約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅲ 約束の地 

第15話 エデンより

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 明保野さんの忠告は現実のものになった。窓際にいた人たちがざわざわと騒ぎ出した。後ろの四号が爆発している、と。僕たちも慌てて窓の外を見下ろした。真っ赤な炎が船を燃やし、黒煙がモクモクと広がっていた。
「う、嘘だろ」
 呆然と景色を見下ろした。
 四号に乗っていた人たちは僕らを助けてくれた主婦や改造した人たちが特に乗っていた。船は急降下していき、オレンジの飛沫と黒煙が空中に縦横に広がっていく。
「なんで⁉」
「あれ見て!」
 みんなが指差す方向は地上。僕らがさっき集まっていた場所には10体くらいのロボットが刃を向けていた。 
 あれが殺戮マシーン。全身鉄で鉄で出来たやつで、四足歩行。人間と同じくらいの高さ。遠い場所からでも的を射抜く赤い超電磁砲。
「あんなの、防げるわけがない!」
「いいや、防げる」
 良太が自信に満ちた顔で言った。
 部屋からモニター室へと足を運ぶ。良太が調整した機械だから誰よりも理解している。船の頭部部分で一番広く空が見渡せる。機械のスイッチやレバーが多い。 
 良太は慣れた手つきで触っている。モニターにある赤いスイッチを押した。
「どうしてエデン産の船を使っているのかよく考えろ。文明だけは偉く発展してある。赤外線も超電磁砲が来る方向も分かる機器が揃ってるぞ」
 良太はニヤリと笑って、モニター画面に船の周囲の波が映し出され、点滅している赤いコードがある。狙い速度まで計算されている。

 地上にいるロボットが超電磁砲を撃った。それが画面でも理解できたのは、赤く点滅している丸が一定の間点滅しなかったからだ。上に表示されているのは流れてくる速度、時間、方向。
「一時の方向に約一五秒後に船に到達する!」
 せいらが画面の表示を見て声を上げる。
「了解!」
 せいらの指示に良太は舵を掴んで左に回した。ぐるんと視界が横転する。壁際にいなかったら地面に倒れていた。体ががたんと傾き、乗っている人たちも急に傾いたことから、キャーキャー叫ぶ。
「いけね。そういや、船艦に指示送ってなかった」
 良太が気づいたときにはもう遅く、乗っている人たちは船の動きに困惑した。小窓から覗くと扉の前に群がっている。扉を叩くものもいる。
「そっちは任せた」
 良太は舵を握ってモニター画面を凝視している。
「OK。舵任せた」
 僕と嵐は困惑する人たちを宥めるために外へ。せいらも明保野さんの体調を看るために外へ。超電磁砲は防いだ。 
 赤い超電磁砲が船の横を通り過ぎ、曇天の空へ貫通していく。曇天の空から一瞬晴天が見えたもののすぅ、と雲に覆われていく。
 四号の船が墜落。今度はこの船が襲われたのでは、と汗ばむ人たち。何度大丈夫だと言い聞かせても口癖のように「本当か?」と疑う。正直いって僕らもあまり状況に達していない。
 なんとか人々を宥め落ち着かせることに成功。その間、何度か揺れ小さな地震のような振動が続いていた。
 僕は明保野さんが眠っている寝室に足を運ぶ。せいらが看ているから大丈夫だろうけど、あの瞬間の明保野さんの姿が目に焼き付いていて妙にざわざわする。
 扉をノックして室内に入った。
「せいら、入るよ」
 返事がないものの、室内に入った。
 白いベットがあって、そこに明保野さんが眠っていた。室内は明保野さんしかいなかった。
「あれ? せいらは?」
 キョロキョロ辺りを見渡したものの誰もいない。看ておく、て言ったのに何処に行ったんだ。明保野さんと良太の弟さんが一緒に眠っている。そばまでくると寝息が聞こえた。良かった生きている。ほっと胸をなでおろす。
「降りなかったのね」
 寝ているかと思いきや、明保野さんは布団から顔半分出してジト目で睨んできた。
「あ、明保野さん。ごめん起こした?」
「別に」
 明保野さんは掠れた声で淡々と言った。 
 僕はベットのそばに座った。明保野さんの顔色は青白い。きっとあの揺れで眠れやしないだろう。
「エデンに行きたいのは分かる。でも地上からもエデンからも狙われている。機会を待ったほうがいい」
 声は掠れていても、表情は凛々しく。
「……今じゃなきゃだめなんだ」
 僕はするりと毛布の下に手を入れて、明保野さんの手を握った。明保野さんは突然のことにびっくりして切れ長の目を一瞬大きく見開いた。
 明保野さんの手は酷く冷たく、そして、痩せこけたおばあちゃんの手みたい。エデンに行きたいのはあのときの約束もある。けど、僕の中で大事な、一番、約束を果たすものがある。それは――。
「明保野さんと約束した。『わたしを助けて』て。その約束のためなら、命狙われるくらい。僕はこの約束のために、明保野さんを助けたいためにエデンに行く」
 明保野さんは見開いた目を泳がせて、じっと見てきた。この世ならざるものを見る目。ゆっくり深呼吸して穏やかな表情へ。

