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一 大倉麻耶
第5話 好奇心
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お祭りが終わった翌日の夜、そう、あの日は村の集まりがあった。あの時代、住居はだいたい木造建築でコンクリート製は珍しかったけど、珍しくコンクリートで造られた建物があったの。それが、村の集会場。見かけはコンクリートで中は畳と木材が並んだ建物だった。
この夜こそ、運命の歯車が加速した日です。
7月25日(水)
夏のムシムシさと山の冷気が肌を伝い、生温かい風が吹いていた。
鈴虫や夜も鳴く蝉の音が激しく耳に残る中、ムシムシとした暑さでみな、汗を垂らす。
「はぁ、最近嫁さんの飯がまずっくてなぁ」
「そげん事は、はょう嫁さんに言っとかんと、あとからグチグチ言われっで」
「今日の話しさ、なんだべぇなぁ」
「明日の飯、どうしよかね」
集まった村人たちの他愛もない話しが集会場に響き渡る。中には子どもも少数、和気あいあいと部屋の隅で喋っている。
「トランプしよー!!」
わたしが声を張り上げ、集まった同年代の子どもたちに言う。私の隣には同年代の亜希子、景子、礼子、洋介など5人が揃っていた。
「おっしゃっ! 俺様一番のりー」
洋介がここぞと、わたしの持っている透明ガラスの箱を奪った。
「うわっ、返して!!」
「へへぇんだ……痛ってぇ!!」
洋介の後頭部をズビシと成敗したのは亜希子。
「バカ丸出し。やめなさいよね、みっともない」
呆れた顔で洋介を見て、透明ガラスの箱をわたしに手渡した。洋介はムスッと頬を膨らませ亜希子を睨む。
「なんだよ。いいじゃねぇか」
「見ているこっちが恥ずかしいの! ほんとに男って子どもね」
二人は睨みあい、やがて、お互い鼻をならしそっぽを向く。亜希子と洋介のこの絡みは毎回なので、景子もわたしも気には留めない。二人を置いて、わたしは透明ガラスからトランプを引き出した。
「ババ抜きしようよ!」
景子が目を輝かせて言う。
「あ、ババ抜きかぁ」
畳の上にトランプを広げた。そして、今だに会話に入っていない人物のほうに顔を向ける。
「礼子は? どうすんの?」
礼子はずっと壁に背を預け、気難しそうな分厚い本を読んでいた。
礼子は本の間から顔を覗かせ、チラと麻耶たちを窺うとまた本に顔を向ける。
「しないわ。4人だけでやってちょうだい」
「そ。わかった」
亜希子と洋介はようやくかたがついたようで二人もババ抜きに加わった。
奥の戸口が開け、入ってきたのは村長、獅子 准之助さん。入ってきた途端、部屋が何事もなかったように静まり返った。額から左目にかけて大きな傷がある大柄なおじさん。話しでは、戦時中、敵にやられたんだって。
部屋の中の一番奥側にドカッと座り、深呼吸をしたのが見える。そして、厳つい顔をあげ、口を開いた。
「みなさん、こんな日にどうもお集まり頂き心より感謝しまず。今日、集まっても他ならないのは夏に行われる小学生たちのキャンプで話しあいをしたいと思いまず」
村長はこれが口癖なのか、毎回、すをずに言ってしまう。毎日、聞いているこっちのほうはもう慣れてしまったが、村の住人じゃない人が聞くと笑いが起きるらしい。
村長から議題が加わり、空気が一変した。大人の肩ぐるしい話しに空気はピリピリとなった。
夜の9時だったからか、わたしは睡魔に襲われた。目を擦り、懸命に意識を集中させる。が、徐々に瞼が重くなり真っ暗な意識に入ろうとした。そのとき、隣にいた亜希子がわたしの体にピトッとくっついてきた。
この熱い中、離れてよ。とふいに思い、薄っすらと開けた両目に亜希子の存在を確認する。
「ねぇねぇ知っている?」
無邪気に目を輝かせ顔を近づける。
「何?」
眠気により若干、苛立っている声になった。
「裏の山のもう使われていない井戸があるじゃん?」
「おう、あるな」
二人の会話に何故か洋介が絡んできた。亜希子は洋介をムッと睨むが、話しを続ける。
「そこに行ってみない? ね!!」
パチリとウインクし、懇願してきた。麻耶は、はぁ!? と口が庵ぐりになり感情がいきり立った。
「お! まじで!? 肝試しか?」
「肝試し? 行こうよ!」
「おもしろそう…」
しかし、肝試しに洋介と景子、礼子までもが乗った。そうなると、わたしまでのらなきゃならないじゃん。
「ほら、麻耶、行こう!」
グイと強引に腕を引っ張り、外に向かった。どうやら、わたしが拒否する権限はないらしい。
