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一 大倉麻耶
第12話 三日目
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瞬ちゃん、覚さん相次いて亡くなり、ますます村人たちが刑事さんに頼ることになった。しかし、反面、疑念を抱くような人物も薄っすらと現れていた。二人がたて続けに死んだのは嫁のヒロミさんの呪いでは、と噂をね。
ヒロミさんは都会からやってきた人で親切で明るいとても良い人なんだけど、宗教は信じない人なの。それをよく思っていない村人がいる。宗教が篤い村ではかなりの暴走だったよ。
佐竹家が相次いて亡くなり、過疎化した村では一気に人がいなくなったように感じる。
7月27日(金)
朝の六時に起床したわたしは早速、祖母と同じように仏壇に手を合わせた。カラカラだったお花に水をあげると、窓から陽の光が現れ、水を浴びたお花が真珠のような美しい玉で包まれている。
「麻耶、願うんだよ」
祖母が強く目を閉じ、手を合わせた腕を顔の位置まであげた。
「うん」
わたしも目を閉じた。
仏壇の前で祖母とわたしは、お経を唱えた。ただのお経ではない。ヤミヨミサマがこの地に降りたとき唱えた言葉らしい。その言葉は村に何年、何十年も言い伝えると、いつしか、お経となって今に至る。
祖母の家、当然わたしもだけど、大倉家ではヤミヨミサマを深く謙遜していた。昔から篤く。祖母はヤミヨミサマの祟りだの真っ向信じてないだろう。
「死刑囚だろうと、なんだろうと麻耶はこのばっちゃとヤミヨミサマがついておいかい安心せい」
その時の祖母の表情はなんだったのだろう。ただ隣に座って祖母の生温かい体温といつもの優しい声しか肌に当たらない。
少しチラリと覗けば良かったけど、目を開ける自信があの頃のわたしにはなかった。わたしはうん、と一言返事を送るしかなかった。
お経を唱え終え、早速わたしは公園に向かった。
「暗くなるまでに帰ってくんだよ」
「分かってる! いってきまぁす!!」
玄関を跳ねるように出て、わたしは駆け足で公園に向かった。
いつも見る村の景色、農作業しているおじいちゃんおばあちゃん、その光景は昨日人が死んだような物騒な村ではない。わたしがいつも感じる〝毎日〟の光景だった。
公園に辿りつくと錆びたジャングルジムの遊具に人影を発見。わたしは驚かせようと背後から忍び足で近づいた。
「おはよー!!」
「きゃ!」
「あら、おはよ」
予想通りの反応と冷静な反応が返ってきた。礼子と佐奈ちゃん。二人が朝早くから公園にいるのは珍しい。
とてつもなく珍しいのだ。だって二人の家はここから歩いても三十分ぐらいかかる。そんな距離を早朝から歩き、汗一つかいていない。
「早いね。なにしてたの?」
「知りたい? このことは秘密だよ」
佐奈ちゃんが頬肉を上にし、無邪気にクスクス笑った。キラキラ輝いたビー玉のようにくりくりしている丸い瞳を細めて。
わたしは好奇心を抑えられなかった。きっと面白いものだろうと思って。
「何? 何? 流行りのお菓子?」
「これ見て」
礼子と佐奈ちゃんが幕引きのようにサイドに体を引いた。二人によって隠れてたものが見える。地べたに丸い赤黒い物体が横たわっていた。
「ひぃ!」
わたしは全身をトンカチで打たれたような衝撃で地べたに尻もちをつく。すぐそこには物体がある。
赤黒いのは死んだ時間が早かったからなのか、照り付ける陽に何時間も当たり血が固まって赤黒く変色している。
「こ、これは……?」
「猫の死体」
佐奈ちゃんが膝を折り、小枝を掴みツンツンとその体を揺さぶる。まるで、玩具のように。
「その長いものって、もしかして……」
「大腸よ。鋭利な刃物でお腹を裂かれて引きずり出されたんでしょうね」
礼子が顔色を変えないで淡々と呟いた。
ピンク色でサーモンのようなソレは小さい体の中にあったとは考えにくい。
瞬ちゃんの時は人間だるまを見て、今度は猫の変死体。ドッと朝食べたご飯が噎せ返りそうになった。
「麻耶には刺激的なものだったようね」
