魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

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Ⅱ 誘発の魔女 

第16話 実技テスト

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 スタートの笛がなった。
 一斉にステージを駆け出す。生い茂る森からスタート。このステージで難しいところは、変な虫がうじゃうじゃいることと、道がないこと。
 道がないのは、棘のような草を進むしかない。腰まで荒れ放題の草むら。チクチクして痛い。
 まず、先頭に立ったのがナノカ。クラス一、二の身体能力あるナノカが先頭に。わたしは少し出遅れた。でもまだ大丈夫。始まったばかりだ。
 森ステージを抜けると、景色が広くなり、アスファルトの舗装された道が出てくる。市街ステージだ。
 ここは極力危ないところはない。道のりだって安心だし、見晴らしがいい。
 でも、ここでみんなばらける。あるはいは、もう距離が広まって順位が決まる事になる。
 ナノカが一位、わたしが二位。そして三位が結構後ろにいる。振り返れば、三位以降が背後で固まって走ってきている。
 ナノカとわたしの差はさほどない。
『ねぇ、シノは?』
 ナノカが訊いてきた。
 わたしが背後にいるのを知って、振り向かないで。荒い息をしながら。
 全身から大粒の汗をかき、髪の毛が頬に首筋にくっついている。
「さきに岩石ステージからスタートだよ」
『ほぇ、ゴールが目前じゃん。でも、シノには中々キツイステージじゃない?』
 ナノカが心配そうに、ここから見上げる岩石ステージを見上げたことは見過ごさない。
「大丈夫だよ」
 とわたしは答えた。
「シノなら、絶対。なんとかなる」
 根拠も何もないけど、シノなら大丈夫、そう信じているから。
 ナノカは何思ったのか、分からないけど、急にスピードをあげた。むっ。わたしが余裕こいてると思ったな。まだまだ体力は温存してるんだ。こっからだ。
 わたしもナノカのスピードに追いつくようにして、スピードを上げた。
 ここまで順調。リュウの力を借りるまでもない。

 見晴らしのいいステージを抜けると、急に分かれ道が出現。右は荒れ狂う市街。石やら槍やら降ってくる。左は標識もないくねくね道。前から大きな石が転がってくる。どちらとも危ない。
「ねぇ、どっちだと思う?」
 わたしはリュウに訊いてみた。
『えー、どっからでも……ゴールが近いのは右だな』 
 一瞬、どうでもいいという返答がきた気がしたけど、空耳としよう。
「え、右なの?」
『早よ行け』
 その返事はないじゃない。ここまでずっと走ってきたのに。もっと優しく「頑張ったね、もう少しだ」とか、言えないの!? それに、右って、槍や何やら頭上から降ってくるじゃん。危ないよ。わたしがうだうだしているとナノカはもう進んでいた。
 ナノカも右に進んでいた。
『あ~あ、うだうだしてっから、何してんだよ』
「うるさい、走ります! 走ればいいんでしょ!?」
 わたしの足は右の道に進んだ。
 止まっていたせいで、ナノカとの距離が広まった。焦らないで。こっからが本番だ。頭の中は割と冷静。判断もつく。降ってくるものには対処できる。大丈夫だ。
 足を軽快に運ばせ、かつスピーディーに進んだ。

 ここで大きくばらける。この別れ道で危険を有して進むか、安全を先に考えて進むかで、右と左に別れる。ゴールがより近いのは右だけど、危険度が五ランク中四ランク。
 対して左のほうは、ゴールの道は遠いけど、右より安全。危険度はニランク。どちらを天秤にかけるか、で違うと思う。
 リュウが教えてくれた。
 右にいったのはナノカとわたしだけ。他は左だそうだ。わたしたちの背後にはいない。

 みんな、ここと違うステージで頑張っている。わたしも頑張らないと。ナノカとの距離が縮まった。もう少しいけば、越す距離だ。ナノカも気づいてさっきよりもさらにスピードをあげてきた。
 わたしだってまだまだ体力はある。負けないよ。
『ユナ、危ない! 避けてっ!!』
 リュウのけたましい声が脳内に響いた。
 直後、わたしの足元にグサッと細長い鋭い槍が落ちてきた。危なかった。リュウの忠告がなかったら、このまま頭から胴を貫通し、陰部を突き抜け、大地に突き刺さって人間杭のようになっていたところだった。
 そう思ったら、ゾクと背筋が凍った。
 全身が死の恐怖で震え、足元が竦む。

『ユナ、しっかりしろ! 目ぇ覚ませ!』
 脳内に再びリュウのけたましい声が。
 わたしは、はっとした。今の今まで足がガクガク震えて竦んでいたなんて。リュウの声で思考が現実世界に戻った。足も震えがおさまっている。
 前を走っていたナノカの姿はない。
 ポツンと荒れた道に、わたしだけ立っていた。ゴミや空き缶が路上に捨てられ放置、雑草が伸び放題。建物なんかには幼稚な落書きがしてあり、誰も管理していない荒れ狂う街。 
 ここは仮想の街だけど、実際にありそうでない世界。実際、知らないだけでこんな荒れ狂った街は、きっとどこかにあるのだろう。

