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色欲も良いことばかりでは無い

《二十之罪》運命の女神は性格が悪い

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予選以来の再会だ。

とはいえ、別に私は再会、と言う程リフレに深い思い入れは無いのだけれど。
あちらはとても喜んでいるみたいだし、水を差すような事は言わないでおこう。

さて、握手を終え、抱擁すらしてこようとするリフレを抑えていると、周囲の喧騒が途端に止んだ。そしてその全員が同じ方向を向いている。
したがって私たちも、その方向を見た。そう、王室の最も神聖な場所、玉座である。

目立った装飾は金と赤のラインが入っているだけで、シンプルな玉座。悪くいえば、とても玉座とは言えない程質素な椅子だ。
間を一望出来るそこには二人の兵士、そしてその二人の間に居るのは騎士だろう。兵士と違い、身体全体が見えない程の重装甲をしていて戦を主にしている騎士が、選抜に出向くとは珍しい事だ。

その騎士は両側の兵士と共に玉座の目の前に移動し、叫ぶ。

「聞け!我が国王は現在、多忙の身でこちらには来られない!よって私が王の言葉を代弁させて貰う!」

騎士はそう言って、一枚の小さな紙を開く。恐らくはあそこに王の言葉が書いてあるのだろう。

「えー、『皆、頑張ってね』.........以上である!」

......

呆気に取られてしまった。
王としてはなんともまぁ、あれである。

「という訳で両者、存分に振るうように!」

そう言って騎士が、片手に所持する長槍の柄で床を突いて鳴らす。
その音と共に周囲の観客が王室の端に捌ける。王室の中央はがらんと空き、決勝の舞台が出来上がる。

...いや、どうやらこれでは、まだ未完成らしい。
突然、周囲の景色が周囲を回るように荒れ始めた。

「これは......!?」
「まぁまぁ慌てんな。今に分かる。」

不覚にも慌ててしまったのを、リフレがなだめる。
しかし大丈夫だと言うので、私も落ち着きを取り戻した。

次第に景色の荒れが収まってくると、周囲の景色が変わっている事に気付く。
簡単に言うと、王室から、巨大な円形の闘技場スタジアムの真ん中に私は立っていた。
私だけではない。リフレは目の前に居るし、観客は闘技場に設置された観客席に立っている。

空間転移だろうか?それとも空間生成か。何にしても、顔に当たる乾いた風は、王室のものでないと教えてくれた。

法螺の音が鳴り、試合が開始された。
私は接続コネクトを使い、刀を抜き出した。対するリフレは...

「さーて、これからお前と戦う訳だが。」

彼は背中に背負った片手剣を抜かないまま、ゆっくりと歩いて近付いてくる。
試合は始まっていると言うのに、不用心にも程がある。

「お前はこの選抜にかける想いは、なんだ?」

変な質問をされた。
無論、そんな事を答えるつもりは無いが...

「俺はこの試合に勝って、名をあげる。組織討伐なんざ、付録みたいなもんだよ。」

別に問うても無いのだが...。
向こうが言ってしまった以上、私だけ答えないと言うのもなんだか癪だ。

「私は...、人探しをしている。」
「ほぅ、組織の中にいるのか?」
「いや、関係者がいるんだ。接触出来る、いい機会だと思ってな。」

私の選抜出場の動機、人探し。
かつての友、私の唯一無二の友を、探す事だ。
そして今回の組織討滅作戦は、その目標に近付く好機チャンスなのだ。逃す手はない。

「へぇ、人探しか。見つかると良いな。」
「あぁ。さて、そろそろ本気で始めないとだな。」

私は右手を広げて前に差し出す。
リフレがその手を平手で叩くと、両者共に後ろを振り返り、距離を離す。
そしてやっとリフレが抜刀すると、私も刀を眼前に構え、お互いに睨み合いが始まった。

「若いのに先手は譲るよ。どっからでも来な。」
「生憎私は迎撃の方が得意でね。後手を貰うよ。」
「年上の言う事は素直に聞くもんだぜ...っと」

リフレからの誘いを断ると、彼は片手剣を逆手に持ち変え、向かってきた。
動きは直線的、周囲には障害物の一切が無い。私はぐっと、刀を持つ手に力を入れた。

予想通り最後まで真っ直ぐ向かってきたリフレは逆手に持った片手剣を横に薙ぐように斬りかかる。

私はそれを刀身で受け止めると、キィィンと、鈍い金属音が闘技場に響いた。



と、その時である。
闘技場の景色に、ノイズが走った。
それに気付いたのは私だけではなかったようで、リフレも戦闘を中断し、周囲を見渡した。
観客もにわかに騒ぎ始めた。
ノイズは段々と酷くなっていく。

そして遂に...



私たちはまとめて、王室に戻された。



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