57 / 78
再々
第57話 ばったり
しおりを挟む
休日にシフトは入れるものだ。みんなが遅く寝ている間にこちらはコンビニのバイトやカフェのバイトなど。休む暇もなくバイトに明け暮れてる日々。そうして気づいた。
女の子と恋に落ちてリア充高校生活青春パラダイスから遠のいていることを。
大きなため息零しながら棚を整理。たまたまその後ろを通りかかった店長が俺に声をかけた。
「六路くん。今日はもういいよ」
「はい? いえいえ! 全然まだまだ余裕っすよ!」
「六路くんが一番頑張っているから今日だけ特別」
と店長は歯をみせて笑って言った。この顔はすごく機嫌がいい。何かいい事あったな。
「えぇと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん。お疲れー」
店長は最後まで機嫌がよかった。こんな日は滅多にないだろう。バイトを切り上げて店を出る。戸を開けた瞬間、日差しが目に刺して痛い。外はギラリと太陽が出ていた。照りつける太陽、むわりと蒸せる空気、田舎も都会も違いはあれど、この季節はやはりやってくる。あぁ、夏が来るんだ。
「暑っ」
顔にかかる日差しから遮るように手で影をつくる。風が吹かないから余計にむせ返る。まだ初夏でもないのにこの暑さでは本格的な夏がきたら人間焼け死ぬだろう。
この時間から他にバイトはいれていない。初めてじゃないか。この時間に余裕が生まれたのは。さてかえって何するか。いや先に、晩飯の準備……いやいや、この生活に慣れてしまって明日の献立か今日の飯しか考えてない。男子高校生、ここは普通にダチと遊びに行くのが鉄板では⁉ なぜこんな主婦みたいな考え方しているんだ。
頭の中でぐるぐる思考している。
一人で百面相して頭をブルブル振っていると後ろから声をかけられた。この水銀を震わせた心地よい声は俺の知っている限り人生において一人しかいない。くるりと振り向くと案の定、あの人がそこにいた。
「戸村くん、バイト帰り?」
制服じゃない私服姿の四葉さんをお目にかかれるなんて。白い半袖シャツにリボンのついた黒いロングスカート。普段結っていないストレートの髪の毛が後ろで一つにしてポニーテールにしている。かわ、可愛い。いつもの、いつも可愛いというより美人系なのに髪型ひとつ変えただけで可愛くみえる。あとすごいいい匂いする。
「えぇ四葉さん? そ、そっす」
緊張して声が裏返った。
だが、四葉さんは気にせず話を続ける。
「休日なのにバイトなんてすごいね」
「いやいや、全然全然。まだまだ不慣れで怒られてばっかすっ。四葉さんはこれからどこ行くんすか」
四葉さんは肩にかけているバックをもう一度かけ直した。さらりと髪の毛が揺れる。
「図書館。本を貸し借りしに行くの……一緒に行く?」
コテンと首を傾げて訊いてきた。
昨日もバイトに明け暮れて帰ってきたのは屍人が這う夜の十二時だった。青春真っ只中の若者にとって学校帰りは普通に友達と遊んでいるのになぜ、俺はと帰ってそうそうなだれ込むようにベットに横になってそのまま寝た。それが昨夜のことで、正直いって今すぐ帰って寝たい。一日中寝ていたい。
「そうか。バイト帰りだもんね。ごめんね」
四葉さんはそのまま俺の横を通っていく。
ふわりといい香りだけが残って風に飛ばされる。彼女はスタスタと歩いていく。まるでランウェイで如く姿勢良くコツコツと靴音を立てながら華麗に。
まぁ、正直言って眠かったし。太陽眩しいな本当に。クラクラするほどの暑さ。四葉さんはどんなに完璧にみえても割とドジだ。華麗に歩いていたのに何かに躓いて転けそうに。危うく転倒は避けたが大丈夫だろうか。足をぴょんぴょん跳ねている。
「大丈夫べ?」
「へっ⁉」
裏返った返事。
四葉さんはまさか、転けたところまで見られたなど思っていなくて上ずった声を出した。
「四葉さん、あんた、クールなくせに割とドジっ子なんだな」
「いわないでね……」
頬を赤らめ目を伏せる。
もちろんこんな姿、誰にも言わない。
「俺も、図書館行くっす」
という感じで2人は図書館に向かった。ここから然程遠くない場所にある。青々とした木の葉の隙間から陽光が降り注ぐ。その僅かな陽光が二人の顔をチカチカ照らす。
「戸村くん」
最初に話題を出したのは四葉さんからだった。
「戸村くんって、どこ出身?」
「えっと、秋田です」
「秋田かぁ。んだんだ言うから青森かと思った。ごめんね」
ふふふ、と愉快に笑う。
「も、もしかして俺、敬語下手っすか?」
「下手じゃないけどまぁ、地方の人だなてのは一発で分かる」
ドンマイドンマイといいたげに肩をポン、と叩く。やっぱり都会に馴染むには相当難しいことだ。学校ではこの方言で若干浮かれつつあるし。
「秋田かぁ。いいなぁ」
「なんもない所べ」
「ふっ。でも、都会っ子からすれば憧れるんだよ。こんな狭くて窮屈な都会より田舎のほうが広々としているイメージ」
