約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅳ 王政復古 

第26話 さぁ

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 それを聞いたのは、この宮殿に来てから食事とシャワーを終えてゆっくりしたとき。それぞれの部屋にいると守人の付人がやってきた。
 数人の白衣の女性たち。先頭の女性が淡々とした口調で話した。
「北区で捕まった下民層が明日、処刑されると通達が。北区の守人から来ました」
 ざわと騒いだ。
 嵐がベットから立ち上がった。白衣の女性たちはそれだけ言うと部屋を立ち去った。僕は慌てて追いかけるや、扉の前にいたのは白衣の女性じゃなくてせいらだった。
「せいら……!」
「聞いた? 今の」
「うん」
 お互い覚悟を決めた顔。
 明日処刑されると聞いて恐怖と少しの安堵があった。地球の民であればすぐにでも処刑されるのに朝を待ってくれた。これはまだまだ時間がある。あいつらがタイムミリットを与えてくれたことはきせきに近い。
「この一夜で王政復古しないと」
 僕らは顔を見合わせた。廊下の先で守人が立っていた。白衣の付人がいない。にこりと笑っていた。いつもの飄々とした立ち姿。さぁ、と呼び答えるように手招きした。僕らは部屋を出て廊下に出た。
「あの」
「王様のところへ向かうのでしょう? 人質を助けるため、行ってください。そして、このエデンの貴族体制を崩壊してください」
 守人は深く頭を下げた。綺麗なつむじが見えた。僕は慌てて止に入った。
「頭を上げてください! 僕らはまだ力不足です。どうか、僕らのために力を貸してくれませんか」  
 今度は僕らが守人に頭を下げた。それを目前で凝視した守人はふっと笑った。
「頭を上げて。さぁ、共に行きましょう」
 自信満々に満ちた声色。頭を上げると守人は勝ち誇ったように笑っていた。付人が廊下を行き来して、隠れながら外に出る。宮殿にいる付人は割と多い。角を曲がったときに出くわしたときは肝っ玉が冷えた。
 どうして付人から避けるように行動しているのか、守人に訊くと守人は、にこりと笑って毒を吐いた。
「彼女たちは今回同行させません。目障りですから。それにあんなのがちょろちょろいれば、貴方方と話せないので」
「そうですか……」
 せいらが出雲くんがいないことを問いた。出雲くんは白衣の女性たちに叱られて部屋に監禁、というか無理矢理部屋に押し込んで外に出ないように部屋の前で見張られている。ので、出雲くんは声をかけられなかった。
「彼なら大丈夫。こちらの八人分の食べ物をたらふく食べてたので、満腹で満たされているでしょう」
 ふふふと笑った。
 そりゃ叱られるわな。
「うちのがすいません」  
「いいえ」
 くすくす彼女は笑った。そうして、ようやく宮殿から抜け出せた。守人が夜抜け出すのは悪いことなのでは。それを察してか守人は「大丈夫。これでも時々脱走してるんですよ。秘密にしてくださいね」と目を細めて笑った。そういえば、宮殿から外に出るとき妙に誘導が上手かったような。遭遇もしなかったし。思い返すと脱走経験者だ。

 確かに。付人がずっと張り付いていて、片時も離さんとばかりくっついていたな。日頃から付き纏っていたらそりゃ、うんざりするわな。明保野さんが北区から抜け出し地球に降りてきたように、この人も「自由」を求めている。
 守人の責務とは一体何なのか。考えさせられる。

 トン、と肩を突かれた。振り向くと嵐がジト目で睨んでくる。
「何?」
「何? じゃねぇよ! なんでお前そんな親しく話してんだほぼまだ、初めましての一日だろ! 俺のいねぇところであんな美女とうまくなりやがって、このっ!」
 嵐は僕の耳を引きちぎるほど引っ張った。妬みと恨みをぶつけてくる。耳がミシミシいってほんとに引きちぎられる痛みだ。
「痛だだだだだだ、痛ったぁ‼」
 ふん、とぞんざいに離され僕はその場でのたうち回った。嵐はそんな僕を見下ろす。せいらと守人も変な目で僕を見下ろす。特に悪いことしてないのに解せん。仕返しに僕も嵐の耳を引っ張ろうと近づくとその危機感を察してか、さっと避けて代わりにせいらを隣に置かせた。せいらは位置を変えられたことに謎の不快感顔。
 僕らは歩きながら立ち位置を入れ替わってみたり、そんなこんなで、再びあの大きな門の前に辿り着いた。この門を見ると中にいる少年を思い出して若干腰が引ける。
「今度こそあのすかした顔をぶっ壊す!」
 嵐は拳を叩いた。
「程々にしてくださいね」
 守人は穏やかに言った。嵐は喧嘩腰で宣言したけどこの人わかってるのか。大きな門が一人でにぎぃと開いた。僕たちが来たことを知ってか、自ら開けたかのような。門前にいたのは執事の男性だった。まるで待っていたかのように深く礼をしたままそこにいた。
「こんばんは。王様はまだ起きています。昼間の話を真剣に自分なりに、考えてらっしゃいました」
 執事の男性は戸を開けた。
「あれからずっと?」
 僕が問いかけると男性はこくりと頷いた。あんなにそっけなく、悪態ついていたのに僕らの救いを考えていたのか。

