クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦

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ゴーストライター

11裏

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 街のただならぬ様子に、俺は強い違和感を覚えていた。
 少し調べてみると、どうやら隣街の連中ーーー黒煙団ブラックスモーカーが裏で動いているようだ。ある程度信用できる筋から得た情報によると、街のただならぬ様子の原因は黒煙団ブラックスモーカーが捌いている薬物の影響が強いらしい。
 また、黒煙団ブラックスモーカーの連中か。
 つくづく邪魔くせえ連中だ。なにか手を打たねえとならねえな。
 そう考えている矢先、チームのリーダーである鍛島から呼び出しを受けた俺は、知り得た情報をすべて伝える。すると、クラブのVIPルームのソファに深くもたれていた鍛島は、嘆息した。
「―――柊。確かに俺はあんたを呼び出したが、なにか勘違いしていないか。あんたまで黒煙団ブラックスモーカーと事を構えようって話かよ」
 俺の他に、黒煙団ブラックスモーカーの行動を危惧しているヤツがいるのか? 
 もしかしたら、同じ『マサムネ』幹部の御堂かとも思ったが、あいつはいま入院中のため、街の違和感に気づいてはいないだろう。そうなると、他に同じことを考えそうなヤツに心当たりはない。
「いったい誰なんです?」
 鍛島さんにそう聞くと、彼は嘆息すると答えた。
「部外者だよ。ヤンキーですらない、ただのオタクさ」
 なにか含みのある言い方だな、と俺は感じた。
 そもそも、ただのオタクが街を仕切る鍛島さんと接点を持てるはずがないし、ましてや黒煙団ブラックスモーカーの件で話をするとは考えがたい。いったいそれは何者なんだ?
 まあどうであろうと、鍛島さんも街の違和感に気づいていて、その理由についても理解しているようだ。それなら話が早い。 
「鍛島さん。チームの方針を聞かせてくれ。『マサムネ』は、今回の黒煙団ブラックスモーカーの行動に対してどういう対応をするつもりですか?」
「チームとしての対応ってお前……知らねえ訳じゃねえだろう。チーム『マサムネ』と黒煙団ブラックスモーカーの間には、一応不戦の約定が交わされてる。もしもこちら側からそれを破ったら、街全体を巻き込む衝突になりかねないんだぞ。それは、お前としても避けたいんじゃないのか?」
 一瞬、与儀と侭の顔が頭を過る。二人が争いに巻き込まれることを考えたら、確かにそれは避けたい事態だ。
 だけど、この状況を見過ごせる訳もなかった。
「鍛島さんの言い分もわかります。だけど、放置していい問題でもないでしょう。この街は俺たちの縄張りです。もしもこのまま見て見ぬふりをしたら、俺たちが舐められるだけです。それになにより、いま薬物の蔓延を放置したらすぐにこの街にまでジャンキーが溢れます」
「そんなもん、警察の仕事だろうが。俺たちは不良だ。なんでわざわざ街のために動かないとならない。そんなもん正義の味方にでも任せておけばいい」
「じゃあアカサビと共同戦線でも組みますか?」
「ふざけんな。どうしてあんなヤツと俺たちが手を組まないとならない」
「じゃあ、俺たちだけでやりますか?」
「柊……俺の話を聞いているのか? チーム『マサムネ』と黒煙団ブラックスモーカーは表立って争えないんだ」
「ええ、わかってます。それで、俺はなにをしたらいいんですか?」
 俺の言葉に、鍛島さんは面食らったようだった。
 すべてを聞かなくてもだいたい想像はつく。俺をここに呼びつけたのは、まさか雑談をするためではないだろう。わざわざ鍛島さんが幹部の中で俺だけを呼び出したということは、そういうことだ。彼が俺だけを呼び出すときは、決まってチーム内で公けにしたくないトラブルを解決したいときと決まっている。
「……いつも面倒事ばかり悪いな、柊」
「そんなこと気にしないで下さい。あんたは俺との約束を守ってくれた。与儀と侭がいまもこの街で生活できているのは、あんたが裏で手を回してくれているからだ。その恩を考えたら、まだまだぜんぜん返せてません」
「そうか。それじゃあ、頼まれてくれるか?」
「ええ、鍛島さんからお願いされなくても、そのつもりでした。黒煙団ブラックスモーカーには、恨みがありますからね」
 俺が以前所属していたチーム、『Hevyz』が解散することになった原因は、黒煙団ブラックスモーカーが大きく関わっている。当時、勢いのあった『Hevyz』と、そのリーダーだった侭を黙らせるために、与儀を誘拐し傷付けた黒煙団ブラックスモーカーの連中への恨みは、晴れた訳ではない。
 
