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一 大倉麻耶
第11話 後を追って
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村と隣街の境目は大きく別けて二つある。近道を通りたければ、橋。遠回り道は道はあるものの、崖道。
わたしたちは、遠回りだけど崖道を通った。橋は大勢で渡ればすぐに壊れるので。
葬儀中、いやでも目につくのが瞬ちゃんの遺体。歪んでいたあの顔を少し弄って普段の顔つきになっていたけど、手足は違う。失ってしまった体のパーツはなにをやっても取り戻せない。
棺に入った瞬ちゃんは顔と胴だけがある虚しい状態だった。棺は普通、膝を丸めて、丸くなるのだが、既に遺体は丸まって棺の中はピッタリに合う。
その光景は異様なものだった。全ての水分を嘔吐するぐらい。
村長と覚さんが順々に挨拶をし、線香をみんなで立てそして、夜の村を歩く。瞬ちゃんの遺体を土に埋めるため。村にも一応、お墓はあるので、そこで埋葬し、みんなでお別れするのだ。お墓は崖道を通り、少し歩いた場所なのでそんな遠くはない。足を踏み外さなければね。
「麻耶、気をつけるんだよ」
おばあちゃんが言った。
松明に熱い炎を照らしだし、わたしに手渡す。
「大丈夫だよ」
わたしは受け取り、前の行列に並ぶ。
おばあちゃんは足腰が悪いため、列の後ろに並ぶことが決まっている。祖母だけじゃなく洋介の家のほうもだ。松明を持っているのは一家を代表する人物。つまり、夜の村に十二個の炎が浮かんでいる。
「はぁ、ダルイなぁ」
わたしの後ろでくっついて歩いてた洋介がそう言った。たぶん、松明をぶらぶら持って、さぞかし退屈そうな顔しているのだろう。
「洋介、あんた大丈夫なの? 昼間の」
「あ? あぁ。あんなのへっちゃらよ」
佳代子さんと同じことを言う。
集会場の時は遅れて来たし、ここに来るときもなんだか、遅かったので怪我がそんなに深かったのでは……と心配したけど損だった。
だって、今の洋介明らかにこの現状を退屈と思っている。村の一人が死んだにも関わらず。
「洋介、列乱してない? 松明とかもぶらぶらさげてない?」
「はっ! 心配性だなぁ! 乱してねぇしぶらぶらさげてもいない。心配なら後ろ見れば?」
そうしたければ、早々に振り返ってるよこのバカ。村の掟も頭にないのか。
「あんたと話すとバカがほんとに移りそう」
「はっ! お前と話すと能天気が移りそ」
売り言葉に買い言葉。わたしと洋介のいる範囲だけがやたら盛り上がっていました。列を乱さず、松明を落とさないよう、それだけはなにがなんでも必死でした。
すると、この日はなんの風も吹いていなかったのに、突然、嵐のような風がわたしたちを襲いました。
松明につけた赤い炎が一気にかき消される。静寂がこの瞬間襲った。光を失い、見えるものはなにもない。それでいて暴れたら崖に真っ逆さま。
心臓の鼓動が全身の血管を大きく震わせた。絶海の海に置き去りにされたような先の見えない恐怖が心中を襲う。
次第に、野良犬の遠吠えが聞こえた。辺りからもボソボソと会話が聞こえる。
それだけで、少し和らいだ。しっかりしろ、大倉麻耶。いつもの元気を取り戻すんだ。大きく深呼吸をした、束の間…――
「ぎゃああああああ!!」
叫び声が響き渡った。静寂だった空間をピリピリ亀裂が入る。今の叫び声は、まさか覚さん!?