 確か、宮殿を出た時間帯は夜の九時過ぎだった。そして今時間を見てみると、あれから一時間は経っており人が他所ん家に招くには少々常識外れである。それでも来た客は招くように明るい照明が僕らをてらしている。この街全体夜でも昼間のように明るく人の歩が絶えない。
 地球じゃ百八十度違う。繁華街もないし、酒屋は潰れて飲酒は禁止されている。明るい照明なんてそんなものはなく、夜は静かで光なんて存在しない。北区でも思っていたが南区は特に住む世界が違うと劣等感を抱く。

 最初に王様とあった和室の扉へと誘導された。やっぱりここにいるのか。前のように執事の男性が声をかけ戸をスっと開ける。部屋の構造は変わらない。あのソファーの上でゴロゴロしてゲームしている姿も変わらない。
「坊ちゃん、お客様です」
 執事の男性がそう言うが先かそれとも、襖が開いた音に反応してか、王様はむくりと上体を起こした。じっと怪訝な表情で僕達のことを見ていた。
「はぁ、揃いも揃ってこんなところまで来て……何? 話だけは聞いてやる」
 じっと僕らの顔を順番に見ていき興ざめしたのか、持っているゲーム機に視線を落とした。ずっと考えていた素振りは一切ない。他人に見せないタイプか。ソファーにいる彼と向き合うために床に座布団敷いて座る。
「あのっ、もう時間がないの! 北区で捕まった人たちが処刑される。あなたにとって他人かもしれないけど、私たちには大事な人たちだから。どうか救ってほしい。あなたしかいないの」
 せいらが口を開いた。
 直球な言葉だ。王様はゲームをやっている手を止めない。ピコンピコンとゲームの音が鳴り響いている。ブチ、と何かが切れる音が隣から聞こえた。嵐が怖い顔している。今すぐにでも殴りかかりそうな雰囲気に近い。
「こんの、人が話しているときにピコンピコンと……おいこらこっち見ろや」
「嵐!」
 威厳はないが仮にも王様という立場。それなのに怒鳴り散らした。元々堪忍袋の尾が切れそうだったし、予想ついていたものの、実際起こると、体が反射で震える。
「聞こえてるし大声出さないでくれる? 出禁にするよ?」
 王様はこちらもみずに手を止めずに淡々と言った。なんてこと無いまぁ無傷な感じの声色。さっきから繰り広げているゲームの音が調子いいので軽く流しているんだ。
「王様、お顔を見せてください。お顔を拝借してお話したいですわ」
 守人が身を乗り出した。
 優しい声。まるで子をあやす母のような慈しむ声。せいらじゃ全然出来ない。その声を聞いて少年は少しゲーム機から顔を上げた。その反応に守人はくすりと笑った。
「北区で捕まった地球の民は、こちらにいる子どもたちと家族である。そして、それらの親は王様、あなたです。血は違えどあなたはかつて尊敬され敬う一族。それは大昔の話でも、あなたが王族であり王様だという事実は変わらない。何十年、何百年人々に忘れられてもその血だけは途絶えることなく今おります。貴族がこの世の体制を取り仕切っているこのご時世を、ぶっ壊し、あのナメ腐った貴族たちを地面にひれ伏し足をペロペロさせましょう!」
「ごめん? 後半うまく聞き取れなかった」
 守人はふんす、と鼻息荒く妖しく笑っている。
 王様はゲーム機をソファーに置いて、こちらに体ごと向き合った。じっ、と僕らの顔を見つめている。
「……貴族体制になったのは今から千年前のことだ。それから完全に人々から忘れ去られるのに百年もかからなかった。それを今更王政にしろと? どうやってできる。何ができる。何を成す。お前たちは助けを求めるだけで、どうやって王政に成すか何も考えていない」
 少年は低い声で睨みつけながら言った。


 僕らも確かに王政復古なんてできるわけがない。やり方なんて知らない。ただ、ただこの人を訪ねれば出来る、と思っていた。なんて浅はかなんだ。少年の、いいや王様のひどく冷たい目が刺さる。

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