約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅲ 約束の地 

第16話 到着

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 一、と呼び掛けの瞬間、ふわりと体が浮いた。ペンや飲み物。ましてや重たいベットまで宙に浮く。声がでない。パカパカ口を開けているのに、喉から言葉が発せない。その空間に「音」という概念が消えたみたいだ。

 ふわりと浮いたのは長い時間だったかもしれない。でも時計の針を見てみると1分も経っていない。わずか数秒のこどし。その数秒でこの船は宇宙から惑星エデンに到着した。
 大きな物音と扉が勝手に開く音。最初何があったのか分からず、固まった。恐る恐る顔を上げてみると、扉のほうから眩しい光が降り注いでいる。まるで母が子を抱くような温かさに包み込まれる温かな光だ。その光を見たものは、ゆらゆらと導かれるようにその方向に歩んでいく。一人、また一人と。出て行ったものはその後戻ってくる様子はなかった。僕らも光の先へ歩んだ。

 白く神々しい光。顔の前に手を持っていき、指の隙間から景色を見渡した。驚愕した。見渡すばかり緑で新鮮な空気。大きな建物が遠くの景色でいっぱい並んでいる。ここがエデン。
「遂に……」
 僕は感動して涙が出そうになった。
「やっと着いたー! ここがエデンっ!」
 嵐が感極まって大声出した。ヒューと駆け回る。緑の芝生の大地を。颯爽と。サクッとした踏み心地。踏んだ感触のないから足裏から全身へとビリビリ刺激が通った。僕も嵐みたくヒューと駆け回った。

 生ゴミの臭いもガスの臭いもしないこの新鮮な空気がなんて心地いいんだろう。息を吸うだけで感謝するなんて。くるくると回っていると、パンと甲高い銃声が鳴り響いた。森の奥からだ。それと同時に断末魔を裂く悲鳴が。
 次々と乱射している。銃声と悲鳴を聞くだけで事の状況はわかった。出て行った人たちがエデンの民に殺されている。そしてここにいたら僕たちも殺される。
「逃げよう!」
 僕はベットにいる明保野さんを抱えてせいらと嵐と三人で森の奥の反対側に逃げる。
「良太は?」
 嵐が聞いた。 
「弟くんいなかったし、もうとっくに逃げてる」
「逃げ足だけはいっちょまえね」
 せいらは悪態つきながらも、怒ってない顔。現に船のことやずっと舵を持っていた背中を見て、悪態なんぞつけるはずもない。
 良太が先に逃げたのはいいが、安否不明だ。さっきの乱射、巻き込まれてなきゃいいけど。

 森の反対側は市街地。
 林の奥から見えたエデンの建物。首が攣りそうなほど高く、どこもピカピカ光って息を呑んだ。木々に隠れて建物や町並みを覗いてみると見たことない景色で空いた口が塞がらない
「うひょー! ンだよあれ! 美味しそうなもん食いながら歩いてる! あっちも、路上で踊ってるやついんぞ」
 嵐は興奮して尻隠して頭隠さず。頭をキョロキョロ動かして目鼻耳かっぽじって働いていた。
「何あれ! 脇とか腹とか出しても注意されてない! むしろロボットからグッともらっているなんて! 私もあの可愛い服着たい!」
 せいらも興奮して昂っている。
「ほんとに地球にないものばかりだ。エデンの民だけ独占なんてずるい!」
 僕も興奮してキョロキョロ首を動かす。
 この目に入れても痛くないキラキラした世界。エデンに来た、と再び涙が出そうになった。涙腺が緩んでいる。
「つか、これどうやって進むの。地球人だってひと目でわかるぜ。こんな小汚ねぇ布一枚着ているやつここに住んでねぇだろ」
 嵐が鼻で嘲笑った。
「誰かいい人捕まえれば」
 舗装された道路の上を歩いている人たちを細目で観察するも、中々いい人が見つからない。そもそも見ただけで「いい人」だって判断する材料がない。
「待っていい考えがあるわ!」 
 せいらがいきなり前を歩き出した。
 僕らはびっくりして止に入る。何を閃いたか知らないが、一人で動いたらまずい。嫌な予感しかしない。
「とりあえずその考えを言ってから僕らも手伝うよ」
「勝手な行動すんじゃねぇ」  
「これは私一人しかできない方法!」
 せいらは自信満々な表情。せいらが考えた方法とは、かんたんな話。通り過ぎる車を止めるため色仕掛けを行うと。
「ブッハハアハハハハ! 色気より食いげのお前が色仕掛けブヒャーッ‼ 腹が、腹が捩れるっ、ブッハハ、ふごっ」
 お腹を抑えてゴロゴロ転がる嵐を盛大な蹴りで蹴るせいら。親の仇みたいな顔でゲシゲシ蹴っていく。背中に背負ってた明保野さんがケホ、と小さく咳払いした。
「色仕掛けでもなんでもいい。ここを早く出て明保野さんを助けよう」
「そうだね」
 せいらがこほんと咳払いした。
「痛てて、ゴリラ女……」
 嵐は背中をさすりながら起き上がり、ボソと地雷語を。再びせいらに蹴られてまったく懲りてない。


