない黒煙団はこれまで他のチームの侵略を阻止し続けてこれたのだろう。
駅方面からの侵入者を食い止めるための拠点ということで、そのアジトは、黒煙団が持つアジトの中でも価値は高いらしい。
つまり、その場所を落とすのは至難の業ということだが、そこには必ず盲点があるはずだ。
そもそも、黒煙団というチームが異質なのは、一つの街そのものを根城とし、その中に他の不良グループを一切入り込ませないというスタンスにあった。街一つを支配するのは困難なことだろうが、それを実現している大きな理由は、街の外に支配の手を広げようとしないところにあるのだろう。以前、ぼくが黒煙団と騒動になった際に、御堂から教えてもらった。黒煙団は穴蔵にこもったモグラだ、と。彼らは基本的に、カシワの街から出て自分たちの勢力を広げようとは考えない。
しかし、そんな連中もあることに関してだけ、熱くなる傾向にあった。
それは、線引屋に関することだ。
そもそも、黒煙団が線引屋を狙うようになったのには理由があった。県内でかなり古参の不良グループである黒煙団は、カラーギャングーーー黒ギャングとして有名だった。
しかし、『ストリートジャーナル』で、カラーギャングは時代遅れと書かれ、それに代わる縄張りの主張方法として、グラフィティがクールな手段だと説明された上に、その代表格としてチーム『マサムネ』と、そのグラフィティを仕上げたライター、―――線引屋の名前が大きく取り上げられた。
それにより、黒煙団は、自分たちが時代遅れとバカにされたのだと勘違いするようになり、同時に線引屋を逆恨みするようになったのだ。
過去に石神さんが黒煙団の人間に誘拐されかけたとき、犯人の目的は『マサムネ』の人間を拐うことにあった。その理由は、線引屋が『マサムネ』と深い関係にあると勘違いしていたからだ。穴倉に籠っているのが基本の黒煙団が、陣地を越えて乗り出してくるほど、線引屋という存在は彼らの怒りに触れたらしい。
だからこそ、今回も黒煙団は動く可能性が高い。なんといっても、今回は線引屋が自らイベントを打つと公言しているのだ。本当は、ぼくから線引屋の衣装を奪った椎名清香によるイベントなのだが、そんなことは黒煙団にはわかるはずがない。そして、線引屋を狙っている黒煙団が黙っているとも思えなかった。
線引屋を椎名清香が利用しようとしている。
だったら、この状況を逆に利用しない手はない。
黒煙団がまだ線引屋に恨みを持っているのなら、間違いなく線引屋のイベントと銘打たれた場所に向かうはずだ。もちろん、構成員全員がカシワの街を空っぽにして向かうとは思っていないが、それでも現在、この街―――カシワに残っている黒煙団のメンバーも含めて、その意識は線引屋のイベントに向いているだろう。つまり、攻めるならいましかない。
ぼくは駅の改札を抜けると、黒煙団のアジトがあるという公園に向かって歩き出した。
飲食店や雑貨屋が並ぶアーケードを進んでいると、向こうから柄の悪い風貌の集団が歩いてくるのが見えた。
他所の街ならいざ知らず、この街で不良といえば九分九厘、黒煙団が絡んでいる。彼らも恐らくは構成員だろう。
どうか、なにもトラブルになりませんように。
そう願いながら、俯いて通り過ぎようとすると、その瞬間、「おい、ちょっと待て」と呼び止められる。一縷の望みをかけて、振り向いたが、やはり彼らの目はぼくの方を向いていた。
なんで、こういうときの願いっていうのは叶わないのだろう。
逃げ出せば、より不自然に見えてしまうだろう。だからぼくは立ち止まり、その場で固まった。
「ねえねえ兄ちゃん。俺たちこれから、超楽に金を稼ぎに行こうと思ってるんだけど、君も乗らない?」
「お、いいねー。軍資金は多い方がいいや。なあ兄ちゃん。俺たちに投資しろって。必ず儲けて返してやっからさ」
そんなことを言いながら、ヘラヘラ笑う男たちの視線の先には、パチンコ屋が見える。金儲けとはつまり、そういうことなのだろう。