四葉さんは右手を頭上まであげた。天に向かって手のひらをかざす。その眼差しは、悲しそう。
女の子と恋に落ちてリア充高校生活青春パラダイスから遠のいていることを。
大きなため息零しながら棚を整理。たまたまその後ろを通りかかった店長が俺に声をかけた。
「六路くん。今日はもういいよ」
「はい? いえいえ! 全然まだまだ余裕っすよ!」
「六路くんが一番頑張っているから今日だけ特別」
と店長は歯をみせて笑って言った。この顔はすごく機嫌がいい。何かいい事あったな。
「えぇと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん。お疲れー」
店長は最後まで機嫌がよかった。こんな日は滅多にないだろう。バイトを切り上げて店を出る。戸を開けた瞬間、日差しが目に刺して痛い。外はギラリと太陽が出ていた。照りつける太陽、むわりと蒸せる空気、田舎も都会も違いはあれど、この季節はやはりやってくる。あぁ、夏が来るんだ。
「暑っ」
顔にかかる日差しから遮るように手で影をつくる。風が吹かないから余計にむせ返る。まだ初夏でもないのにこの暑さでは本格的な夏がきたら人間焼け死ぬだろう。
この時間から他にバイトはいれていない。初めてじゃないか。この時間に余裕が生まれたのは。さてかえって何するか。いや先に、晩飯の準備……いやいや、この生活に慣れてしまって明日の献立か今日の飯しか考えてない。男子高校生、ここは普通にダチと遊びに行くのが鉄板では⁉ なぜこんな主婦みたいな考え方しているんだ。
頭の中でぐるぐる思考している。
一人で百面相して頭をブルブル振っていると後ろから声をかけられた。この水銀を震わせた心地よい声は俺の知っている限り人生において一人しかいない。くるりと振り向くと案の定、あの人がそこにいた。
「戸村くん、バイト帰り?」
制服じゃない私服姿の四葉さんをお目にかかれるなんて。白い半袖シャツにリボンのついた黒いロングスカート。普段結っていないストレートの髪の毛が後ろで一つにしてポニーテールにしている。かわ、可愛い。いつもの、いつも可愛いというより美人系なのに髪型ひとつ変えただけで可愛くみえる。あとすごいいい匂いする。
「えぇ四葉さん? そ、そっす」
緊張して声が裏返った。
だが、四葉さんは気にせず話を続ける。
「休日なのにバイトなんてすごいね」
「いやいや、全然全然。まだまだ不慣れで怒られてばっかすっ。四葉さんはこれからどこ行くんすか」
四葉さんは肩にかけているバックをもう一度かけ直した。さらりと髪の毛が揺れる。
「図書館。本を貸し借りしに行くの……一緒に行く?」
コテンと首を傾げて訊いてきた。
昨日もバイトに明け暮れて帰ってきたのは屍人が這う夜の十二時だった。青春真っ只中の若者にとって学校帰りは普通に友達と遊んでいるのになぜ、俺はと帰ってそうそうなだれ込むようにベットに横になってそのまま寝た。それが昨夜のことで、正直いって今すぐ帰って寝たい。一日中寝ていたい。
「そうか。バイト帰りだもんね。ごめんね」
四葉さんはそのまま俺の横を通っていく。
ふわりといい香りだけが残って風に飛ばされる。彼女はスタスタと歩いていく。まるでランウェイで如く姿勢良くコツコツと靴音を立てながら華麗に。
まぁ、正直言って眠かったし。太陽眩しいな本当に。クラクラするほどの暑さ。四葉さんはどんなに完璧にみえても割とドジだ。華麗に歩いていたのに何かに躓いて転けそうに。危うく転倒は避けたが大丈夫だろうか。足をぴょんぴょん跳ねている。
「大丈夫べ?」
「へっ⁉」
裏返った返事。
四葉さんはまさか、転けたところまで見られたなど思っていなくて上ずった声を出した。
「四葉さん、あんた、クールなくせに割とドジっ子なんだな」
「いわないでね……」
頬を赤らめ目を伏せる。
もちろんこんな姿、誰にも言わない。
「俺も、図書館行くっす」
という感じで2人は図書館に向かった。ここから然程遠くない場所にある。青々とした木の葉の隙間から陽光が降り注ぐ。その僅かな陽光が二人の顔をチカチカ照らす。
「戸村くん」
最初に話題を出したのは四葉さんからだった。
「戸村くんって、どこ出身?」
「えっと、秋田です」
「秋田かぁ。んだんだ言うから青森かと思った。ごめんね」
ふふふ、と愉快に笑う。
「も、もしかして俺、敬語下手っすか?」
「下手じゃないけどまぁ、地方の人だなてのは一発で分かる」
ドンマイドンマイといいたげに肩をポン、と叩く。やっぱり都会に馴染むには相当難しいことだ。学校ではこの方言で若干浮かれつつあるし。
「秋田かぁ。いいなぁ」
「なんもない所べ」
「ふっ。でも、都会っ子からすれば憧れるんだよ。こんな狭くて窮屈な都会より田舎のほうが広々としているイメージ」
四葉さんは右手を頭上まであげた。天に向かって手のひらをかざす。その眼差しは、悲しそう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる