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Ⅳ 王政復古
第29話 登場
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処刑が始まるまでまだ余裕がある。なのに処刑台には処刑人が、周りには民衆と貴族。あの白装束は十二安平だ。
太陽がこの場にいるのか分からないが反射でその姿を探してしまう。わーわーと祭りのようにはしゃいでいる。その声が不愉快で体が軋みそうだ。
「王様だけじゃない。みんなにも手伝ってほしいの」
明保野さんは少し遅れてやってきて、その腕には白装束の衣装を抱えてた。
「これは?」
僕はその薄い衣を手に取ると明保野さんは、目を細めた。
「王様にだけ仕事を押し付けるのは良くないよ。だからみんなも、王様が流れを持っていきやすいように王様の側にいて支えてあげて」
嵐とせいらもその衣を持って服の上に着る。この白い衣は十二安平と同じものだ。純潔みたいに真っ白で軽い。羽織っていて風に煽られると羽のように軽い。
肩の方に模様があってそれが少しかっこいい。
「支度したならさぁ、行って」
この服は集団でも十二安平らの目も欺ける。それに北の守人である明保野さんの力により、処刑執行人であるロボットは動かせていない。街中にいるロボットは普通に歩いたり動いたりもしているが、明保野さんの命により僕らの味方をしてくれる。
何かあったらロボットが逃げ場を作ってくれるという。なんて心強いんだ。人よりも人知的を超えた存在のロボットが味方側になると、人間はたちまち萎縮する。エデンの民だってよく知っているロボットが自分たちの敵になるとは思わないだろう。
王様の分にも支給された。
王様は明保野さんから手渡された白い衣を凝視して明保野さんの顔をじっと半信半疑な顔でみる。
「オレにはいらん。見ろ。爺がせっかく取り寄せた服が……」
「はいはい。それはあとで見せますよ。とりあえず、舞台をさらに盛り上げるので、王様はそのときちょうど良いタイミングで登場してください」
明保野さんには考えがあるのか、王様を僕らと同じ民衆の場に放り投げる。放り投げられた王様は唖然とし、次第に怒りでわなわな震えた。
「あんの守人ぉ‼」
「まぁまぁ」
民衆の中に紛れ込むことに成功した。みんな、やっぱりこの服を着ていると道を作ってくれるし、挨拶される。位の高い地位なんだ。エデンの民がこちらに挨拶する光景は斬新だ。
同時に騙しているという罪悪感がます。でもそれは最初だけ、だんだんそれが気持ちよくなっていく。今まで見下してた奴らが僕らにひれ伏しているんだ。こんなの、調子に乗るでしょ。
「ふは。この服まじでたいそうな地位じゃね」
嵐が高らかに笑った。
王様は未だに奥歯を噛み締めて顔を歪ませている。
「まぁまぁ」
僕は優しく宥めるも、王様はちっともこっちを見てくれない。
「あの守人、何しでかすか分からない。一体なにをするつもりだ」
不安げに瞳を揺らし、声は力ない。
「確かに。作戦があるんだったらこっちにも言ってほしい」
せいらがため息ついた。信頼されてないのかな、と呟く。一気に不安になってきた。既に舞台はお祭りのようにはしゃぎわいわい楽しんでいる。これ以上何を盛り上げるつもりか。
どッ、と舞台の声が高まった。処刑時間だ。まず一人目がギロチンの前まで歩かされる。
「王様!」
「分かっておるわ」
肩を激しめに揺らす。王様は民衆をかきわけ、前の方へぐんぐん進む。しかし、ここで思いもよらぬ者が立ちはだかった。味方と言われた監視ロボットが王様の歩を止める。王様はカッと目を見開いた。
「貴様! オレの邪魔をしていいと思ってん――」
「王様! ここで大声だしたら見つかります!」
僕と嵐が王様の口をふさいだり腕を掴んだりして暴れ回るのを阻止した。ロボットは何事もなかったかのように僕らを無視して周りの様子をうかがっている。ロボットが今度こそ人の間に潜り込み姿が見えなくなった頃に王様の鋭い視線に気がついてパッと離した。
鬱憤を吐くのかと思いきや、ここで騒ぎを起こせば全てがぱぁになると分かってて何も言ってこない。
子供なのに変に冷静で、こっちが落ち着かない。
「おい、どうなっている。ロボットは味方じゃないのか」
王様は嵐の胸グラを掴んで耳元で囁いた。怒りがこもって声が低い。
