魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

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Ⅱ 誘発の魔女 

第27話 アリス様の過去①

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 わたしたちはびっくりした。そりゃ、アリス様がこうやって喋らないといけないのだけれど、その声が余りにも美しくて、そして、わたしたちをずっと待っていた、と開口一言。
 アリス様が喋ったのも驚いたし、アリス様が素直に、わたしたちの質問に答えたのも意外だった。

〈ずっと待ってた。もう何千年も前から。知りたいことを聞きにきたのでしょう? 我の名はアリスではない〉

 大きな体がモゴモゴ動き、その中から、女性の声が。わたしたちはじっと固まって、話を聞いた。

 あれ。この声、どこかで聞いたことある。水銀を震わす心地いい声、人生で聞いたこともない。けど、この声が初対面じゃないきがする。
 昔じゃなくて、つい最近聞いたことがある。何だっけ。夢だ。あの奇妙な夢の中で出てきた少女の声にそっくり。
 でも、もうちょっと舌足らずだったような。

〈我は北欧神話、運命の女神長女、ウルド。アリスとは、人間が勝手に呼んだ名前です〉

 開いた口が塞がらない。衝撃的な真実がわたしたちを襲った。空気がひんやりした。
 アリス様、本当の名前は北欧神話運命の女神、ウルド様。
 シノの予想していた真実は、見事に的中していた。でも、アリス様……ウルド様がここにいるのはどうして。どうして、人間が神様を奪ってノルンがそれを奪還しようとしているの。知りたいことが山積みだ。

〈すべてお話しましょう。我がここにいる理由、あなたたち、魔女が敵対しているノルンの存在、そして、本当の歴史を〉

 静かに語りだした。
 ウルド様の口調は、まるで操られた人形のように虚ろで、昔話をポツリポツリと語った。


§


 その昔、世界はたった一つの大きなユグドラシルの樹をもとに、神族と巨人と人間に別けられていた。
 運命の女神三姉妹は、ウルズの泉の畔で静かに暮らし、人間の寿命を図っていた。そんなある日、ウルズの泉に一人の人間が迷い込んだ。
 その男は、武闘家で日々鍛錬に森へ、この近くに来るらしい。だが、この日は修行に背仕込んで、ウルズの泉まで迷い込んだ。

 たまたまその男を鉢合わせしたのは、我だった。我とその男は仲良くなった。我も本当の人間を見たのが初めてやし、その男も、神を見たのは初めて、お互い好奇心で近寄ってきた。

 男は度々ウルズの泉へやってきて、我と様々な会話をした。ほんとに他愛もないことを。初めて出会った人間に興奮して、神界のことを男に安安教えていた。我が人間と会っていること、妹たちは知らない。男のほうも、家族には教えていないだろう。

 我はこの男を好きになった。
 神が人間に惚れるなど、前代未聞。でも、会うたびにドキドキしてこの胸の高鳴りが、抑えきれなかった。男のほうは、ただの武闘家ではない。由緒正しい家で生まれた人間。同じ身分の人間と結婚し、普通の家庭をもつ人間だ。男は力を欲していた。
「どうして強くなるの?」
「守るためさ。大勢の人を守りたいんだ。強くなるには時間がかかる。でも人間の命は短い。衰えたらあっという間で、強くなっても、衰えてしまったら死ぬんだ」 
 力と同じく、誰かを守りたい想いが強かった。何千年も生きれる我らにとって、人間の儚い命は、到底知る由もない。
 だって我らは、運命の女神。人間の運命、生と死、つまり寿命をはかっていた。
 けど、男は我が神だと知っている。運命の女神の。なのに永遠の力、永遠の命を願わなかった。
「それじゃあ、我が寿命を長くしてあげる!」
 ウルズの泉の畔で座り、我は提案した。だが、男は即断った。
「だめだ。人間の命は儚いからこそ、人生がある。老いて死ぬのも、病で死ぬのも、その人にとって、輝かしいものがあれば人生だ」
 男は、何も欲しがらなかった。
 人間には欲があるのに。
 その男だけは、強請らなかった。

 後に、人間が我らの仲を知って、前代未聞の結婚を持ち込んだ。当然、我ら神族は激昂した。中でも妹たちが。運命の女神は三姉妹と決まっている。
 誰か一人欠けたら、運命が廻らなくなる。我は人間の寿命の糸を紡ぐ役割を担っている。最初の役目であるため、妹たちも神族たちも、認めてはくれなかった。一種の戦争が起きる兆しのようだった。