「落ち着いてください! 皆さん!」
同行していた刑事さんたちが慌てて声をかける。そんなことを言われて素直に落ち着く人間などどこにいる。
わたしは列の最前線にいる亜希子のほうへと一直線へ走った。こんな暗闇でも、数分経つと目が慣れてしまう。
わたしは前にいた人たちを割いてようやく、亜希子のほうへと辿り着いた。こうして見ると人間の影の形は黒くって大きな石ころのような形をしている。それが暗闇だと一層それが引き立つ。
亜希子だと思う少女の影は最前線にいた中でも一番身長が低く、それでいて女性を引き立てる丸みを帯びた形。
「亜希子! あれ、光るもの!」
「麻耶!? どうしてここに!?」
数分間、その応えを言わなかった。暗闇の中を走ったのが原因なのか、頭が真っ白になった。ただ一つ、亜希子の持っている光るものを求めただけ。
「光るものって……もしかしてこれ?」
亜希子が恐る恐る懐から物体を取り出した。そう、光るものとは昨日の肝試しにて持っていた懐中電灯だ。亜希子はわたしの必死の血相になにを思ったのか、即座にスイッチを入れた。
静寂と闇に包まれた空間にたった一つの光の道筋が現れる。橙々色の光は亜希子の腕の振動と共に揺れ動く。まるで、夜に浮かぶ人魂のよう。その人魂はゆらゆらと陽炎のように揺れ動き、悲鳴のした方向へと照らしだす。
最前線にいたのが矢田家と村長。そして、その後ろが棺を持った佐竹家。焼けた木の棒みたいに褐色肌が特徴的で細い覚さん。その覚さんがどこを探しても見つからない。
村人一行は静寂の夜のなか、懸命に捜索した。
「きゃあああああああ!!」
ヒロミさんの断末魔を切ったような甲高い悲鳴が空中に轟いた。
「ヒロミさん、なにかあったんですか?」
地にヘナヘナと尻もちついてるヒロミさんにわたしは駆け寄った。血を抜かれたように顔が青白い。ゆっくり腕を崖下に指差した。
数歩歩けば、真っ黒に佇む崖がある。ヒュウと下から風がやってきた。
まるで、こちらにおいで、というように冷たい。真っ黒な崖はまるで、化物が餌が欲しくって大きく口を開けて待っているよう。わたしは崖に身をのり下を見下ろした。真っ黒でよく分からない。でも、嫌な感じがする。
よく目を凝らしてると人体らしきものがみえた。集中して凝視していると今度は、はっきりと見えた。
あんなところに覚さんがいる。両手足はありえない方向を向いて、胴体から赤黒い血が水溜まりのように広がっている。ここから落ちたダメージが大きく、臓器がはみ出てる。
「うっ……」
わたしは思わず口に手を添えた。プンと生臭い臭いが風によって運ばれてきて。強烈に頭をガンガンいわせる嫌な臭い。
刑事さんたちが慌てて駆けつける。けど、遅い。遅すぎる。悲鳴があってから駆けつけたら助かる人も助からない。でも、どうして覚さんは崖から落ちたのか。暗闇でも昔からこの道を知っている人がここから落ちるだろうか。その応えは見つからない。
たった一日で二人の死者をだした日。けど、これから待ち受けるのは不幸のどん底に突き落とされた恐怖だけじゃなかった。まだ、〝始まり〟に過ぎないことをわたしは何日目で気付くだろう。
わたしたちは、遠回りだけど崖道を通った。橋は大勢で渡ればすぐに壊れるので。
葬儀中、いやでも目につくのが瞬ちゃんの遺体。歪んでいたあの顔を少し弄って普段の顔つきになっていたけど、手足は違う。失ってしまった体のパーツはなにをやっても取り戻せない。
棺に入った瞬ちゃんは顔と胴だけがある虚しい状態だった。棺は普通、膝を丸めて、丸くなるのだが、既に遺体は丸まって棺の中はピッタリに合う。
その光景は異様なものだった。全ての水分を嘔吐するぐらい。
村長と覚さんが順々に挨拶をし、線香をみんなで立てそして、夜の村を歩く。瞬ちゃんの遺体を土に埋めるため。村にも一応、お墓はあるので、そこで埋葬し、みんなでお別れするのだ。お墓は崖道を通り、少し歩いた場所なのでそんな遠くはない。足を踏み外さなければね。
「麻耶、気をつけるんだよ」
おばあちゃんが言った。
松明に熱い炎を照らしだし、わたしに手渡す。
「大丈夫だよ」
わたしは受け取り、前の行列に並ぶ。
おばあちゃんは足腰が悪いため、列の後ろに並ぶことが決まっている。祖母だけじゃなく洋介の家のほうもだ。松明を持っているのは一家を代表する人物。つまり、夜の村に十二個の炎が浮かんでいる。
「はぁ、ダルイなぁ」
わたしの後ろでくっついて歩いてた洋介がそう言った。たぶん、松明をぶらぶら持って、さぞかし退屈そうな顔しているのだろう。
「洋介、あんた大丈夫なの? 昼間の」
「あ? あぁ。あんなのへっちゃらよ」
佳代子さんと同じことを言う。
集会場の時は遅れて来たし、ここに来るときもなんだか、遅かったので怪我がそんなに深かったのでは……と心配したけど損だった。
だって、今の洋介明らかにこの現状を退屈と思っている。村の一人が死んだにも関わらず。
「洋介、列乱してない? 松明とかもぶらぶらさげてない?」
「はっ! 心配性だなぁ! 乱してねぇしぶらぶらさげてもいない。心配なら後ろ見れば?」
そうしたければ、早々に振り返ってるよこのバカ。村の掟も頭にないのか。
「あんたと話すとバカがほんとに移りそう」
「はっ! お前と話すと能天気が移りそ」
売り言葉に買い言葉。わたしと洋介のいる範囲だけがやたら盛り上がっていました。列を乱さず、松明を落とさないよう、それだけはなにがなんでも必死でした。
すると、この日はなんの風も吹いていなかったのに、突然、嵐のような風がわたしたちを襲いました。
松明につけた赤い炎が一気にかき消される。静寂がこの瞬間襲った。光を失い、見えるものはなにもない。それでいて暴れたら崖に真っ逆さま。
心臓の鼓動が全身の血管を大きく震わせた。絶海の海に置き去りにされたような先の見えない恐怖が心中を襲う。
次第に、野良犬の遠吠えが聞こえた。辺りからもボソボソと会話が聞こえる。
それだけで、少し和らいだ。しっかりしろ、大倉麻耶。いつもの元気を取り戻すんだ。大きく深呼吸をした、束の間…――
「ぎゃああああああ!!」
叫び声が響き渡った。静寂だった空間をピリピリ亀裂が入る。今の叫び声は、まさか覚さん!?
