わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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一 大倉麻耶 

第13話 三人目

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 訳が分からない敗北心にかられ、思わず声をあげた。
「村の住人がやったって!? 訳分からないこと言わないで!」
「そうね。麻耶、頭悪いものね」
「頭悪い言わないで」
「ごめんなさい。やっぱり、早かったようね」
 礼子は顔を反らし、佐奈ちゃんのところに向かった。佐奈ちゃんは鉄のジャングルジムで天辺までよじよじ登っていた。
 短い手足を器用に上手くこなせ、天辺のもう少しまで辿りついていた所を礼子に呼びとめられる。
 わたしは普段、村の小さい子どもとこの公園で遊んでいる。佐奈ちゃんも一応、その一人だ。活発に動く幼稚園同期の克ちゃんと瞬ちゃんを見習って次第に登る腕力が強まったらしい。
 あぁ、もう後ろで支えなくてもいいな、不意にそんな寂しい感情が行き渡った。

  礼子は佐奈ちゃんの手を握ると、振り向きもせずスタスタと公園を去ってしまった。わたしは抜かれたように尻もちをついて、二人の姿が小さくなるまで見つめた。
 言葉が返ってくるだろうと思い待っていても礼子はなんの言葉もかけてこなかった。
 わたしはそれから、ずっと地に落ちたまま朝日の光を浴びていました。
 度肝を抜かれて足が思うように動けない。でも、こんなところで一人でいたら、死体と同じ地を踏んでいること吐きけと似た不快を感じ、何分かしてからわたしは公園をあとにした。
 暫く公園にいても誰もこなかった。広い大地の上に、わたしの影だけが伸びている。
 時間帯も考えて子どもの克ちゃんとか来ないのだろうと思いさっさと公園を抜けた。
 でも、また暫くしてから違和感に気づく。体の水分が突然抜かれたような違和感。公園を出てから道を歩いてても、いっこうに人に出会わないのだ。
 道端に建ててる電信柱を何本も何本も通り抜けてだいぶ経ってから気づいた。
 朝早いおじいちゃんおばあちゃんにひと目も会わない。公園に行く前、たしかにニ~三人は顔を見ているのに。
 突然、世界中の人々から除け者にされ置いてけぼりにされたように感じ、怖くなってわたしは家に向かった。走って走って額から頬に流れる汗が砂で出来た道にポトリと滴らす。
 それはなんの汗なのか。冷汗なのか、または暑さによってかく汗なのか。
 電信柱を何本も通り過ぎ、木々の間から隠れるように建ってある民家を見つけた。わたしの家だ。
 全速力で曲がり角を曲がり、家に辿りついた。さっき別れた家なのに愛おしい。こんな早い時間に帰ってどうしたんだい、絶対そんなこと聞かれるけどそんなのいいや。
「おばあちゃんただいま…――」
 玄関の戸を開け、いつものようにただいまを言った。けど、今日はわたしが思う〝いつも〟じゃなかった。
 玄関先には男の刑事さんが厳つい顔で祖母と話していた。
「ま、麻耶……」
 祖母は気づき、こっちおいでと手招きしてくれる。わたしは刑事さんたちに小さく会釈して祖母のもとに歩んだ。
「……どうしたの? おばあちゃん」
「それがね……麻耶」
 グスッと涙をためた声で祖母が喋った。こんなにも弱々しい祖母は生まれて初めて見ました。次第にフツフツと何かが膨れあがる。
 それは、祖母を泣かしたのはこいつらのだと。こんなにも老いぼれている祖母を追い詰めて泣かせたんだ。
 これまでにない憤りがめばえた。わたしはキッと刑事さんたちを睨んだ。味方だと思っていた刑事さんたちにこれまで憤りがめばえたのは最初で最後かもしれない。
「麻耶、違うんだよ」
 祖母が小さく声をあげた。その声のどこかに震えているのは気のせいだろうか。
「麻耶、落ち着いて聞くんだよ。駄菓子屋の金田さんが…――喉を引っ掻いて死んだらしい」
 祖母の言葉が頭の中に何重にもなってこだました。その言葉は、奈落の底に突き落とされた衝撃。
 第三に死んだのは金田トウさん。駄菓子屋を営むおばあちゃん。小さいころ、少ないお金を持ってお菓子を買ったこと覚えている。そのとき、おばあちゃんが優しく声をかけてきてくれたんだ。
 わたしは年にニ~三回しか駄菓子屋に行かない。それでも、おばあちゃんはわたしのことを覚えていたらしい。近隣付き合いでも村の一人としても、人望が厚いおばあちゃん。そんな人が自ら・・喉を引っ掻いて死ぬなんて。しかも、不可解なことに家中の壁には夥しい血文字でびっしりこう書かれていた。「わたしは知らない」と。まるで、誰かに許しを乞うよう。


 遺体に気づいたのは、亜希子の家の人。おばあちゃんと亜希子の家はちょっと離れたご近所さんだ。亜希子の祖父母さんは毎日、外の見廻りをしています。その時刻は午後五時。遅くって五時過ぎた時刻。
 仮に五時だとしたら、その前におばあちゃんは死んでいる。でも、この推理は頭の悪いわたしが解いたものだから期待しないで。
 金田トウさんがいつ何時に死んだのか、八年後のわたしでも分からないの。三件目の事件は刑事さんと大人たちが幼いわたしたちを守ろうとして隠していたから。でも、今にして思うと、頭のきれる礼子とかすぐ解いてたと思うんだけどなぁ。


 この村は平穏で殺傷なんて、どこか無縁の話しだと思っていた。そう、思っていたはずなのに。わたしの理想より、この村はどんどん殺戮へと変貌する。
 二人も死んで終わりじゃなかった。刑事さんがきても止まらなかった。不意に礼子の言葉が頭によぎった。
〝その一種がいる限り、これは続く〟
〝村の住民がやったこと〟
 違う違う違う入ってこないで。頭に中に何度も何度も礼子の声がこだましている。

 暫くしてから、また集会場に集まったわたしたち。みんな、生気を吸われたように青白い顔している。
 いつものように壁際に座ると、景子と礼子、珍しく亜希子が寄ってきた。
「物騒な話しね」
 亜希子が喉を詰まらせた口調で喋る。久しぶりに声を聞いたきがする。正直、避けられて苦しかったけど、今は天にもあがるほど嬉しかった。
「怖いよね。家近かったよね?」
「近いけど、大丈夫よ。幽霊なんてこの世にいないに決まってるし」
 このサバサバした性格、亜希子だなぁとしみじみ思う。避けられてた間、この子はなにも変わっていない。
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