 でも、我が神族たち、妹たちの反対を押し切り、男と結婚することに決めた。周りが反対するほど、恋って燃えるものです。

 人間は、結婚と同時に永遠の命を求めた。恐らく、これが狙いだったのだろう。儚い命で生まれた種族、永遠を求めていた。
 「永遠」とは人間の欲。
 だから、運命の女神である我と契をしたかった。男と結婚するためには、その条件を飲むしかなかった。

 そして、反対に神族が求めたのは、人間界と神族の境界、橋を崩壊することだった。激昂した神たちは、人間のどうしようもない欲に呆れ、人間界を行き来するための、交通を崩壊。何があっても、人間の頼みは聞かないと。

 神たちと人間の契が成功し、我は男とようやく結婚した。我は男と一緒に添い遂げるため、人間界に降りた。
 橋は崩壊され、人間界で我はたった一人の神となった。一方神界で残された妹たちには、寂しい想いをしただろう。
 置き手紙ぐらい、残せば良かった。
 人間の運命がここで崩れたことに、我は何一つ考えてなかった。男と一緒にずっといられる幸せで、何も。
 
 結婚し、幸せになる。はずだった。
 「永遠の命」を得た人間は、さらに強欲に怠惰になり、色んな願いを求めてきた。神界から人間界に降り、運命の女神の力はない。我にはもう何も、出来る力はなかった。
 だが、人間はそれでも欲を振りかざした。
 願いを叶ったら、どうしても強欲になるのは知っている。だが、それでも、一度信じた種族。応えねばならないと思った。

 その後、我は無理をした。
 厄災や病など、神界でも使わない力を使ってはまた使って、いつしか我は人間より劣っていた。やせ細り、しわくちゃで、おばあちゃんみたいになっていた。
 それでも、彼は愛してくれた。男は夢だった誰もが認める武闘家へとなり、大勢の人を守っていたわ。

 この人さえいれば、世の中辛くてもキツくても我は「願いに答える機械」じゃない。本物の我でいられる。そう。この人さえいれば、何があっても苦じゃない。

 そんなある日。一生を添い遂げると約束した彼が病で死んだ。本当に突然だった。病で死ぬなら、妹たちが裁断する。なのに、その報告がなかった。原因は知っている。
 運命の女神ウルズがいないから。最初の仕事、糸を紡ぐウルズがいないから。妹たちがその仕事をせっせとするも、人間の寿命が長くなり、大きな負担となっている。
 そして、我にも原因がある。人間にあれよあれよと願いを聞かされ、叶え、これが定めだった運命を我自身が変えていたのだ。
 妹たちが必死に糸を紡ぎ、長さを考えていたときに、我が独断で変えていた。

 我はなんてことを。
 死んだ者は生き返らない。たとえ、神でも、どんな力を得てしても。

 「永遠」を手に入れた彼とは、一五〇年付き添った。儚い命だったら、もっと早かっただろう。それでも、何千年も生きながらえる神さまに比べると、短い時間だった。 
 あっという間だった。

 彼が死に、天へ召され、我が人間界にいる理由はない。神界に帰ろうとも、橋を壊されている。どうする。妹たちも、早く帰って来てほしいとすがってきた。偉大なるお人に連絡するか、もしくは……それでも人間は我を離そうとはしなかった。
 
 永遠の象徴である我がいなくなると、たちまち、永遠の命が尽きると思ったのだろう。そんなことはない。永遠の命を与える契をしたのだから。だが、人間はそれを忘れ、欲だけをを覚えていた。

 彼は好きだったが、彼と同じ種族は好きになれなかった。一五〇年人間界にいても、人間の根本が分からなかった。もちろん、彼のような優しい人間も数多くいる。だが、優しい人間ほど、悪に近づき染まっていく。

 彼がいなくなっても、我はこの地を離れなかった。妹たちは悲しんだ。神族たちも再び激昂した。これは、最早話し合いで解決できる状況ではなった。あと一歩いけば戦争の鐘が鳴る。誰がその鐘をならすか、どうやって、いつ、鳴るのかそれは予測するのも、難しいことだ。
 
 戦争の兆しがかかったとき、人間は我を盾にした。それが約百年も続いた。戦争の鐘を誰が鳴らすのか、ずっとずっと人間も神も、それを見計らっていた。どちらも一歩も譲れない。そんなのがずっとずっと、長きに渡り続いていた。

 彼が天に召し、我は人間界で何もすることはなかった。彼の間に子は成していなかったので、たった一人。この世でこの地で、たった一人なのは寂しい。虚しい。誰か、一人でもいいから我の気持ちを理解してくれる者はいないか。ずっと一人だった。

 ずっと寂しかった我に、人間は寄り添ってくれた。善良な人間たちだ。
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