 せいらの色仕掛け大作戦開始。
「見てて! 私の魅力で必ず世の男も落ちるはず!」
 せいらは堂々たる足取りで道路に向かう。
「まじで言ってる」
 嵐は呆れながら心配している声色。
 エデンの民のキラキラした世界を見て一瞬で分かったことがある。僕らは最下層であり、僕らが与えられていたものはエデンの民の使わなくなった使い古されたゴミものだったんだ。あんな真新しい綺麗なもの見たことない。
 僕らが普段着ているものはエデンの民から見れば、貧乏服。気づく人は気づくだろう。僕も心配して様子を見る。せいらは道路に出てどこの雑誌を見て影響与えたのかいきなり、腰に手を添えてもう片方の腕を伸ばして親指サインを送った。
「んだあれ、ほんとにあれで落ちるかよ。つかあれ、変なポーズ」
 鼻で笑う。
 じっと様子見してたけど心配と不安でいてもたってもいられなかった。車は適度に走ってきているが、誰も見向きもしない。
「どうして⁉ 私の魅力に気づかないわけ⁉」
「せいら、一旦引こう」 
「恥ずかしいから来な? な?」
 せいらはムッとした顔。でも徐々に顔が赤くなり、言われたとおり身を引く。木の影に隠れてやり直し。ここを突破するのは難しい。でも戻ったところで狙撃される。

 市街地から少し離れ、歩き続けて僕らがやっとのことで見つけたのは大きな別荘。お洒落なレンガ造りの家で煙突まである。これは童話の本で見た「三匹のこぶた」。童話の世界でしか見たことないレンガ造りの家を初めて見て興奮した。
「もしかしてこの世にはお菓子の家まであるのかしら」  
 せいらは目をキラキラ輝かせてる。
「んなもんあったらアリンコが食べてるわ。でも待て! 惑星に蟻なんているか? いないっ、いないぞ!」
 きゃーと二人して興奮し、その家に近づく。家の周りを回ってみることに。庭が広い。家も大きいし庭も走り回れるほど広くて、裏にいけば赤い魚が泳いでいる池がある。
 四人合流して人の気配はないことを確認。窓を割って侵入。この際弁償のことは考えないことに。家の中に侵入成功。エデンにあるエデンにしかない蘇生術台。

 蘇生術台とは、台の上に患者を寝かせてどんな傷でも欠損でも約10分で治すらしい。見たことはないが、監視ロボットが喋っているのを聞いたことがある。切開せずにレーザーで体の内の臓器の悪いものを焼き払う。副作用なし。しかも、心臓が止まっても蘇生することから蘇生術台と呼ばれている。
 良太の狙いはこれだ。
 切開せずに脆くなった臓器を復活。そして病を治せる。この蘇生術台は一家に一台あるらしい。良太も無事に見つけていればいいけど。
 一階フロアを僕が。二階フロアはせいらと嵐。一階だけでも広い。調理器具がおいてある台所、大きな液晶画面がある部屋。床板がいつも掃除しているかのようにピカピカしていて光が反射している。
「ほんと広いな……台がないな、台」
 キョロキョロしてあたりを捜索。一階フロアを探索し終わって二階からバタバタと足音が。せいらたちが降りてきた。この焦った感じの足音からすると何かあったような。
「せいら、どうし……た、の」
 僕は振り向いて後ろにいた人物を見て体が硬直した。せいらでも嵐でもない別の第三の人物がそこに立っていたからだ。
 膨らませた袋を入れたかのようなお腹の小太りの男の子。白い肌に黒髪短髪。白い肌に大粒の汗が浮いていて、ブヨンブヨン、と二重顎が揺れていた。その人物は二階から慌てて降りてきて、僕に出くわすとギャーと豚のような悲鳴をあげた。
「空、頭下げろ!」
 嵐の声がして考える暇なく頭をさげた。
 嵐が階段を全段飛ばしながら降りてきて、少年の頭にバットを降ろした。が、寸前のところでかわされる。バットは空振りしもう少しで僕の頭をかち割るところだった。
「ちっ! この豚ちょこまかと!」
「豚のくせに反射神経いい!」
 これはいい値段で売れる。
 豚は避けた場所で一回転して尻もちついている。白い肌が更に青白い。
「ななな、なんだ君たちは! ふ、ふふ不法侵入だぞ‼」
「ふふふほうしんにゅう、てなんだ?」
「さぁ?」
「不法侵入だっ! こここはぼ、僕の家だぞ。勝手に入ってくるなんて僕のこと、だ、誰だと思って」
 豚はわけのわからない単語をブツブツ呟いて何言っているか分からない。上からせいらの声が聞こえた。蘇生術台があったと。僕らは豚を無視して上へ。  
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