だけど、わたしは顔が青くなった。全身の血の気が引き、逆立つようになる。実は、怖いものや妖怪ものが苦手なのだ。
しかし、それを知っているのはこの中で誰もいない。
暗い夜道をスタスタと歩き、5人は裏山に向かった。街頭もなく、辺りは足元さえも見れない。亜希子の持っていた懐中電灯を頼りに進んだ。
この夜こそ、運命の歯車が加速した日です。
7月25日(水)
夏のムシムシさと山の冷気が肌を伝い、生温かい風が吹いていた。
鈴虫や夜も鳴く蝉の音が激しく耳に残る中、ムシムシとした暑さでみな、汗を垂らす。
「はぁ、最近嫁さんの飯がまずっくてなぁ」
「そげん事は、はょう嫁さんに言っとかんと、あとからグチグチ言われっで」
「今日の話しさ、なんだべぇなぁ」
「明日の飯、どうしよかね」
集まった村人たちの他愛もない話しが集会場に響き渡る。中には子どもも少数、和気あいあいと部屋の隅で喋っている。
「トランプしよー!!」
わたしが声を張り上げ、集まった同年代の子どもたちに言う。私の隣には同年代の亜希子、景子、礼子、洋介など5人が揃っていた。
「おっしゃっ! 俺様一番のりー」
洋介がここぞと、わたしの持っている透明ガラスの箱を奪った。
「うわっ、返して!!」
「へへぇんだ……痛ってぇ!!」
洋介の後頭部をズビシと成敗したのは亜希子。
「バカ丸出し。やめなさいよね、みっともない」
呆れた顔で洋介を見て、透明ガラスの箱をわたしに手渡した。洋介はムスッと頬を膨らませ亜希子を睨む。
「なんだよ。いいじゃねぇか」
「見ているこっちが恥ずかしいの! ほんとに男って子どもね」
二人は睨みあい、やがて、お互い鼻をならしそっぽを向く。亜希子と洋介のこの絡みは毎回なので、景子もわたしも気には留めない。二人を置いて、わたしは透明ガラスからトランプを引き出した。
「ババ抜きしようよ!」
景子が目を輝かせて言う。
「あ、ババ抜きかぁ」
畳の上にトランプを広げた。そして、今だに会話に入っていない人物のほうに顔を向ける。
「礼子は? どうすんの?」
礼子はずっと壁に背を預け、気難しそうな分厚い本を読んでいた。
礼子は本の間から顔を覗かせ、チラと麻耶たちを窺うとまた本に顔を向ける。
「しないわ。4人だけでやってちょうだい」
「そ。わかった」
亜希子と洋介はようやくかたがついたようで二人もババ抜きに加わった。
奥の戸口が開け、入ってきたのは村長、獅子 准之助さん。入ってきた途端、部屋が何事もなかったように静まり返った。額から左目にかけて大きな傷がある大柄なおじさん。話しでは、戦時中、敵にやられたんだって。
部屋の中の一番奥側にドカッと座り、深呼吸をしたのが見える。そして、厳つい顔をあげ、口を開いた。
「みなさん、こんな日にどうもお集まり頂き心より感謝しまず。今日、集まっても他ならないのは夏に行われる小学生たちのキャンプで話しあいをしたいと思いまず」
村長はこれが口癖なのか、毎回、すをずに言ってしまう。毎日、聞いているこっちのほうはもう慣れてしまったが、村の住人じゃない人が聞くと笑いが起きるらしい。
村長から議題が加わり、空気が一変した。大人の肩ぐるしい話しに空気はピリピリとなった。
夜の9時だったからか、わたしは睡魔に襲われた。目を擦り、懸命に意識を集中させる。が、徐々に瞼が重くなり真っ暗な意識に入ろうとした。そのとき、隣にいた亜希子がわたしの体にピトッとくっついてきた。
この熱い中、離れてよ。とふいに思い、薄っすらと開けた両目に亜希子の存在を確認する。
「ねぇねぇ知っている?」
無邪気に目を輝かせ顔を近づける。
「何?」
眠気により若干、苛立っている声になった。
「裏の山のもう使われていない井戸があるじゃん?」
「おう、あるな」
二人の会話に何故か洋介が絡んできた。亜希子は洋介をムッと睨むが、話しを続ける。
「そこに行ってみない? ね!!」
パチリとウインクし、懇願してきた。麻耶は、はぁ!? と口が庵ぐりになり感情がいきり立った。
「お! まじで!? 肝試しか?」
「肝試し? 行こうよ!」
「おもしろそう…」
しかし、肝試しに洋介と景子、礼子までもが乗った。そうなると、わたしまでのらなきゃならないじゃん。
「ほら、麻耶、行こう!」
グイと強引に腕を引っ張り、外に向かった。どうやら、わたしが拒否する権限はないらしい。
だけど、わたしは顔が青くなった。全身の血の気が引き、逆立つようになる。実は、怖いものや妖怪ものが苦手なのだ。
しかし、それを知っているのはこの中で誰もいない。
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