わたしとあなたの夏。

ハコニワ

文字の大きさ
12 / 57
一 大倉麻耶 

第11話 後を追って

しおりを挟む
 村と隣街の境目は大きく別けて二つある。近道を通りたければ、橋。遠回り道は道はあるものの、崖道。
 わたしたちは、遠回りだけど崖道を通った。橋は大勢で渡ればすぐに壊れるので。

 葬儀中、いやでも目につくのが瞬ちゃんの遺体。歪んでいたあの顔を少し弄って普段の顔つきになっていたけど、手足は違う。失ってしまった体のパーツはなにをやっても取り戻せない。
 棺に入った瞬ちゃんは顔と胴だけがある虚しい状態だった。棺は普通、膝を丸めて、丸くなるのだが、既に遺体は丸まって棺の中はピッタリに合う。
 その光景は異様なものだった。全ての水分を嘔吐するぐらい。
 村長と覚さんが順々に挨拶をし、線香をみんなで立てそして、夜の村を歩く。瞬ちゃんの遺体を土に埋めるため。村にも一応、お墓はあるので、そこで埋葬し、みんなでお別れするのだ。お墓は崖道を通り、少し歩いた場所なのでそんな遠くはない。足を踏み外さなければね。
「麻耶、気をつけるんだよ」
 おばあちゃんが言った。
 松明に熱い炎を照らしだし、わたしに手渡す。
「大丈夫だよ」
 わたしは受け取り、前の行列に並ぶ。
 おばあちゃんは足腰が悪いため、列の後ろに並ぶことが決まっている。祖母だけじゃなく洋介の家のほうもだ。松明を持っているのは一家を代表する人物。つまり、夜の村に十二個の炎が浮かんでいる。

「はぁ、ダルイなぁ」
 わたしの後ろでくっついて歩いてた洋介がそう言った。たぶん、松明をぶらぶら持って、さぞかし退屈そうな顔しているのだろう。
「洋介、あんた大丈夫なの? 昼間の」
「あ? あぁ。あんなのへっちゃらよ」
 佳代子さんと同じことを言う。
 集会場の時は遅れて来たし、ここに来るときもなんだか、遅かったので怪我がそんなに深かったのでは……と心配したけど損だった。
 だって、今の洋介明らかにこの現状を退屈と思っている。村の一人が死んだにも関わらず。
「洋介、列乱してない? 松明とかもぶらぶらさげてない?」
「はっ! 心配性だなぁ! 乱してねぇしぶらぶらさげてもいない。心配なら後ろ見れば?」
 そうしたければ、早々に振り返ってるよこのバカ。村の掟も頭にないのか。
「あんたと話すとバカがほんとに移りそう」
「はっ! お前と話すと能天気が移りそ」
 売り言葉に買い言葉。わたしと洋介のいる範囲だけがやたら盛り上がっていました。列を乱さず、松明を落とさないよう、それだけはなにがなんでも必死でした。
 すると、この日はなんの風も吹いていなかったのに、突然、嵐のような風がわたしたちを襲いました。
 松明につけた赤い炎が一気にかき消される。静寂がこの瞬間襲った。光を失い、見えるものはなにもない。それでいて暴れたら崖に真っ逆さま。
 心臓の鼓動が全身の血管を大きく震わせた。絶海の海に置き去りにされたような先の見えない恐怖が心中を襲う。
 次第に、野良犬の遠吠えが聞こえた。辺りからもボソボソと会話が聞こえる。
 それだけで、少し和らいだ。しっかりしろ、大倉麻耶。いつもの元気を取り戻すんだ。大きく深呼吸をした、束の間…――
「ぎゃああああああ!!」
 叫び声が響き渡った。静寂だった空間をピリピリ亀裂が入る。今の叫び声は、まさか覚さん!? 
「落ち着いてください! 皆さん!」
 同行していた刑事さんたちが慌てて声をかける。そんなことを言われて素直に落ち着く人間などどこにいる。
 わたしは列の最前線にいる亜希子のほうへと一直線へ走った。こんな暗闇でも、数分経つと目が慣れてしまう。
 わたしは前にいた人たちを割いてようやく、亜希子のほうへと辿り着いた。こうして見ると人間の影の形は黒くって大きな石ころのような形をしている。それが暗闇だと一層それが引き立つ。
 亜希子だと思う少女の影は最前線にいた中でも一番身長が低く、それでいて女性を引き立てる丸みを帯びた形。
「亜希子! あれ、光るもの!」
「麻耶!? どうしてここに!?」
 数分間、その応えを言わなかった。暗闇の中を走ったのが原因なのか、頭が真っ白になった。ただ一つ、亜希子の持っている光るものを求めただけ。
「光るものって……もしかしてこれ?」
 亜希子が恐る恐る懐から物体を取り出した。そう、光るものとは昨日の肝試しにて持っていた懐中電灯だ。亜希子はわたしの必死の血相になにを思ったのか、即座にスイッチを入れた。
 静寂と闇に包まれた空間にたった一つの光の道筋が現れる。橙々色の光は亜希子の腕の振動と共に揺れ動く。まるで、夜に浮かぶ人魂のよう。その人魂はゆらゆらと陽炎のように揺れ動き、悲鳴のした方向へと照らしだす。

 最前線にいたのが矢田家と村長。そして、その後ろが棺を持った佐竹家。焼けた木の棒みたいに褐色肌が特徴的で細い覚さん。その覚さんがどこを探しても見つからない。
 村人一行は静寂の夜のなか、懸命に捜索した。
「きゃあああああああ!!」
 ヒロミさんの断末魔を切ったような甲高い悲鳴が空中に轟いた。
「ヒロミさん、なにかあったんですか?」
 地にヘナヘナと尻もちついてるヒロミさんにわたしは駆け寄った。血を抜かれたように顔が青白い。ゆっくり腕を崖下に指差した。

 数歩歩けば、真っ黒に佇む崖がある。ヒュウと下から風がやってきた。
 まるで、こちらにおいで、というように冷たい。真っ黒な崖はまるで、化物が餌が欲しくって大きく口を開けて待っているよう。わたしは崖に身をのり下を見下ろした。真っ黒でよく分からない。でも、嫌な感じがする。

 よく目を凝らしてると人体らしきものがみえた。集中して凝視していると今度は、はっきりと見えた。
 あんなところに覚さんがいる。両手足はありえない方向を向いて、胴体から赤黒い血が水溜まりのように広がっている。ここから落ちたダメージが大きく、臓器がはみ出てる。
 
「うっ……」
 わたしは思わず口に手を添えた。プンと生臭い臭いが風によって運ばれてきて。強烈に頭をガンガンいわせる嫌な臭い。
 刑事さんたちが慌てて駆けつける。けど、遅い。遅すぎる。悲鳴があってから駆けつけたら助かる人も助からない。でも、どうして覚さんは崖から落ちたのか。暗闇でも昔からこの道を知っている人がここから落ちるだろうか。その応えは見つからない。

 たった一日で二人の死者をだした日。けど、これから待ち受けるのは不幸のどん底に突き落とされた恐怖だけじゃなかった。まだ、〝始まり〟に過ぎないことをわたしは何日目で気付くだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...