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再々
第58話 図書館
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図書館の中は外と比べて涼しい。さぁ、と冷気を感じて体の力が抜けていく。ここはオアシスだ。外はギラギラ太陽が燃えて直射日光が痛いのがここでは嘘のようだ。
「はぁ涼しいべ~」
両手を広げてオアシスを感じる。四葉さんはスタスタと中に入り、受付へ進む。借りていた本を渡すと一言二言話してこちらに顔を向けた。
「いつまでそこにいるの」
「あ、はい」
思い切り扉付近にいて入ってくる人の邪魔をしていた。エアコンの下が一番涼しい場所だ。その下にある椅子へ座る。四葉さんは本を探している。人もあまりいないし騒がしくない。こんな快適な場所だとついうたた寝する。
カクンカクン頭が船を漕ぐ。顔を見られないようにうつ伏せでいると意識が遠のく。日頃の疲れがどっぷり溜まっているせいで寝ることなんざ造作もない。この態勢になってから一分後には意識が夢へ入った。
意識が深い海の中へ落ちていく。何も感じない水面。冷たくも暖かくもない。深く深く落ちて漆黒の深海へ。
――ふと意識が覚醒した。電気のスイッチを押したように意識が夢から現実へ。思考は真っ白。寝て少しスッキリしたようだ。ぼんやりする視界を二度三度目をこすり辺りを見渡した。上体を起こす。
本がいっぱい。真新しい机と椅子が照明によってテカテカに光っている。涼しいというより少し寒気がする。なんだここ……。たしか俺、四葉さんと図書館に行くって。
「四葉さんっ‼」
「うわっ何⁉」
俺の声が図書館に響き渡る。山彦のように。図書館にいた人たち全員の注目が集まる。向かいの席に座っていた四葉さんが突然のことにびっくりして、隣肘に置いてあった本がバサバサと音を立てて崩れていく。
「急に起きたと思ったらもぅ!」
「め、面目ねぇ」
だって、起きたら四葉さんが居ないと思って自分でもびっくりして呼んだ。あれは怒声というより、呼ぶ声だった。
四葉さんは床に落ちた本を拾う。
「わたしが帰ったと思った?」
「あ、やぁ……最初そう思ってたまげて、すんまへん」
四葉さんはクスクス笑った。拾った本を机の上でトントンと揃う。
「後輩一人置いて帰るほど冷めた人間じゃないからね」
揃えたものを今度は自分から離れた場所に置く。俺はぐるりと上体を回転させた。時計の針が信じられない場所にある。二度三度見てもやっぱり時刻は十二時を回っていた。
なんと一時間もここで寝ていたのだ。一時間もこの人を待たせてた。
「すんまへん。お昼……というか、起こしてくれべ」
「気持ちよさそうに寝てたから。そっか、昼ごはん」
四葉さんは揃えた本を腕に抱えた。ちょっと待っててね、と子供に言い聞かせるように優しく言って席を立った。
腹の虫がなる。
図書館にいる人たちはそれぞれ読書したり勉強してたり、騒がしい者などいない。騒がしい人間が来たら喧嘩を売っているに等しいな。本を戻してきた四葉さんが帰ってきた。
「何読んでたんすか?」
昼ごはんのことをすっかり忘れて読んでいた本。
四葉さんの腕には恐らくその一冊の分厚い本を手にしている。赤茶色の表紙の本。めくってもいないのに難しそうな本だって分かる。そんな気がする。
「童話かな」
「へぇ~」
童話⁉ ど、童話てそんな分厚いもんか⁉
もしかしたら都会の本は田舎より少し分厚くなっているのかもしれんべ。世間知らずだ。大変べ。
受付へ一緒に行って戸へ向かう。
図書館から一歩出るとムワッてした熱気が襲った。さっきまで涼しんでいた体に灼熱の空気が針のようにささってきた。
「うわっ暑い」
「今日は猛暑日だって」
どうりで。山に囲まれた田舎では割と涼しいほうなんだ、都会のほうが暑いべ。
本をバックに仕舞い、歩き出した。こんな暑いのに涼しい顔をしている。白い肌は今まで焼けていないように美しい。
「ここらへんでいいとこ知ってる。ついてきて」
「ラジャーすっ」
美しいうえに頼もしいなんて。
素直についてきてくれる俺の反応を見て四葉さんはクスクス笑った。
「まるで犬みたい。こんな後輩いなかったなぁ」
「ワン?」
犬の真似をすると四葉さんは穏やかに笑った。余程おかしいのか今まで見たことないほど顔をしわくちゃしている。
「よく、笑いますね」
あ、しまった。言ってから後悔した。
四葉さんはぴたりと表情筋が止まった。雰囲気がおかしくなる。今までいい雰囲気だったのにぶち壊した。
「えーと、その、四葉さんクールだから笑うの滅多にない、なぁて」
また変なことを言ったのか四葉さんの表情筋は変わらない。立ち止まってうつむく。怒らせたのか、悲しませたのか分からない。もう一度名前を呼ぶことにした。
その前に口を開いたのは四葉さんからだった。
「変かな? わたし、笑ったときおかしいかな?」
「全然全然!」
「そう? わたし、上手く表情筋動かせないから本当は笑ってるけど笑っていなかったり、怖がらせたり、全然クールなんかじゃないよ。でも……さっきみたく笑ってたなら嬉しいな」
四葉さんははにかんだ。