つまりこれは、カツアゲって訳か。
それならと、ぼくは素直に財布を取り出した。不良たちに財布を差し出すと、彼らは容赦なく中からお札をすべて抜き取った。
「兄ちゃん、あんたツイてるわー。俺らマジ必勝法知ってっから。勝ったら携帯に電話すっから楽しみにしとけよ」
そんなことを言って、ぼくの番号なんて知ってるはずがない。
そのことをわかっていながら、ぼくが反論できないと知っていて彼らは笑う。
こんな人の往来の激しい場所で、公然とカツアゲが行われるこの状況はなんだ。これが、一つのチームが街を支配するということなのか。彼らにとっては、この街全体が自分たちの自由になる空間に他ならないのだろう。
あらためてこの街の異常さを垣間見たが、それでも不良たちをやり過ごすことに成功した。そう安堵したぼくに、不良集団の一人がこんなことを口にした。
「なんか、あっさり金渡し過ぎじゃねえか? こいつ」
その言葉に、パチンコ屋に向いていた男たちの足が止まり、一斉にこちらに目が向けられる。
「もしかしてこいつ、カツアゲとかされんの計算してたんじゃね?」
男たちの警戒心が、一気に高まったのが表情からわかった。
腐っても街を支配する集団、黒煙団の一員ということか。
「なあ兄ちゃん。ちょっとそのリュックの中見せてみろよ?」
それから、男たちはリュックの中を一通り漁り、言った。
「なんだよ、これ?」
男たちに言われるまま、ぼくはリュックの中身を見せた。
中にはびっしりとアニメ関連のグッズが入っていて、かなり重たい。
ぼくはポケットからハンカチを取り出すと、汗を拭った。
「あ、あの……もういいですか? それ、さっき駅前のアニメショップで買ったばかりの物なんです。あまり乱暴に扱わないでください」
焦るぼくの様子を見て、男たちは大きく舌打ちした。
「紛らわしいんだよ、キモオタっ」
そんなことを言いながら、男たちは愚痴をこぼす。
「もっと金隠し持ってるかと思ったのに、全然ねえじゃねえか」
人から金を奪い取っておいて、さらに巻き上げるつもりだったのか、こいつらは。
リュックを放り投げられ、その上小突かれたぼくは地面に倒れた。
その様子をあざ笑うかのように見下した男たちは、今度こそ背中を向けてパチンコ屋の方へと消えて行った。
ぼくは、荷物をまとめながら思う。
「カツアゲされたのは数千円、安いもんだ―――」
―――そう、通行料としてはね。
そうして、ようやく公園へとたどり着いた。
だが、ここからが問題だ。
さっきの連中は、周辺の見張りを担当していた不良たちなのだろうが、ああいうサボり連中ばかりだと助かるのだが、生憎とそう上手く話は進まないようだ。
公園へと到着すると、広場には大量のバイクが停められていて、その側で不良たちがたむろしているのが見える。その不良たちの先に、大きな倉庫のような建物が見える。そこが、与儀さんの言っていた、黒煙団のアジトだろう。
どうしよう。あれだけの数の不良を出し抜く手段は、もう持ち合わせていない。
さっきのカツアゲ連中をやり過ごしただけでも、本来なら褒めてもらいたいくらいだ。
やはり、場所を変えるべきだろうか。いやしかし、それでは作戦が失敗に終わってしまう。
こうなったら、上手く回り込んで建物の裏手に回ろう。そうすれば、公園内で談笑している不良たちの目からは逃れることができるだろう。
だが、いざ向かってみると、その公園は広いくせに見晴らしが良くて、身を隠す場所が見当たらない。
敷地内に入った段階で、不良たちはぼくの姿を捉えたようだった。
ヤバい、見つかってしまった。
さっきまで笑っていた不良たちの口から笑みが消え、ゆっくりとぼくの方へと歩いてくる。
時刻は夜の六時前。辺りは薄暮に支配されていたが、それがなくても、この公園は本来の遊び主であるはずの子供たちを近付けようとはしないだろう。
この場所は黒煙団にとって、不可侵の領域なのかもしれない。
