この虚空の地で

ハコニワ

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Ⅵ 魂と真実を〜23歳〜

第84話 記憶

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 甲高い鐘で目が覚めた。目が覚めて最初に見上げたのは、知っている天井。背中に硬い感触があるも体中包んだ暖かな毛布。包んだ毛布は、心が落ち着く匂い。
 ここは、仮眠室だと寝起きの頭でもトンと理解した。寝起きで思考がボーとする頭。体が重いのは、寝た時間が長いから。
 まだ半開きの目をこすり、上体を起こすと室内にいたジンが嬉しそうに声をかけてくれた。
「やっと起きたのか。もう昼だぞ? 寝過ぎだ」
 そんなに寝ていたのか。体と同時に頭が重い。ズキズキして鈍器で殴られた重さだ。
 昨日何してたんだっけ。アカネちゃんたちとトランプやって、世界地図やら文明崩壊についての本を解読して、そのあとジンと遅めの昼食を取って、その帰りアカネちゃんと話して、中々寝付けなかった夜、そして……。

 あれ

 昨日の夜から記憶がない。どうやって布団に戻ったのかも記憶がない。中々寝付けなかったあの夜、部屋を出たのは覚えている。
 でも、そのあと何をしてどうやって帰ってきたのか、全く覚えがない。
 ジンは、寝起きの俺に冷たいお茶をいれてくれた。ありがと、と言ってコップを受け取る。キンキンに冷えたお茶は、口に運んだ途端、脳をキーンといわせた。
 それでもコップの中に満たしたお茶を飲み干し、毛布を片付けた。
 さっき聞いた鐘の音は、四限目が終わった音だ。四限目が終わったら昼食と長い昼休み。きっとアカネちゃんたちは、昼食を食べ終わるとここにくるはずだ。
 毛布を仕舞い、軽く掃除した。別にアカネちゃんたちが来るのを期待はしてない。ただ、三人と遊んでいた時間が楽しくて楽しみなだけ。

 昼休みが始まった直後、バタバタと複数の足音が廊下からした。きたきた。複数の足音は、徐々に近づいてきてこの室内の扉を叩き入ってきた。
「お邪魔しまーす!!」
 元気な声で登場したのは、美樹ちゃんだった。その背後に、遅れてやってきたのは雨ちゃん。
 この登場が毎度なので慣れてしまった俺たちは、全然気にしなくなった。
 ジンが首をかしげ、キョロキョロする。
「あれ、アカネちゃんは?」
「アカネちゃんなら、呼び出しくらって職員室だよ」
 美樹ちゃんが靴を脱いで畳の上を歩いた。石段のほうにきっちり靴をそろえて。相変わらず当たり前みたいに畳にあがり、トランプを広げる。今日は神経衰弱するぞ、と元気な声が飛び交う。

 アカネちゃんが来てないことに気づいたとき、まさかあのときのこと気にして、ここに来ないかもと思ったけど良かった。
 アカネちゃんが来るまで、俺たちは神経衰弱をやった。記憶力が試される神経衰弱。俺は記憶力があるほうだ。
 美樹ちゃんと雨ちゃん二人はAクラス。でも、小等部のまだ子どもだ。大人の記憶力を舐めんなよ。

§

「あれれ~大人のカイくんとジンくんは、子どものボクたちには負けないんじゃないのぉ?」
 美樹ちゃんが悪い顔して、クスクス笑う。只今神経衰弱ゲーム二回戦目。俺とジンの揃えたカードの枚数合わせて、二十枚。対して、美樹ちゃんと雨ちゃんが揃えた枚数は、俺たちを上回る三十二枚。完敗である。
「ま、ま、まだまだ本気じゃないからな」
 ジンが悔しいのを抑えて平常心をよそおった。目が泳いでいて、抑えていないけど、きっと俺もそうだろう。
 近頃のAクラスって、どんな強者ばかりなんだ。子どもにしては、凄すぎだろ。

 美樹ちゃんと雨ちゃんの足元に積んでいるカードに圧倒された。二人とも、カードがどこにあるか分かってスラスラと、揃えていってた。何か小細工してんじゃ、とよく観察しても二人とも楽しそうにやってるので、それはないと信じた。
「いっぱい揃えたね、雨たん」
「ん」
 美樹ちゃんが雨ちゃんにひし、と抱きついた。雨ちゃんはまんざらでもなく、それに応えてる。雨ちゃんは普段、無愛想でとっつきにくい。知り合って間もないからなのか、俺たちでも笑顔をあまり見せない。
 けど、大親友の美樹ちゃんにはそれなりに感情を出しているらしい。いつか、俺たちにも、笑顔を見せてほしいところだ。

