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写真が無かった世界の話
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喧嘩をしている男子が二人。
その間に少女が一人、進み出る。
そして、スケッチブックを掲げた。
男子二人は揃ってそれを見て、今度は少女を追いかけ始めた。
「私、写し屋さんになろうと思って」
一人の少年は感嘆したように、もう一人の少年は難しそうな顔をした。
「健ちゃんは嫌なの?私が写し屋さんになること。」
“写し屋さん”とは、本物そっくりに見たものを絵で記録する仕事である。例えば結婚式にお呼ばれし、その日の思い出として花嫁さんと新郎の幸せそうな姿をそっくりそのまま絵に描き出すのだ。
「いや、嫌っていうかさ……」
「なんだよお、健ちゃーん」
もう一人の少年が健の肩に腕を回す。
それを邪険にはね除けつつ、
「ほら、そういう仕事についたらさ、昔お前がいたずらで描いた……」
少年はよくわからなそうにしているが、少女は気づいたようだ。悪戯っぽく笑って、
「えー、なんだっけー、それー」
「お前、わかってんだろ」
「「わかんなーい」」
少年が頭を掻きむしる。
「だから!俺たちの……その……び、BL?のやつも、本当だと思われかねな……」
「あー!そうじゃん!それは困る!」
少女はかしこまって咳払いをする。
「写し屋さんの原則ひとーつ!私たち写し屋はー、真実しか描きませーん!」
「「おい!!」」
また三人は追いかけっこを始めたようだ。
「まったく……俺たちの絵はこんなにあるってのに、なんで自分のは一枚も無いかな……」
「自分のお祝い事ですら『みんなの笑顔を描きたい』とか言ってやってたもんなあ、あいつ」
「……うわ、出たこれ。」
紙を持ち上げるだけでもう一人の少年が顔をしかめる。
「ああ、それ……てかなんか枚数増えてね!?」
「なにが『真実しか描きませーん!』だよ。こんなしょうもねぇーもんばっか描きやがって……もっと他にお前が描かなきゃいけなかったもんはあっただろうが」
それを皮切りに二人はまた黙々と作業をし出した。
ふいに少年が口火を切る。
「お前さ、“写真”、見たことあるか?」
「いや、俺はまだ……」
少年はもう一人の少年にひょいっと質感のあるものを投げる。
「これが……これが。」
彼の手に異国から伝わったばかりの写真を撮る道具が握られた。
天井に掲げて、ぱしゃりと押してみる。
直後、木目の写った一枚絵が現れた。
「こんなもんか」
もう一人の少年は、彼女の形見から古びたスケッチブックを持ち出した。
「どんなにすげー写真でも、こんな綺麗には写し出せねぇよな」
手元には、いつの日かの二人の弾ける笑顔があった。
その間に少女が一人、進み出る。
そして、スケッチブックを掲げた。
男子二人は揃ってそれを見て、今度は少女を追いかけ始めた。
「私、写し屋さんになろうと思って」
一人の少年は感嘆したように、もう一人の少年は難しそうな顔をした。
「健ちゃんは嫌なの?私が写し屋さんになること。」
“写し屋さん”とは、本物そっくりに見たものを絵で記録する仕事である。例えば結婚式にお呼ばれし、その日の思い出として花嫁さんと新郎の幸せそうな姿をそっくりそのまま絵に描き出すのだ。
「いや、嫌っていうかさ……」
「なんだよお、健ちゃーん」
もう一人の少年が健の肩に腕を回す。
それを邪険にはね除けつつ、
「ほら、そういう仕事についたらさ、昔お前がいたずらで描いた……」
少年はよくわからなそうにしているが、少女は気づいたようだ。悪戯っぽく笑って、
「えー、なんだっけー、それー」
「お前、わかってんだろ」
「「わかんなーい」」
少年が頭を掻きむしる。
「だから!俺たちの……その……び、BL?のやつも、本当だと思われかねな……」
「あー!そうじゃん!それは困る!」
少女はかしこまって咳払いをする。
「写し屋さんの原則ひとーつ!私たち写し屋はー、真実しか描きませーん!」
「「おい!!」」
また三人は追いかけっこを始めたようだ。
「まったく……俺たちの絵はこんなにあるってのに、なんで自分のは一枚も無いかな……」
「自分のお祝い事ですら『みんなの笑顔を描きたい』とか言ってやってたもんなあ、あいつ」
「……うわ、出たこれ。」
紙を持ち上げるだけでもう一人の少年が顔をしかめる。
「ああ、それ……てかなんか枚数増えてね!?」
「なにが『真実しか描きませーん!』だよ。こんなしょうもねぇーもんばっか描きやがって……もっと他にお前が描かなきゃいけなかったもんはあっただろうが」
それを皮切りに二人はまた黙々と作業をし出した。
ふいに少年が口火を切る。
「お前さ、“写真”、見たことあるか?」
「いや、俺はまだ……」
少年はもう一人の少年にひょいっと質感のあるものを投げる。
「これが……これが。」
彼の手に異国から伝わったばかりの写真を撮る道具が握られた。
天井に掲げて、ぱしゃりと押してみる。
直後、木目の写った一枚絵が現れた。
「こんなもんか」
もう一人の少年は、彼女の形見から古びたスケッチブックを持ち出した。
「どんなにすげー写真でも、こんな綺麗には写し出せねぇよな」
手元には、いつの日かの二人の弾ける笑顔があった。
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