「落ち着いてください! 皆さん!」
同行していた刑事さんたちが慌てて声をかける。そんなことを言われて素直に落ち着く人間などどこにいる。
わたしは列の最前線にいる亜希子のほうへと一直線へ走った。こんな暗闇でも、数分経つと目が慣れてしまう。
わたしは前にいた人たちを割いてようやく、亜希子のほうへと辿り着いた。こうして見ると人間の影の形は黒くって大きな石ころのような形をしている。それが暗闇だと一層それが引き立つ。
亜希子だと思う少女の影は最前線にいた中でも一番身長が低く、それでいて女性を引き立てる丸みを帯びた形。
「亜希子! あれ、光るもの!」
「麻耶!? どうしてここに!?」
数分間、その応えを言わなかった。暗闇の中を走ったのが原因なのか、頭が真っ白になった。ただ一つ、亜希子の持っている光るものを求めただけ。
「光るものって……もしかしてこれ?」
亜希子が恐る恐る懐から物体を取り出した。そう、光るものとは昨日の肝試しにて持っていた懐中電灯だ。亜希子はわたしの必死の血相になにを思ったのか、即座にスイッチを入れた。
静寂と闇に包まれた空間にたった一つの光の道筋が現れる。橙々色の光は亜希子の腕の振動と共に揺れ動く。まるで、夜に浮かぶ人魂のよう。その人魂はゆらゆらと陽炎のように揺れ動き、悲鳴のした方向へと照らしだす。
最前線にいたのが矢田家と村長。そして、その後ろが棺を持った佐竹家。焼けた木の棒みたいに褐色肌が特徴的で細い覚さん。その覚さんがどこを探しても見つからない。
村人一行は静寂の夜のなか、懸命に捜索した。
「きゃあああああああ!!」
ヒロミさんの断末魔を切ったような甲高い悲鳴が空中に轟いた。
「ヒロミさん、なにかあったんですか?」
地にヘナヘナと尻もちついてるヒロミさんにわたしは駆け寄った。血を抜かれたように顔が青白い。ゆっくり腕を崖下に指差した。
数歩歩けば、真っ黒に佇む崖がある。ヒュウと下から風がやってきた。
まるで、こちらにおいで、というように冷たい。真っ黒な崖はまるで、化物が餌が欲しくって大きく口を開けて待っているよう。わたしは崖に身をのり下を見下ろした。真っ黒でよく分からない。でも、嫌な感じがする。
よく目を凝らしてると人体らしきものがみえた。集中して凝視していると今度は、はっきりと見えた。
あんなところに覚さんがいる。両手足はありえない方向を向いて、胴体から赤黒い血が水溜まりのように広がっている。ここから落ちたダメージが大きく、臓器がはみ出てる。
「うっ……」
わたしは思わず口に手を添えた。プンと生臭い臭いが風によって運ばれてきて。強烈に頭をガンガンいわせる嫌な臭い。
刑事さんたちが慌てて駆けつける。けど、遅い。遅すぎる。悲鳴があってから駆けつけたら助かる人も助からない。でも、どうして覚さんは崖から落ちたのか。暗闇でも昔からこの道を知っている人がここから落ちるだろうか。その応えは見つからない。
たった一日で二人の死者をだした日。けど、これから待ち受けるのは不幸のどん底に突き落とされた恐怖だけじゃなかった。まだ、〝始まり〟に過ぎないことをわたしは何日目で気付くだろう。
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