怒っているわけもなく悲しんでもいない。良かった。
「笑ったら可愛いすよ」
お世辞でもなく本当のことを告げると普段真っ白な肌が赤く染まった。気温は上昇し炎天下の中、陽炎と同じように四葉の中に何かが揺らめく。
「はぁ涼しいべ~」
両手を広げてオアシスを感じる。四葉さんはスタスタと中に入り、受付へ進む。借りていた本を渡すと一言二言話してこちらに顔を向けた。
「いつまでそこにいるの」
「あ、はい」
思い切り扉付近にいて入ってくる人の邪魔をしていた。エアコンの下が一番涼しい場所だ。その下にある椅子へ座る。四葉さんは本を探している。人もあまりいないし騒がしくない。こんな快適な場所だとついうたた寝する。
カクンカクン頭が船を漕ぐ。顔を見られないようにうつ伏せでいると意識が遠のく。日頃の疲れがどっぷり溜まっているせいで寝ることなんざ造作もない。この態勢になってから一分後には意識が夢へ入った。
意識が深い海の中へ落ちていく。何も感じない水面。冷たくも暖かくもない。深く深く落ちて漆黒の深海へ。
――ふと意識が覚醒した。電気のスイッチを押したように意識が夢から現実へ。思考は真っ白。寝て少しスッキリしたようだ。ぼんやりする視界を二度三度目をこすり辺りを見渡した。上体を起こす。
本がいっぱい。真新しい机と椅子が照明によってテカテカに光っている。涼しいというより少し寒気がする。なんだここ……。たしか俺、四葉さんと図書館に行くって。
「四葉さんっ‼」
「うわっ何⁉」
俺の声が図書館に響き渡る。山彦のように。図書館にいた人たち全員の注目が集まる。向かいの席に座っていた四葉さんが突然のことにびっくりして、隣肘に置いてあった本がバサバサと音を立てて崩れていく。
「急に起きたと思ったらもぅ!」
「め、面目ねぇ」
だって、起きたら四葉さんが居ないと思って自分でもびっくりして呼んだ。あれは怒声というより、呼ぶ声だった。
四葉さんは床に落ちた本を拾う。
「わたしが帰ったと思った?」
「あ、やぁ……最初そう思ってたまげて、すんまへん」
四葉さんはクスクス笑った。拾った本を机の上でトントンと揃う。
「後輩一人置いて帰るほど冷めた人間じゃないからね」
揃えたものを今度は自分から離れた場所に置く。俺はぐるりと上体を回転させた。時計の針が信じられない場所にある。二度三度見てもやっぱり時刻は十二時を回っていた。
なんと一時間もここで寝ていたのだ。一時間もこの人を待たせてた。
「すんまへん。お昼……というか、起こしてくれべ」
「気持ちよさそうに寝てたから。そっか、昼ごはん」
四葉さんは揃えた本を腕に抱えた。ちょっと待っててね、と子供に言い聞かせるように優しく言って席を立った。
腹の虫がなる。
図書館にいる人たちはそれぞれ読書したり勉強してたり、騒がしい者などいない。騒がしい人間が来たら喧嘩を売っているに等しいな。本を戻してきた四葉さんが帰ってきた。
「何読んでたんすか?」
昼ごはんのことをすっかり忘れて読んでいた本。
四葉さんの腕には恐らくその一冊の分厚い本を手にしている。赤茶色の表紙の本。めくってもいないのに難しそうな本だって分かる。そんな気がする。
「童話かな」
「へぇ~」
童話⁉ ど、童話てそんな分厚いもんか⁉
もしかしたら都会の本は田舎より少し分厚くなっているのかもしれんべ。世間知らずだ。大変べ。
受付へ一緒に行って戸へ向かう。
図書館から一歩出るとムワッてした熱気が襲った。さっきまで涼しんでいた体に灼熱の空気が針のようにささってきた。
「うわっ暑い」
「今日は猛暑日だって」
どうりで。山に囲まれた田舎では割と涼しいほうなんだ、都会のほうが暑いべ。
本をバックに仕舞い、歩き出した。こんな暑いのに涼しい顔をしている。白い肌は今まで焼けていないように美しい。
「ここらへんでいいとこ知ってる。ついてきて」
「ラジャーすっ」
美しいうえに頼もしいなんて。
素直についてきてくれる俺の反応を見て四葉さんはクスクス笑った。
「まるで犬みたい。こんな後輩いなかったなぁ」
「ワン?」
犬の真似をすると四葉さんは穏やかに笑った。余程おかしいのか今まで見たことないほど顔をしわくちゃしている。
「よく、笑いますね」
あ、しまった。言ってから後悔した。
四葉さんはぴたりと表情筋が止まった。雰囲気がおかしくなる。今までいい雰囲気だったのにぶち壊した。
「えーと、その、四葉さんクールだから笑うの滅多にない、なぁて」
また変なことを言ったのか四葉さんの表情筋は変わらない。立ち止まってうつむく。怒らせたのか、悲しませたのか分からない。もう一度名前を呼ぶことにした。
その前に口を開いたのは四葉さんからだった。
「変かな? わたし、笑ったときおかしいかな?」
「全然全然!」
「そう? わたし、上手く表情筋動かせないから本当は笑ってるけど笑っていなかったり、怖がらせたり、全然クールなんかじゃないよ。でも……さっきみたく笑ってたなら嬉しいな」
四葉さんははにかんだ。
怒っているわけもなく悲しんでもいない。良かった。
「笑ったら可愛いすよ」
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