「麻耶お姉ちゃん、大丈夫?」
姉妹が顔を揃えてわたしの顔色を覗う。冷静沈着の礼子と無邪気で活発な佐奈ちゃん、性格は似ていないけど、こうして並ぶと本当にそっくりだ。
アイロンがけをしたようなストレートの黒髪。少し猫のような目尻は瓜ふたつだ。
「どうして、誰が、こんなところに猫の死体が……? まさか、脱獄囚が」
無機質に訊くと礼子の整った眉がピクリと動いた。わたしの顔をまじまじと眺める。
「本当に……死刑囚だと思う?」
なにを訊かれたのか、当初、分からなかった。頭が真っ白でなにも応えられない。向かいにいる礼子は不敵に笑った。足元の死体をゆっくりとした足取りで回る。犯人が分かった探偵のような口調。
「【夜道で男が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、お迎えですよ。腸ひっくり返して食べましょう。明かりをつけた女が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、迎えにこれません。悔しくって水に帰ります】このとおり、瞬ちゃんは腸がはみ出てた。しかも逃げられないように手足を引きちぎって」
淡々と喋る礼子。訳分からないわたしは怪訝に眉をひそめる。それを悟ったのか礼子は話しを続けた。
「近隣で偶然死刑囚が脱獄し昨日、瞬ちゃんがそいつに殺された。本当に偶然死刑囚が脱獄したの? 本当に瞬ちゃんはそいつに殺されたの?」
「な、なにが言いたいの?」
訊ねると礼子の足が止まった。ちょうど、死体の顔あたり。
「いくらなんでもできすぎてない?」
佐奈ちゃんが眉を目元まで下げ、大人の難しい話しをしているのだと分かり、あっちに行ってしまった。
わたしも佐奈ちゃんみたいに遠くに行きたいけど、礼子に見つめられ、金縛りにあったように体が動かない。
いつにもまして氷のような冷めた表情。冷徹な顔だ。
「そもそも、死刑囚が脱獄したこと、普通警察は秘密にするかしら。しかも近隣でよ? この事件が起きた直後、それを知らせた。まるで、この事件を全部架空の人物になすり付けるみたい。これは警察も住人もその人物を犯人とした村の住人が殺ったこと」
わたしはカッとなった。体の中の血が熱く沸騰する。
ヒロミさんは都会からやってきた人で親切で明るいとても良い人なんだけど、宗教は信じない人なの。それをよく思っていない村人がいる。宗教が篤い村ではかなりの暴走だったよ。
佐竹家が相次いて亡くなり、過疎化した村では一気に人がいなくなったように感じる。
7月27日(金)
朝の六時に起床したわたしは早速、祖母と同じように仏壇に手を合わせた。カラカラだったお花に水をあげると、窓から陽の光が現れ、水を浴びたお花が真珠のような美しい玉で包まれている。
「麻耶、願うんだよ」
祖母が強く目を閉じ、手を合わせた腕を顔の位置まであげた。
「うん」
わたしも目を閉じた。
仏壇の前で祖母とわたしは、お経を唱えた。ただのお経ではない。ヤミヨミサマがこの地に降りたとき唱えた言葉らしい。その言葉は村に何年、何十年も言い伝えると、いつしか、お経となって今に至る。
祖母の家、当然わたしもだけど、大倉家ではヤミヨミサマを深く謙遜していた。昔から篤く。祖母はヤミヨミサマの祟りだの真っ向信じてないだろう。
「死刑囚だろうと、なんだろうと麻耶はこのばっちゃとヤミヨミサマがついておいかい安心せい」
その時の祖母の表情はなんだったのだろう。ただ隣に座って祖母の生温かい体温といつもの優しい声しか肌に当たらない。
少しチラリと覗けば良かったけど、目を開ける自信があの頃のわたしにはなかった。わたしはうん、と一言返事を送るしかなかった。
お経を唱え終え、早速わたしは公園に向かった。
「暗くなるまでに帰ってくんだよ」
「分かってる! いってきまぁす!!」
玄関を跳ねるように出て、わたしは駆け足で公園に向かった。
いつも見る村の景色、農作業しているおじいちゃんおばあちゃん、その光景は昨日人が死んだような物騒な村ではない。わたしがいつも感じる〝毎日〟の光景だった。
公園に辿りつくと錆びたジャングルジムの遊具に人影を発見。わたしは驚かせようと背後から忍び足で近づいた。
「おはよー!!」
「きゃ!」
「あら、おはよ」
予想通りの反応と冷静な反応が返ってきた。礼子と佐奈ちゃん。二人が朝早くから公園にいるのは珍しい。
とてつもなく珍しいのだ。だって二人の家はここから歩いても三十分ぐらいかかる。そんな距離を早朝から歩き、汗一つかいていない。
「早いね。なにしてたの?」
「知りたい? このことは秘密だよ」
佐奈ちゃんが頬肉を上にし、無邪気にクスクス笑った。キラキラ輝いたビー玉のようにくりくりしている丸い瞳を細めて。
わたしは好奇心を抑えられなかった。きっと面白いものだろうと思って。
「何? 何? 流行りのお菓子?」
「これ見て」
礼子と佐奈ちゃんが幕引きのようにサイドに体を引いた。二人によって隠れてたものが見える。地べたに丸い赤黒い物体が横たわっていた。
「ひぃ!」
わたしは全身をトンカチで打たれたような衝撃で地べたに尻もちをつく。すぐそこには物体がある。
赤黒いのは死んだ時間が早かったからなのか、照り付ける陽に何時間も当たり血が固まって赤黒く変色している。
「こ、これは……?」
「猫の死体」
佐奈ちゃんが膝を折り、小枝を掴みツンツンとその体を揺さぶる。まるで、玩具のように。
「その長いものって、もしかして……」
「大腸よ。鋭利な刃物でお腹を裂かれて引きずり出されたんでしょうね」
礼子が顔色を変えないで淡々と呟いた。
ピンク色でサーモンのようなソレは小さい体の中にあったとは考えにくい。
瞬ちゃんの時は人間だるまを見て、今度は猫の変死体。ドッと朝食べたご飯が噎せ返りそうになった。
「麻耶には刺激的なものだったようね」
「麻耶お姉ちゃん、大丈夫?」
姉妹が顔を揃えてわたしの顔色を覗う。冷静沈着の礼子と無邪気で活発な佐奈ちゃん、性格は似ていないけど、こうして並ぶと本当にそっくりだ。
アイロンがけをしたようなストレートの黒髪。少し猫のような目尻は瓜ふたつだ。
「どうして、誰が、こんなところに猫の死体が……? まさか、脱獄囚が」
無機質に訊くと礼子の整った眉がピクリと動いた。わたしの顔をまじまじと眺める。
「本当に……死刑囚だと思う?」
なにを訊かれたのか、当初、分からなかった。頭が真っ白でなにも応えられない。向かいにいる礼子は不敵に笑った。足元の死体をゆっくりとした足取りで回る。犯人が分かった探偵のような口調。
「【夜道で男が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、お迎えですよ。腸ひっくり返して食べましょう。明かりをつけた女が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、迎えにこれません。悔しくって水に帰ります】このとおり、瞬ちゃんは腸がはみ出てた。しかも逃げられないように手足を引きちぎって」
淡々と喋る礼子。訳分からないわたしは怪訝に眉をひそめる。それを悟ったのか礼子は話しを続けた。
「近隣で偶然死刑囚が脱獄し昨日、瞬ちゃんがそいつに殺された。本当に偶然死刑囚が脱獄したの? 本当に瞬ちゃんはそいつに殺されたの?」
「な、なにが言いたいの?」
訊ねると礼子の足が止まった。ちょうど、死体の顔あたり。
「いくらなんでもできすぎてない?」
佐奈ちゃんが眉を目元まで下げ、大人の難しい話しをしているのだと分かり、あっちに行ってしまった。
わたしも佐奈ちゃんみたいに遠くに行きたいけど、礼子に見つめられ、金縛りにあったように体が動かない。
いつにもまして氷のような冷めた表情。冷徹な顔だ。
「そもそも、死刑囚が脱獄したこと、普通警察は秘密にするかしら。しかも近隣でよ? この事件が起きた直後、それを知らせた。まるで、この事件を全部架空の人物になすり付けるみたい。これは警察も住人もその人物を犯人とした村の住人が殺ったこと」
わたしはカッとなった。体の中の血が熱く沸騰する。
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