折々再々

ハコニワ

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再々

第72話 はぐれた

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「富美加、絶対捕まっとるんじゃ」
「わかっとるべ」
 富美加の手を強く握り、嵐の中をかけめぐる。雨じゃなくて風のほうが強い。足が前へ進まない。横を向いて呼吸するほど、風が猛威を振るっていた。こんな自然災害経験したことない。ゾクリと震えた。
 レインコートを着ても、全身がビショビショだ。軽いレインコートをぶわりと何度も舞いしている。車が飛んでいるのを目撃して、こりゃやべぇな、と何故か冷静でつぶやいた。
「なにあれ」
 四葉さんが立ち止まった。
 ソラちゃんが指差している方向を向いている。
「蛇が降りてきた!」
 ソラちゃんが悲鳴をあげた。
 空からどっぷりと大きな黒い水溜りが降りてきた。ゆっくりだが確実に降りてきている。何だあれ、と一斉に固唾を飲んでいたら、有斗先輩が急げ! の怒声により足が漸く動けた。


 神様のいたずらのはからいによってか、それとも、神様からの人間へ与える仕打ちか、分からないが自然の怖さというものを次々と襲いにくる。そして、最も恐れたことが。
 地面がぬかるみバランスを崩した瞬間、竜巻のような渦に巻き込まれた。その瞬間、手を離してしまった。
「富美加‼」
「お兄ちゃん!」
 渦は成体の体を浮かせるほどの強さで、目にした光景は、富美加の体が風に乗って宙に浮き、飛ばされている光景。手を伸ばしても伸ばしても、届かない。
 
 風が止んだあとには、ぬかるんだ地面に尻もちついていた。そして富美加の影はない。富美加だけじゃない。琉巧と後方にいた伊礼も。足元には自電車の車輪がコロコロと転がって足元に当たった。
「大丈夫か⁉ 怪我は⁉」
 前方にいた有斗先輩は無事だったらしい。
「富美加と、琉巧と伊礼がいない!」
「あの風で飛ばされたか。やむを得ん。先に進む!」
「でも!」
「ここは有斗くんの言うとおりに従ったほうがいい」
 四葉さんが俺の肩に手をおいて静止させた。
「もう一度、あの強い風が来るととてもじゃないけど。この人数で避難して、後から探しましょう。大丈夫。富美加ちゃんにはあの二人がついている」
 四葉さんが確信を持った顔をしてる。
 俺は黙って立ち上がった。顔には葉っぱがついているし、レインコートから枝が刺さっているし、体は泥んこ。それは、四葉さんも同じだった。髪の毛は荒れて、白い肌は青白く。
「そうっすね。行きましょう」
 四葉さんの手を握って起こした。
 四葉さんは反対の手をソラちゃんと握って避難場所の、あの忌まわしい洞窟へ。


 ここへ戻ってくるとは思わなかった。
 洞窟は最初見たときと同じ構造。あの強い風を漸く凌げて半分安心、半分焦り。
「早く富美加たちを探すっす!」
 息巻いても仕方がない。
 レインコートを着ててもびしょ濡れで重いし、やっと抜けたと思ったらまた、引き返す道は容易ではない。
「ここからちょっと遠いけど同じ洞窟がある。大きさはないけど、子供は入れると思う」
「何度も遊んだことある」
「場所知っているとおもう」
 ソラちゃんたちの告白を聞いてそれでも焦りは消化されない。この手から離れてしまったことに憤りがあった。
「電波つかえる」
 大地くんがリュックサックから小型の通信機を取り出した。使い慣れているのか器用にくるくると回す。ガ、ガとノイズが走る。

『――こ――ちら――みか、応答――よ、こちら富美加――洞窟――る、安心――よ』
 
 富美加の声だ。ノイズが走っていても妹の声だって分かる。
「富美加‼ お兄ちゃんだ! 洞窟にいるのか⁉ 伊礼と琉巧は?」
『お――ちゃん! こち――は平気――二人――もいる』
「よかったあ!」
 膝をついて感激した。
 緊張と不安、焦りがどっと氷のように溶けて海へ落ちていく。膝から崩れ落ち横転した。
「六路くん!」
 四葉さんが駆け寄ってきてくれた。
 なんか情けねぇ姿を見せているが、この安心感はどう表現してもうまくできない。四葉さんのやわい膝枕で脱力。柔らかくて生温かい。このまま眠ってしまいたい。


「お兄ちゃん、何かある!」
「蛇が来た!」
「もう這っている。ヒカリ様を狙いに」
 そう思っても中々できない。子供たちの甲高い叫び声がこの洞窟内でやまびこしているのだから。三柱全員が異変を感じ取った。何度も言う〝蛇〟というのに恐れを抱いて。
「蛇て、何なんだよ」
「蛇はこの世の混沌、悪、闇とさす」
 頭上で優しい声がした。
 頭も撫でられている。う、うわぁ、起き上がれない。恥ずかしい。不謹慎ながら富美加がいなくてよかったと思って兄として最低だ。
「あの光、すごい光っている」
「ヒカリ様が答えているんだ。蛇に。ここにいるよ、て」
「向かってきている」
 洞窟内に大きな衝撃が走った。雷が落ちてきた衝撃と近い。音と揺れ、それが三十秒間。流石にナデナデヨシヨシされている場合じゃない。
 子供たちの言われた通り、ここからあの光は遠いはずなのに、まるで共鳴するかのようにあそこから光を放っている。
「あの方のそばにいればいい」
 進くん、ひいては三人の子供が操られたように洞窟内へ進む。
 何が何なのか、思考も体もついていけない。


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