逃げ出すべきだろうか。だが、そんなことを考えている時点で既に遅い。
バイクに跨った男が、エンジンをかけていまにも走り出しそうだ。
もしも全速力で逃げたとしても、追いつかれるのは目に見えている。
無策で飛び込んだつもりはない。だけど、ここまで街の警戒が強いとは思ってもいなかった。
線引屋のイベントがマッドシティで行われるというのに、それでもこれだけの数の構成員がカシワの街の護衛に残っている。ぼくが思っている以上に、黒煙団というチームは警戒心が強かったようだ。侭さんが現役の不良時代もそうだったらしいが、現在の鍛島をもってしても対処できていないチームだけのことはある。
取り敢えず、ここはがむしゃらにでも逃げるしかない。
だが、この機会を逃したら恐らく次はないだろう。線引屋のイベントによって、注意が少しでも逸れているいまが最大のチャンスだったのだが……
そうして悔しく思いながら、仕方なく踵を返しかけたとき、背後に立つ一人の男の姿が目に飛び込んでくる。
大きな体躯に、精悍な顔立ち。その姿に、ぼくは見覚えがあった。
以前、一度だけ見かけたことがある。
あれは確か、バイトで与儀さんの店の前を掃除しているときのことだった。
店から出てきた与儀さんが、その男と親し気に話していたから、印象に残っていたのだろう。
確か、名前は―――そうだ、柊さん。
ぼくは準備を整えると、大きめのリュックを背負って隣町までやってきた。目的地である、カシワの街。黒煙団が裏で治める街に。
与儀さんの話によると、黒煙団が頻繁に使用しているアジトは、カシワの駅付近のアーケードを抜けた先にある、巨大な公園に設置された倉庫だという。表向きは自治体が管理している建物だが、実際は黒煙団が勝手にアジトとして使用しており、文句を言おうにも、自治体も恐れて近づけないのだという。
そのアジトは集会などで使用する目的ではなく、立地の良さから、駅から入り込んできた他の縄張りの不良たちへの見張りとしての役割があるようなのだ。他所の不良たちが、その公園よりも先に入り込まないようにするための防衛ラインとして、その場所は重宝しているらしい。
つまり、その建物には常に誰かが見張りとして構えていて、なにか不審な人物を見かけた場合、仲間を呼ぶなりして防衛にあたるということのようだ。
それくらい警戒心が強いからこそ、千葉連合にも属さない黒煙団はこれまで他のチームの侵略を阻止し続けてこれたのだろう。
駅方面からの侵入者を食い止めるための拠点ということで、そのアジトは、黒煙団が持つアジトの中でも価値は高いらしい。
つまり、その場所を落とすのは至難の業ということだが、そこには必ず盲点があるはずだ。
そもそも、黒煙団というチームが異質なのは、一つの街そのものを根城とし、その中に他の不良グループを一切入り込ませないというスタンスにあった。街一つを支配するのは困難なことだろうが、それを実現している大きな理由は、街の外に支配の手を広げようとしないところにあるのだろう。以前、ぼくが黒煙団と騒動になった際に、御堂から教えてもらった。黒煙団は穴蔵にこもったモグラだ、と。彼らは基本的に、カシワの街から出て自分たちの勢力を広げようとは考えない。
しかし、そんな連中もあることに関してだけ、熱くなる傾向にあった。
それは、線引屋に関することだ。
そもそも、黒煙団が線引屋を狙うようになったのには理由があった。県内でかなり古参の不良グループである黒煙団は、カラーギャングーーー黒ギャングとして有名だった。
しかし、『ストリートジャーナル』で、カラーギャングは時代遅れと書かれ、それに代わる縄張りの主張方法として、グラフィティがクールな手段だと説明された上に、その代表格としてチーム『マサムネ』と、そのグラフィティを仕上げたライター、―――線引屋の名前が大きく取り上げられた。