「知らねぇよ。こっちが聞きてぇ」
嵐はいきなり暴力まがいの事をされて若干根負けしている。腰が引いている。王様は胸グラを掴んでいる手を離し、周囲を見渡した。
周囲は誰もここに王様がいることに気づいていない。大歓声を上げて真上の段を見上げていた。
せいらは明保野さんと一緒にいた。
近くにいるけれど、ロボットが邪魔して近づけない。それほど距離はないのに。明保野さんの顔はなんともいえない。凛々しいほど背筋はピンと伸ばし、確固たる意志を持った表情。
一人目がギロチン台によって処刑される。間もなくだ。首を降ろされ、執行人であるロボットがロープをピン、と切れば斧が降ろされ途端に血飛沫をあげ歓声がさらに高まるだろう。
どうして助けに来たのに、ここに来たのに、手も足も出せない。誰一人救い出せないなんて、そんなのあんまりだ。
すると、執行人であるロボットが突然暴れだした。周りのロボットもだ。いきなり銃を取り出して観衆たちに銃口をつきつける。
「なっ、何」
僕らでもエデンの民たちでさえも事の状況に追い付かない。何が起きたのかさっぱり。銃口を向けられたことに一瞬の戸惑いと焦燥、そして、怒り。
「何してんだ! ロボットがこっちに銃を突きつけたぞ!」
偉い怒声が散りばめられた。
甲高い歓声だったのがいきなり地鳴りするほどの怒声が響きわたった。エデンの民はどれも高貴で自分の下だと思っている人物が歯向かってきたらたちまち怒る質の悪い連中ばかりだ。
自分たちより下のロボットが人間にたいし、武器を向けたことに怒りを露わにしている。ロボットがいつ、人間の下になった。自意識過剰にもほどがある。確かに作ったのは人間だが、その知識や容量は人間よりはるかに優れている。
言うことを聞かないロボットに対し、白装束の十二安平たちが動いたことを目で捉えた。
「落ち着いてください! 故障です!」
十二安平たちが観衆たちを宥めている。他にいる貴族もせっかくの余興が台無しになり、帰ろうとしている。
するりと、人の間をかき分け台の上に乗る。
貴族たちも気づかない。ただ、処刑される側の民だけがこの台の上に登ってくることがわかった。一人が気づくとまた1人、また1人と小柄な少年が処刑台の上に立っていることに気がついた。怒りを露わにしていた大人たちがぴたりと静止し、やがて、時間が止まったかのように動かなくなった。
少年はすぅ、と大きく息を吸った。
「北の住民たちよ。いいや、エデンの民よ」
その声はスピーカーで流され、全区に筒抜け。
突然の登場に貴族たちも呆気にとられ、身動きできない。王様は再度深く深呼吸して威厳に満ちた声で大きく言った。
「ロボットが歯向かっただけで怒りを露わにするな。公開処刑をして何が面白い。つまらないと思ったのならもっと面白い娯楽をみつけるべきだ。お前たちが残す未来、後世、この先ずっとこうなのか? 考えてみろ!」
ざわざわと周囲がざわついた。
何だこの子は、と嫌悪と不信な声が四方八方から。まだこのお方は王、という器に気づいていない。貴族たちでさえも。半々気づいている人は俯いて黙りこくっていた。
僕は王様の隣に並んでいるけど、あの威厳に満ちた声、そして凛々しい姿勢から想像もつかないほど震えている。支えておかないとふらりと倒れて台から落ちそう。
緊張と不安で震えている。
首筋にはびっしり汗をかいていた。でも周囲に悟られぬように気丈に振る舞っている。僕は彼の背中をゆっくりと優しくなでた。
その一方で嵐は、処刑人である人たちの縄を解いていく。みんなの目が一斉に彼に向けられたから。でも長く続くとは思えない。
「よお。二度捕まって二度もこんな場所であうとはな。お前も運悪いなぁ」
嵐は良太の拘束縄をブチブチとノコギリナイフで斬っていく。エデン品で、何でも斬れるらしい。頑丈な縄だって本来なら相当時間かかるのに、これにかかればほんの一分位。
良太は助けられたのが悔しいのか、はたまた、情けないことに捕まったことに面目たたないのか、小さく舌打ちして俯かせたまま。
「ひっ、良かった……ひっく、もう、死ぬかと思った、っゔ」
隣りに居た良太の弟くんが泣きじゃくる。縄を解いてやると兄である良太にひし、と抱きついた。弟くんは元々病弱であり、やせ細っているためさらに監禁もされて骨ばった体が小枝のようだ。
他の人の縄も続々と解いていく。
