約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅳ 王政復古 

第28話 解放

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 僕らは一気に緊張の糸が緩んだ。
「明保野さん!」
 窓の外にいたのは明保野さん。巫女服を着ており、現在は北区の守人だ。明保野さんは人差し指を唇にかざしてしっ、と小さく叱った。ここは人気がないとはいえ、敵地の場。もし見つかればこれまでの努力も王政復古さえもできなくなる。
 僕は慌てて口を覆った。
 せいらが窓際の席に移動してきた。
「あーちゃん~会いたかったよぉ」
 窓から少し身を乗り出して明保野さんを抱擁した。明保野さんは「わたしもだよ」と穏やかな顔で言う。

 カシャンと乾いた音が響いた。
 ゲーム機が床に落ちている。ゲームをしすぎて手汗のせいでゲーム機が手からこぼれ落ちたのか。王様は僕らを見てわなわな震えていた。信じられないものを見るような目。まるで世界の異端者を見るような眼差しだ。
「あ、付人がいないと話もできないんだった。僕らは普通にこうして話をするのが当たり前でエデンの常識とやらさっき教えられたばかりなんだ」
 僕は落ちたゲーム機を拾い上げようと立ち上がった。間髪王様からとんでもない声が響きわたった。
「お前が北区の守人か! 初めて見たっ‼」
 子供のように、いいや、実際は僕らより歳下の小学生、王様はそれまでのすましきって子供らしくない言動ぶった雰囲気を壊し子供のように目をキラキラ輝かせ僕らを押しのけ明保野さんをまじまじ見つめた。 

 明保野さんは詰め寄ってきた子供にびっくりして1歩後ずさる。
「ほうほう。守人はみんな白装束なのか。南のは清楚によそおっているが、あれは腹の中に得体のしれない黒いものを飼っているから怖いんだ。だが、北のほうはううん……」
 納得したかのように一人で首を頷く。評価された明保野さんは目の前にいるのはこのエデンの王様だとすぐに理解。
「わたしも腹の中に黒いものを飼っているかもしれないですよ王様。はじめまして」
「そのときは見捨てればいい」
 王様はいつものすました顔でふんぞり返って言った。

 南の守人が連絡してくれたおかげですぐに明保野さんは迎え入れてくれた。このエデンを一つにしようとしている革命家、もしくは反逆者との共闘だ。僕らがここにいることを知っているのは北区で明保野さんだけ。

 処刑時間は朝が来て、午前七時だ。今深夜一時を回っている。処刑時間までまだ余裕がある。明保野さんは宮殿にこい、と招待してくれた。しかし王様は車の中に残る、と宣言。
 座席に座りずっとゲームをしている。ピコンピコンと音を重ね合わせてこう言う。
「わざわざ外に行きたくないね。誰かに見つかったら大事だし、ほら、王様って現れるのはいつも最後だろ? そういう場面に取っとかないと」
 王様はふんぞり返っていった。
「なりません」
 王様の尊厳をピシッと叩き折ったのは明保野さん。表情は堅く、窓の外から王様を見下ろしている。叩き折られた王様はムッと睨んだ。
「王様、わたしは南の守人から〝よろしく〟と頼まれました。頼まれた以上責任を取らないと」
 明保野さんは余裕綽綽の態度。王様は南の守人から頼まれた、と聞いて「あの女」と苦言する。明保野さんは話を続ける。
「次いでこうも言ってたな。『王様はきっと駄々をこねるときがあるからそのときはお尻ペンペンすればいい』て守人が、それじゃあ早速」
「待て! はやまるな‼ 来るなこっちに!」
 王様は跳ね起きて慌てて車から降りた。
 顔は青白く、明保野さんをキッと睨み付く。明保野さんはふふふ、とおかしく笑う。いつもの横暴ぶりの態度は崩れ今や守人の手のひらで転がされている。そのことに腹を立てて大きく舌打ちするや、守人の横を通り過ぎる際わざと肩を当てながら歩いていった。

 北の宮殿場所を分かっている足取り。僕らも車から降りて明保野さんのあとに続いた。ちなみに運転手であり執事の人は盗まれる可能性があるので車に残るらしい。

 王様を筆頭に歩いていく。ここから宮殿の距離は然程遠くない。建物の奥から宮殿の建物が見えたので着くのは早い。
「大丈夫だった?」
 僕は前で歩いている明保野さんの隣に駆け寄って話しかけた。明保野さんは少し考えて口を開いた。
「全然役に立ってないよ。だって、処刑を免れなかったし」
 明保野さんは顔を俯かせた。そんな明保野さんの背中を叩いたのは嵐。どんまい、と言うように。せいらもポンポンと背中を擦る。そんな二人の優しさの触れ目をうるうるさせる。
「おい早く歩け。見つかったどうする!」
 王様が鬼のような形相で振り向いた。
 話し込んでいるうちに王様との距離が遠のいてて、王様は一人で歩いていた。心配で不安になって振り向いたのだろう。そう思うと僕らは走って駆け寄った。

