約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅰ 約束 

第1話 約束

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 親が寝静まった深夜の時間。街には、お酒に溺れた人たちが祭りのように騒いでいる。ポツンポツンと街に光があれど、遠くの景色は闇に溶け込んでいる。
 朝になればそこには色がついているのに、夜になれば景色さえも沈黙する。
そら太陽たいよう、早く来いよっ‼」
あらし、声がでかい!」  
「待って二人とも!」
 親が寝静まった時間帯、今日は快晴で星空が見れる日だ。親にバレないように家を出て幼馴染僕含め二人と外の世界に飛び出した。
「今日は絶好調だな。星が見れる」
 上を見上げながら太陽が大空に向かって腕を伸ばした。星を掴むように指先を動かす。
「今日は毒素が薄い日だって母ちゃん言ってた」
 嵐が望遠鏡をくるくるさせながら言う。
「嵐、それ僕の。絶対壊さないでよね」
 僕は嵐に望遠鏡をぶん取られたことを気にしてキツく言った。
「わかってるわかってる」
 それでも嵐は軽く流した。
 ちょっと口調キツめなのわかっているのに嵐はそんなもの気にも止めない。

 望遠鏡を持って僕らは、この街で一番景色を見渡せる高台に登っていた。親の目を盗んで、かつ、治安を守るために警備しているロボットたちの目を盗んでる。
 酒屋でお祭り騒ぎのおじちゃんたちの声がだんだんと遠のく。街の光もだんだんと消えて、見渡す景色は闇夜になる。
 持っている懐中電灯はたった一つ。
 一つだけじゃ足りなくなってきた。もう一つ持ってこようか、と思っても引き返したらロボットに捕まるので無謀なことはしない。

 足元は硝子や瓦礫があるので、懐中電灯は常に足元を照らしている。そして常に僕ら三人はくっついて歩いている。

 高台に登りきり、望遠鏡をセットする。
 僕と太陽がセットして、嵐はそれを待っている。セットするとすぐに我先に嵐が割り込んできて、望遠鏡を覗く。
 これは決まっての行動なので太陽も僕も怒らない。幼馴染ゆえに慣れてしまった。
「おー見える見える」
「エデンが?」
「エデンは常に見えるじゃん。それより、火星は見える?」
「おい押すなよ。さっき見た星が綺麗だったのに」
「だったら見せろ」 
 さっきから嵐ばっかでちっとも見れない。僕だって覗きたいのに。いてもたってもいられず、嵐を蹴って今度は望遠鏡を覗けた。嵐が「バカ」だの「いしゃりょう」だの言われるがこっちは無視だ。さっきの仕返しだ。

 太陽は僕らのやり取りをまるで、母親のような眼差しで微笑んでいた。

 望遠鏡から覗く闇夜の浮かぶ星は、いつも見る星よりなんだか、とても輝いていた。いつもの空は見渡すばかりなのに、望遠鏡になると、空が狭くなる。でも狭くなった分より数多くの星が見れる。

 大昔の人が星と星を繋ぎ合わせれば星座になると語っていた。僕ら幼馴染は性格は不一致なのに星が好きという、趣味嗜好を持っている。だから僕らは、大昔の人がまとめた星座の本をいくつも読んで、読みあさって、ちゃんと勉強してきた。
「あれはアンドロメダ……か?」
「いっぱいあって区別つかん」
「あれは間違いないよ。この風とこの方向性から考えるとあれはアンドロメダ」
 僕と嵐が頭を悩ませると、一番秀才な太陽が優しく教えてくれた。星を指さして結びつけるかのような動作をする。ほんとに同い年かて思う知識が頭の中に入っている。
「夏の大三角形見つけようぜ」
 嵐がキラキラした眼差しで提案してきた。
「いま夏じゃないよ。見れないよ」
 僕がそう言っても、望遠鏡を振り回して見つける、と声を荒らげる。
「季節関係なく見れるよ」
 太陽がくすくす苦笑しながら言った。
「地球から見れないけど、星は必ずそこにある。宇宙があって、そこでずっと輝いているんだ。ただ〝隠れてる〟だけさ」
 太陽は恍惚とした表情で見上げた。嵐は舌を出す。
「おい太陽、それ、結局は見れないてことじゃん」
「そうとも言うね」
 嵐は太陽に「バカ」と愚痴る。
 僕らはそれから、地面に横になり肉眼でも見える星を繋ぎ合わせて、星座を形どっていた。

 夜空に数え切れないほどの星。これが見れるのは稀で、普段は分厚い雲のせいで月さえも見上げない。工場から吹き荒れるガスと汚染、海から流れ込む毒素の煙のせいで普段は空が見渡せないのだ。
 今日は運が良く快晴。
 こんな日も生きていたらあるもんだ。
 そして、こんな日はもっと凄いものが見える。星と月、それからエデンという惑星。月よりも大きな、月の背後にある惑星。