 また大きく揺れた。廊下が再び騒がしい。病人もいるのに静かにしてくれ。
「ちょっと様子見にいくね」
 僕はそう言うと明保野さんはコクリと頷いた。室内をゆっくり出て、廊下に出ると人だかりが出来ていた。あのときと同じように窓を覗いている。向こうからせいらが走ってきた。
「大変! また墜落した!」
 それを聞いて人だかりを掻き分けて僕も窓を覗いた。窓の外はもうあっという間に宇宙で、全体底の見えない漆黒に包まれている。墜落したのは二号。赤い超電磁砲に何発も撃たれて赤い炎が船を包んでいる。
「どこから⁉」
「エデンよ」
 せいらは息を切らしながら言った。
 両手に桶を持っている。髪の毛は荒れているのを気にしないのはいつものこと。髪の毛よりも窓の外を一番気にしている。
 エデンから高温度な超電磁砲が何発も撃ってくる。二号が宇宙で塵になるまで爆撃が続いた。その光景を見てることしかできない。僕は急いでモニター室に。


 モニター室で焦ったように機械をいじる良太の背中が。
「何か手伝うことある⁉」
 僕が入ってくると余程驚いたのか目を見開いて固まっていた。どっしりと大粒の汗をかいている。この危機的状況に良太さえも面食らっていた。
「地上からもう撃ってこねぇ。だがエデンから攻撃がわんさか降ってくる」 
 良太は大きな舌打ちをした。
 地球から離れ、漆黒の闇が広大に広がる宇宙。月を通り越し、見えてきた大きな惑星。あれがエデン。近くで見るとその迫力に固唾を飲んだ。   
 色は地球と同じように青。まるでクレヨンで塗ったかのようにベターと表面に広がっている。時々白いのが浮いているのであれは、雲だ。

 エデンが目の前に。 
 固唾を飲んでいると、惑星エデンの北側からピカッと光るものが。途端に流れ星のような閃光が船の横を通り過ぎた。
「クソッ! またっ!」
 どうやらあそこから攻撃してくるらしい。
 エデンの民の仕業だ。ドクン、と胸がざわざわした。広大な宇宙で僕らに攻撃している姿はまさに、ゲームのブロック崩しをやっているかのよう。超電磁砲がわんさか降ってきている。逃げはない。

 的を当たったおかげで上機嫌なようだが、そうはさせない。残った三号と一緒にエデンに行く。この日のため自由を得るために戦ってきたんだ。こんなところで負けるわけにはいかない。
 さっきの攻撃、避けれたのは一瞬で本当に危なかった。ボーてしている暇はない。あの光線を避けながらエデンに近づく。
 でもエデンにだんだん近くになるにつれ、攻撃は増えるばかり。船内も混乱と不安が渦巻いて船内からもブーイングがきている。船内の中はせいらたちに任せよう。

 僕と良太は降りしきる攻撃を躱すことだけに集中しろ。舵を反対にしたり、ぐるぐるとしたり、一気に近づけるために良太は赤い大きな危険の〝危〟の文字が入っている赤いボタンを押した。
「何それ⁉」
「分からん。でも何かしら使えんだろ」
 良太はそのボタンが何なのか分からずとも躊躇なく押した。嫌な予感がビンビンする。本能かそれとも、迷いか……。

 押した途端赤い毒々しい警報機が鳴り響き、廊下や室内は真っ赤な照明になった。
「まさか、これやっちゃいけないフラグ……」
「もう押したあとだ!」
 僕らはやってしまった、と顔を青ざめる。赤い毒々しい警報機から淡々とした女性の声のアナウンスが。
『強制着陸します。何かに捕まって下さい。五秒前――』
「なんだって⁉」
「強制着陸ぅ⁉ しかも五秒前とか――くそっ」
 良太は舌打ちしながら船内アナウンスをオンにした。何かに掴まれと指示を送る。廊下はその指示を聞いて騒ぎながら何かに捕まる。

『四』

 僕らは咄嗟に機械台の下に潜り込んだ。

『三』

 エデンからの攻撃が当たった。僕らから見て右棟がやられた。真っ赤な炎が右棟を包み、船がやがて右に傾く。

『二』

 やられた。エデンに着くまでに墜落する。早く強制着陸を、お願い。心の中で何度も願った。

『一』

 ぎゅ、と棒を握る握力を強めた。血が出るほどに。また死にたくない。死ぬかもしれないこの感覚。全身という神経が研ぎ澄ませ脳裏に、あの約束が思い出した。
 エデンに行こう、丘の上で三人で約束したあの情景。これが走馬灯というやつか。
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