「ありゃあ」
良太が少年をまじまじ見た。
「オレたちが連れてきたんだぜ王様だ」
後半周りに聞き取れないように小声で喋った。王様と聞いて良太も流石に目玉をひん剥いた。
太陽がこの場にいるのか分からないが反射でその姿を探してしまう。わーわーと祭りのようにはしゃいでいる。その声が不愉快で体が軋みそうだ。
「王様だけじゃない。みんなにも手伝ってほしいの」
明保野さんは少し遅れてやってきて、その腕には白装束の衣装を抱えてた。
「これは?」
僕はその薄い衣を手に取ると明保野さんは、目を細めた。
「王様にだけ仕事を押し付けるのは良くないよ。だからみんなも、王様が流れを持っていきやすいように王様の側にいて支えてあげて」
嵐とせいらもその衣を持って服の上に着る。この白い衣は十二安平と同じものだ。純潔みたいに真っ白で軽い。羽織っていて風に煽られると羽のように軽い。
肩の方に模様があってそれが少しかっこいい。
「支度したならさぁ、行って」
この服は集団でも十二安平らの目も欺ける。それに北の守人である明保野さんの力により、処刑執行人であるロボットは動かせていない。街中にいるロボットは普通に歩いたり動いたりもしているが、明保野さんの命により僕らの味方をしてくれる。
何かあったらロボットが逃げ場を作ってくれるという。なんて心強いんだ。人よりも人知的を超えた存在のロボットが味方側になると、人間はたちまち萎縮する。エデンの民だってよく知っているロボットが自分たちの敵になるとは思わないだろう。
王様の分にも支給された。
王様は明保野さんから手渡された白い衣を凝視して明保野さんの顔をじっと半信半疑な顔でみる。
「オレにはいらん。見ろ。爺がせっかく取り寄せた服が……」
「はいはい。それはあとで見せますよ。とりあえず、舞台をさらに盛り上げるので、王様はそのときちょうど良いタイミングで登場してください」
明保野さんには考えがあるのか、王様を僕らと同じ民衆の場に放り投げる。放り投げられた王様は唖然とし、次第に怒りでわなわな震えた。
「あんの守人ぉ‼」
「まぁまぁ」
民衆の中に紛れ込むことに成功した。みんな、やっぱりこの服を着ていると道を作ってくれるし、挨拶される。位の高い地位なんだ。エデンの民がこちらに挨拶する光景は斬新だ。
同時に騙しているという罪悪感がます。でもそれは最初だけ、だんだんそれが気持ちよくなっていく。今まで見下してた奴らが僕らにひれ伏しているんだ。こんなの、調子に乗るでしょ。
「ふは。この服まじでたいそうな地位じゃね」
嵐が高らかに笑った。
王様は未だに奥歯を噛み締めて顔を歪ませている。
「まぁまぁ」
僕は優しく宥めるも、王様はちっともこっちを見てくれない。
「あの守人、何しでかすか分からない。一体なにをするつもりだ」
不安げに瞳を揺らし、声は力ない。
「確かに。作戦があるんだったらこっちにも言ってほしい」
せいらがため息ついた。信頼されてないのかな、と呟く。一気に不安になってきた。既に舞台はお祭りのようにはしゃぎわいわい楽しんでいる。これ以上何を盛り上げるつもりか。
どッ、と舞台の声が高まった。処刑時間だ。まず一人目がギロチンの前まで歩かされる。
「王様!」
「分かっておるわ」
肩を激しめに揺らす。王様は民衆をかきわけ、前の方へぐんぐん進む。しかし、ここで思いもよらぬ者が立ちはだかった。味方と言われた監視ロボットが王様の歩を止める。王様はカッと目を見開いた。
「貴様! オレの邪魔をしていいと思ってん――」
「王様! ここで大声だしたら見つかります!」
僕と嵐が王様の口をふさいだり腕を掴んだりして暴れ回るのを阻止した。ロボットは何事もなかったかのように僕らを無視して周りの様子をうかがっている。ロボットが今度こそ人の間に潜り込み姿が見えなくなった頃に王様の鋭い視線に気がついてパッと離した。
鬱憤を吐くのかと思いきや、ここで騒ぎを起こせば全てがぱぁになると分かってて何も言ってこない。
子供なのに変に冷静で、こっちが落ち着かない。
「おい、どうなっている。ロボットは味方じゃないのか」
王様は嵐の胸グラを掴んで耳元で囁いた。怒りがこもって声が低い。
「知らねぇよ。こっちが聞きてぇ」
嵐はいきなり暴力まがいの事をされて若干根負けしている。腰が引いている。王様は胸グラを掴んでいる手を離し、周囲を見渡した。