それにより、黒煙団は、自分たちが時代遅れとバカにされたのだと勘違いするようになり、同時に線引屋を逆恨みするようになったのだ。
過去に石神さんが黒煙団の人間に誘拐されかけたとき、犯人の目的は『マサムネ』の人間を拐うことにあった。その理由は、線引屋が『マサムネ』と深い関係にあると勘違いしていたからだ。穴倉に籠っているのが基本の黒煙団が、陣地を越えて乗り出してくるほど、線引屋という存在は彼らの怒りに触れたらしい。
だからこそ、今回も黒煙団は動く可能性が高い。なんといっても、今回は線引屋が自らイベントを打つと公言しているのだ。本当は、ぼくから線引屋の衣装を奪った椎名清香によるイベントなのだが、そんなことは黒煙団にはわかるはずがない。そして、線引屋を狙っている黒煙団が黙っているとも思えなかった。
線引屋を椎名清香が利用しようとしている。
だったら、この状況を逆に利用しない手はない。
黒煙団がまだ線引屋に恨みを持っているのなら、間違いなく線引屋のイベントと銘打たれた場所に向かうはずだ。もちろん、構成員全員がカシワの街を空っぽにして向かうとは思っていないが、それでも現在、この街―――カシワに残っている黒煙団のメンバーも含めて、その意識は線引屋のイベントに向いているだろう。つまり、攻めるならいましかない。
ぼくは駅の改札を抜けると、黒煙団のアジトがあるという公園に向かって歩き出した。
飲食店や雑貨屋が並ぶアーケードを進んでいると、向こうから柄の悪い風貌の集団が歩いてくるのが見えた。
他所の街ならいざ知らず、この街で不良といえば九分九厘、黒煙団が絡んでいる。彼らも恐らくは構成員だろう。
どうか、なにもトラブルになりませんように。
そう願いながら、俯いて通り過ぎようとすると、その瞬間、「おい、ちょっと待て」と呼び止められる。一縷の望みをかけて、振り向いたが、やはり彼らの目はぼくの方を向いていた。
なんで、こういうときの願いっていうのは叶わないのだろう。
逃げ出せば、より不自然に見えてしまうだろう。だからぼくは立ち止まり、その場で固まった。
「ねえねえ兄ちゃん。俺たちこれから、超楽に金を稼ぎに行こうと思ってるんだけど、君も乗らない?」
「お、いいねー。軍資金は多い方がいいや。なあ兄ちゃん。俺たちに投資しろって。必ず儲けて返してやっからさ」
そんなことを言いながら、ヘラヘラ笑う男たちの視線の先には、パチンコ屋が見える。金儲けとはつまり、そういうことなのだろう。
つまりこれは、カツアゲって訳か。
それならと、ぼくは素直に財布を取り出した。不良たちに財布を差し出すと、彼らは容赦なく中からお札をすべて抜き取った。
「兄ちゃん、あんたツイてるわー。俺らマジ必勝法知ってっから。勝ったら携帯に電話すっから楽しみにしとけよ」
そんなことを言って、ぼくの番号なんて知ってるはずがない。
そのことをわかっていながら、ぼくが反論できないと知っていて彼らは笑う。
こんな人の往来の激しい場所で、公然とカツアゲが行われるこの状況はなんだ。これが、一つのチームが街を支配するということなのか。彼らにとっては、この街全体が自分たちの自由になる空間に他ならないのだろう。
あらためてこの街の異常さを垣間見たが、それでも不良たちをやり過ごすことに成功した。そう安堵したぼくに、不良集団の一人がこんなことを口にした。
「なんか、あっさり金渡し過ぎじゃねえか? こいつ」
その言葉に、パチンコ屋に向いていた男たちの足が止まり、一斉にこちらに目が向けられる。
「もしかしてこいつ、カツアゲとかされんの計算してたんじゃね?」
男たちの警戒心が、一気に高まったのが表情からわかった。
腐っても街を支配する集団、黒煙団の一員ということか。
「なあ兄ちゃん。ちょっとそのリュックの中見せてみろよ?」
それから、男たちはリュックの中を一通り漁り、言った。
「なんだよ、これ?」
男たちに言われるまま、ぼくはリュックの中身を見せた。