 わたしは猛スピードで、止まっていた時間を補うように走った。
 焦らないで、大丈夫、大丈夫。こういうときに冷静にいかないと。また降ってくるものに対処できない。
 リュウに今わたしが何位が訊いてみた。
 三位だ。順位は変わっていない。二位のナノカはここより百㍍離れてる。
 降ってくるものは様々で、石やら矢やら、無数のナイフやら降ってくる。これ、学校の実技テストだよね。じゃなかったら殺しに来てる。
 これを避けながら進んでいるのは酷だ。今の所、順位は変わっていない。始まりから今までに採点は引かれていない。
 このステージでは、極力スピードを押さえて降ってくるものに注意をひこう。

 やっとステージを抜けれた。
 ナノカの姿は以前なし。荒れ狂う街ステージを抜けると、岩石ステージだ。岩石ステージを抜けると、ゴールだ。このステージは険しい崖道がずっと続く。
 両の足じゃ渡れない狭い道もあって、足を滑り落ちたら、下に置いてあるクッションに落ちるから平気。
 でも、落ちたらマイナス三十点だ。
 気を引き締めていかないと。

 ここから見るに、ナノカもシノもだいぶ前にいってるな。合流はなさそうだ。ここまで走ってきて、体力がもうない。残り僅かな体力を使ってここのステージを乗り切れるか。

 岩石ステージに入り、暫く歩いて進んでいた。以前ナノカの影なし。そのときだった。声がする。足元から。知っている声だ。
 恐る恐る見下ろすと、ナノカとシノが道のりから外れた場所に落ちていた。そこは、深い洞窟があって、かろうじて二人の顔が確認できる。
 どうやら、シノが先に落ちて、ナノカが救出しようとしたら、ナノカも足を踏み外して落下。
 二人合わせてやっと手が届く深い場所だ。

 先にシノから引き上げることにした。
 シノを抱え上げるのは難しい。ナノカが下から抱え、わたしが上で引っ張り上げる。わたしたち二人の力で人一人の体重をもつのは、簡単だと思っていた。
 でも、実際やると難しい。
 引っ張りあげる力は十分にある。けど、思ったより動かない。やっとこさ、引っ張りあげると時間が押していることに気がついた。
 リュウによれば、かれこれ十五分かかっていたと。もうゴールをしてる者もいると。
「ごめんなさい」
 しゅん、と肩を落としたシノが謝った。
『こんなの、あたしでも落ちるから大丈夫』
 ナノカが優しく言った。
 もう順位どころじゃない。三人でゴールしよう。どんな順位でも採点でも三人一緒なら、乗り越えられる。  
 岩石ステージを乗り越えられたのは、それから二十分も経ったときだった。わたしたちは、落とし穴や険しい道を手を取り合って助けながら進んできた。
 順位は、当然最下位だ。
 最初上位にいたわたしたちが、最下位に回ってるなんて、みんなに驚かれた。
 順位は最下位だけど、やり切れた達成感がある。最後は、この三人でゴールしたから嬉しい。

 けど、問題は採点だ。
 順位は最下位。岩石ステージで大幅の時間のロス。落ちたらマイナス三十点。ナノカとシノが心配だ。
 わたしがオロオロ心配していると、シノは「自分の心配しなさい」と穏やかに言った。そのあと何かを呟いたのだけれど、片方の耳しか聞こえないわたしには、うまく聞き取れなかった。
「シノちゃーん!」
 テストが終わり、シノの元にダイキが駆け寄ってきた。
「ダイキっ!」
 その二人の間を裂くように入った。わたしは腰に手をあて、シノの前に立つ。突然入って来たことに、ダイキはびっくりして、顔を真っ赤にした。 
「バディなんだから、シノのこと、ちゃんと守りなさい!」
 わたしがそう怒鳴ると、ダイキは、捨てられた子犬のようにしょんぼり肩を竦めて
「ごめんね、シノちゃん」
 と謝った。
「私が反応するのが遅かったから、何も悪くないわ」
 とシノが当たり前に言った。
 ダイキは竦めていた肩を戻し、ぱぁと笑う。さっきまで怒っていたわたしの気持ちなど、忘れて、はしゃぐ。ほんとに調子いいんだから。
「お疲れ」
 はしゃぐダイキに気を取られ、背後にいたリュウの気配に気がつかなかった。リュウから聞くと、岩石ステージの大幅の時間ロスは、採点されなかった。つまり、特にマイナスポイントはない。
 シノとナノカはマイナス三十点だけど、筆記が上位にいる二人だから、二人ともギリギリセーフ。
 実技で赤点のものはいなかった。
 ほっと安堵した。
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