 美樹ちゃんが「さぁ、もう一回!」とキラキラとした目で叫んだ。
「ギブー」
「もう頭がパンパンだ」
「大人でしょ!? やろうよ!」
 そんなこと言われても、頭のバッテリーがゼロである。真っ白け。それに無駄につかれて休みたい。
「情けない」
 雨ちゃんがポツリと呟いた。
 無駄につかれたのは、プライドという心のほうかも。
「全くぅ。しょうがない。それじゃあ休憩だね」
 美樹ちゃんは一瞬ムッとするも、すぐに切り替えた。その対応に、雨ちゃんは感謝しろ、という無言の目で語りかけた。
 はいはい感謝してますよ。だからその目つきはやめなさい。大人でもビビる。

 トランプを一回集めてシャッフルしてる美樹ちゃんは、鼻歌を歌って楽しそうだ。そんな美樹ちゃんに何気なく、ずっと疑問に思っていた質問を投げかけた。
「Dクラスのアカネちゃんとどうやって知り合ったの?」
 美樹ちゃんは、シャッフルする手と鼻歌をやめ、頭にハテナマークを浮かしてた。大きな目をぱちくりしている。
 その横で「何二人きりっで喋っている」と眼差しで訴える雨ちゃんがいるも、気にしない。
 美樹ちゃんはハテナマークを浮かしながら、首をかしげている。俺は話を続けた。
「だって、DクラスとAクラスって教室離れてるし、クラスによって色々と違う場面があるじゃん。どうやって仲良くなったのかなって」
 美樹ちゃんは、質問の意図に気づき
「Dクラスだからとか、そんなこと考えたことないや。だって、みんな友達だもん。アカネちゃんとは文化祭で知り合ったの。アカネちゃん一人で回ってて退屈そうだから、一緒に回ってみたら凄い面白くて、今では友達だもん」
 ほぉ、美樹ちゃんの人柄に惚れそうになった。
 もはや美樹ちゃんは、子どもじゃなくて神様? 天使? 背後に神々しい光がまとってて、まともに美樹ちゃんを直視できない。こんな神々しい光を出せる呪怨なのか、または、本当に天使か。

「ウチが何?」

 ひょこりと姿を現したアカネちゃん。怪訝な表情で、腰に手を置き、見下ろしている。
「いつの間に」
「さっきよ。で、入ってきたらウチの話してるし、気色悪い。で、ウチが何なの」
「何でもない」
 アカネちゃんは、ムッとした。 
 俺と美樹ちゃんの間に無理矢理割り込んできて、ストンと座った。ふんと満足そうな顔をする。美樹ちゃんは、途端にひだまりのように笑い、トランプを上空に掲げた。
「アカネたん来たところでゲーム開始だ!」
 有無を言わさず、カードを畳の上に綺麗に配置していく。
 それまでバラバラだった者が一斉に一つのところに集まった。全部綺麗に配置したカードを眺め、ジンがにっと笑った。
「おしっ! 今度は負けねーぞ!」
「臨むところだよ!」
 神経衰弱スタート。今度こそ負けない。スタート始め、優勢は俺たちだった。敗けた分のプライドを正すために、絶対に勝たねば。

§

 只今の結果、美樹ちゃんの勝利。二位は雨ちゃん、三位はジン、俺は四位で最下位は免れた。
 最下位のアカネちゃんは、再びトランプを畳に叩きつけた。
「きぃー!! なんでウチが最下位なのよ!」
「まぁまぁまぁ」
 顔が赤く、頭に怒りマークを出しているアカネちゃんに向かって、ジンは余裕のスマイルで煽っている。一位でもない三位のスマイル。無駄にキラキラと輝いている。
 アカネちゃんの怒りマークがさらに増えた。ジンに突進し、ポカポカ叩く。その様子を見て、俺は一安心した。いつものアカネちゃんだ。昨夜のこと全然気にしてる素振りしてない。ほっと胸をなでおろした。

 時計をふと見上げると、昼休みが終わる三分前。Aクラスはどうやら午後から、移動教室で慌てて部屋を出て行った。持ってきたトランプを片付けるのを忘れて。
 畳の上には、カードがバラバラになっている。仕方がないから、ここの部屋に置いていくか。トランプなんてここに置いていたら、いつでも何処でも遊びに来ていい事になるのを俺は気づかなかった。
 アカネちゃんも仕方ない、と呟いて部屋を出ていこうとする。扉の前で立ち止まりくるりと振り返る。
「ウチ、諦めたわけじゃないから! 覚悟しなさい!」
 そう叫んでバタン、と扉を閉めて出て行った。残った俺とジンは顔を見合わせた。お互い何を言われたのか分からず、素っ頓狂な顔。
「夜這いでもしてくるのか?」
「なんだか、アカネちゃんならやりそう」
 どんだけ摂取やりたいんだ。確かにあの年頃の子は、単なる好奇心と興味本位であって、相手なんて誰でもいい。
 だが、授業でも担任だったヨモツ先生も散々言ってた。『お互いの気持ちが大事』と。でも、夜這いでも何でもしてもこの部屋には意味ないからな。頑丈な鍵と、ジンの結果で守られてるから、夜這いはできないと思う。
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