中にはびっしりとアニメ関連のグッズが入っていて、かなり重たい。
ぼくはポケットからハンカチを取り出すと、汗を拭った。
「あ、あの……もういいですか? それ、さっき駅前のアニメショップで買ったばかりの物なんです。あまり乱暴に扱わないでください」
焦るぼくの様子を見て、男たちは大きく舌打ちした。
「紛らわしいんだよ、キモオタっ」
そんなことを言いながら、男たちは愚痴をこぼす。
「もっと金隠し持ってるかと思ったのに、全然ねえじゃねえか」
人から金を奪い取っておいて、さらに巻き上げるつもりだったのか、こいつらは。
リュックを放り投げられ、その上小突かれたぼくは地面に倒れた。
その様子をあざ笑うかのように見下した男たちは、今度こそ背中を向けてパチンコ屋の方へと消えて行った。
ぼくは、荷物をまとめながら思う。
「カツアゲされたのは数千円、安いもんだ―――」
―――そう、通行料としてはね。
そうして、ようやく公園へとたどり着いた。
だが、ここからが問題だ。
さっきの連中は、周辺の見張りを担当していた不良たちなのだろうが、ああいうサボり連中ばかりだと助かるのだが、生憎とそう上手く話は進まないようだ。
公園へと到着すると、広場には大量のバイクが停められていて、その側で不良たちがたむろしているのが見える。その不良たちの先に、大きな倉庫のような建物が見える。そこが、与儀さんの言っていた、黒煙団のアジトだろう。
どうしよう。あれだけの数の不良を出し抜く手段は、もう持ち合わせていない。
さっきのカツアゲ連中をやり過ごしただけでも、本来なら褒めてもらいたいくらいだ。
やはり、場所を変えるべきだろうか。いやしかし、それでは作戦が失敗に終わってしまう。
こうなったら、上手く回り込んで建物の裏手に回ろう。そうすれば、公園内で談笑している不良たちの目からは逃れることができるだろう。
だが、いざ向かってみると、その公園は広いくせに見晴らしが良くて、身を隠す場所が見当たらない。
敷地内に入った段階で、不良たちはぼくの姿を捉えたようだった。
ヤバい、見つかってしまった。
さっきまで笑っていた不良たちの口から笑みが消え、ゆっくりとぼくの方へと歩いてくる。
時刻は夜の六時前。辺りは薄暮に支配されていたが、それがなくても、この公園は本来の遊び主であるはずの子供たちを近付けようとはしないだろう。
この場所は黒煙団にとって、不可侵の領域なのかもしれない。
逃げ出すべきだろうか。だが、そんなことを考えている時点で既に遅い。
バイクに跨った男が、エンジンをかけていまにも走り出しそうだ。
もしも全速力で逃げたとしても、追いつかれるのは目に見えている。
無策で飛び込んだつもりはない。だけど、ここまで街の警戒が強いとは思ってもいなかった。
線引屋のイベントがマッドシティで行われるというのに、それでもこれだけの数の構成員がカシワの街の護衛に残っている。ぼくが思っている以上に、黒煙団というチームは警戒心が強かったようだ。侭さんが現役の不良時代もそうだったらしいが、現在の鍛島をもってしても対処できていないチームだけのことはある。
取り敢えず、ここはがむしゃらにでも逃げるしかない。
だが、この機会を逃したら恐らく次はないだろう。線引屋のイベントによって、注意が少しでも逸れているいまが最大のチャンスだったのだが……
そうして悔しく思いながら、仕方なく踵を返しかけたとき、背後に立つ一人の男の姿が目に飛び込んでくる。
大きな体躯に、精悍な顔立ち。その姿に、ぼくは見覚えがあった。
以前、一度だけ見かけたことがある。
あれは確か、バイトで与儀さんの店の前を掃除しているときのことだった。
店から出てきた与儀さんが、その男と親し気に話していたから、印象に残っていたのだろう。
確か、名前は―――そうだ、柊さん。
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