―――――――――――――――――――――――――――

 俺は、単身隣町へと乗り込んでいた。
 鍛島の頼みというのは、俺に〝ある人物“の手助けをしろということだった。
 その人物は、一人で鍛島の所にやって来ると、黒煙団ブラックスモーカーを潰す手伝いをしろと言ってきたらしい。肝が据わったヤツだなと感心した俺だったが、命知らずとも言えるな。
 もちろん、チームマサムネのリーダーその人物の話を断った鍛島だったが、やはり気になったらしく、クラブを出て行ったその男の後を、部下にこっそりつけさせていたらしい。そして、その男がたった一人でカシワの街に向かったという情報を得た鍛島は、俺に手助けをさせるために送り出すことにしたのだろう。
 鍛島としては、マサムネが黒煙団ブラックスモーカーと対立していると覚られる訳にはいかないため、俺一人を送り込むことにしたようだ。
 その場所は、カシワの駅のアーケードを抜けた先にある公園。
 そこで佇む男は、鍛島が言っていた特徴通りの男だった。
 オタクっぽい冴えない見た目に、黒いパーカー姿。

「―――お前が、間久辺だな?」

 俺がそう言うと、男は振り返った。不思議そうに首を捻りかけて、それを縦に振る。
 迷っている時間がないという頭は働いているようだ。
 公園の中で、エンジンを噴かせるバイク。そして、とうとう動き出した。蛇行しながら俺たちの方へと向かってくるバイクが一台。
 あっという間に距離は詰められ、もう数メートル先というところまで近付いてきたバイクに対し、怯える間久辺。
 だが俺は一歩も怯まず、斜め前方に移動した。すると、蛇行運転するバイクが丁度俺と横並びになるような形になった。その瞬間、俺は右腕を持ち上げ、バイクに乗る男の顔面めがけてラリアットをお見舞いする。
 バイクに深く座っていた男は、そのまま後方へと体をのけ反らせ、バイクから落ちて背中から激しく転倒した。それに続くように、バイクも横倒する。
 砂煙が舞うと同時に、周囲の空気が張り詰め、一瞬静寂に包まれる。その隙をついて、俺は背後に立つ間久辺に向けて、言った。
「行け、ここは俺に任せろ」
 戸惑いを隠せない様子の間久辺。
「あ、あの。柊さんですよね? あなたが、どうして……」 
「鍛島からの指示だ。説明はそれだけで十分だろう?」
「鍛島さんの……ってことは、あなたマサムネの人間なんですね」
「そういうお前は、線引屋だな?」
 俺の問いに、少年は言葉に窮する。その姿を見て、俺はすぐに言葉を継ぐ。
「うちの御堂が世話になってるな。それと、与儀と侭のこともある。お前は知らないだろうが、俺はお前に感謝しているんだ。だから、この場は俺が引き受ける」
 線引屋が、与儀と侭の関係修復に大きく貢献していることはなんとなく知っていた。侭が再びマッドシティに戻ってきたのは、線引屋がグラフィティをしたからだ。このオタクっぽい見た目のガキが、与儀の店でバイトしているという話を聞いたときから、怪しいと思っていた。だが、その疑問がいま確信に変わる。
 俺の言葉を聞いて、間久辺は少し考え込むような仕草をしたあと、しっかりと頷いた。
 そして、黒煙団ブラックスモーカーの連中が俺に意識を奪われている隙に、公園の脇を沿ってヤツらのアジトの方に向かった。
 ―――さてと、どうするかな?
 黒煙団ブラックスモーカーの連中が、徐々に俺との距離を詰めながら取り囲むような陣形になる。
 集団の中の一人が、あざ笑うように言った。
「バカな男だ。たった一人で俺たち黒煙団ブラックスモーカーに盾突こうなんてな。どこのチームだか知らねえが、命知らずだぜ」
 どこのチーム、か。
 俺は、完全に周囲を取り囲まれたのを確認すると、懐から鈍色のメリケンサックを取り出す。
 四つの穴に指をはめ込むと、拳を構えた。
 数は圧倒的に向こうが有利。ならば、一撃で相手を沈めるしか勝機はないだろう。俺は喧嘩屋アカサビみたいな化け物とは違う。ただ、喧嘩してきた場数なら、あの化け物に勝るとも劣らないだろう。
 なにせ俺は―――
「―――武闘派集団の『Hevyz』、その副長だった男だ!」
 この場所には鍛島の命令でやって来たが、それがなくても黒煙団ブラックスモーカーには恨みがある。きっと俺は、命令されなくてもこの場所に立っていただろう。
 与儀を監禁し、それを救い出すために侭は自ら立ち上げたチーム『Hevyz』を解散させた。すべて、黒煙団ブラックスモーカーが裏で姑息な真似をしたからだ。
 結果として、俺は自分が所属していたチームと親友を失った。
 そして、大切な女性が傷ついていたというのに、なにも出来なかった。
 無力な自分。大切な人たちが辛い思いをしていることにも気付かず、ようやく気付いたときには、既にすべてが手遅れになっていた。そんな過去を清算する機会が、ようやく訪れたのだ。
 感謝するぜ、線引屋。
 数はざっと見て二〇人ほど。アカサビならどうってことない数だろうが、普通なら逃げ出す数だ。
 それでも俺は、構えた拳を振りかぶり、手近な相手に向かって飛び出して行った―――
 
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