 地球から見ればその惑星は青か白に見える。その惑星はこの汚染物質から逃げた高級貴族たちが住んでいる。選ばれた人間しか住めない場所。
 噂によると、空気は綺麗で食べ物は腐っていない。家電製品は使えるし、毎日美味しいものを食べれる場所だと。
「行きてぇなぁ~」
 嵐がため息混じりに大きく言った。
「嵐、さっきから声が大きい。ロボットがきたらどうすんだ」
 僕がしっ、と人差し指を唇に翳して注意する。嵐はツーンとしている。
「俺もだ。行こう。あの星に三人で」
 太陽が見たことないほどキラキラした眼差しで告げた。太陽が自分から「何かをしたい」なんて口に出さない。だからこそ、この発言は僕と嵐にとって初めて太陽が見せた「やりたいこと」そして、それを成し遂げようと誓った。
「あぁ、行こう。あの場所に」
 僕らは指切りを交わした。
 何よりも大事な幼馴染と交わした約束が、これが最初で最後になるなんて誰も知る由もない。


§


 それから数日後、エデンから配給が来た。時々降りてくるエデンからの恵み。月一しかない。食べ物だったり、文具だったり、家庭用品だったり、色々助かっている。
 もちろん、人は祭りのように群がる。あっという間に押されて物はなくなることも。だからこれは早い者勝ち。諦めたら負け、これも生きるための力だ。
 人の波に押されながらもなんとか、取ったものは星座図鑑だ。また親から「せめて家庭用品にしろ」とこっぴどく叱られるかもしれないが、僕にとってこれは人生で一番必要なのだ。

 星座図鑑を手に抱えて太陽と嵐と合流した。
「二人とも、何を……――」
「しっ‼」
 二人は物陰に隠れてコソコソしていた。険しい表情を向けてくる。何をしているのかと思いきや、配給する宇宙船をじっと見ていた。エデンの住民は降りてこない。いつもそう。
 だからロボットが監視役。僕らと同じ身長のロボットが数台周りをうろちょろしている。目元がパンダみたいに黒で怪しい人間を見つけると途端に赤ラインが入って、ブザーがなる。仲間を呼ぶ音。この音は頭が割れるくらいけたましいから嫌いだ。
「乗り組むぞ」
「は⁉」
「タイミングを見張るから」
「うぇ⁉」
 嵐と太陽は本気の顔していた。文句言っても引き下がらない。でも僕も少しだけ興味があったんだ。あの船に。

 あれに乗れば、エデンにたどり着く。
 三人の交わしたあの約束を果たすチャンスだ。太陽がロボットがいないかタイミングを見て合図を送る。僕らは全速力で船に乗り込んだ。
 船の中は思ったより狭かった。コンテナが敷き詰められてて、空になったゴミもある。あの量を配給して助かってるのに、事実は、半分はゴミと一緒に持ってきてて一気に悔しい感情がめばえた。
「うぉー‼」
 嵐がガッツポーズを送った。
「早く奥に入ろう」
 太陽が指差す。コンテナが天井まであって隠れるのに最適だ。太陽が真っ先にそこを見つけたので、太陽から先に入る。
 その時だった。

 金切り音が響きわたった。
 頭が割れるほどの強烈さ。宇宙船の中は音が反響してこだましている。恐る恐る振り向くと出口先にロボットが数台集まっていた。赤いラインが入っている。
「げっ! 早速見つかっちまった!」
「奥へ行こうっ‼」
 僕が嵐の腕を引っ張っても嵐はすぐに捕まってしまい、同時に僕も捕まった。外に放り投げられる。ロボットは拳銃を持っている。赤いラインがずっと続いていると攻撃態勢に入って、その拳銃を使う。子供、女関係なく撃つ。
 僕らは必死に謝った。命乞いするかのように。

 ロボットは顔を見合わせて銃を降ろした。それは、船がふわりと宙に浮いたからだ。開いた出口はゆっくり閉めガタン、と閉じていく。
「太陽は」
「しっ‼ いま名前出すと太陽が殺される」
 船がエデンに戻っていく。ロボットたちはそれを見送る儀式がある。短い手で白旗をパタパタ降る。
「どうすんだ⁉ 太陽乗せたまま!」
 嵐が血相を変える。太陽が乗っていることを知らせるために立ち上がる。引き止めなかった。

 もう遅い。地上から離れ、もう見えなくなっている。船はスピードをあげてエデンに帰還しているんだ。太陽乗せたまま。
「太陽……」
 その時、太陽を乗せた船と2隻の配給船がいきなり爆発した。

 空にオレンジ色の光が見えて、唖然とした。
「た、太陽……太陽ぉぉぉぉぉぉ‼」
 2隻の船は次々と空で爆発し、その破片が地上に落ちていく。
 
 太陽を乗せた船は丸ごと爆破された。それは何故か、地球の民を受け付けないエデンの住民が地球の民が乗っていることに気づいて、船もろとも爆破した。乗っているのは小さな子供だということ知らない。知ろうともしない。
 この出来事は、僕ら幼馴染の暗黙の触れてはいけない過去になった。あの日乗ろうと言ったのは嵐。約束を果たそうと結託したのは僕。重い十字架を背負っている。
 




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