 朝が来るまで北の守人の宮殿で休む。守人がいるからか、建物内の照明は一度見たときより明るく光ってる。王様はすぐに一番奥の部屋で休まられた。朝が来たら起こせ、と。各々の部屋を用意されて案内される。
「南の守人はどういう女性だった?」
 明保野さんが訊いた。隣にいるのに全く目が合わない。その表情は無に近い、黒く絶望した目だった。初めて見る。照りつける照明が明るいのに、表情は闇に抱えてた。
「美人だったぜ。あと胸がでか――んぎっ!」
 嵐が頭の後ろに手を回し自慢気に、そして胸の話になるとすかさず、せいらの肘鉄が鳩尾に攻撃される。
「なんだか穏やかで優しい人だったよ」
 せいらは何事もなかったかのように笑顔で言った。
「でもちょっと、Sっ気があったような……」
 僕は思い返すと、あの人の言動が少し女王様タイプぽいと思い返せば思い返すほどそんな気がしてきた。
 明保野さんは聞いてきたのに、少しの間を置いて「そうなんだ」と曖昧な返事を返した。
 
 明保野さんは同じ守人について知りたかったのかもしれない。でもそれ以上は聞いてこなかった。顔を上げたらいつもの表情へ戻っていた。


 そして、翌朝。どんよりとした空色が真っ赤な血のような空へと。雲はなく赤いペンキをぶっかけたような空がずっと続いている。空の色は不気味だけど雲もない快晴になると気分が晴れやかになるのに、本当だったらなっているのに、今日という日を待っていたからろくに寝れずに快晴の光が降り注ぎ痛い。
 王様は腹をくくったのか、起こそうと思って部屋へ尋ねると布団から起き上がっていて、なおかつ正座していた。何かするでもなくただじっと、正座して目を瞑っていた。
 まさか正座したまま寝ているんじゃ。
「おうさま――」
「起きている。精神統一していたのだ。用がないならさっさと出ていけ」
 鋭い口調。
 これから大事になる。よくよく考えれば小学生の身であるのに、国を一つにさせるなんて無茶ぶりすぎるな。王様は背筋をピシと伸ばして精神統一していた。奥の廊下からバタバタと足音と忙しい声。嵐とせいらの声だ。朝から何か揉めている。
「黙らせろ」
「はっ!」
 王様からの命令により、僕はあの二人を黙らせる。朝食があっても王様は僕らの前に現れることなく、処刑間際の時間になってようやく姿を現した。処刑までの時間はまだ一時間もあるのに、広場では人だかりができていた。

 子供たちははしゃぎ、大人は酒を飲んで、この世のパレードのような雰囲気だ。人の死なのに。この光景は2度も見たくなかった。嫌悪感と吐気と憎悪がぐるぐると腹の底から煮えたぎる。得体のしれない感情がわいてきて体がどうにかなりそうだ。
 僕らは人前で出れない。
 何かあったら王様と明保野さんを守るために近くで待機している。

 まだ時間あるのに処刑場から処刑人たちが姿を現した。みんなたった一日でやせ細り、皮膚がただれた人もいた。
 ムカデ足のようにみんな手錠で繋がっていて1列に歩かされる。その足取りはおぼつかない。誰かが倒れたら後ろと前も倒れる。
 あんなにやせ細っているのに歩かされる。一人が転んだらドミノ倒しに転がっていくので、その場がドッと笑い声が響き渡る。


 何がおかしい。
 ギリッと奥歯を噛んだ。腸が煮えくり返ってどうにかなりそうだ。嘲笑っている声が不愉快なのに耳から離れてくれない。
「だから見たくないのだ」
 王様が隣にやってきた。昨日と一昨日とまだ間もないが、王様の私服を見てきた。普段着はTシャツ一枚で年頃が今日はより一層格をみせるためにタキシードを着ている。
 今まで見たことない。
 王様は腕を組んで、嘲笑っている民衆を眺める。目を細めて嫌悪の顔。せいらが王様の背中を叩いた。
「処刑時間来ちゃうでしょ! 早く助けて!」
「押すな! 三下!」
「せ、い、ら!」 
 せいらがグイグイと王様を日向のほうへ押すも、王様も意地で頑なに動こうとしない。
「今が見せ場でしょ‼」
「黙れ! まだだわ!」
 王様にも何か考えがあるのかもしれない。せいらを止めると王様は舌打ちと同時に「野蛮女め」と苦言する。 


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