周囲は誰もここに王様がいることに気づいていない。大歓声を上げて真上の段を見上げていた。
せいらは明保野さんと一緒にいた。
近くにいるけれど、ロボットが邪魔して近づけない。それほど距離はないのに。明保野さんの顔はなんともいえない。凛々しいほど背筋はピンと伸ばし、確固たる意志を持った表情。
一人目がギロチン台によって処刑される。間もなくだ。首を降ろされ、執行人であるロボットがロープをピン、と切れば斧が降ろされ途端に血飛沫をあげ歓声がさらに高まるだろう。
どうして助けに来たのに、ここに来たのに、手も足も出せない。誰一人救い出せないなんて、そんなのあんまりだ。
すると、執行人であるロボットが突然暴れだした。周りのロボットもだ。いきなり銃を取り出して観衆たちに銃口をつきつける。
「なっ、何」
僕らでもエデンの民たちでさえも事の状況に追い付かない。何が起きたのかさっぱり。銃口を向けられたことに一瞬の戸惑いと焦燥、そして、怒り。
「何してんだ! ロボットがこっちに銃を突きつけたぞ!」
偉い怒声が散りばめられた。
甲高い歓声だったのがいきなり地鳴りするほどの怒声が響きわたった。エデンの民はどれも高貴で自分の下だと思っている人物が歯向かってきたらたちまち怒る質の悪い連中ばかりだ。
自分たちより下のロボットが人間にたいし、武器を向けたことに怒りを露わにしている。ロボットがいつ、人間の下になった。自意識過剰にもほどがある。確かに作ったのは人間だが、その知識や容量は人間よりはるかに優れている。
言うことを聞かないロボットに対し、白装束の十二安平たちが動いたことを目で捉えた。
「落ち着いてください! 故障です!」
十二安平たちが観衆たちを宥めている。他にいる貴族もせっかくの余興が台無しになり、帰ろうとしている。
するりと、人の間をかき分け台の上に乗る。
貴族たちも気づかない。ただ、処刑される側の民だけがこの台の上に登ってくることがわかった。一人が気づくとまた1人、また1人と小柄な少年が処刑台の上に立っていることに気がついた。怒りを露わにしていた大人たちがぴたりと静止し、やがて、時間が止まったかのように動かなくなった。
少年はすぅ、と大きく息を吸った。
「北の住民たちよ。いいや、エデンの民よ」
その声はスピーカーで流され、全区に筒抜け。
突然の登場に貴族たちも呆気にとられ、身動きできない。王様は再度深く深呼吸して威厳に満ちた声で大きく言った。
「ロボットが歯向かっただけで怒りを露わにするな。公開処刑をして何が面白い。つまらないと思ったのならもっと面白い娯楽をみつけるべきだ。お前たちが残す未来、後世、この先ずっとこうなのか? 考えてみろ!」
ざわざわと周囲がざわついた。
何だこの子は、と嫌悪と不信な声が四方八方から。まだこのお方は王、という器に気づいていない。貴族たちでさえも。半々気づいている人は俯いて黙りこくっていた。
僕は王様の隣に並んでいるけど、あの威厳に満ちた声、そして凛々しい姿勢から想像もつかないほど震えている。支えておかないとふらりと倒れて台から落ちそう。
緊張と不安で震えている。
首筋にはびっしり汗をかいていた。でも周囲に悟られぬように気丈に振る舞っている。僕は彼の背中をゆっくりと優しくなでた。
その一方で嵐は、処刑人である人たちの縄を解いていく。みんなの目が一斉に彼に向けられたから。でも長く続くとは思えない。
「よお。二度捕まって二度もこんな場所であうとはな。お前も運悪いなぁ」
嵐は良太の拘束縄をブチブチとノコギリナイフで斬っていく。エデン品で、何でも斬れるらしい。頑丈な縄だって本来なら相当時間かかるのに、これにかかればほんの一分位。
良太は助けられたのが悔しいのか、はたまた、情けないことに捕まったことに面目たたないのか、小さく舌打ちして俯かせたまま。
「ひっ、良かった……ひっく、もう、死ぬかと思った、っゔ」
隣りに居た良太の弟くんが泣きじゃくる。縄を解いてやると兄である良太にひし、と抱きついた。弟くんは元々病弱であり、やせ細っているためさらに監禁もされて骨ばった体が小枝のようだ。
他の人の縄も続々と解いていく。
「ありゃあ」
良太が少年をまじまじ見た。
「オレたちが連れてきたんだぜ王様だ」
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